終わりに
およそ半年に及び日本と世界を震撼させた怪物騒動はこうして終わりを迎えました。
あまりにあっけなく、映画や小説で言うところの山場もない終息は、かえって現実的で、終わったのだということを僕により強く意識させました。
神様が言い残したように、あれ以来新たな敵は現れず、日本は徐々に元の生活を取り戻していきました。
破壊されたインフラや建物の復旧がすぐに始まり、盛り上がっていた怪物議論もやがて影を潜めていきました。
僕は身体の検査やなんやで少しの間入院しましたが、すぐに健康優良児であるお墨付きを貰い退院しました。この翌年から改めて学校に通えることになり、僕は楓と二人で予習ならぬ復習も始めました。
時々トモちゃんもふらっと現れては、僕をからかい一緒に勉強し、楓と仲良くねと囃し立て帰るということをしていて、僕の気を紛らわせてくれました。
いつもの日常が戻ってきたのです。
結局神様が設定したエンディングの条件はわかりませんでした。楓も交え関係者で協議した結果、人の姿を失っても愛してくれる人が現れたら、というちょっとロマンチックな条件だったのではないかということで落ち着きました。それが本当なのかどうかは神様に聞かないとわかりませんが、そうだったらなんとなく嬉しいとは思います。
関係者協議から発展して、イノデカさんを始めとした事情通の大人達が、僕にあの力はまだ残っていないのかしつこく訊いてきましたが、能力は全て消えたと言い、自分の腕を切ってみせ納得させました。
これは人類を凌駕する力です。他国とのよくわからない交渉や、それこそ戦争か何かに利用しようとしたのかもしれません。
ですがこんな力は人間には過ぎたものなのは明らかです。僕はこのまま能力は消えたものとして扱い、死ぬまで使わずに持っていようと思っています。
……しかし、もしも自分や楓、それに家族や友人、親しい人達に何らかの命の危険が及びそうになった時、僕はこの力を使わずにいられるか、正直わかりません。
そんな決断が起こらないためにも、平穏無事に毎日を過ごせるよう祈るばかりです。
さて、とにもかくにも僕を発端としたこの『物語』は終わりました。
結果としては、多数の犠牲者は出たものの、僕個人の主観としてはハッピーエンドを迎えられたのではないかと思っています。
犠牲になってしまった名前も知らない人達には大変申し訳なく思いますが、僕にとっては、楓や自分の家族が無事で、僕も僕自身の肉体を取り戻すことができました。これをバッドエンドとは言えないと思うのです。
ですが、フィクションと違い犠牲になった人々もこの世界を生きていた同胞です。何かしら、彼らの死に報いるためにも行動を起こしていくべきだと僕と楓は考えています。
本当なら、多くの人間を殺めてしまった僕は然るべき場所に出て刑罰を受けなければならないと思っています。しかし法律で裁けない問題ですし、自衛隊や政府の方からもそういったことは一切考えていないと言われてしまっています。
だからこそこれから先、時間はかかるかもしれませんが、世界平和やこの騒動自体の後始末に貢献できるよう、勉強をしていくつもりです。僕にできることを、一つずつやっていこうと思います。
さて、僕が体験したことで話すこともなくなってきたので、そろそろこの手記を終わりにしようと思います。
大筋のみを書いたので、実際に起こった戦闘の半分程度しか書いていませんし、描写しなかった時間の中には、自衛隊が決死の覚悟で臨んだ戦いも多くありました。――余談ですが、僕が命名した『マグロ』作戦も実行に移されていました。中々に効果的だったらしく、数名の『宿主』を救助したようです。考案した杉部さんに、この場を借りて賛辞を贈りたいです。素晴らしいアイデアだったと思います。
また、冒頭でも記載しましたが、事件についてより詳しく知りたい方はアーカイブを探してみてください。既に見たことのある人でも、この手記と併せれば違った発見もあるかもしれません。
最後に、この事件で僕と関わった全ての人間に感謝と謝罪を送ります。また、これを読んでいる未来の誰かの前にもしも神様が現れたなら、この手記が参考になることを祈っています。
そしてどこかへ消えてしまった神様へ向けて一言残し、筆を置きたいと思います。
願わくば、僕が作った世界が上手くいきますように。




