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《『桜庭姉妹の日常』シリーズ一覧》

桜庭姉妹の日常2:こたつがない

作者: 賀茂川家鴨
掲載日:2016/11/10

桜庭菊花「ちょっとこたつを発明してみようと思うんだ」

 やあ。僕はさむい。

 だから僕はこうして部室にこもっている。

 つまり、いつもどおりだ。

「お姉ちゃん」

「僕は桜庭菊花さくらばきっかだよ」

 僕は部室の隅でうずくまり、おもしろいポーズを考える。

 なんということだ、いまの僕には思いつかない。

 だってさむい。

「菊花お姉ちゃん」

「長い栗色の髪が自慢の、いまどきのJKさ」

 髪をさらりとかきあげて、どや顔で格好つけてみせる。

 ひんやりとした空気が僕のブラウスに侵入した。

「さむい」

「冬です。さむいのは、あたりまえなのです」

 妹の初花そめかはさむいのが得意みたいだね。ぴんぴんしている。

 初花は栗色の髪を纏めて、小さなポニーテールをしているよ。

 姉妹揃ってロリだよ。ちっとも成長していないね。特に身長が低いままだね。

「こたつにこもって、ごはんの上に白米をのせて食べたい……あれ?」

「お姉ちゃん、おかずも残さず食べるのです」

 うん。つっこむのはそこじゃないよね。

 炭水化物オン炭水化物。おでんとパンのダブルパンチみたいだね。

 ごはんと白米を混同して間違えたのは実話だよ。



「部室にこたつがほしい」

「だめです」

「どうしてさ」

「こたつに入っていたら、お姉ちゃんは勉強しないからです」

 よくわかったね。さすが僕の妹だ。

「でも、僕はこのさむさが我慢できない。だから勉強もできない」

「だめです」

 僕は初花に引っ張られる。でも、僕はテコでも動くつもりはない。

 今日も文系科目ばかりだからね。僕は文系科目が大の苦手だよ。初花はまんべんなく勉強できるけれど、理系科目では僕の足元にも及ばない。どや。

「そもそもこたつなんて学校には置いてないのですー」

 初花は僕のどや顔を無視して、腕を引っ張ってくる。

 あ、そうだ。いいことを思いついた。

「こたつをくれないというのなら、こたつを自作してしまおう」

「え」



 夜、僕は父さんの仕事場から必要な資材を頂戴して、こたつを造ったよ。

 僕はこたつに八八ミリ主砲をくっつけようと思ったけれど、初花に怒られてしまった。まあ、冗談だけどさ。でも、父さんは乗り気だったよ。さすが父さん。


 僕はこたつの足にジェットホバーをつけて、こたつの中に入りながら登校できるようにしようとしたよ。でも、こたつだけが飛んでしまうから意味ないね。

 こたつの足に丈夫な板とカーペットつけてみたけど、実験したらホバーの出力が少し足りなかった。うーん、どうしようかな。

 

 僕はこたつの布にステルス機能をつけてみたよ。こたつに入ってスイッチを入れると、こたつと僕の姿がこつぜんと消えたみたいだね。そのままホバー移動しようとしたけれど、やっぱりこたつだけがすっ飛んじゃうよ。

「こたつを背負って登校するのは嫌だなあ。重たい。さむい」

「いいかげん諦めるのです」

「あ、そうだ」

 僕はこたつに乗って、ホバーのスイッチを入れた。

 ステルス機能がついたこたつの上に乗った僕は、まるで空を飛んでいるようだ。

 でも、ホバーの音がやたらとうるさい。

 キュイーンと、ずっと鳴っている。近所迷惑だよね。

「これに静音機能をつけたいな」

 僕が父さんに相談すると、父さんはホバー部分を少しいじってくれた。

 いままでより格段にホバーの音が小さくなる。

「これでステルスミッションも完璧だね」

「もう。お姉ちゃんは何を目指しているのですか。そんな危ない乗り物に乗っていたら、大怪我するかもしれないのです」

「危機を怖がっていたら、マッドサイエンティストは名乗れないよ」

「ふつうの科学者さんがいいのです」

「それじゃあ、僕は明日、これで登校するね」

 父さんは少し難しそうな顔をした。何か問題があるのかい?

 その後も僕はこたつの改良を続けた。初花は呆れて寝てしまったよ。



 朝、僕はこたつに乗って、スイッチを入れた。

「……あれ?」

 動かない。コンセントがないとだめみたいだ。

「あ、父さん。どうしよう。動かない」

 すると、父さんはこたつの机部分を、ガラス張りのソーラーパネルに取り替えてくれた。ホバーの出力をこっそりと上げておいたおかげで、蓄電機をこたつの内部に取り付けても、きちんと浮力が出る。……あれ? これならこたつの中で寝ながら登校することもできたかもしれないよね?

