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ザ•ポア  作者: 世界の超越者
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1章 始まり



1.聖裁のポア

いつものように家を出て、彼の通う、叡智東京学校へと向かう1人の男子がいた。彼の名は新島宏樹にいじま ひろき。中学3年生である。叡智東京学校は、中学棟、高校棟、特別棟の3つに別れており、その三つは、池を持つ中庭を囲むようにして建っている。彼は中学棟の一番奥の部屋へ向かい、教室の扉を開け、中へと入る。そして、自分の席を凝視する。彼の席には、城政孝じょう まさたかが座っていた。

「今すぐどけ!さもなければ、お前の命はないぞ!」

「もうさすがに慣れただろー?」

笑いながら席を立つ城を睨みながら、新島は隣の席と椅子を入れ替える。新島は潔癖症で、自分の席に誰かが座ると、ゴキブリをすり潰したような感覚に陥るほどであった。

「全く、そんなのじゃ彼女できねーぞ」

と、城の隣にいた石橋綾いしばし りょうが言った。目がとても悪く、眼鏡をかけており、ボサボサの寝癖をそのままにしているのが目立つ。

「大丈夫。彼女なんかいらねーから。」

「お?彼女できないんじゃなくて、作らないんです、ってか?」

2人が言い争ってると、江川理樹えがわ りきが教室に入ってきた。刈り上げにした頭が特徴で、なんでもできそうな雰囲気である。すると、口を揃えて皆、

「よぉ、ベンガリー!」

と言う。雰囲気通り、学年1位の成績を誇る、江川のあだ名のようだ。気付くと、だんだん生徒が集まってきていた。ホームルーム開始のチャイムがなり、担任教師の志紀美香しき みかが入ってくる。志紀は、英語の教師で、今日は午前中解散の英語の夏休み全員参加補習の日であった。というのも、彼らは秋に海外研修旅行を控えていた為である。なので、今日学校にいるのは、担任の志紀とそのクラスメイトのみである。一時間目のチャイムがなり、全員席に着く。後頭部で結い上げた髪を揺らしながら、志紀は教壇に立つ。

