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ここは幽霊部です!

幽霊部ピンチ到来です!

作者: 鷹宮雷我

「今日こそ、部員の勧誘に行きます!」


 机をバン! と叩き、私、釘宮(くぎみや)陽菜(ひな)は決意表明を露わにした。

 そんな私の様子を、松原(まつばら)春樹(はるき)――通称ハル君は信用ならないような目で一瞥した。そして、その視線は再び読んでいた本へと移ったのがわかった。

 明らかに、興味がない事を示している。

「きょ、今日は本気だよ! そりゃあ前回は何だかんだでダラダラしてたけどさ――今日はマジだもん!」

 顔を寄せ、ハル君を見据える。けれど感化せずといった様子で、それどころかハル君は本の方を見たままで、こう言った。

「なら行動で示せ。って訳で今から行ってこい、お前一人で」

「冷たっ! 態度がいつになくドライだよ、ドライアイスだよー……」

「別にいつもの事だろ。あと、俺に昇華出来る体質はねぇ」

 と言って本の方に向き直すハル君。

 私とハル君は幼馴染み。だからという訳でも無いけれど、常に一緒にいるような感覚がある。黒いぼさぼさとした髪は、昔からあまり変わらずじまい。でも私は、案外嫌いじゃない。男子にしては割と華奢な体つきで、運動能力は平均的。唯一特化してる事と言えば持久力かもしれないけど、そんな事は今は関係ないので、放って置く。

「そんな事言わずに一緒に行こうよーみんなで勧誘しようよー!」

 制服をぐいぐいと引っ張って必死にアプローチをかける。

「あーもう! ちょっとしばらく黙れ! 今滅茶苦茶良いとこなんだよ二分くらい待ってくれ!」

 突然のハル君の怒涛の叫び声に、思わず「はははい!」と驚きの声を上げてしまった。よほど良い場面(シーン)にさしかかっているらしい。

 私はもう一人の部員である菱沼(ひしぬま)(ゆい)、唯ちゃんの所へ、避難するように移動した。

「どうしたの、陽菜ちゃん」

 優しい声音と、包まれるような暖かい雰囲気が特徴的。ポニーテールに纏め上げた茶髪がかった髪と楕円形の眼鏡は、彼女の優等生ぶりを示唆(しさ)しているかのようで、とても似合っている。そして今日も可愛い。

 唯ちゃんは前に、ここに部活を見にきた時に勧誘し――と言えるかは、少し微妙な部分があるけれど――その時に入部してくれた、私たちにとって初めての部員なのだ。

 そんな唯ちゃんに、私は心の内を明かす。小さな声で。

「(ハル君が冷たいんだよー。部員勧誘に行こうって言ったら、突っぱねるようにしちゃってさ)」

 すると唯ちゃんは空気を読み、小さな声で話した。

「(それは、春樹さんが悪い、のかな)」

「(いくら本に夢中になってるからって、あんな言い方しなくても……)」

「(あはは……、災難だったねー)」

 と、唯ちゃんは眼鏡の上から暖かい目で見つめ、私の頭を撫で始めた。ふわぁ、気持ちいい……。

 や、そうでなくて!

「(な、何でそうなるの!)」

「(え。えと、陽菜ちゃんが困ってたから、つい)」

「(私は撫でられて怒りを抑えられるような人じゃ――ひゃうー……)」

 また撫で始めた。……唯ちゃんの手、柔らかくて、暖かーい……。

「もー!」

「あはははは」

 からかわれてる。私は今、壮絶にからかわれてる!

 唯ちゃんはというと、愉快そうに笑うばかり。私は不愉快だけどね!

 というか、私は猫か!

