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砕け散った初恋

それはまだ、薫が魔法少女だったころのお話。


「……くっなかなかの強敵ね」

ゴミと融合したいつもより手ごわい化け物とキャロルスターは戦っていた。追っていたグラドラスも気が付けばいなくなってしまい、一般人に迷惑をかけまくる化け物を早く何とかしなければならないのだがこれがなかなか難しい。疲労と怪我のせいでキャロルスターの動きは鈍くなっていた。そこへ、ガラス瓶の形をした化け物が手にしたビール瓶を振り下ろす。

「危ない!」

茶色の凶器が魔法少女を害そうとした瞬間、突然現れた白い何かがキャロルスターを抱き上げた。そのまま化け物から距離を取り、安心させるように白い紳士は微笑む。

「もう心配はいらなぞ、キャロルスター!」

「ほ、ホワイトソードさま!!」

お姫様抱っこという夢のような状態といつもピンチの時は助けてくれる初恋の相手ホワイトソードの登場にキャロルスターの胸は高鳴った。しかし嬉しい感情から一転、ホワイトソードの顔を見て血の気が引く。飛び散ったガラス片で傷ついたのか白い仮面の下から、真っ赤な血が流れおちていたのだ。

「怪我をされたのですか! 見せてください!」

そのときのキャロルスターはただ必死だった。素顔を隠すためだろう仮面をあっさりと外してしまう。憧れの君の顔を見たいという気持ちが全くなかったといえば嘘になるが、どちらかというと心配する気持ちの方が大きかった。

「あ」

「……あ?」

そして、正体を知ってしまう。


「……お兄ちゃん?」


それは仮面と行動のせいで勝手にイケメンだと勘違いしていた、ただの兄であった。

ちなみに兄勝隆の容姿は中の中というフツーの顔である。

真実が発覚して以来トキメキとか甘い感情だとかは大空の彼方へ吹き飛んでいった。このときガラス瓶の化け物に頭を殴ってもらえたら嫌な記憶を消すことができたのではないか、と考えることもある。しかし、正体を知らないまま慕い続けるというのはやはり気持ち悪いので結局はこれでよかったのかもしれない。


「いやあ、あの頃の薫は可愛かった。それが今やこんなババアに」

後で判明したことだが、薫の兄は「ロリコン」と呼ばれる生き物であった。薫が魔法少女でもなんでもなかった頃からとても可愛がってくれていたのだが、それには裏があったとわかって怖くなった。実の妹相手になんてやつだ、と震えるしかなかった。だが、少女を卒業した今の薫には何の興味もないらしく、傍から見れば仲の良い普通の兄妹らしい。


「やっぱりカツタカもそう思いまちゅ? 昔のカオルちゃんは可愛かったんでちゅよ! 昔のカオルちゃんは!」

人のことなど考えない沖那 勝隆は、ここで晩御飯を食べて帰ると梃子でも動かなかった。そのため薫は3人分の食事を用意してひたすら腹の立つ会話を聞いている。小さい女の子が好きという共通点で結ばれたカチュアと勝隆は、魔法少女を肴にして仲良く酒を飲んでいた。そういえば、ホワイトソードが兄だとバレた日からよくこの1人と1匹はこそこそと話をしていたっけ、と思い出す。


「それに比べてベリィベルは愛らしいなぁ。ぷにぷにほっぺたに、つるつるの生足。いやぁ、素晴らしい」

「うちの娘は見る目がありまちゅよね。魔法少女にふさわしい女の子をよく発見したな、と全力で褒めてやりたいでちゅ」

「なんと、あのウサギはカチュアのお子さんだったのか」

「ヨシュアっていうんでちゅよ。ベリィベルと同じように大事にしてくださいでちゅ」

「うむ。任せたまえ」

「あの、ちょっといいかな」


魔法少女話で盛り上がるところに入っていくのは気が引けたが、薫にはどうしても聞いておきたいことがあった。

「兄貴はさ、普通に会社に行ってたんだよね? どうして都合よく魔法少女の現れた私の大学にいたの? しかも昔と変わらない変身グッズまで用意して」

ここ10年魔法と名のつくものは世間を騒がせなかったのだ。なぜちょうどいいタイミングで勝隆がやってきたのか、薫にはその理由が思い当らなかった。

「バカだな。薫は」

勝隆は顔色一つ変えないで、ビールの入ったアルミ缶をぷしゅりと開ける。

「魔法少女がいるなら、俺はどこだっていくぞ!」

全く答えになっていない。どう考えても酔っている。

「まあカツタカでちゅからね。魔法少女あるところにカツタカありでちゅからね」

楽しそうに酒をぐびぐび飲み干す1人と1匹。次々と消費されていく酒たちは勝隆が薫の家にやってきたときに置いて帰った物だ。たまに飲ませてもらってはいるが大量の酒を一人で飲みきることはできず、いつもは小さな台所の隅に仕舞われている。

「これ、うめぇ……おいしいでちゅね」

酒入りコップを傾けるマスコットキャラなんて見たくはなかった。しかもカチュアは酔っているせいか普段の口調も忘れかけている。あのわざとらしい「でちゅ」という語尾はおっさんが頑張ってカワイイ感を出そうとした結果なのだろうか。

「……もういいよ。お酒がないときに聞く」

お話にならない酔っぱらいには関わらない方がいいだろう。

冷蔵庫から缶チューハイを取り出して薫も飲んで忘れることにした。朝起きたら兄もカチュアも魔法少女も全部全部無かったことになればいいのに。



部屋の端に移動して、スマホで面白いサイトでも探そうかなと立ち上げた瞬間、トップニュースに『やらせ?魔法少女あらわる』の一言を見つけて、薫は口に含んでいた青りんご味の酒を噴き出した。


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