外へ
熱がぶり返さなくなり、状態の落ち着いたキサが思った事は、なぜか外に出ようというものでした。
魂駆は禁止されているので、もちろん肉体を伴ってです。
これまでキサは、外に出たいと思った事などありません。
一生に一度会えたら奇跡だと思い、会いに行った御母様も、ずっと側にいてくれます。
自分でも、なぜ外に出たいと思ったのか、分かりません。
でも、思い付いたら即行動です!
外に出てみたキサは、眩しさを感じました。
部屋の中で感じる太陽と、外とではやはり違います。
それに怯まず、キサは1歩踏み出しました。
そのまま、2歩3歩と足を進めます。
唐突に。
眩しさ以上の違和感に、キサは襲われました。
魂駆した状態と、景色としては何ら変わらないはずなのに、キサの目には違って見えたのです。
世界から拒絶されている?
そう考えた途端に、キサの指先は震え出します。
その震えはすぐに、全身へと広がってしまいました。
魂駆中とは違う景色を見せる世界に、恐怖が沸きます。
節々までもが痛くなり、重々身に覚えのある発熱状態に、キサは陥りました。
すでに止まっていた足を反転させ、キサは屋敷へと、自分の部屋へと取って返します。
たった数歩で、外出の終了。
キサがそのまま、引き篭もり生活に突入しなかったのは、ひとえにどんな事でも話せる存在がいたからでしょう。
「御母様。私、世界に嫌われています」
キサのその言葉を聞いた御母様は驚いた顔をして、それからすぐに笑い出しました。
「そのような事があるものか。世界が吾子を嫌うなど、ましてやこの地は、吾子を愛して止まぬ。もちろん妾も」
そう言って、御母様はキサを撫でます。
髪を撫で、頬に触れ、肩を擦り、そして完全に強張って、冷たくなった指を包みます。
そうされる事で、キサの震えは確実に収まっていったのでした。
きっとこのまま屋敷に引き篭もっても、誰もキサを咎めずに許しました。
第一、キサが外に出ようとしたのは、ただの思い付きなのですから。
だからキサが外出などに、拘る必要は全くなかったのです。
けれど……。
結局、熱だけしっかり出し、散々な外出となってしまいましたが、寝込んだ1週間後、キサは再び外へ出たのでした。
嫁姑ならぬ、婿姑(未定)の会話。
「付いて行かないのか?」
「あれこれと口を出し、手を焼いてしまいそうなのじゃ」
「甘やかすだけかと思ったら、少しは考えるんだな」
「恐る恐る歩く姿も実に可愛いのぅ。お主も見るか? 見るだけなら許す……が、やらぬぞ」
「誰が欲しいなんて言った」
「ならば良い。ふふ、今度はきょろきょろしておる。誠に愛らしゅうて、暴れまくりたくなるのぅ」
「……え」
姑の物騒な言葉に警戒しつつも、姑の能力によって鏡に映し出された、キサの姿を見てしまう婿(未定)の姿がありました。