「(それで? 陽菜ちゃんは、どうしたいの?)」

 気が済んだのか、唯ちゃんは真面目なトーンで話を戻した。

「(うん。今日こそ、部員勧誘をしたいんだけど、私はみんなで行きたいの。その為に、ハル君を説得したいけど……)」

「(あの様子じゃ、まだちょっと……、駄目そうだね)」

「(そうなんだよねぇ……)」

 という訳で、私は唯ちゃんと話しながらハル君の集中が途切れるまで待っていた。

 しばらくして。

 ふと、ハル君が栞を挿み、本を閉じているのを確認した。ようやく終了したらしい。

 ――よし。

 意を決し、私はもう一度ハル君に話しかけた。

「今日こそ、部員の勧誘に行きます」

「ん、おお。それで? どこに勧誘に行くんだよ」

 不意を突かれた一言に、思わず困惑した。

「ええっと……色々?」

「……お前な」

 呆れたようにため息を吐くハル君。

「そもそも、この『幽霊(ゆうれい)部』って名前から、部活目的が誤解されがちになってんだよ。もう言っても仕方ない事だけど」

 言い忘れていたけれど、私たちの部活は『幽霊部』という名前になっている。命名したのは私。そして私は部長です。

 正式には、まだ部活動じゃなくて同好会だけれど。

「うーん、そっかぁ。やっぱみんな、そんな理由でここに来たがらないのかなぁ」

「……まあ、それだけでも無いと思うけどな」

「どういうこと?」

 そこへ、今まで話し合いに参加していなかった唯ちゃんが、私の質問に答えてくれた。

「えっと、ね。陽菜ちゃん。たぶん、ここが知られていないだけなんだと思うの。例えば『幽霊部』の宣伝用の張り紙って、あったりする?」

 なるほど、と私は納得する。言われてみればそうだ、『幽霊部』に関する張り紙は部室の扉にしか張っていなかった。

「じゃあじゃあ、宣伝用のビラとか作れば良いんだね!」

「果たしてそれで上手くいくかは、分からねえけど」

 そんな皮肉ったハル君の言葉など意に介さず、私はすぐにビラ用の紙を用意――しようとして、

「……ビラ作るのってどれだけかかるかな?」

 ふとした疑問を二人に投げかけた。

「さあ……」

「こればっかりは内容によるからね……」

 うーん、と苦悩する。ビラ作りだけで時間を取られては、部員を勧誘する時間も極端に減るのだ。

「まあ、頭で悩んでても仕方ないから、職員室行って紙もらってくるね!」

「ん、ああ、そうだな」

「確かに紙があれば、何か思い付くかも」

 二人の意見をきちんと聞き終えてから、私はドアノブに手をかける。

「それじゃあ私先生のとこ行ってく――うわあ!?」

 扉を開けた瞬間、誰かが前方に立っていた。

「び、びっくりしたー……」

「……いや、それはこちらも同じなのだけど」

 はきはきとした言葉遣いで、目の前の少女はそう言った。

「あ、あの、あなたは……?」

「その前に一つ良い?」

 疑問に疑問で返された。いや、見送られただけかな。

「ええっと、何か?」

「ここは、『幽霊部』という名前の部で合っているの?」

「あ、は、はい、そうですけど」

 名前を知っている。もしかしたら入部希望者かもしれない、と少し期待に胸を膨らました。

「あの、それで」

「二年D組、五十嵐(いがらし)麻友(まゆ)