 まあいいや。時間がないから、急ごう。

 僕はこたつに乗り、ステルス機能とホバー機能をオンにする。

 足にベルトを巻き、こたつ表面にあるアクセルを足で踏むよ。

「レッツゴー!」

 こたつは自転車ほどの速さで全身をはじめる。

「いってきます」

 父さんは手を振ってくれた。

 僕のスカートがふわふわとたなびく。

 うん。これ、かなりさむい。あとスカートを押さえないと大変なことになる。

 もっと速くできるけれど、それだと僕の身体がすっ飛んじゃうよ。

 道行く人は、僕が浮いていることに驚いて、腰を抜かしているよ。

「うわっ、何だ!」

「すげー、拡散しようぜ!」

 スマホを向けられた僕は、三通りの格好いいポーズを決めた。

「いえーい」

 残念だけど、僕がジャンプしているように見える写真しか残らないだろう。

 僕は先に登校中の初花を見かけた。

「やあ、初花。お先に失礼するよ。あと、さむいよ」

「あ、お姉ちゃん、ずるいです。こたつは乗るものではないのです!」

 僕は初花を尻目に、部室の窓からお邪魔するよ。

 靴を脱いで一階まで歩き、上履きを履いて部室に戻る。さむい。

 さて、そろそろこたつの充電が切れたころかな。



 部室の端に小さな白いカーペットを敷き、こたつをそこに移動する。壁を背にもたれて、こたつの中に身体を入れる。コンセントにこたつのプラグを差して、スイッチを入れると、だんだん温まる。これが本来のこたつの使い方だよ。

 僕が授業をサボってこたつの中で丸くなっていると、足音が近づいてきた。

「サボリ魔の菊花お姉ちゃん! 授業に出るのです!」

 来たね。

 僕はこたつの中に仕込んだスイッチを入れる。

「ふにゃあ!」

 すると、二本のアームがこたつの中から伸びて、初花の両足を捉えた。

 そのままずるずると引きずって、こたつの中に強制移住させるよ。

「あ、だめです、ぬくといのはだめです!」

 初花は頑張ってこたつから抜け出そうとするけれど、二本のアームと僕の両手が、初花の両足首をがっちりとロックして離さないよ。

「まったく。そんな格好をしているとパンツ見えちゃうよ、はしたないなあ」

「お姉ちゃんのせいです! 離すのです、授業に遅刻してしまうのです!」

 こたつの魔力が効かないとは恐ろしいなあ。

 僕はボタンを操作して、初花の足を渋々離してあげるよ。

「お姉ちゃんのばか!」

「あっ、初花……」

 僕は初花に取り残されてしまった。

「初花、ほら、こたつだよー」

 何の返事も返って来ない。

「初花……僕はさみしいよ」

 ひとりじゃ、つまんないからね。

 初花にはもう、僕と父さんしかいないのだから。

 しんみりしていたらだめだね。

 よし。今日は理系科目の授業もあるから、きちんと出ようかな。

 僕はこたつのスイッチを切って、初花の後を追いかけることにするよ。



 授業が全部終わって、僕と初花はこたつに入ったよ。

「ごめんなさい」

「これからはきちんと授業に出るのです。初花と約束して下さい」

 初花は頬をぷっくりと膨らませている。

 うん。とてつもなく怒っている。

「……わかったよ」

「お姉ちゃんは素直でいい子です」

 初花はすっかり機嫌がよくなった。こたつにも満足してくれたみたいだ。

 言っておくけれど、僕は妹との約束を破る気はないからね。

 これでも僕は約束を守るほうだよ。ほんとだよ?

 落ち着いたから、僕はこたつで、初花が持ってきてくれたみかんを食べるよ。

 さすが僕の妹だね。とても気が利くよ。



 僕は部室のコンセントを使うのにちゃんと許可を貰っているよ。

 みんなはこたつを造っても、許可なく学校の電気を使っちゃだめだよ。

 それから、こたつに入ってばかりで勉強をさぼったらだめだよ。

 僕みたいにこたつから出られなくなって、初花に怒られてしまうからね。

「最近、先生も友達も、みんなして初花のことを無視するのです」

「……それは災難だったね。僕から注意しておくよ」

 初花は僕の言葉を耳にして、にっこりと笑ってみせる。

 僕は天真爛漫な初花を見ていられなくなって、窓の外に目を遣った。

 ああ、やっぱりこたつはいいなあ。そういや、そろそろアレの季節だね。

 僕から家族へのプレゼントは何にしようかな。(了)

桜庭菊花「かもさんから伝言だよ。『最後まで精読して下さった方々、評価を下さった方々、誠にありがとうございます。今後の小説執筆のための励みとし、精進して参ります。お礼に菊花を一日抱きしめる権利をあげます』だってさ。……え? えーと、僕はアレの準備をするからこれで失礼するよ」

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