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ぱらぱらと夢物語  作者: きいまき
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神竜様?

 キサは今、ソレらと一緒に<魂駆>移動中です。

 魂で駆けるのだから、もちろん肉体は部屋に置き去りなのですが、ウーノ家の屋敷の守護とは別口で、しっかり守ってもらえているので、肉体の問題点はありません。


 今日はソレらとキサで、何とドラゴンを見に行きます。

 たまに学園都市にやって来る、飛竜ではありません。

 飛竜よりもず~っと大きな、普段人里では御目に掛かれない上位、何と神竜クラスのドラゴンがウーノ領内にいるのです。



 実はこのドラゴンがウーノ領に現れたのは、約半月も前。

 暴れるでもなく、何をするでもなしに、小山の中腹に寝そべっているドラゴン。


 ドラゴンは寝そべっているだけなのですが、非常に目立ちました。

 山の麓には小さな集落もあります。

 ドラゴンに悪気がなくても、ついうっかり、が起きてしまったら……。


 とりあえず、村に被害が及ばないようにすべき。

 しかし大勢多数で取り囲んでは、寝た竜を起こしかねないのでは?

 まずは、瞬殺だけはされない者が、ドラゴンとの対話を試みてはどうか?


 学園都市では、キサが今こうしている時にも、協議が重ねられています。

 近頃は、キサの耳にまで、このドラゴンがどこかに去ってくれれば……という本音もちらちら聞こえて来ていました。




 遠目で見るその姿は、深緑の小山の中腹にある、白い横長の塊の様でした。

 でも雲や霧にしてはハッキリし過ぎていて、浮いている様にも見えない、ソレ。


 更に近づくと横長の塊が、日の光に反射して、艶やかに輝いているのが分かります。

 そしてキサはもっと寄り、手足と尾、それから顔もしっかり確認です。


 顔の方へと回り込んで、キサはドラゴンに声を掛けてみました。


「こんにちは、ドラゴン様」

 体に入っていないので、肉声ではないのですが、ドラゴンにはちゃんと聞こえている様です。


 気だるそうに、やや開かれたドラゴンの瞳は、キサの身長と同じくらいあるのではないでしょうか。

 口など、キサを一飲みに出来てしまいそうです。



 ドラゴンは知性ある種で、悪いモノに変質するか、飼い慣らされて命令されない限り、人を食べたり、攻撃はして来ません。

 目の前にいる、このドラゴンは狂いドラゴンには見えません。


 そもそも近くで見れば見るほど、神竜クラスに相違なく、人間ごときに命令されて、ウーノへ来たという事もないだろうと、キサは思いました。


 とはいえ。

 そう分かっていても、肉体のある状態で、こうして明らかに手足や尾、ブレスの射程距離に立つのは勇気が必要です。


 それでも一生に一度あるかないかの、せっかくの機会です。

 本当は生身でここまで来たかったキサですが、キクスお兄様に駄目出しされ、屋敷に閉じ込められてしまったのです。


 そんなわけでキクスお兄様には内緒で、ちょうど閉じ込められたキサを慰めに来たソレらと、一緒に魂駆です。



 キサの声が聞こえるという事は、もし攻撃された場合、ダメージを受けるのは魂。

 きっとダメージどころでは、済まないでしょう。


 もし魂が消えてしまったら、輪廻転生出来ないのだろうか?

 そんな風に、キサの脳裏には疑問が浮かびます。


 けれど、神竜に会える機会など、今この時を逃せば、もうないでしょう。

 大切にしなければと、キサは思い直します。



 そして、とりあえずもう1度、キサはドラゴンに声を掛けてみる事にしました。


「私はキサと申します。ドラゴン様はこんな場所で、何をしていらっしゃるのでしょう? お手伝い可能ならば、仰って下さい」

「……」


 ドラゴンからは、返事がなかなか返って来ません。

 キサをちら見した瞳も、すぐに閉ざされてしまいました。


 さて、どうしようか?

 もう一度、声を掛けてみようかと悩みつつ、キサはドラゴンの姿を拝見し続けます。


 遠目からは白でしたが、こうして見ると一色ではないと、キサは目を細めました。

 特に光が当たっている箇所は、色のグラデーションになっています。


 鱗の1枚1枚がまるで宝石の様で、この美しさを目に出来ただけで、ドラゴンに近づいた甲斐があったと、キサは微笑みました。

 まさに眼福だったからです。



 が、目を閉じているとはいえ、こうして目の前に立たれていては、さすがに邪魔に違いありません。


 そろそろ御暇するとしよ……う……?