「起立!気をつけ!礼!」

「「「お願いします!」」」

委員長の野口菜緒のぐち なおの号令で、授業が始まる。

「それでは、昨日出した宿題のチェックテストをします。机の上は、筆記用具のみにしてください。」

志紀がそう言うと、皆机の上に置いていた物をしまう。そして、チェックテストを配る。

「では始めます。よーい」

その時、志紀の声を遮るようにして、放送が流れる。

『今から行うチェックテストで、赤点をとったものをポアする。志紀以外の全員がテストを今すぐ受けることを強制する。テストを受けなかった場合もポアする。』

その放送が終わると同時に、教室がざわめく。

「テストで赤点だったらポアってどーゆーことだ?」

「なんで放送が流れるんだよ!?誰もいないはずだろ!?」

その時、林英明はやし ひではるが口を開いた。クラスで一番背の高い彼は、選挙の立候補者のように語りかける。

「みんな落ち着いて!とりあえず、海外研修旅行を控える僕達なら、勉強してて当然だから、赤点なんか取るはずないだろ?ポアかなんだか知らないけど、テスト、やろうぜ?」

林は二学期の委員長で、皆をまとめるのが得意だ。

「そ、そうよね?あなたたちなら、赤点なんかとらないわね。では、テストを始めてください。」

志紀が震えた声でテスト開始を宣言する。


「テストやめっ!」

テスト終了の合図とともに解答をやめる。解答用紙が、一人一人回収されていく。

「では、採点しますので、静かに待っててください。」

志紀が、赤ペンを持ち、採点を始めた。

そして、ついに採点が終わる。生徒全員は手を胸元で合わせて祈っている。

「採点が終わりました。結果は・・・」

志紀が目をつぶって結果を告げる。

才田さいた君、藤木ふじき君、宮崎みやざき君の三人が・・・赤点でした・・・ほかは全員、大丈夫です・・・」

その言葉を聞いた直後、机を叩く音がした。そして、藤木達が騒ぎ出した。彼ら3人は、学年でも名の知れた問題児で、おそらく今回のテストの勉強もしていなかったのだろう。

「おい、志紀!なんで俺が赤点なんだよ?採点ミスだろ?」

「そうだ!俺達が赤点なんて・・・とるはずな・・・い・・・」

突然、三人の首が回り始めた。

「い、息が・・・できな・・・」

ちょうど一回転した所で、三人は倒れた。しばらくすると、ピクピクと痙攣していた手の動きが止まる。

「大丈夫か!?」

林が三人に近寄る。三人は死んでいた。

「そんな・・・」

すると、志紀が青ざめた顔で話し出した。

「ポア・・・それは、首を回して殺すこと・・・昔あった宗教団体の言葉よ・・・」

「首を回して・・・殺すだと・・・?」

「なんで首が回るのよ!」

「誰が放送室にいるんだ!?」

生徒達は次々と声を上げる。その時、岩田大雄いわた ひろおが大きな音を立て、周囲を黙らせる。岩田は、スーパーサイヤ人のように逆だった寝癖をしていた。

「赤点なんてとるやつが悪いんだろ?とりあえず、おれたちは赤点をとらなかったんだから、別にいいんじゃないのか?」

いつもは点数の悪い岩田は、ちゃんとテストの勉強をしてきたのだろう。その言葉に、皆声を出すことが出来ない。

と、志紀が言った。

「とりあえず、私が確認してくるので、ここで待っててください。」

志紀が教室を出ようとする。扉に手を掛け、左にスライドしようとする。が、扉は開かなかった。

「扉が・・・開かない・・・?」

驚いている志紀に、林が声をかける。

「おそらく、犯人は自分達をこの教室から出れないようにしているんですよ。」

「なんでそんなこと・・・まさか!?」

「そう。まだ、終わりじゃないってことです。」

新島の両腕に鳥肌が立つ。

「嫌な予感がする・・・」

そうつぶやいた途端、一時間目が終わるチャイムがなった。


死亡者 3名 才田龍太郎さいた りょうたろう藤木琉翔ふじい りゅうと宮崎亮平みやざき りょうへい 残り36名


2.第2の修行

二時間目のチャイムと共に、再び放送が流れた。

『今から全員でじゃんけんを行ってください。最後まで負けたもの三人をポアする。また、じゃんけんを行わなかったものもポアする。』

「やっぱり、また来たか・・・」

林が予想通りという顔で言う。

「今度はじゃんけんかよ!?」

「じゃんけん?運ゲーじゃないか!誰でも、死ぬ可能性があるぞ!」

冷静な林に対して、多くの生徒は再び騒ぎ出す。と、江川が手を挙げて話す。

「今残ってるのは36人だろう?3人組を作ってじゃんけんをし、負けたら負けたもの同士でまたグループごとにじゃんけんをする。これでどうだ?」

江川の提案で、皆はグループを作り出した。しばらくして、岩田が江川に言う。

「おい、江川!ひとり足りないぞ?」

「なぜだ?先生もいれて、36人いるはずなのに・・・」

江川は生徒を確認し始める。すぐに誰がいないか気づいたようだ。

「安部田がいない・・・」

その教室にはただ1人、安部田涼あべた りょうだけがいなかった。

「安部田なんか気にするなよ!じゃんけんだじゃんけん!」

堀達也ほりたつやがじゃんけんを催促する。

「よし・・・!じゃんけんぽん!」

次々と担任の志紀含め、生徒達はじゃんけんを始めた。


「次でラストだな・・・」

2人ずつの三グループが残っていた。

「ここで負けたら・・・首が・・・」

その内の1人の、藤井麗沙ふじい れいさは、体を小刻みに震わせ、顔を青ざめてつぶやく。

「ほら、はやくじゃんけん、じゃんけん!」

また、堀もその内の1人だった。なぜそんなに催促しているのか、不思議である。

そして、負けた3人が決定した。

「俺が・・・負けた・・・だと・・・?ぐあっ・・・」

谷口たにぐち、堀、山田やまだの3人がポアされた。

すると、林が前に立って言う。

「3人が死んですぐだが、聞きたいことがある。誰か、安部田の居場所を知らないか?」

林の問いかけに答えるものはいない。と、石橋が声を上げる。

「もしかして、放送室にいるの、安部田なんじゃないか?放送の声にモザイクかかってたから、確実じゃないけど。でも、確率的に高いだろ?」

「たしかに、安部田の確率は高いかもしれないな。だが、たとえ放送室にいるのが安部田だったとしても、今はどうにもできないだろう。」

石橋の言葉に、林の代わりに江川が返す。

「たしかに、教室から出られないんじゃ、どうにもならないな。さすが江川!」

江川は腕を組んだまま、教室の隅を見ていた。

「僕を褒めるひまがあったら、打開策の一つでも考えたらどうかな?」

「打開策があったら、死人なんか出ないさ。でも、備えることならできるぞ?次の放送も、三時間目のチャイムの直後に来るはずだからな。」

林がそう言うと、二時間目の終わりのチャイムがなる。

「んじゃ、あと10分後に死んでも公開しないようにしとけよ?」

「まだ死人が・・・いや、もしかしたら、全員死ぬのか・・・?」

新島は、新たな死人を目の前にして、頭を抱えていた。


死亡者 3名 谷口雅也たにぐち まさや堀達也ほり たつや山田優奈やまだ ゆうな 残り33名 なお、うち1名行方不明


3.サリン事件

「そろそろ来る・・・」

時計の針がカチッと音を立てて動いた途端、三時間目の始まりを告げるチャイムがなる。同時に放送も流れる。

『今から30分後に3年Aクラスにサリンが撒かれる。なお、ロッカーの中に、29個のガスマスクが入っている。』

「え・・・?さ、サリン・・・?」

「サリンって毒ガスだろ?」

「おい!おい!ちょっと待てよ!」

城が叫ぶ。

「なんだ、城?」

「ここには32人いるのに、ガスマスクが29個しかないんだろ?ってことは、三人死ぬじゃねえか!!」

「なら、三人殺せばいいのさ・・・」

ドサッと音がして、誰かが倒れる。見ると、江崎武雄えさき たけおが床に倒れていた。江崎にはナイフが深く刺さっていた。江崎を見るに、すでにしんでいるようだ。

「橋本・・・」

江崎にナイフを刺したのは、橋本裕紀はしもと ゆうきだった。それを見た志紀は橋本の肩を掴み、体を揺さぶりながら言う。

「なんで、自分から積極的に人を殺してるのよ!?こんなことで殺しちゃダメよ!絶対に何か、全員が助かる方法があるはずだか・・・」

「うるさいなぁ・・・」

橋本は、志紀の説教を無視してもう1本のナイフを刺した。志紀も倒れる。それを見た生徒全員は後ずさりする。

「さあ、あと1人だよ?」

橋本は、志紀からナイフを引き、周りの生徒を見回す。その時、一人の男が前に出て、橋本に言った。

「待ってくれ!誰も殺すな!俺がガスマスクをつけない!ガスマスクなしで耐えてみせる!」

「宮川・・・本気か・・・?」

「あぁ、本気だ!サリンなんて、大したことないだろ!」

宮川宗淳みやがわ むねあつは、ガスマスクをつけないと宣言した。新島は、サリンを吸って死なないわけないと思っていた。だが、自分の命の安全を確実にするため、あえて言わないでいた。そんな自分に、新島はかすかに罪悪感を感じていた。


放送から30分後、どこからかサリンが出てくる。

「来たぞ・・・」

宮川以外は全員、ロッカーに入っていたガスマスクをつけている。

しばらくすると、宮川は皆に向かって叫び出した。

「ほら、サリンが撒かれてから結構経ったのに、死んでないぞ?ガスマスクなしでも、耐えられるんだよ!皆も、ガスマスクを・・・早く・・・はずし・・・」

「宮川っ!」

宮川は突然倒れた。毒が体に回ってしまったようだ。宮川は、苦しみながら、やがて、息を止めた。

「宮川のおかげで、自分達が助かったのか・・・」

新島は宮川の前に立ち、手を合わせた。その時、大きな音が教室に響いた。

「くそっ!なんでこんなに人が!死ぬんだよ!」

林が扉を蹴ったのだ。すると、今まで閉まっていた扉は、ゆっくりと開いた。

「と、扉が!扉が開いたぞ!これで外に出られる!」

林ははしゃぎながら外へと出ていった。

三時間目が終わり、次の放送が流れようとしていた。新島は、扉が開いたことに疑問を感じていた。

「このタイミングで扉が開くようになった・・・?なぜ・・・?」


死亡者 3名 江崎武雄えさき たけお宮川宗淳みやがわ むねあつ志紀美香しき みか 残り30名 なお、うち1名行方不明


4.恐怖の鬼ごっこ

午前中解散の予定だった為、弁当を持ってきていなかった生徒全員は、家庭科室へと向かい、昼食を作っていた。もうすぐ昼である。

「くそっ!門は完全に閉まっていて、出られないし、逆に外から入ることもできねぇ!」

出られると思っていた林はイライラしながら冷蔵庫に入っていたもので簡単に料理していた。

「でも、外に出られたってことは、何かしらの意味があるんじゃないか?」

「だな。まあ、放送の前にとりあえず飯だ。」

4時間目のチャイムがなったにも関わらず、放送は流れなかった。まるで、生徒達が昼食をとろうとしているのが分かっているかのようだ。

「林、お前の作ったチャーハンうめーぞ!」

「わー!藤井さんさすがー!」

料理のできる人のおかげで、なんとか全員昼食をとることができた。

「よーし。腹いっぱいだし、寝るか。」

岩田がそう言って、寝かけた時、チャイムが流れ出した。

『今から、生徒全員で鬼ごっこをしてもらう。捕まったものをポアする。なお、鬼は、岩田、新島、野口の3人で、制限時間は1時間とする。1時間以内に、3人ポアされた場合、鬼ごっこを終了とし、3人ポアされなかった場合、鬼の3人をポアする。』

