第7話 重なる心
それからと言うもの、僕の側には由乃がずっといてくれた。
戦いの時も、休みの時も、もちろん訓練の時も。
由乃がいることで、僕も強くなれた気がした。なのに。
僕の目の前で由乃は使徒に連れ去られてしまった。
離したくなかった手、繋いでいたかった手、けれどその手は届かなかった。
なんて無力なんだろう、僕は弱いままだった。
けど、塞ぎ込んでぱかりもいられない、2週間以内に由乃を助け出せなければ、由乃が殺されてしまう。
それだけは、なんとしても阻止しなきゃならない。
そして…空中要塞「ナハト」での由乃奪還作戦、ゼロを追い詰めるまでは出来たものの倒すことは出来なかった。
本部としては少し不満かもしれないが、そんなことは僕にとってどうでもよかった。
由乃が戻ってきてくれた、それだけで僕は満足だったから。
「先輩、心配かけちゃってごめんなさい」
「気にしなくていいよ、あの時連れ去られる由乃を救えなかった僕のせいだし」
「いえ、先輩はあの時、必死にあたしを助けようとしてくれました。手を伸ばしてくれて、助けてくれてありがとうございました」
そう言って由乃は静かに抱き締めてくる。全身に伝わる由乃の温もり、僕はそれを噛み締めるように由乃を抱き締め返す。
「今日はどうしようか」
そうは言ったものの、これといってすることはなかった。由乃も覚醒するまで強くなって、今の僕が教えられることはなかった。一航戦の任務もないし、正直に言うと「暇」なのだ。
「あの先輩、今のあたしたちって色んな関係がありますよね。同じ一航戦の仲間で、先輩と後輩で、それと…こ、恋人同士…で」
「そうだね」
「それでなんですけど…今日は、今日だけは、一航戦とか先輩後輩とか関係なく、普通の恋人同士でいたいなって……思ってたり……」
もじもじしながら由乃はそう言った。
まずい、かわいすぎる。
思えば、由乃と付き合い始めてからデートらしいことは全然出来ていなかった。いつか戦いに出なければならないなら、今この瞬間を楽しむべきだろう。
「それじゃ、デートしようか」
「は、はい!!」
由乃が着替えてる間、僕は隊長に外出届を提出しに行った。
同行者:神山由乃、と書かれたその紙を一瞥した隊長は「どうしようもない有事の時には連絡する」とだけ言ってくれた。
ありがとうございます隊長、と心の中でお礼を言い、僕は由乃と街へ向かった。
ACFの隊員証を持っている、ということを除けば普通の高校生カップルにしか見えない。ウインドウショッピングを楽しみ、一緒にファーストフードを食べて、最後はカラオケ、なんとも平凡なデートだ。
「先輩、歌上手いんですね」
「由乃だってきれいな声で歌ってたじゃないか」
街中を歩くときは自然と手を繋いでいた。確かな絆が、そこにはあった。
ひとしきり回って、夜になって僕たちは訓練棟に戻ってきた。
「はぁ~楽しかったです、先輩!」
「楽しんでくれたならなによりだよ」
「また、デートしたいですね」
「そうだね…こんな日常がずっと続けばいいのにって思うよ」
そう僕たちは確かにカップルではあるが、ACFの隊員で、一航戦という使徒と戦う最前線にいる。いつまでものんびりしていられないことは分かっていた。けど、今日みたいな一日を忘れたくない。
「そうだ、今日の思い出にさ、これ」
由乃が好きな、薄いピンク色に光る指輪、それを僕は由乃の右手の薬指にそっとはめる。
「先輩……ずるいです、こんなの。ずるい……あたしだって、買ってあるんですから……」
すかさず由乃が僕の右手の薬指に青い指輪をはめる。
「由乃……」
「先輩、いつか、その、左手に指輪をはめられたらいいですね」
「うん、そうだね。そうだといい」
月明りだけが入り込む部屋の中で、僕たちは唇を重ね合う。
「ありがとう、由乃。また、明日」
「待ってください」
「由乃?」
由乃は頬を赤らめながら続ける。
「今日は一日、普通の恋人同士でいるって言ったじゃないですか……。だから、その、朝になるまでは、一緒に……」
僕はふと、隊長とのやり取りを思い出す。
(ああ、そこの欄にチェックをつけておくといい)
(ここですか?)
(うむ、これで二人は特例で訓練棟を夜も使うことが出来る。普段は22時以降の使用は禁止だが…申請が通ればなんら問題はない、許可するのは私だしな)
部屋の中には、簡易的なソファーベッドと毛布がある。普通は訓練のあとに体を休めるために使うのだが…
これ以上は深く考えないことにした。
「うん、由乃がいいなら。僕も由乃と一緒にいたい」
22時過ぎの訓練棟、僕たち以外には誰もいない。
触れあう肌から伝わる由乃の体温、それがとても幸せで。
大切な人との、忘れられない時間。
僕たちはずっと一緒だよ、由乃……。
次の日の朝、由乃よりも少し早く目が覚めた。
少し狭いソファーベッド、僕の横では由乃がなんとも幸せそうな寝顔で眠っている。
その寝顔を見ると、なんだか起こすのもかわいそうで。
「もう少し寝てても、罰は当たらないよなぁ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使徒に捕まってしまったあたしを、一航戦のみんなは必死に探して、そして助けにきてくれた。
ゼロを倒すことはできなかったけど、それよりもこうして先輩の隣にまたいれて、あたしはそれだけで十分だった。
「先輩、心配かけちゃってごめんなさい」
「気にしなくていいよ、あの時連れ去られる由乃を救えなかった僕のせいだし」
「いえ、先輩はあの時、必死にあたしを助けようとしてくれました。手を伸ばしてくれて、助けてくれてありがとうございました」
そう言ってあたしは静かに先輩を抱き締める。先輩の温もりが全身に伝わってくる。
「今日はどうしようか」
そうは言われても、これといってすることはない、正直に言うと「暇」なんです。
そういえば、先輩と付き合い始めてからデートらしいデートをしたことがなかった。これって……今がチャンスだったりする?
