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サミレア⑤


「ぷっ…アハハハハ!」


出てくるなり、レイラが吹き出した。

日はまだ頂点に達する前だった。

相当長い間、洞窟の中にいたように思えたけど、暗いか何かのせいの錯覚だったようだ。


「リル、撮れてる?」


「あぁ、バッチリだ」


リルもほのかに口角を上げ、眼鏡の下で目尻を拭いながらレイラに機械を見せていた。

凝視することで、それがカメラだと分かった。

おどおどとしていると、笑い転げていたレイラは手をヒラヒラと振り謝ってきた。


「ごめんごめん、訳分からないわよね」


「××、これを見ろ。

良い顔だ」


リルも頬に笑みを含みながら俺の方に来て、カメラのモニターを見せてくれた。

なんと薄暗い背景に緑がかった俺の顔が映し出されている。

そしてその表情は、喉の奥まで見えるほど口を開けて慌てふためく、情けないものだった。

リルが繰り返し再生をすると、冬の空気に溶けたタバコの煙みたいな味がしたけど、やっぱり面白くて俺も笑えてきた。

でも、一体どういうこと?


「ドッキリよ、××」


「歌を流した正体はラジカセだ。

それがついでに、地震の音も流した」


「地震だーって皆で逃げて、お兄ちゃんを驚かせよう!っていたずらだったの!」


なんだ。

そういうことか。

てっきり洞窟が崩れるかと思ってしまった。

でも本当の地震じゃないなら、それは良かった。

サチもカメラの映像を覗き込んで、すごい顔!なんて一頻り笑った後


「じゃあお兄ちゃん!

気を取り直しまして………隣町に行こう!」


と満足げな口元を保ったまま言った。

誇らしげにサチが先陣を切るので、レイラもリルもビデオを見て談笑しながら歩き出す。

俺は、その最後尾についた。

入ってきたままの草道を辿って、住宅地から駅への大通りへ出る。

丁度そのとき、まだ俺のビックリした顔で笑っていた三人の会話が一段落したようだ。

そして傍観していた俺の方へサチが自慢気に振り返った。


「あ、お兄ちゃん!

うちも武器なら持ってるんだよ」


「えっ?」


すっとんきょうな声が飛び出る。

だって、サチが?

十四歳なのに?

ほらっと言って、サチは歩きながらスカートの内サイドポケットを探り、短剣を取り出す。

それは緩やかな曲線を描いていて、武器素人の俺目線だとサーベルに近いダガーという第一印象だった。

大きさは少女のサチの手にぴったりで、扱いやすそうだ。

スカートの内側にしまっておくなんて肌や服が切れてしまいそうで怖いなあと感じたのと同時に、外見で分からないように収納しているのは器用だなあとも思った。

もちろん、鞘も隠してあるんだろうけど。

そんな感想と、平行線で浮かんでいた疑問をぶつけることにした。

武器って、十六歳の誕生日にもらえるはずなんじゃないのか?


「なんでサチが武器なんて?」


問うた俺に反応して答えたのは、サチに代わって呆れ顔のレイラだった。


「本当にどうしてそんなに知らないのか…。

武器はね、属性のない武器なら店で買えるのよ!」


度々見るポーズでレイラが言い誇る。

そのピンと伸ばした指先は、今にも俺の鼻に突き刺さりそうだ。

できれば閉じてほしい。


「そうなんだ」


気圧されながら呟くと、レイラは前に向き直り、サチとの武器談義を開始した。

ともかく、武器が店で買えるなんてことは、初めて知った。

いや、忘れていたのかな?

くっつきそうなジグソーパズルのピースを、無理矢理はめているような感覚だ。

電線だらけの空中をさ迷っていた視線が、駅舎を捉えた。

駅の改築は古風なサミレアを目指しているらしく、鉄筋コンクリート製にはならず、レンガを積み重ねていくものだった。

昔より一回り大きくなっただけのがらんとした駅に、俺らは足を踏み入れる。

確か、ここから汽車に乗って隣町に行くんだよな。


「そういえば、××とサチちゃんの親戚が隣町にいるのよね?」


「え、いるの?」


「お兄ちゃん覚えてないの?

うちが覚えてるのに」


疑問の応酬の果てに、俺は記憶力のない人認定をされてしまった。

まあ、間違いではないんだけどね。

切符は受付で購入する。

そのために、水晶洞窟のよりもよっぽど綺麗な受付に向かって俺は尋ねた。


「あの、隣町に行きたいんですけど」


サミレアは線路の端にある町だから、隣町なんて一つしかない。

だけど駅員さんはしかめ面をしている。

どうしたんだろう。

俺、変なこと言ったかな。

すると簡素なガラス戸が開いて、駅員さんが声をかけてきた。


「あんさん止めときな。

マレルーシルは今大混乱だ。

なんせあの青い男が、町民の魂を奪ってるからな。

もう一人や二人じゃないぞ。

何人も呆然と意識なく立ってる。

不気味な町だ。

もう一度言うが、止めておきな」


彼の発言は冗談じゃなく真面目なトーンだった。

俺が戸惑って三人に目配せすると、サチが躍り出て


「お兄ちゃん!

行くっきゃないよ!」


と説得してくる。

腕をブンブンと振って、親に駄々をこねるときに近い仕草だ。


「××。

親戚の人は心配じゃないのか?」


「見に行った方がいいわよ」


なんて、リルもレイラも次々に急き立ててくる。

行くな行けと言われても、俺はどちらでも良かった。

状況が分からなさすぎて、流れに身を任せるしかなくて。

でも、俺が現在信頼してるのは?

そう聞かれれば、答えは自ずと出てきた。

だったら………。


「それでも行くので、ください」








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