その放送が流れ終わると、全員は鬼である岩田、新島、野口の3人を見る。

「に、逃げろっ!あいつらに捕まったらポアされるぞ!」

「わ、私は捕まえないでっ!」

あっという間に鬼以外の全員は、家庭科室から出ていってしまい、残ったのは、鬼の3人だけだった。

「1時間で3人捕まえればいいのよね?」

「野口、陸上部だろ?任せたぞー。」

「陸上部って言っても、私も男子は捕まえられないよ!」

「この鬼ごっこには、命がかかっているんだ!全力で捕まえるぞ!」

新島の言葉で、鬼の3人も、家庭科室を飛び出ていった。


「はー、全く、誰もいねーよー!ほんとに大丈夫なのかなぁ」

岩田が寝癖でボサボサの頭を掻きながら困り果てた様子で自分の教室を歩いていた。

「あー歩き疲れた。文化部の俺には、鬼ごっこなんてきついもんだなぁ。」

そう言いながら、岩田は誰かの席に座る。と、突然、岩田の右肩に痛みが走る。

「いてぇっ!」

「あちゃ、少しずれたか。頭に刺そうと思ったんだがな。」

岩田が後ろを振り向くと、そこにはナイフを握った沢田真宏さわだ まひろがいた。

「沢田・・・それ・・・!?」

「もしもの時のために、家庭科室で拾っておいたんだ。ほとんどの奴が、ナイフなんか持ってるだろうなあ。」

沢田は話しながらナイフを岩田に向かって何度も突き出す。しかし、岩田はそれを全て避ける。

「ナイフ程度、避けるのは簡単さ。さっきの時点で、殺せなかったのがお前の運の月だ。」

「ははっ。でも、お前は俺を捕まえられないだろ?」

「まあな。少なくとも、俺はお前を捕まえられないな。」

「ん?それってどういう・・・」

そう言いかけた沢田の背中に誰かの手が触れる。その瞬間、沢田の首が回る。

「サンキュー!新島!」

「まったく・・・なにやってんだよ!」

新島は少し怒っている。

「まぁ、これで一人捕まえられたし。」

「違う!そこは自分の席だ!いますぐどけっ!」

新島は、椅子を入れ替え、窓の外を覗く。と、グラウンドで野口が、誰かを追いかけているのが目に入る。


野口は、校舎のすぐ横の第一グラウンドで、同じ陸上部の鈴木佳奈すすぎ かなを追いかけていた。野口と鈴木は、中学1年生の時からの親友であった。しかし、今の野口には、そんな私情は関係ないようであった。

「菜緒っ!なんで、私を、捕まえようとするのっ?」

「しょうがないでしょ?これには命がかかってるのよ!親友だとしても、見過ごすわけにはいかないの。」

「そんな・・・。で、でも、私の方が、菜緒より、足速いもん!諦めて、くれるまで、走り続けるよ!」

走る度に、死が迫る恐怖で、鈴木の息が荒くなり、ツインテールの髪が揺れる。

「そう・・・走り続けるといいわ。」

野口は鈴木を追いかけ続ける。鈴木の方が足が速く、少しずつ距離が離されていく。すると突然、鈴木が倒れた。

「うぐっ・・・」

「引っかかったわね。注意不足なこと。」

鈴木は、野口が張っていたロープに足を引っ掛けて転んでいた。

「こ・・・来ないでっ・・・」

「許してね。」

野口は鈴木に右手で触れる。

「あっ・・・」

鈴木の首が回り、死んだようだ。

「とりあえず、私は一人捕まえた。あとは2人に任せましょ。」

野口は、鈴木の死を確認すると、どこかへ歩き始めた。


「野口が誰かを捕まえたようだな。」

校舎の中から見ていた岩田と新島は二人目が捕まったことを確認し、三人目を捕まえに行く。新島が時計を見ると、タイムリミットが迫っていることに気付いた。

「まずいぞ!あと10分しかない。」

「なんだと!?行くぞ、新島!」

2人は走り出した。しかし、行先どこにも人影すらない。

「もう時間が・・・」

「くそっ、ここで死ぬのか・・・!?」

そして、放送が流れてから、1時間が経過した。

2人は死を覚悟していたが、首は回らなかった。

「もう1分は経ったぞ・・・なんで回らないんだ?」

事態が呑み込めていない二人の元に野口がやってきた。

「鬼ごっこはとっくの前に終わっていたわよ?」

その言葉に、2人は驚く。

「ど、どういう意味だ!?」

「放送の内容を覚えてる?」

「もちろんだよ。三人捕まえないと自分達がポアされるんだったろ?」

「いいえ。私たちがポアされる条件は、三人ポアされなかった場合、よ。」

「それがどうしたんだ?」

「佳奈を捕まえた後、家庭科室に戻ったの。そしたら、なぜだか分からないけど、じょさんと松下まつしたさんが、床に倒れて死にかけていたの。その二人の首を回したのよ。」

「そっか!生きていても死んでいても、ポアさえできれば条件はクリアなのか!」

「そう。つまり、私は1人で三人ポアしたことになったから、鬼ごっこは終わったと確信したの。まあ、あなた達も一人ポアできたんでしょ?」

「あぁ。沢田をな。」

「とりあえず、お疲れ様。じゃ、昼休みも終わったみたいだし、教室に戻りましょ。」

新島は時計を見る。針は、一時を指していた。

通常の日程ならば、五時間目が始まる十分前だ。

新島は考えていた。

「この事件、一体、誰が起こしているんだろう・・・。そして、何のために・・・。」


死亡者 4名 沢田真宏さわだ まひろ徐雅貴じょ まさたか鈴木佳奈すずき かな松下由樹まつした ゆき 残り26名 なお、うち1名行方不明


5.林の選択

『林は、生存している生徒を三人選べ。選んだものをポアする。選んだものの血液型がA型なら、さらに一人選ぶ。林が5人以上選択できなかった場合、林をポアする。この作業を45分以内に終えなかった場合、選ぶ前に何型であるかを聞き出した場合も林をポアする。』