「あの先輩、今のあたしたちって色んな関係がありますよね。同じ一航戦の仲間で、先輩と後輩で、それと…こ、恋人同士…で」
「そうだね」
「それでなんですけど…今日は、今日だけは、一航戦とか先輩後輩とか関係なく、普通の恋人同士でいたいなって……思ってたり……」
必死に照れを隠しながらあたしはそう言った。
誘うならもっとストレートに誘ったほうがよかったかな?うあーん、この沈黙がどうにも耐えられ……
「それじゃ、デートしようか」
即答だった。
「は、はい!!」
あたしも嬉しさのあまりそれしか答えられなかったけど。
ACFの隊員証を持っている、ということを除けば普通の高校生カップルにしか見えない。先輩と一緒に街を回っているだけで楽しかった。ウインドウショッピングをして、ご飯を食べて、カラオケにも行って、とにかく楽しい時間だった。
「先輩、歌上手いんですね」
「由乃だってきれいな声で歌ってたじゃないか」
街中を歩くときは自然と手を繋いでいた。照れ臭かったけど、付き合っている実感が得られてとっても嬉しい。
ひとしきり回って、夜になってあたしたちは訓練棟に戻ってきた。
「はぁ~楽しかったです、先輩!」
「楽しんでくれたならなによりだよ」
「また、デートしたいですね」
「そうだね…こんな日常がずっと続けばいいのにって思うよ」
そう確かにカップルではあるが、ACFの隊員で、一航戦という使徒と戦う最前線にいる。いつまでものんびりしていられない。けど、今日みたいな一日を忘れたくない。というよりこんな日ばかりでもいいのに……と返そうとしたときだった。
「そうだ、今日の思い出にさ、これ」
先輩があたしの好きな薄いピンク色に光る指輪を差し出し、それを右手の薬指にそっとはめてきた。
どうして先輩はこんなにも先を越すんだろう、今度はあたしの勝ちだと思ったのになぁ。
「先輩……ずるいです、こんなの。ずるい……あたしだって、買ってあるんですから……」
すかさず先輩の右手の薬指に青い指輪をはめる。
告白は無理やりあたしが先にしたけど、なんだかこれじゃ負けっぱなし。
「由乃……」
「先輩、いつか、その、左手に指輪をはめられたらいいですね」
マリッジにも、エンゲージにすらまだ早いけど、でも先輩と一緒にいたい気持ちは今だけじゃないから。
「うん、そうだね。そうだといい」
月明りだけが入り込む部屋の中で、あたしたちは唇を重ね合う。
勢いで言っちゃったけど、ここここれって仮逆プロポーズみたいじゃない!?しかもそのままキスして…先輩、これってOKってことですか!?
そう考えた途端に心臓の鼓動が止まらない。その鼓動が収まらないうちに、お互いに唇を離す。
「ありがとう、由乃。また、明日」
「待ってください」
「由乃?」
このまま解散なんていやだ。このドキドキは収まらないし、収めたくない。なにより指輪で先を越されたことが悔しくて、なんとか先輩を驚かせたかった。
あたしは頬を赤らめながら続ける。
「今日は一日、普通の恋人同士でいるって言ったじゃないですか……。だから、その、朝になるまでは、一緒に……」
デートに行く前、桜先輩から受けたアドバイス。こうなったらやるしかないですよね!
(ああ、今日は夜間の訓練棟の使用許可が出てるんでしょ?)
(夜間のですか?)
(さっき隊長があなた達の外出届の備考欄に許可印を押してたわ。今夜はあのふたりだけか―とね。)
(訓練棟に、ふたりだけ……)
(言葉通りよ。宿泊棟とは離れてるし、まあそれなりの音を出しても問題はないわね。由乃ちゃん、滅多にないんだから、どうするかは考えておいたほうがいいわよ?)
あの時はよく理解できてなかったけど、いわゆるそういうことですね!!
部屋の中には、簡易的なソファーベッドと毛布がある。普通は訓練のあとに体を休めるために使うのだけど…
これ以上は深く考えないことにした。
さすがの先輩も理解したのか、さっきと様子が違う。「本当に?」と目で訴えかけているようだ。
あたしは「いいですよ」というような視線を送る。すると、先輩はぐっと手に力を込めて
「うん、由乃がいいなら。僕も由乃と一緒にいたい」
と言ってくれた
22時過ぎの訓練棟、あたしたち以外には誰もいない。
触れあう肌から伝わる先輩の体温、今まで感じたことのない温もり、まるで熱を出したよう。
先輩を想う気持ちが止められない、ぎゅっと抱き寄せ、先輩もそれに応じるように抱き締めてくれる。
大好きです、先輩。ずっとずっと、大好き。
次の日、あたしが起きた時には先輩はもう起きていた。
けど、あたしが起きるまでずっとそばにいてくれた。
昨日の夜から今朝まで、あたしたちの距離はほとんど離れなかった。
「先輩、おはようございますっ!!」
由乃救出から最後の戦い、その間にはこんなことがありましたーという内容を書かせていただきました
隊長や桜のアシストもあって初デートは大成功…!
二人の距離が一気に0になり、エンマリ編としては終わりが近づいて来ました
この話、とある事情で最後の方は詳しく書けないので、要望や反応が多ければしかるべき場所でこの話をさらに掘り下げるのもいいのかなぁと考えてます