未来の誰かに向けて
未来の誰かに向けて。
これを読んでいる皆さん。初めまして。
僕がこれを書いているのは、西暦二〇二四年の十一月、熱狂的な盛り上がりを見せた東京オリンピックが終わってから、四年とちょっと経ったくらいです。
今皆さんが手に取っているこれは、僕が高校二年生の夏、今から二年程前に体験した、奇妙な出来事を記録しておこうと思って書いた、一種の手記です。これを書いている時点の僕は、高校三年生です。とある諸般の事情から、一年近く休校になったため、一般的な高校生より一年長く学校にいます。高校三年になりセンター試験の勉強もしているので、正直こんなことしている場合じゃないとも思うんですけど、忘れない内に書いておくべきだろうと思って、今筆をとっています。
昔から本を読むのは好きだったのですが、こういう風に自分で何かを書いたことは無かったので、どのようにあの体験を伝えればいいのか非常に悩んでいました。結局、少し長くなってしまうかもしれませんが、順を追って物語のように、僕の体験を書き綴っていこうと思っています。
そういえば一つ大事なことを書き忘れていました。僕の名前は芹沢悠斗、神奈川県立鎌倉高校の三年生です。
調べれば分かることですが、敢えて実名でこの手記を書いています。所詮高校生の戯言と信じない人のほうが圧倒的に多いでしょうし、これで問題ないと思っています。地名、その他の人名に関しても同様です。人名に関しては変更しようか最後まで迷ったのですが、私的な文章ですし実名で書くこととしました。
もしも何か間違ってこれが出版されるような事態になった場合は、人名を始めとして個人情報に繋がることや文章は差し替えようと思っています。あなたがこの文章を読んでいるのならば、これは出版されたものではなく、オリジナルということになります。
これから書く物語風の体験談は、あくまでも僕が主観的に経験したことの内容なので、当時を知る人の中には、事実と違うと主張する人もいるかもしれません。ですが、僕はそれでいいと思っています。
これから記すことは科学的に証明しようがないような話ですし、今これを手に取ってくれている読者の方も、バカバカしいと思ったらすぐに投げ捨ててもらって構いません。これはただ僕が、僕のために自己満足で書いているだけなのです。
ただ、彼女――とここではしておきます、実際の性別はわからないので。――の言うことが正しいなら、いつか僕と同じような経験をする人が出ないとも限らないと思っています。そのいつかの時のために、この手記は製本して、何部か信用できる知人に渡そうとも思っています。
もし今これを読んでいるあなたが、僕と全く接点のない人間ならば、もしかしたらそういうことなのかもしれません。同じような体験なんかしてないというなら、一つのフィクションとして楽しんでくれることを願います。
物語の舞台は東京都の隣県として有名な神奈川県、観光地としても有名な鎌倉市が中心となっています。お手元にコンピュータやスマートフォン――これを読んでいるあなたの時代にスマートフォンがあるのかはわかりませんが――があるならば、二〇二二年、神奈川県、怪物、殺人、とかで検索して貰えると、実際にあった事件もアーカイブされていると思います。
今この手記を読んでいるあなたがもしも、二〇二二年の事件を知らないのであれば、調べてみてもいいかもしれません。一応僕自身がその事件の当事者でもあるので、この手記を読めば事件の内容は把握できるようになっています。ただしマスコミや警察の発表と、僕の主観に基づく手記は内容に齟齬があるので、その点は予め注意をしておきます。
前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ僕の体験したこの事件のことを書きたいと思います。しばらくお付き合いください。
芹沢悠斗