この放送を聞いた林の顔は、すぐに蒼白になった。

「林・・・」

「これ、最低で4人、最高で俺以外全員死ぬじゃねえか!」

「でも、選ばないと、お前が死ぬぞ?」

江川が林に言う。

「お前は、命を賭けられたんだ。好きに選ぶといいだろう。言っておくが、僕も含めて、選ばれたとしても誰も林に文句は言えないぞ。」

林以外の23人は、林を見つめる。少しして、林は口を開いた。

「じゃあ、選ばせてもらうよ・・・。選ばれた後に、何型か教えてくれよ?」

林は生徒手帳を取り出した。

「さっそくだが、1人目の名前を書かせてもらう・・・。」

林は、震える手で、生徒手帳に誰かの名前を書いている。そして、林はそれを皆に見せた。そこには、「太田光里おおた ひかり」の名前が書いてあった。

「わ、私が・・・なんで・・・B型・・・なのに・・・」

太田は、首が回ると床に倒れた。

「やべっ、いきなり外した・・・。次こそ当てないと・・・」

林は少し焦った様子で誰かの名前を書いている。

「今度はまとめて二人いこうか・・・」

林が紙を裏返す。「古川裕也ふるかわ ひろや」、「鳥尾慶とりお けい」の名前が書いてあった。古川はO型、鳥尾はA型だった。

「よし!A型だ!」

「おい、林!次の1人がA型じゃなかったら死ぬぞ?」

「そうだな。だが、おれはA型の人物を知っている。」

林は自信満々に名前を書いた。

「お前がA型なのは知ってんだよ。副島!」

副島玲央そえじま れおは林に言った。

「僕は、A型じゃないよ。」

「え?でも、確か副島って、A型じゃ・・・?」

「それって多分、隣のクラスの副島綾乃そえじま あやののことじゃないかな?くっ・・・」

そう言うと、副島の首が回り、倒れる。

林は頭を抑えていた。

「くそっ・・・。友好関係の広さが、ここで裏に出るか・・・。俺も・・・ここまでか・・・。」

林の首が回りだす。

「頼む。犯人を・・・捕まえてくれ・・・。犯人は、この中にいる・・・はずだから・・・」

林は倒れた。

「犯人は・・・この中にいる・・・?」

「確かにそうだな。」

江川が前に立って言った。

「そろそろ、本格的に犯人を探さなければいけないな。」

「おい、江川!なんでこの中に犯人がいるって断言できるんだよ?」

「簡単だ。まず、教室内には監視カメラがない。だから、この教室の中にいないと、誰がポアされたかはわからないはずだ。なのに、犯人は鬼ごっこの鬼を岩田、新島、野口に指名できた。岩田は、テストで赤点を取ってもおかしくないほどの成績だしな。実際、この3人は生きていたな。つまり、犯人はこの中にいて、放送室にいるのは安部田だろうな。ちなみに、放送室の扉は開かないようにしてあった。内側から細工でもしたんだろう。安部田と犯人になんらかの繋がりがある事は間違いないはずだ。」

「犯人よぉ!この中にいるのなら、さっさと名乗り出ようぜ!なんのために俺達を殺してんだよぉ?」

田中が机を叩いて叫ぶ。それに反応して、丸山詩織まるやま しおりが手を上げる。

「実は、学校に来た時、1枚の紙を見つけていたんです。」

丸山は、ポケットから、1枚の紙を取り出した。

「ほう。なんて書いてあるんだ?」

「読みます・・・。『我は、麻原彰晃尊師の意思を継ぎしもの。尊師に代わって、君たちを浄化する。死を恐れるな、ポアは開放だ。』」

教室内がざわめく。

「麻原・・・オウム真理教の1番偉いやつか・・・。ポアという単語が出た時点で気づくべきだったな。」

「ごめんなさい・・・私、最初はいたずらと思っていたら、本当に人が死んで、怖くなって・・・。」

「むしろ、これを出してくれたこと自体、ありがたい。だが、犯人を特定するヒントがないな・・・。」

そんなことを話し合っているうちに、五時間目の終わりのチャイムがなる。


死亡者 5人 太田光里おおた ひかり副島玲央そえじま れお鳥尾慶とりお けい林英明はやし ひではる古川裕也ふるかわ ひろや

残り21名 なお、うち1名行方不明


6.江川の犯人探し

「もう六時間目か・・・」

「いつもなら、もう学校も終わりなのにね・・・」

「休む暇もないな・・・」

疲れ果てた生徒達に追い打ちをかけるように、放送が流れる。

『江川は、犯人だと思う者の名前を生徒手帳にかけ。その者をポアする。ただし、その者が犯人ではなかった場合、江川もポアする。』

「おい・・・これはさっきの林よりもきついぞ・・・」

江川は、放送を聞くと、教壇に登って話し出す。

「ここで犯人を捕まえて、ポアの連鎖を終わらせる!今回のこれには、時間制限がない。真剣に選ばせてもらおう。」

その言葉に、周りから声援がくる。

「さすが学年1位!」

「ここで終わらせてしまえ!」

「よし、まずは犯人を見つけるために、候補を絞り出そう。」

江川は、黒板に生存者の名前を書いた。

「まず、僕は絶対に犯人じゃないな。もし僕が犯人なら、自分の名前を書いてポアされることになる。」

江川は、黒板に書かれた、江川の文字を消す。

「そして、犯人はおそらく、オウム真理教の信者もしくは詳しいやつだろう。その条件に当てはまるのはごくわずかだ。」

江川は黒板の何人かの名前に丸をつける。

「橋本と藤井、新島あたりだな。」

「おい!それだけで疑うのか!?」

新島が江川に訴える。

「確かに新島はないかもしれない。鬼ごっこの鬼は制限時間も短く、犯人が新島だった場合、リスクが高かった。」

「おい、江川!気になることがあるんだが?」

岩田が江川に話しかける。

「なんだ?」

「リスクがどうこう言ってたら、じゃんけんはどうなんだよ?あれは全員に死ぬ可能性があったぞ?」

「!?・・・確かに、見落としていたな・・・。犯人は、命令によるリスクの高い低いでは判断出来ないか・・・」

「どうするんだ?」

「・・・。少し考えてみるよ・・・時間をくれ。それに、今の時間を使って休んでいてくれ。」

そう言うと、江川は教室を出ていく。一息つく新島の元に、藤井がやってくる。藤井は、声を震わせながら新島に話しかけた。

「新島君・・・江川君はだれを選ぶんだろう・・・?」

「それはわからない・・・。江川次第だな。」

「もし、私が選ばれたら、死んじゃうんだよね・・・。」

「ん・・・急にどうしたんだ?」

「もうクラスメイトの半分が死んだんだよ・・・?新島君は怖くないの・・・?」

藤井を見ると、その表情は怯えていた。

「自分はもう、慣れてしまったよ・・・怖いくらいにね・・・。」


「決めたよ・・・。」

1時間ほど経って、江川が教室に戻ってきた。

「お、誰にするか決めたのか?」

田中疾風たなか はやてが江川に聞く。

「ああ。ずいぶん迷ったけどね。」

「お!誰なんだ?もちろん、安部田だろ?」

「いや、安部田じゃない。安部田はおそらく、死んでいる。」

「は?なんでだよ?放送流してるの、安部田しか考えられないだろ?」

「でも、放送は録音しておいた音源を遠距離操作で流しているとしたら?それに、安部田が生きているとしたら、おかしな点がある。」

「な、なんだよ?」

「安部田は、じゃんけんをしていない。」

田中の表情が固まる。

「そう。テストは何らかの方法で受けていたとしても、じゃんけんは一人ではできない。」

「じゃあ、一体誰の名前を書くんだよ?」

「それは、書いてから伝えるよ。その方が、本人も諦めがつくだろうしね。」

江川はそう言うと、生徒手帳を取り出して、名前を書く。林とは違い、一発勝負の江川は冷や汗を書いていた。そして、書き終わったのか、生徒手帳を全員に見せる。そこには、「藤井麗沙」と書かれていた。