 そうキサが思っていると、ドラゴンが唐突に目を見開きました。


「手伝い、と申したな。ヒトの小娘」

「……」


 これが、神竜という存在。

 偉大なる力の化身。


 キサは声を出す事はおろか、ただただ圧倒され、声を発して来たドラゴンを凝視したまま、微動すら出来ずに固まってしまいました。


 閉じられていたはずのドラゴンの瞳は、先程の気だるさの様子が嘘の様に、しっかりとキサを見据えています。


「妾はヒトを食らいたい」


 妾……という事は、女性のドラゴンなのだな。

 いや、それよりも食べられてしまうのか?

 と、キサは思いました。


 目の前のドラゴンは、狂竜には見えない。

 つまりドラゴンが狂気の道を進む、初めての1人となる?

 感じている威圧感に加え、キサはその言葉によって、更に恐怖を覚えます。


 それと同時に、あまりの恐怖のせいで混乱したキサの思考は、それとは全く異なる感情を浮かべました。

 食べられる事で糧となり、このドラゴンの役に立てるのならば、それはそれで物凄く素晴らしい事、僥倖なのでは……と。



 キサがそんな事を考えている間にも、ドラゴンの口が近づいて来ます。

 どうやら、頭から丸呑みコースの様です。


 我が儘を言わせてもらえるなら、ムシャムシャ噛み砕きコースは止めてもらいたい。

 しかしまぁ、近づいて来る口はキサの視線からはみ出るほど。

 そんな激痛も一瞬で終わる。

 更にはそんな風に、キサは考えました。


 斜めな方向に動いている思考を、逃げ出そうと体を動かす方向に、持っていけばいいというのにです。


 ……。

 ……しかし、痛みは一向にキサを襲いません。

 なぜ?


「質の悪い冗談だったのう、許せ」


 そうドラゴンに言われて、酷く落胆を覚えてしまうくらい、そんな風に不思議な程アッサリと、キサは死を覚悟していました。

 謝罪されているにも関わらずキサは、これ以上は有り得ない至福から、一気に遠ざかられた様な気分でした。



 でも、それはキサの勘違いでした。

 食べる事は止めましたが、どうやらドラゴンは、まだキサに興味を持っている様子です。


「しかし。見るからに弱々しいの、ソナタ。それで生きておる、のか?」

 今のキサの状態は魂だけなので、生き霊ではあるが、死霊とそうそう変わらないかも知れません。


「ふむ」

 何か思い付いた様な声と同時に、神竜の姿は掻き消えて、ドラゴンは人の姿になっていました。


 キサからはドアップな顔しか見えない状態なので、たぶん人の姿なのだろうなぁという、辛うじての判断しか出来なかったのですが。


 そして、キサは。

 ドラゴンから給餌をされていました。


 重なった額の中央部から、ドラゴンからキサへと、力が怒涛の様に流し込まれます。

 傍からは、おでこをこっつんこ、的なコミュニケーションに見えるに違いありませんが、どう考えてもこれは、給餌だとキサの感覚は捉えました。


 しかも与えられる餌が膨大過ぎて、瞬く間にキサは苦しくなってしまいました。


 糧になれるならともかく、逆に与えられて、しかもドラゴンの目の前で膨れ上がって、破裂してしまうなど、言語道断。

 結果、キサは破裂しそうな魂を鎮め様と、今度こそ死に物狂いです。


「まだ見てるだけで、イイ?」

「リュウの御方のエサになるのは、姫サマらしいけど、どうも与えられるのはイヤがってるな」

「ダメ~、それ以上ダメ~っ!」

「おおお、お待ちを~、リュウの御方~っ!」


 ドラゴンからの給餌を、拒否しているキサに気づいたソレらが、動けなくなっているキサを、ドラゴンから引き剥がして、屋敷にある体へ連れ帰ってくれなければ、醜態を晒してしまっていました。


 そうはならなかった事に、キサは流し込まれた力に苦しみながらも、安堵したのでした。





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