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第3話 決意 side 由乃

 入隊してから2週間、訓練生模擬戦大会が開かれた。

 日々の訓練の成果を見せるための場…と言われているけど、実際には訓練後の所属隊を左右するというのがもっぱらの噂だった。

 先輩は今まで、あたしが得意とする遠距離(アウトレンジ)戦法を伸ばす訓練をしてくれた。近距離(クロスレンジ)にも対応できるよう、フォトンソードによる戦法も教えてはくれたけど、あたしの翼の能力を考えると先輩の判断は正しかった。

 そんな中、あたしは先輩に内緒でフォトンソードをもう1本武器に登録した。

 こんなこともできるんだと、自主トレで成長した姿を先輩に見せたかったんだ。


 でも結果は、決勝戦で海斗君に負けた。

 しかも自分勝手な二刀流だけじゃなく、あたしの真骨頂…ヨンロクを使った超威力砲撃でも勝てなかった。

 …きっと失望された、退場するときにアリーナにいた先輩の顔が怖くて見れなかった。


 メディカルチェックを済まし、医務室のベッドで横になっているとノックと共に聞きなれた声。


「…由乃、入るよ。」


 カーテンが開き、先輩が入ってくる。あたしはベッドに腰かけて、先輩の顔色をうかがう。

 いつもと様子は変わらない、先に謝らなくちゃ、そう思った。


「先輩…あたし負けちゃいました。ごめんなさい。」


「どうして謝るのさ。」


 そう言って、先輩はあたしの横に座る。


「だってあたし…勝手に…」


「フォトンソードをもう1本、パーソナルウェポンに登録した?」


 言葉が返せない。


「それとも、ヨンロクを使っても海斗に勝てなかった?」


「あたし…先輩から教わったことを何一つ出来ずに、自分勝手に戦って、ヨンロクを使っても勝てなくて…最低です、あたし…」


 裏切ってごめんなさい、そう続けようとした。

 それより前に、先輩はあたしを優しく抱き寄せた。


「戦い方はひとつじゃない、僕が教えることが100%正しいわけでもない。由乃は由乃なりに考えてさっきの戦い方をした、違うかな?」


 とにかく強くなりたい、という気持ちが捨て切れていなかった。だからあんな戦い方をしたのに、それでも先輩はあたしのことを見てくれていた。


 ふいに、先輩があたしのことを抱きしめる。

 とっても優しい温もり、決勝の前に感じたそれと変わらない温もりがあった。


「僕が由乃に遠距離(アウトレンジ)戦法を求めたのは、由乃が得意な戦法だからってわけじゃないんだ。航空戦隊として戦いに出れば、どうしても傷つくことがある。もしかしたら命に関わることだってあるかもしれない。だけど、僕は由乃にそんな思いをしてほしくなかった。後方支援なら傷つくリスクは減る。同じ一航戦で戦うけど、由乃を守り切れる自信が僕にはなかったから。だから僕は前に出るような戦法を教えなかった、いや、教えたくなかった。」


 先輩から初めて聞く、先輩の気持ち。こんなに大事に思われてる訓練生は本当に幸せ者だとあたしは思う。

 けど、今のあたしの中には、それ以上の感情が芽生え始めていた。

 先輩の気持ちを知ったから、先輩のことが好きになり始めたんだ。


「僕は、家族を空で失った。幼馴染を失いかけたこともある。だから怖かったんだ、また空で、今度は由乃を失うんじゃないかって。」


「え?」


「黒の日の前日、羽田に向かっていたとある旅客機が墜落事故を起こした。その飛行機には僕の両親と妹が乗っていたんだ。今思うと、あれも使徒の仕業だったんじゃないかな?」


「幼馴染っていうのは…?」


「ああ、桜のことさ。昔遊びに出かけた時、崖から落ちたことがあって。絶対に助からない高さだっていうのは分かってた、けど僕は桜を失いたくない一心で飛び込んだ。その時、青い翼が僕に力をくれたんだ。間一髪、二人とも助かったけどあれはあれで怖い出来事だったよ。」


 先輩があたしに似ていると思った理由が、なんとなく分かった。

 境遇が似ているんだ。守りたいのに守れなかった、そして今は守るための力がある。そうか、だからあたしは先輩に惹かれてるんだ。


「失いたくない、そんな心の弱さが由乃を追い詰めていたのかもしれない、由乃の気持ちに向き合わなかった。謝らなきゃいけないのは僕の方さ。」


「…それでも、先輩はあたしを強くしようとしてくれました。それにちゃんと応えられなかったのは、あたしの心がまだ弱いから。失いたくないっていう先輩の気持ちもわかります、でもあたしは先輩がそんな心配をしなくてもいいような存在になって、出来るだけ先輩の側にいたいです。」


 まだ、好きだなんて言えない。けど、少しだけ想いを伝えられた。あたしは先輩の側にいたかった。大切な人、好きな人、心から守りたいと思った人。


「あたし、もっと頑張ります。だから…先輩と同じ空を飛べるようにしてください。」


 もう失わない、失わせたくない。そんな風に思える人が今のあたしにはいるんだ。

 それと一つ、気になったことを聞いてみた。


「先輩、同じ一航戦で戦うっていうのは…?」



本編第6話の「縮む距離」を由乃の視点から描いてみました。

模擬戦を経て、悠の事が好きだと分かった由乃、そんな彼女の気持ちが伝わればと


次は悠のターン、本編第6話は序盤のターニングポイントであるので悠の視点も楽しんでもらえるよう書いていきたいと思います。


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