「な、なんで・・・私を・・・」

「実は、今、放送室に行ってみたんだ。そしたら、これが、ドアの下に挟まっててね・・・。」

江川はポケットから、1枚の身分証明書を取り出す。その身分証明書は、藤井のものであった。

「どうしてそれを・・・!?」

「君が犯人なんだろう?おそらく、放送室に入れるのは犯人だけだろう。放送室に入れないと随分前から分かっていたのに、なぜ放送室の目の前まで行く必要があるだろうか。いや、ないだろう。君は放送室から出る時、身分証明書をうっかり落としてしまったみたいだね。」

「そ、そんな・・・私・・・」

「いやぁ、もしこれが落ちてなかったら、君が犯人だってわからなかったよ。さすがは元学年1位。でも、1つのミスが、命取りになるって、覚えておくといい。・・・あ、今からポアされるから、覚えても意味はないか。」

「私は・・・犯人じゃ・・・な・・・」

藤井の首が回り始める。

「最後に、生徒を何人も殺した理由を聞かせてもらおうか。」

「犯人・・・尊師は・・・ぐぁっ・・・」

藤井は倒れると、動かなくなった。

「みんな!これで事件は終わりだ!これ以上、死人が出ることは無い。安心して休みたまえ。僕は今から警察にでも行ってくるよ。」

そう言って江川が教壇を降りた瞬間、動きが止まった。

「どうした江川?」

「変だな・・・うぐっ・・・」

突然、江川の首が回り始めた。

「江川っ!」

「こ・・・こんな・・・ことが・・・」

首が一回転した江川はバタリと床に倒れた。

「藤井さんは、犯人・・・尊師じゃなかった・・・。」

新島は休んでいた時のことを思い出す。

「そりゃそうだよな・・・だって・・・自分と話してたじゃないか・・・。なんで江川に、言ってやれなかったんだ・・・。」

新島は机に伏せる。

「っと、江川君の推理通りなら、あと17人だね。」

委員長の野口が、倒れた江川の横に立つ。

「私には、江川君みたいに、推理して犯人を探すことはできない。けど、話を聞くことならできる。もし、犯人がここで名乗り出てくれたのなら、話を聞く。そして、やりたいことに協力してあげる。」

「野口、無駄だよ。」

岩田が言った。

「犯人は、丸山が持ってた手紙に書いてた通り、俺達全員を殺したいんじゃないのか?なら、やりたいことに協力するってことは、自分自身が死ぬってことじゃないのか?」

「お、岩田の割に頭回るじゃねえか。」

石橋が茶化すように言う。

「今の江川の命令で、いつ放送が流れるかが分からなくなったな。」

時はもう夕方を過ぎようとしていた。


死亡者 2名 江川理樹えがわ りき藤井麗沙ふじい れいさ 残り18名 なお、1名は状態、行方共に不明


7.堺の大殺戮

江川が死んでから1時間後、急に放送が流れた。

『今から、脳に信号を送り、AとBを指名する。Aとなった者は、3時間以内に生存者を5人をポアしろ。できなかった場合、Aをポアする。また、Bは4時間以内にAの名前を生徒手帳に書け。できなかった場合、又はAを間違えた場合、Bをポアする。なお、4時間後、生存者の中で歩数が1番少なかった者もポアする。』

