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旅立ち

次の日、満員電車を乗り継ぎ人波にもまれながら勤務先へとやっとの思いでたどり着いた。


「おはようございます」


同僚達と軽く挨拶を交わすといつもの席に腰かける。パソコンのスイッチを入れると仕事に取りかかった。一日中こうしてパソコンの前にかじりついているせいか最近腰も痛いし目も悪くなってきた気がする。まだ出勤して数十分と言ったところだが、日頃の疲れのせいか体が重くいまいち仕事に集中できていない、一旦作業を止めると目をつむり目頭を押さえた。


「石上先輩お疲れのようですね」


声のした方に目をやるとニコニコと笑みを浮かべている女性がこちらを見つめていた。彼女は平本奈保(ひらもとなほ)僕より後に入った後輩で身の丈が異常に小さい、座っている僕と目線が同じと言えば分かるだろうか。


「やぁ奈保ちゃん、また背が縮んだ?」


「もう、人が気にしていることをさらっと言わない、せっかく先輩のためにコーヒー入れてきてあげたのに」


「ごめんごめん、今度昼飯おごるから許してよ」


「本当ですか!?じゃあ明日早速おごってもらいましょうか」


「おーけーだ」


「やったー、明日は先輩とデート」


「ん?何か言った?」


「いえー、何でもありませんよ」


奈保からコーヒーを受けとると一口すする。淹れたてのコーヒーの苦味が口の中に広がり少し疲れもとんだ気がする。


「ふぅ、少しリラックスできた気がするよ」


「先輩最近疲れた顔をしてますね何かあったんですか?」


「いや、特になにもただ毎日同じことの繰り返しに少し飽き飽きしてきた」


「え!先輩もしかして辞めちゃうんですか?」


「し!声がでかいよ、それに辞めるきはないよまだ…ね」


「はぁーよかった、先輩がいなくなったら私寂しいですよぉ」


「おーい、平本、石上いつまでしゃべってんだ仕事しろ仕事」


「あ、はーい」


「じゃあ先輩明日忘れないで下さいよ」


「あぁ」


奈保は小さく手を降ると自分の持ち場に戻っていった。さて、僕もそろそろ仕事に戻るか、大きく背伸びをすると再び作業に取りかかった。


夕方、今日は順調に仕事が進んだおかげで定時には帰れそうだ。後片付けをすると会社を出た。いつもより少し早い時間帯のおかげか、電車も一本前の電車に乗ることができ電車内もわりと空いている。空いている席を一ヶ所見つけそこに座った。


乗ったときはわりと空いていた電車内も進むにつれてだんだんと混み始めた。すると、一人の杖をついたおばあさんが乗り込んできた。座席はすべて埋まっていて座る場所はないようだ、あるにはあるが僕の向かい側の席に座っているいかにもチャラそうな男、こいつが二人用の座席を独占している。こういう奴は人に迷惑をかけているなんてこれっぽっちも思っていないんだろうな、そう思いおばあさんに声をかけると席を譲った。


「すまないねぇ」


僕は返事はせずただ会釈だけすると車両を移った。電車を降りるといつもの帰り道を家のある方角に歩きだす。そこでふと昨日の事を思い出す、そう言えば昨日のあれはなんだったのだろうか、夢や幻聴にしてはリアルだったし確かあそこの角を曲がった所だったな、暗い路地裏を覗きこむと辺りはシンと静まり返っているのが恐怖を掻き立てる。僕はゴクリと息を飲むと路地裏へと入っていった。やがて突き当たりにつくと昨日見た穴がそこにはあった。


「これは夢や幻なんかじゃない、この穴は一体なんなんだ?」


その空間に空いた穴は、明らかに不自然な場所に空いていた。後ろに回ってみるとそこには何もない、しかし正面にたつとぽっかりと空中に穴が空いている。急に怖くなり引き返そうとした時、再び()()()が聞こえた。


「さぁ、この中へ新たな運命があなたを待っています」


新しい運命か、毎日同じことの繰り返しのこの退屈な世界、なんの生き甲斐もないこの世界、新しい人生も楽しそうだなそんな軽い気持ちで僕はその穴へ恐る恐る手を伸ばした。僕の手がその穴に触れた瞬間、叫ぶまもなくその穴へと引きずり込まれた。


落ちる、どこまでも落ちていく、というか方向感覚がまるでおかしいどっちが上でどっちが下なのかすら良くわからない、ああ僕はこのまま死ぬのか…。だんだんと意識が遠退いていく。


「目覚めよ、我が声に導かれしものよ」


「う…」


頭がぐるぐるしているがどうやら僕はまだ生きているらしい、ゆっくりと立ち上がると声のする方に目をやった。そこには髪の長い綺麗な白髪で美しい女性が立っていた。


「貴方は?」


「我は汝を導きし者、汝今ある人生を捨て新たな運命へと立ち向かう覚悟はあるか?」


これは夢か何かか?っと思ったがどうもそんな感じではなかった。そして、目の前にいるこの女性も人間ではないとなんとなく分かった。


「貴方が僕に新しい人生を与えてくれると言うのなら、僕はそれを望む」


僕がそう言った瞬間、目の前の女性は下を向き何やら肩を揺らしている。


「ふ、ふふくっくっくあっはっはっは」


な、なんだ急に笑いだしたぞこの人、いや人なのかは分からないが何か可笑しいこと言ったか?


「あっはっはっは、ごめんごめんどうもこのしゃべり方は苦手でね、初めまして私は神様です」


「は?」


数秒の沈黙、今神様って言った?神様だって?目の前にどや顔で立っているこの自称神様の発言で一気に現実逃避したくなってきた。


「これは悪い夢だやっぱり夢だったんだ、そうだよこんな事になるなんて現実じゃない、としたら僕は今頃路地裏で寝てるのか?ははっ、早く起きないと風邪引いちゃうぜ」


「こらこら、ここは現実だぞー…、まぁ正しくは君がいた元現実からは少し離れた次元の狭間だけどねー」


「良くわからない穴の中にいた自称神様に言われてもな、とにかく早く目覚めないと明日も仕事なんだし」


「あー信じてないな?私はこう見えても偉い神様なんだぞ」


自称神様が何か言ってるけどいいや、夢の中で寝れば起きれるんじゃないか、そう思い横になる。はぁ、帰ってシャワー浴びて寝よ。

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