 まさかの、相手は上級生だった。しかし、入部希望である可能性が消えた訳ではない。むしろ、上級生にも知ってもらえている事実に歓喜するところだろう。

「あ、えと、その」

 けれど私は、上級生との会話をした経験が無いので、内心どきどきしていた。同時に、どぎまぎもしていた。

 そこへ、見かねたハル君が登場してくれた。その後ろには、ちゃっかりと唯ちゃんがいた。

「何してんだよ陽菜……あ、ども。入部希望、ですか?」

 慣れた様子で、ハル君は五十嵐先輩に声をかけた。

「いえ。残念ながら入部希望ではありません」

「では、何の用で?」

 ……何だろう、この不穏な雰囲気。嫌な予感がしてきた。そんな中五十嵐先輩は、私たち三人を見回し、こう言う。

「部長は誰?」

「……、あの、私、ですけど」

 私はゆっくり、小さく手を挙げる。

「あなたが、この部の部長さんなの?」

「まあ、はい」

 何とも言えない緊張感が、たまらなく不快に感じられる。この時間が早く終わってほしいと、切実に願う私だった。

「単刀直入に言います」

 五十嵐先輩は人差し指を立てて、私に突き出し、こう言った。


「あなたたち、今すぐ、この部を解散しなさい!」


 時間が、一瞬止まった。……気がした。

 我に返るまでにきっちり一〇秒かけ、ようやく私は、

「え、えええええええええええええええええええええええええええええ!!?」

 驚愕を表した。

「え、ちょ! 何でですか! どうして解散しなきゃ」

「それは私が、『オカルト研究部』の部長だからよ」

「いや、それじゃあ理由になっていないですよ!」

 珍しく、唯ちゃんが抗議する。対し、彼女はくだらないと吐き捨てるようにこう答えた。

「幽霊はオカルトの一部に過ぎないの。その一部で新たに部を設立しようなんて、考えが甘すぎるわ」

「甘くないです! むしろ辛いです! 辛い方が好きでいったぁ!?」

 今度は私が先輩に抗議していたら、急にハル君に頭を叩かれた。

「アホか! そんな話してねーよ」

「だからって叩くことないじゃん、ハル君のバカ!」

「そんな事より」

 ハル君は私の怒声を受け流して、先輩と向き合った。むきーっ! と不満ばかり募っていく。

「解散って、どうして一生徒でしかないあんたがそんな事言ってんだよ」

「随分と図々しい物言いね。私は一応先輩だと言うのに」

「――っ。ああ、すみません。少し無遠慮でした。けど、他の部活生が、何故この部に干渉する必要が?」

 さっきも言ったけれど、とつまらなそうな口振りで先輩は言う。

「私は『オカルト研究部』で、あなたたちは『幽霊部』。似たような部が二つも存在していては片方の印象が薄れる、あるいは生徒が部を選択する時に非常に困惑するはずよ。そんな事も分からないの?」

 ………………………………………………あれ?

 私は、妙な違和感を覚えた。先輩と私たちの間に、何か微妙な、しかし確かな違いがあるような気がしたのだ。その頃、はぁと落胆した様子のハル君が、

「陽菜」

 と私を呼んだ。

「何? ハル君」

「お前はもう気付いてるか? 先輩と俺らで、明確な食い違いがある事に」

 小さく頷く。奇しくも、私と同じことをハル君は考えていた。そしてハル君は、唯ちゃんにも同様の質問をした。

「菱沼さんも。もう気付いてるかな?」

「……あ、はい」

 どうやら唯ちゃんも同じらしい。

「あなたたち、何を訳の分からない事を話しているの?」

 ただ一人。この場で唯一話の本筋を理解出来ていないのは、五十嵐先輩のみだった。

 ほら陽菜、と再びハル君に呼ばれ、私は五十嵐先輩の前に立つ。『オカルト研究部』の、部長の前に。

「あの、先輩?」

「何かしら」

 私は五十嵐先輩に、試すように質問した。


「先輩は、『幽霊部』が何をする部活か、知っていますか?」


 そのあまりにも平凡な質問に、先輩は憤りを感じているように思えた。

「そんなの当たり前でしょう! 単に『幽霊研究部』という名前を省略しただけの、いわゆるオカルト研究部と相違ない、そんな部活に決まっているわ!」

 ああ、と私は確信した。そしてそれは他の二人も同じだろうと感じた。

 すなわち、やっぱりか、と。

 五十嵐先輩は、『幽霊部』の本当の意味を知らない。『幽霊部』とは何か、何をするための部活なのかを、全くもって理解していなかったのだ。

 私たちの無言をどう思ったか、五十嵐先輩は、微笑を浮かべこう口にした。

「ふふっ、言葉も出ない、って感じ?」

 あ、はい、色々な意味で。

「先輩は、この『幽霊部』という部活をそういう風に認識していたという事なんですよね。『幽霊研究部』、として」

「それが何。違うと言うの?」

 違います、とはっきり言い切ってしまいたいが、先輩の強い眼力(めぢから)に押され、びくりとして言い出すことが出来ない。正しい事を正しいと言おうとする事の難しさをこんな場面で知るなんて、思いもしなかった。