その放送の直後、新島の頭の中で、声が聞こえた。

『お前がBだ。』

「!?」

新島は、驚きながら周りを見渡す。幸い、誰も新島を見てはいなかった。それは、周りの生徒は皆一斉に足踏みを始めていたからだ。

「ちっ・・・誰かも分からないAからポアされないようにしつつ、歩き続けなきゃいけないのかよ!?」

「おそらく、全員が動かずに全員を監視する、っていうことを防ぐためか・・・。犯人は徹底的にポアしたいようだな。」

すると、新島の元に、石橋と岩田がやってきた。

「新島!Aから逃げるに当たって、集団でいた方がいい気がするんだ。だからさ、」

「俺達3人でチームを作らないか?」

新島は、石橋と岩田とは仲良くしていた。その2人とチームを組むことを断る理由はない。

「もちろんだ。だが・・・」

「ん?どうしたんだ?」

「・・・いや、なんでもない。」

3人は、チームを組むと、歩数を稼ぐために歩き回っていた。


「新島っ!」

突然、後ろから堺廉さかい れんがやって来た。

「大変だ!教室で、大月おおつきさんと、大矢おおやさんが!」

「なんだって!?」

まだ、放送が始まって30分経った程度なのに、早くも二人死んでいた。いつものクラスの隣のクラスで、大月と大矢が倒れており、既に何人もがそこに集まっていた。

「Aが動き出したな・・・。」

「おい、最初に見つけたのは誰なんだ?」

集まっていた内の一人、田中が問いかけた。その問いかけに、丸山が答える。

「わ、わたし!廊下を歩いていたら、偶然見つけて・・・」

「ホントか?自分で殺して、見つけたことにしたんじゃないのか?あの謎の紙を見つけたのもお前だったよな?」

「私はAじゃない!それに、同じ女でも、二人の女子を殺すなんてとてもできないよ!」

「それもそうか。そういえば、ここにいるのは全員じゃないよな?」

城が人数を確認して答える。

「久保川と橋本がいないな。」

「なんでいないんだ?」

「歩数稼ぎ・・・もしくは、Aか・・・」

「お前ら、その二人にも注意しろよ?じゃあ、歩数稼ぎのため、そろそろ行くぞ。」

城が教室を出ていくと、他の生徒も出ていく。1人で行動している者は少なく、ほとんどの生徒が新島と同じようにグループで行動していた。

「なぁ、石橋、岩田。」

「なんだ?」

「実は・・・自分、Bなんだ・・・」

「え!?」

「放送の直後、脳の中で、お前がBだって、声が聞こえたんだよ。」

「なるほど。で、でも、もし俺達のどっちかがAだったら、お前はすぐ死んでるぞ?」

「そりゃないさ。だって、ずっと一緒にいたじゃないか。」

岩田の顔が赤くなる。

「そ、そうだよな。はははは。何言ってんだ俺・・・。」

「岩田は抜けてるとこがあるよなー。」

3人が笑う。

「じゃ、俺達、A探しに協力するよ。」

石橋と岩田が、新島の肩に手を置く。

「二人とも・・・ありがとう!」

「それで、そのAだが、まず男であることはほぼ確定だよなぁ。だって、二人も殺してたんだからな。」

「やっぱり、サリンが撒かれた時に、自らの意思で殺していた橋本かな?」

「僕がどうかしたかい?」

後ろから声がする。振り向くと、橋本が立っていた。

「うわっ!?橋本!?な、なんでここに!?」

「なんでって・・・ただ歩いていただけだよ。話を聞いていたけど、俺はAじゃないよ。」

「何を持って、それを証明する?」

「証拠ねえ。あ、俺が付けている歩数計を見てよ。」

橋本は、ポケットに付けていた歩数計を見せる。

「この歩数、ずっと歩いていないと無理だよね。堺が誰か死んだって言ってたけど、俺は行かなかったからな。」

「確かに、人を殺していたりしていたら、こんなに歩数は多くならないか・・・」

「あ、そういえば、体育館の近くに、久保川も倒れていたよ?首が回ってたから、Aが殺したんだろうね。」

「久保川も!?」

「おい、これでAが男なのは確実だな。」

「体育館に行ってくるよ!」

新島達3人は、橋本の元を離れ、体育館へ向かった。


体育館の前に行くと、橋本から聞いたとおり、久保川は倒れており、首が回っていた。

「もう3人も・・・」

その時、二階の教室から机が倒れる大きな音がした。

「な、なんだ!?」

「行ってみるか。」

新島達は、校舎に入り、教室を1つずつ見ていく。奥から二つ目の教室を覗くと、3人の男子が倒れていた。

「ひっ!」

岩田は口を抑える。

「この3人もAに・・・?」

「でも変だな・・・。Aが殺したにしては、俺達は誰ともすれ違ってないし、階段を登る音も聞こえなかった。窓もすべて閉まっているし・・・」

倒れているのは、財津ざいつと、玉木たまき、堺だった。

「あ、分かったぞ!意外と簡単だな!」

新島は、何か閃いたのか、手を叩く。

「財津と玉木は、首が回って倒れているのに、堺だけナイフが刺さって倒れている。おそらく、堺がAで、財津と玉木をポアしようとしたら、堺はナイフを刺されたと。つまりは相打ちだな。だから、さっき石橋が言った通り、俺達は誰とも会わなかったし誰かが階段を登る音も聞こえなかったんだ。」

新島は、生徒手帳を取り出し、堺廉と書いた。

「ほ、ホントに堺がAなのか?」

「あぁ。自分の首が回っていないから、間違いない。」

「だが、安心はできないぞ?まだ歩数が少ないやつがもう一人ポアされる。」

「そ、そっか。なら、これからあと1時間以上あるから、歩き続けるぞ!」

3人は、校舎を出て、外を歩き回っていた。


放送が流れてから4時間後、時計を確認した生徒は、教室に集まっていた。

「そろそろ時間だな・・・。」

足踏みをしながら、石橋が時計を見て言う。

「結局、誰がAで誰がBだったの?」

「Bは自分だよ。Aは堺だった。」

野口の質問に新島が答えた。

「へぇー。新島君、よくわかったね!」

「たまたまだって。おっと、そろそろ時間だな。」

しかし、誰の首も回らない。と、橋本が口を開いた。

「ポアされたのは藤川だよ。あいつ、途中で会ったから、歩けないように足を縄で縛っておいたんだよ。」

その言葉で、教室の空気が重くなる。

新島は、橋本は危険だ、と感じていた。

すると、休む暇もなく、放送が流れた。

『今から、生存している者同士で殺し合え。また、一時間ごとに一人、無作為にポアする。これは、5人が死ぬまで続く。』


死亡者 7名 太田光里おおた ひかり大月里緒おおつき りお久保川亮くぼかわ りょう財津秀隆ざいつ ひでたか堺廉さかい れん玉木陽介たまき ようすけ藤川海斗ふじかわ かいと 残り11名 なお、1名状態及び行方不明


8.大乱闘

「逃げるぞ!早く!」

新島達3人は、放送の直後、急いで教室を飛び出した。教室の中では、殺されることを恐れて逃げるものや、無作為にポアされることを恐れてすでに殺し始めているものがいた。

「でも、新島。わざわざ3人のグループを狙ってくるやつはいないんじゃないか?」

「何があるか全く分からないぞ・・・。」

新島達は、高校棟の二階にある大部屋の隅に隠れていた。時々、外から悲鳴が聞こえる。

「なあ、新島・・・岩田・・・」

「なんだ?石橋」

「なんで、尊師はこんなことしたんだろうね・・・。もし、林や江川が言ってた通り、尊師がこのクラスにいたのなら、自分のクラスメイトを殺してたってことだろ?そんなの・・・絶対におかしいよな・・・。」

「俺は、そんなクラスメイトの死に対する恐怖が薄れていることが、怖いよ・・・。」

「新島、岩田。もし、お前達に、何かあったら、俺を犠牲にしてくれ・・・。俺はもう、耐えきれないんだ・・・。」

石橋はの瞳の奥には、輝きがほとんどなかった。

「お、おい!何言ってんだよ!そんなことできるかよ!」

「俺達は親友だ!誰か1人でも欠けたらダメなんだ!」

「そ、そうだよな・・・。一人ぼっちは、さみしいもんな・・・。俺、何を言ってんだろ・・・。」

「お前を一人ぼっちになんかさせない。約束する。」

そんな時だった。1階の方から、何か音が聞こえる。

「な、何の音だ!?」

新島達は、次第にその音がなんなのか分かってくる。

「火・・・!?」

窓から外を見ると、1階が轟々と火で燃えていた。

「な、なんで火がついてんだよ!?」

「まずいぞ!今すぐ高校棟から逃げるんだ!」

新島達は階段を降りて、1階を覗く。火は、奥の教室から少しずつ領地を広げていた。高校棟から出る道は、新島達のいる廊下の端から遠い、もう片方の端にある扉だけだ。火と煙が迫ってくる。

