ソレらと、魔法学園都市ウーノのブラコン姫
世界には霊・妖・魔物などと呼ばれる、人間外のソレが存在しています。
ソレらの中には時に、人間に害をなす為、悪と見なされるモノが出ます。
そうしたモノを、封印・退治出来た者達の中には、それを生業とする者もいました。
更に彼らの能力・魔法の力は、血によって受け継がれる事が分かると、必然的にその家系を中心に組織化していき、脈々と続いていく様になりました。
ウーノ家はそうして興きた、国内のみならず近隣諸国にも、名を轟かせる魔法一族です。
ウーノ家には、人だけではなく、ソレが仕えています。
各種様々な形、性質などから、色々な呼び名を持つ、人間外のソレら。
果たして魔物と一概に呼んでいいのか、怖い恐ろしい、可愛いに綺麗な、人型のソレから、小動物や植物っぽいソレら。
とても生物だとは思えない、転がる球体や、飛び回る直方体の様なソレ。
人と意思疎通が可能なモノもいれば、全く出来ないモノがいる為、果たしてソレらの全てが己の意思で、ウーノ領に留まっているのかは、分かりません。
人に悪さをせず、ウーノ家の傍から離れないソレらが、傍目には仕えているように見えるだけで。
そんな状態でもソレらの事は、ウーノ家の守護者と呼ばれます。
ウーノ家の人間の守護者というよりは、土地や屋敷の守護者でしょうか?
ソレらはいつも、埃を叩いたり、汚れを拭いたり、傷んだ箇所を直したりと、ウーノ家の屋敷を掃除しつつ、日々邪気を祓っており、屋敷を新築しても、その日常を続けるからです。
更に、ソレらはウーノの、都市環境整備にも携わっています。
特に欠かせない、ソレらの強力な助力の1つが、ウーノ家の治める中心街のあちこちに古くから組み込まれている、魔力暴走に対処する為の、仕組みです。
その仕組みを利用して、いつの頃からか、ウーノは魔力の暴走が激しい子供を、受け入れるようになったのですが……。
その子が乳呑み児である場合も多く、親もしくは乳母や御付の人等々、一家ごと受け入れる場合もあります。
ともあれ。
受け入れるからには、当然ながら野宿させるわけにもいかず、住居が必要。
面倒を見、魔力の扱いを教える者も必要で、その人々の住居もまた必要。
魔力を持つ者は、その扱いを学ぶ為、自然とウーノを目指すようになり、ウーノの中心街は、長閑な田舎町から、幼保、小・中・高等学園と研究所からなる、小都市へと発展しました。
ゆえにウーノの中心街は、魔法学園都市とも呼ばれています。
そんなウーノ本家の第2子として、キサは生を受けました。
ウーノ家の第1子はキクス、キサの兄です。
キクスお兄様の周囲には、いつもキラキラと光が舞っています。
でもそれは、決して目を焼く様なものではなく、ふわりと包み込んで和ませてくれる……そんなキラキラ。
キサがキクスお兄様を大好きなのは、物心付く以前からでした。
キサの両親からすれば、これ幸い。
魔法が定着している今でも、魔憑きと呼ばれ、神殿に預けられるのは幸運で、育てる余裕がない場合には、捨てられたり、存在を無き者とされてしまう子を、少しでも掬い上げようと、
キクスお兄様に領主の座を押し付けて、自ら、国内外の魔力持ちの子供発掘の、情報が1番入りやすいだろう王都へ行ったきり、滅多にウーノへは帰って来ません。
キクスお兄様が当主の座を押し付けられたのが13歳、ちなみにキサは6歳。
風邪を引いたり、魔力の扱いや情緒が不安定な時、どんな理由であれ、キサが癇癪を起こしている時でも、いつもキクスお兄様は必ずキサの側に居ました。
それなりに、兄妹仲は良好。
しかし素直にそう思わせていてはくれない事情が、キサの周囲にはあったのでした。
ウーノ家の当主は、魔力の高い者がなるべきだとされているのに、キクスお兄様にはほとんど魔力がありません。
なぜかウーノ一族の魔力は、素質を持たず・持っていても低く生まれ付くと、その子は非常に子孫を残し辛い体質で。
奇跡的に子を授かったとしても、どういう因果か、魔力のない子孫が数世代続いてしまいます。
だからウーノ家当主は、キクスではなく、キサがなるべき。
そんな声が昔からあった事を、キサは知っているからです。
大好きなお兄様が、ウーノ一族から密やかに、必要ない者扱いされている事に、キサは苛立ってしまいます。
そんなキサを宥めるのは、当人であるキクスお兄様と、そして。
「姫サマがココにいるなら、どうでもイイヨ~」
「キクスみたいにキラキラじゃないが、見ててオモロイのは姫サマだ」
「オモロイ違う。側にいたいのが、姫サマなだけ。ただ、それだけなの」
「姫サマ、好き~。キサ好き~」
時に投げやりだったり、毒舌だったりする事もあるソレら。
けれどキサが寂しかったり落ち込んでいれば、ソレらは側に居ては、慰めようとしてくれます。
くすぐり合い、駆けっこ、転げ回って、はしゃぐソレらと笑うキサ。
キサが魔力を暴走させて、屋敷を壊してしまった時など、怒って何かを伝えて来るわけではないが、じとっと恨めしげに見られたりもします。
でもすぐに視線を外して、修理に取り掛かる、なんて事も日常茶飯事。
家の中にソレらがいるのは、キサにとっての当たり前で、頼り切り。
裏で何を考えているか分からない人間達よりも、キサにとってはソレらの方がよっぽど馴染みがあり、親愛を感じられる存在でした。