「違います」

 私の代わりにそう言ったのは、他でもないハル君だった。

「……何か、明確な証拠はあるの?」

「そう言われると、弱いですけど。まあ、証拠なんか無くても、理由はずいぶんとあっさりとしてますよ」

 すると、ハル君は私に目配せした。出番だぞ陽菜、そう言っている気がした。

 私は今一度、勇気を出して先輩に話しかける。

「ええっと、ですね。先輩」

「何?」

「……ひっ……!」

 まるで目で人を殺しちゃえるんじゃないかと思うほど、私は先輩に圧倒されてしまった。何あれ、怖いよ……、獰猛(どうもう)すぎるよ……。

「ひ、ひや、えと、こここのゆゆゆ『幽霊部』はですね、せせ、先輩がおっ、おも、思ってるような、部では、なくて、ですね?」

 ビビりまくりだった。言葉も噛み噛みで、もはや自分でも何を言っているか分からなかった。

「(あー、あれ、ヤバいな。滅茶苦茶(おび)えてる)」

「(陽菜ちゃん、大丈夫かな……。先輩も何か困っちゃってるよ)」

 後ろで何やら呟いているようだったけど、そんなもの聞こえてなどいなかった。ただ、私はその時、蛇に睨まれた蛙のようになっていただろう。

 それでも、私は先輩に何とか理解してもらおうと、懸命に説明を続けた。

「ゆゆ、『幽霊部』と言うのは、つつつまり、ですね―――!」



「あはははははははははははははは! いや、それは、ホント、面白いね! くふふっ、あっははははは!」

 結局、私では上手く説明しきれなかったので、一旦先輩を室内へ案内した後、ハル君が代わりに説明してくれた。何だか今日は、いつもより頼もしく思えた。

 そしてその結果、どうしてだか先輩は大笑いした。

「先輩、笑いすぎです! 怒りますよ!」

「ははっ、ごめんごめん。いやぁしかし、まさかそんな理由の部活とはねぇ。……ぷっ、くくっ……」

「うにゃー!」

 必死に笑いかみ殺そうとしている先輩。流石に腹が立ったので、先輩に掴みかかろうと、

「止めとけって」

 したところでハル君に、猫でも(なだ)めるかのように後ろの襟首を掴んで、私の行動を制した。

「だってぇ」

「気持ちは……、まあ分からなくはないが」

「今の間は何!」

「とりあえず、一旦落ち着け」

 そう言われ、仕方なく、自分の席へ座る。そう、仕方なく。

『幽霊部』の真の目的。それは、各部活動の幽霊部員を招き入れ、この部で楽しむこと。だけど、幽霊部員以外でももちろん大丈夫。とにかく楽しさと賑やかさを追求する部活動なのだ。

 それを説明しただけなのに、どうしてあんなに笑われなきゃならないのか。

「それにしても、先輩って実は結構気さくなんですね。先ほどとは別人のようです」

 ふと、唯ちゃんが先輩に、私たちも気になっていた事を訊いた。

「うん。よく言われるんだそれ。中学の頃演劇部だったからその影響かな。周りからは豹変(ひょうへん)しすぎて、『二重人格かお前はー!』なんて言われたりしてさ。あ、そうだ。この際、改めて自己紹介でもしておこうかな。

 あたしは『オカルト研究部』部長の、五十嵐麻友です。一応先輩なんだから、敬語使えよ? なーんて」

 にひひ、と笑いながら、五十嵐先輩は言った。その笑顔は唯ちゃんとはまた違い、爽やかな笑みであった。

「正直言うと、さっきのは若干演技が入ってたんだけど、分かったかな」

「いえ、全く……。何のために、ですか?」

「うん。もし相手が不良とかだったらどうしようと思ってね」

 何だか非常に物騒な考え方だった。続けて先輩は、

「だから、念のためキャラを作っていたって訳。ちなみにコンセプトは、『あくまで相手とは対等に、けれど明確な敵意を持って接していく』という感じかな」

「その演技のせいで私は怖い思いをしたんですけどね」

「あ、それと最後のはわざとだから」

「何て酷な嫌がらせを!」

 目だけで人を怖がらすとか、なんて演技力ですか。それとも私が弱いだけ?

 ……。そ、そんな訳無いよね? うん。そうだ。そんな訳………………だよね?

「ところで五十嵐先輩」

 突然、ハル君が話を切り出した。

「何だね後輩クン?」

「松原春樹です。ちなみに、これは部長の釘宮陽菜。幼馴染みです」

 私は小さく会釈する。

「幼馴染みか。良いなぁ」

「で、こちらは最近入部したばかりの、菱沼唯です」

 唯ちゃんも小さく会釈する。

「なるほど。それで、何だね後輩クン?」

「結果変わんねーのかよ!」

 珍しくハル君がいじられている。何となく面白い。

「ごめんごめん。続けて?」

「……、ええと、その。さっきの部を解散しろという話は」

「ああ、あれはもう良いよ。我々『オカルト研究部』と、君たち『幽霊部』は、全く別々の存在であると解釈したから。つまり、解散はしなくてよろしい!」

「いや、そもそも先輩に権限なんか無いでしょう……」

 呆れ顔ではありつつも、ほっと安堵している様子のハル君。対し、先輩は「そだね」と舌を出しおどけていた。

 ふと、私は非常に面白い事を思い付いた。

「先輩先輩!」

「ん? 何だい後輩部長さん」

 五十嵐先輩の視線を私へと向かせ、そして、私はこう宣言した。


「私たち『幽霊部』と、『オカルト研究部』で、同盟結びませんか?」


 みんなが一斉に沈黙した。あ、あれ? 私、そんなにおかしなこと言っちゃった?