「急げっ!」

その時、石橋が転ぶ。

「石橋っ!?」

「お、お前ら・・・先に行け・・・」

石橋は迫る火に呑み込まれそうになっている。

「駄目だ!一人ぼっちにしないって約束したばかりじゃないか!」

近づく新島に、石橋が叫んだ。

「いいから早く行けっ!お前も焼け死ぬぞ!」

石橋の下半身は、既に火に覆われている。

「はや・・・く・・・」

「くそっ!許せ、石橋!」

新島は、岩田を連れて廊下を走る。

取り残された石橋は、全身が焼けていくのを感じながら、静かに死んでいった。

「俺って・・・ホント・・・バカ・・・だな・・・」

石橋は、新島達が生き残る確率を上げるためにわざと転んだのだ。それを知っているのは、本人だけだった。


「すまない岩田・・・。一人にさせてくれ・・・。」

燃え盛る高校棟から逃げ切った新島は、石橋を見殺しにしてしまった自分への罪悪感で耐えきれなくなり、1人で自分の教室へと戻る。

「あぁ。だが、死ぬなよ?新島。」

岩田の言葉を聞いた新島は、後ろを向いたまま岩田に手を振り、そのまま中学棟に入った。

自分の教室へと入ると、そこには、1人の男がいた。

「橋本・・・」

それは、最も恐れるべき存在だった。

「あ、新島か。朗報だよ。今二人死んでいる。」

それを聞いた新島は石橋の姿が脳裏に浮かぶ。

「石橋も・・・高校棟で焼け死んだ・・・」

「へえ。野口が火をつけてたから、誰か死んでるだろうと思ってたけど、石橋が死んだかぁ。」

「の、野口が!?」

高校棟に火を放った人物が野口であったことへの驚きを、新島は隠せない。

「野口は、精神が壊れたようだ。自分が生き残れるなら、なんでもするつもりのようだ。でさ、今3人死んでるんだ。ってことは・・・」

「・・・?はっ!まさか、」

新島が気付いた時には、目の前にハサミを持った橋本が立っていた。新島は、自分もやる気にならないと殺される、と悟り、もしもの時のために所持していたナイフを取り出し、橋本の腹目掛けて突き刺す。

と、カンッと音がし、ナイフは硬い何かにぶつかって刺さっていない。

「ごめんね。俺は猫背を治すために、コルセットを付けているんだ。だから、包丁でも刺さらないよ。」

そう言いながら、橋本はハサミを新島に突き刺す。

「くっ・・・」

顔をかばった新島の右手にハサミが刺さり、血が飛ぶ。

「じっとしてた方が楽に死ねると思うよ?今回は、ポアじゃくて普通に殺すだけでいいみたいだしね。」

橋本がハサミを振り上げる。新島は死を覚悟し、目をつぶる。

「くっ・・・なぜ・・・だ・・・」

突然、橋本は倒れた。そして、首が回り出した。

「そ、そうか!1時間経ったから、一人無作為にポアされた。それが、橋本だったのか!」

九死に一生を得た新島は、その場に座り込んで安心したようにする。すると、放送が流れた。

『たった今、4人目が死んだ。よって、殺し合いを終了する。』

その放送を聞いたのか、教室に生き残った生徒が次々とやってきた。残っている生徒は、状態が不明の安部田を除いて6人である。

「この6人の中に、尊師が・・・?」

新島は周りを見渡す。すると、岩田が隣に来る。

「いよいよ、クライマックスだな・・・。」

「あぁ。お前は、尊師は誰だと思う?」

新島の質問に、少しして岩田が答える。

「俺は、この中に尊師はいるとは思えない。だから、尊師は安部田だと思っている。」

そんな時、放送が流れた。


死亡者 5名 石橋綾いしばし りょう末永智すえなが さとり田中疾風たなか はやて橋本裕紀はしもと ゆうき花村綾はなむら あや 残り6名 なお、1名状態及び行方不明


9.仲間との戦い

『岩田は城、城は新島、新島は岩田をポアしろ。また、丸山は城島、城島は野口、野口は丸山をポアしろ。制限時間は2時間である。制限時間内に指定された人物をポアできなかった者をポアする。』

それは、生き残るためには、仲間との争いを避けられないことを意味した。

「岩田を・・・ポアだと・・・!?」

到底、新島にはそんなことはできるはずもなかった。そして、そんな新島を狙うのは城だった。城は、同じ部活の仲間として仲良くしていた。

「城・・・」

新島は城を見る。城の目は、赤く充血していた。

「新島・・・おれは、生き残るための行動をとる・・・覚悟しろよ・・・?」

「・・・」

新島は、何も言えず、この現実を受け入れないために、教室を出て行った。


新島は、技術室に来ていた。木材を加工したりして物を作る場所だ。

「ここなら安全かな・・・」

新島は、半分壊れた物置の中に身を隠す。

「俺は、岩田をポアするのか・・・しないのか・・・」

新島は迷っている。親友をポアするなんてできない。そんな時だった。足音が響き、誰かが近づいてくる。

「技術室ならあるよね。とりあえず、動きを封じるためのハンマーと・・・」

それは、岩田の声だった。岩田は、技術室の扉を開けて、中に入ってくる。そして、岩田は、新島の隠れている物置の目の前に背を向けて立った。新島は考える。

「今、岩田にナイフを刺して動きを止め、首を回せば、自分は助かる・・・」

新島は、ナイフをポケットから取り出す。

しばらくして、新島は岩田の首元を突いた。

「!?」

岩田は、新島の存在に気づき、後ろを振り向く。

「にっ、新島!?」

「岩田・・・」

「どうして・・・?今、俺をナイフで刺せば、ポアできたはず・・・」

新島は、ナイフではなく、右手の人差し指で岩田を突いていた。

「どっしてって・・・やっぱり自分は、親友をポアなんて、できないからだよ・・・。」

「新島!」

新島の頭を岩田が叩く。

「俺は城をポアしようと思っている。おそらく、城もお前をポアしようとするだろう。だから・・・お前も、遠慮なんかするな!全力で、ぶつかってこい!じゃなきゃ・・・お前らしくないよ・・・」

「岩田・・・」

その時、技術室の扉が音を立てて開いた。

「見つけたぜ、新島ぁ!」

そこには、城が姿を現していた。

「城!新島はポアさせない!」

「あ?岩田か・・・まずはお前からだ!」

城は、持っていた斧を岩田に向かって振りかざす。

「斧なんてどこで・・・?」

「グラウンドの横の森の木を切るために、チェーンソーや斧が近くの掃除用具入れにあるのを見つけてな。」

城は再び斧を振る。空気を裂くような音が鳴る。

「新島!1つ教えてやる!ポアって、首を回して殺すことなんだろ?なら、俺が岩田を殺せば、お前が岩田の首を回しても、ポアしたことにはならない!」

城の振った斧が、岩田の右足に当たる。

「ぐぁぁっ!」

うめき声を上げながら、岩田は床に倒れる。

「残念だったな岩田。これで最後だ!」

城は岩田の首にナイフを突き刺す。血が飛び、岩田はぐったりとする。

「ハハハハ!次は新島、お前だ!」

新島は、城の横をすり抜けるようにして技術室の扉へ向かう。

「なんだ?逃げるのか?」

城は斧を捨てて新島を追いかける。

「新島!お前がどれだけ逃げても、結局死ぬことは決まってるんだよ!」

「だからといって、お前にポアされてもいいことにはならない!」

新島は、技術室の廊下に並んでいた木材を手に取り、城に投げつける。それは、城の右手によって弾かれる。城はそれを拾い上げ、新島に投げつける。新島の頬に、木材が当たり、勢いで倒れてしまう。

