身体能力の認識不足中
御母様に心配を掛けないように、強くなりたいという思いは、しっかりとキサに根付いています。
だからキサは、魔法使いの塔へ行く傍ら、ソレらとのお出掛けを、継続していました。
けれど、緑地帯内ならば、勝手気ままにソレらと走り回れる様になったキサでしたが、大勢の人間という障害物がある、街中へ出るのには、尻込みしてしまっていました。
そんなキサの目の前には、突然現れたポポが、忙しなく飛んでいます。
相変わらず言葉はありませんが、今回ばかりはポポが、何を訴えて来ているかが、すぐに予測出来たキサは慌てて自己弁護です。
「安心しろ、ポポ。黙ってここに来たわけじゃない。お兄様が試しに付いて行ってご覧と、仰ったんだ」
たぶんポポは、なぜこんな所にいるのか、早く帰れと言っているに違いありません。
「責任者にも連絡済みのはずだぞ」
キサは事実を言ったのですが、それを聞いたポポは一瞬固まります。
かと思うと、ぶんぶんと一際怒っているかのごとく飛び回り、そして忽然とキサの目の前から消えてしまいました。
現れたと思ったら、消えてしまったポポに対し、キサは寂しさを覚えます。
辺りは何も無い原っぱだったから、余計にです。
ちなみに、軽く魔力を流せば、色が変わる布があるのですが、キクスお兄様からもらった、フード付きマントは、周囲の色を取り込むタイプです。
ところがキサの場合、魔力が溢れ出ていて、自動で周りの風景に、溶け込んでしまっている状態でした。
「……報告。近くに攻撃的なモノはいません」
「いつもより探索に時間が掛かっていたようだが、大丈夫か?」
「珍しく緊張しまして……主に、見学者のせいで」
「はっはっは」
キサの遠目には、郊外に演習に来た、治安部隊が訓練を行っています。
強くなりたいと願う、キサの気持ちを汲んで、キクスお兄様が紹介して下さった部隊です。
その強さの、手本となる人物がいるのではないかと、実のところキサは期待していました。
が、遠目に眺めてキサが抱いた感想は。
もしかしなくても、魔法使いとは弱い。
というものでした。
何故なら、キサより丈夫そうな、体をしている者もいたのに、訓練の様子をみる限り、悪いモノの攻撃を受ければ、非常に痛そうです。
自分がもし、攻撃を受けたなら痛いどころか、それこそ、一溜りもないのではないかと、キサが感じるほどです。
御母様が、目の前の保安部隊を見たら、全員弱々しい状態に決まりです。
その保安部隊より、キサは弱いのです。
本当は、御母様はキサを見るたび給餌をして、強くしてあげたいと思っていたはずです。
けれど、キサが嫌がったから、しないでいてくれたのでしょう。
まだキサには、体が強くなったという実感がない為、そんな感想を抱いてしまいました。
御母様から、キサは大丈夫と思ってもらう為には、もっとしっかり体を動かして、弱点を無くしていかなければなりません。
人の振り見て、我が振り直せです。
しっかりと参考にせねばと、演習を見学したキサは、何点か工夫しなければならない点に気づきました。
標的に対し、魔法は遠くからでは外れやすい。
また、必ず魔法が当たるように近づけば、敵に見つかり、攻撃を受けて、魔法の詠唱どころではなく、ただ倒されるだけ。
しかも魔法の呪文は、標的の攻撃などで、1度呪文を途切れさせてしまうと、また始めから唱え直さなければ、魔法は発動しないのです。
そこで適度な距離を取り、そして唱えている間は、標的の意識を他に、向けさせていなければなりません。
治安部隊が工夫し、弱点を克服すべく協力しているように、キサもソレらと協力すれば、同じ様に動けるようになるでしょう。
何度も演習を見学しに行き、あれこれ考え、試していったキサが辿り着いた先は。
詠唱を終えた魔法の力をひたすら堪えて、至近距離に詰め、標的に一気にぶつけ、素早く離れて、再び詠唱……。
という、正々堂々とは言い難い、魔法の使い方でした。
しかも、ソレらが居てくれるから出来る、戦闘方法でもあります。
これで、自分は強くなったと言えるのだろうかと、キサは悩みました。