「あっははははははははは! 同盟か、いやあ面白いね! ホント、飽きさせないって感じ!」

 すると、先輩が一番に反応し、笑い出した。そのことで、他の二人もようやく反応を示した。

「って、おい陽菜! 何いきなり勝手な事言ってんだよ!」

「そ、そうだよ陽菜ちゃん! そういう事は皆と話し合ってから決めないと!」

 そして怒られた。う、ええー? そんなに責められる事かなぁ……。大した意味は込めたつもり無いんだけど。

「まあまあ、二人とも。あたしが言えた義理じゃないけど、そんなに言わなくても」

「先輩は少し黙ってください」

「……何だって?」

 ビクゥッ! と、ハル君の背筋が凍ったように震えた。先輩の眼力と声音が相まって、さらに恐怖感を煽っている。

「あ、すす、すみません、つい……」

「大丈夫大丈夫、気にしてないよ。……ぷぷっ、くくくっ……」

 五十嵐先輩は、笑顔を浮かべてハル君にそう言った後、顔を隠し、笑いをかみ殺していた。……Sだ。

「先輩、コイツの言うこと聞かなくても良いですよ。どうせデタラメで」

「うん? あたしは別に、同盟組んでも良いよ? 面白そうだし」

 にゅふふ、と先輩は笑う。ハル君は唖然とした様子で、先輩の言葉を受け止めきれないようだった。それは唯ちゃんも同様だった。

 けれど、私はそんな二人の様子よりも、先輩の言葉の方に反応した。

「ホントですか!? やったあ!」

「どうせ、大した意味なんてないんでしょ?」

「一言で言えば、部活間で交流を持ちたいんです!」

「よし、決まりだ! よろしくね、『幽霊部』さん!」

 五十嵐先輩は握手を求めてきた。私はそれに応え、握手する。同盟成立である。

「もう好きにしろよ……」

「つまり、単に同盟って言葉に憧れてただけ、なのかな……」

 二人は口々にそう言う。何がいけないのだろう。私はただ、先輩とその部活動の皆と仲良くなりたいだけなのに。

「それじゃあ今回も無事解決したところで」

 私はいつものように窓際へ行き――そこで。

「ハル君!」

 ハル君を手で招く。私の意図を察したように嘆息した後、立ち上がって私のそばに来る。

「なになに、何か始まるの?」

「あ、えっと、その……」

 唯ちゃんが何と言って良いのかわからず、私たちに答えを求めるように視線を送る。

 答えたのはハル君だった。

「……まあ何というか、『幽霊部』の恒例行事みたいなもんです。今回はちょっと特別みたいっすけど」

 そう言って私の方へ振り返る。

「私の言いたい事はわかるよね、ハル君」

「お前が言いそうな事なんてたかが知れてるけどな」

「なんだとー!」

 顔を赤くして怒ったのは一瞬で、私はすぐに笑顔を浮かべた。

「というか、何で今日はこのタイプで行くんだ?」

 ハル君が質問する。私の行動は察していても、その理由まではわからないらしい。

「えっとね、今日はハル君いっぱい手伝いしてくれたでしょ? だから、その気持ちを込めて、ね」

 私は再び笑いかける。そして、動揺し少し照れているようにも見えるハル君の言葉を待たずに、いつものように言葉を紡ぐ。

「今日は、『幽霊部』のピンチが訪れたけど、それも無事解決して、オカルト研究部の部長さんとも仲良くなれた。だから、今日のこの出来事に、」

 そこで、一旦区切り、ゆっくりと手を挙げる。ハル君も同じように手を挙げる。そして私は、今日もこう締め括る。


「悔いはなし!」


 パァンッ! と。

 ハイタッチの音が部室内に大きく響き渡った。

どうも。鷹宮雷我です。

読んだらわかるとは思いますが、『幽霊部』シリーズの続編になります!

短編なので、もともと続けるつもりはありませんでしたが、成り行きで書いてみました(笑)。

それでは、また次回にお会いできれば。

……また書くかどうかは気分次第ですが。

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