「お前も大したことねえなあ。」

城は新島に馬乗りになり、首をつかむ。

「諦めるもんか!」

新島は、首を回されながらも、ポケットからナイフを取り出し、城の心臓目掛けて突き刺した。

「お、お前・・・が・・・武器を持ってたなん・・・て点数の」

城は新島の首から手を離し、新島の横に倒れた。

新島は、城の死を確認すると、急いで岩田の元へ向かった。

「岩田!岩田!」

岩田の名を叫んでいると、岩田が僅かに目を開いた。

「にい・・・じま・・・俺を・・・ポア・・・しろ・・・」

「岩田!死ぬな!」

「俺は・・・どうせ・・・もうすぐ死ぬん・・・だ・・・。なら・・・お前がポアして・・・生き残る方が・・・いい・・・だろ・・・?」

「そんなことできるはず・・・」

「早く・・・しろ・・・俺の・・・一生の・・・願いだ・・・。」

岩田の言葉を受け止めた新島は、岩田の首を持ち、回した。

「くそっ・・・すまない・・・。」

岩田は死んだようだ。その顔は、仲間を守れたことに対して喜んでいるように見えた。

「なんで・・・なんでお前が・・・お前達が・・・死ななきゃいけないんだ・・・。」

新島は、涙を流し始める。それは、頬を伝い、ポタポタと床に落ちる。

「自分達が・・・何をしたって言うんだよ・・・。」

一人になった新島は、技術室で泣き続けた。


あれからしばらくして、新島は、教室の戻った。そこには、野口が座っていた。

「あ!新島君!男子は新島君が生き残ったんだね!」

「男子は、って?」

「今回の命令の内容は、男子と女子、それぞれ1人ずつしか生き残れないものだったよ。」

「ってことは・・・丸山さんと城島さんを・・・!?」

「うん。二人には悪かったけど、もう何人も殺してしまったしね。ここで後戻りはできないと思って。」

全く罪悪感がないのか、野口がは髪をいじりながら言った。

「なぁ、野口。生き残ったのが自分達2人ってことは・・・お前が尊師なのか・・・?」

「は?何言ってるの?新島君こそ、尊師だか何だか知らないけど、この事件の犯人なんじゃないの?」

二人が言い争ってると、放送が流れた。放送が流れることを予想もしていなかった二人は、驚いた様子で放送を聞いていた。

『生存者は、それぞれ別行動を取り、中学生の屋上へ向かえ。その後、二人組を作り、手をつなげ。10分以内に二人を組めなかった場合、そのものをポアする。』

「生存者って・・・生き残ったのは、私達二人だけよね?」

「・・・尊師の意図が分からない。とりあえず、別行動を取らなきゃいけないみたいだし、屋上に行くよ。」

そう言うと、新島は屋上へ向かう道を歩いていった。


死亡者 4名 岩田大雄いわた ひろお城政孝じょう まさたか城島歩夢じょうじま あゆ丸山詩織まるやま しおり 残り2名 なお、1名状態及び行方不明


10.真実

中学棟の屋上、それは、かつていじめに耐えられなくなった生徒が飛び降り自殺をした後から、基本立ち入りを禁止するために、屋上への扉には鍵がかけられており、そこに行くための階段も、立ち入り禁止であった。だが、屋上の扉を見ると、その鍵はかかっていなかった。

「屋上か・・・」

新島は扉を開く。目の前には、特に何も無い景色が広がった。

「フェンスもないんじゃ、危ないな・・・」

新島が屋上に足を踏み入れると、反対側に誰かの姿が見えた。おそらく野口であろう。

「あとは、二人組を作るだけっと。」

そいう言って歩き出した新島の右手を、誰かが後ろから掴んだ。

「!?」

新島は振り向く。と、そこに立っていた人物を見て、新島と、反対側から近づいてきていた野口はこれまでにないほどに驚き、恐怖を感じる。

「な、なんで・・・ここに・・・?」

「よく生き残ったね・・・新島君。君こそ、尊師に選ばれた特別な存在だ。」

「どういうことだい?・・・藤井さん・・・。」

新島の後ろに立っていたのは、江川に名前を書かれて死んだはずの藤井だった。

「いろいろ説明しなきゃね。とりあえず、二人組になれなかった野口さんは、ゲームオーバー。ここまでよく頑張ったね。でも、生存者は3人だから、終わりだよ。」

「な、なんで・・・」

野口は、信じられないといった表情で倒れた。首が回って死んでいた。

「藤井さん・・・。あなたが、尊師だったの・・・?」

「んー。半分正解で、半分間違いかな。」

「それってどういう・・・?」

「この学校での尊師は、私。でも、一番上に立つのは私じゃない。そういう意味での、半分正解で半分間違いだよ。」

新島は、現実を受け入れられずに混乱している。

「新島君は、なんで死んだはずの私が生きてるの?って、思ってるはずだよね。あの時私は、ものすごい力で、回ろうとする首を一回転させなかったんだよ。」

「そんなことが・・・!?」

「できる。修行を重ねていればね。」

「なんで・・・なんでこんなことしたんだよ!」

新島は藤井の肩を握って揺さぶりながら問いかける。

「新島君は、オウム真理教を知っているかな?」

「少しなら知ってるよ・・・。」

「教えてあげる。今、全国の中学高校で、ザ・ポアが起こっている。上の指示で、それぞれの学校の尊師に選ばれた人物が、生徒達をポアしている。精神干渉せいしんかんしょうをしてね。」

「ザ・ポア・・・」

「そう。あ、ちなみに、安部田君は、元から死んでいたよ。姿を1人だけ消すことで、最初の犯人候補に仕立てあげるためにね。」

そう言うと、藤井は新島から離れて、屋上の端に立つ。

「新島君。君は、どこかの学校へ転校するだろう。その時、再びザ・ポアに巻き込まれるかもしれない。でも、生き残って、世界を超越した存在になってくれ。期待している。」

すると、藤井は両手を広げて後ろに倒れる。

「あっ!」

新島は落ちていく藤井の手を握ろうと前に出るが、手を差し出した時には遅かった。少しして、下から肉が潰れるような音がする。

「どういうことだよ・・・まだ終わらないのかよ・・・」

新島は、自分の身に起こった何もかもが分からなかった。


「行くか。」

ザ・ポアから1週間経って、校舎が焼けたり、大量の死人が出たことにより、叡智東京学校は一時的に廃校となった。新島は、両親の勧めで、福岡の学校へ転向することになった。その学校は、多くの地域で、ザ・ポアに巻き込まれて生き残った生徒が集まる指定学校の1つだった。

「自分だけじゃなくて、全国の中学高校生が当たり前のように死んでいるのか・・・。」

新島は、福岡への飛行機に乗ると、屋上での藤井の言葉を思い出しながら、この事件、ザ・ポアを起こした人物への怒りを内に秘める。

「必ず・・・ザ・ポアを起こした犯人を見つけ出す!たくさんの死んでしまった仲間達の思いを背負って!」

この事件はまだ、始まりに過ぎなかった。

《続く》


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