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紳士ホワイトソードあらわる

「ホワイト……ソード………、さま?」

いきなり現れ怪我をして動けない魔法少女の手を使って勝手に恋人つなぎしているような男に、「さま」を付ける必要は全くない。しかし、ピンチの時に現れた異性は美化されるもので、ベリィベルの瞳は感動でキラキラと輝いているように見えた。名前のダサさは気にならないらしい。


「ねぇ、もしかしてあれってホワイトソード様じゃない?」

「あの10年前の?」

薫から少し離れた位置にひそひそと小声で会話する女たちがいた。彼女たちは全体的にモノクロの服を着用し(明るい色が見当たらない)眼鏡をかけているという共通点を持っている。地味、しかしどこか異様な雰囲気を醸し出すグループだ。

「あ、あたし子供の頃ホワイトソードさま大好きだったの!」

「キャロルスターのピンチにやってきて、必ず助けてくれるイケメンだったよね!?」

「ウソ! マジで本物!?」

追い詰められた魔法少女のところに登場していつだって救い出してくれる男。それは10年前から変わらないホワイトソードの姿だった。薫も彼のことは知っている。それはもう、嫌というほど知っている。


頭の痛くなるような展開に巻き込まれないように薫は無言を貫くことを決めた。娘の窮地に何もできないようなカチュアはうるさいだけなので顔を地面に押し付けて黙らせた。


「ピンクのウサギの君はベリィベルに早く魔力を流してやってくれ。宝石の魔力にかかっているカギを外すだけでいい。」

「は、はいでしゅ!」

ホワイトソードがベリィベルを支えながら座らせると、ヨシュアは指示通りに魔法少女の胸元の宝石へ力を送る。ピンク色の淡い光が少女の身体をゆっくりと包んでいった。

「もう大丈夫のようだな」

先ほどまでの弱々しさが嘘のように傷一つない健康的な身体で魔法少女は立ち上がる。あまりのやられっぷりにその力に疑問すら感じたが、問題はもうなさそうだ。

「ごめんなさいでしゅベリィベル。もっと早くに気が付いていたら……」

しょんぼりと長い耳を垂らして落ち込むウサギを少女は優しく抱き上げる。

「初めての魔法少女とはじめてのお仕事。お互い『はじめて』だから頑張ろうって最初に約束したよね。あたしは大丈夫。だから気にしないで!」

「ベリィベル……ありがとうでしゅ」

ぎゅっと抱きしめあい、ピンクのうさぎとそのパートナーは絆を確かめ合った。「美しい光景だな」と白い紳士が目元をシンプルなハンカチで拭っている。そんなやりとりを大人しく観察しているのはテスト用紙の化け物だ。恐ろしいほど空気の読めるテストは、もう行動を再開しても構わないと判断したらしく、そのペラい腕を振り上げた。

「ぬあぁっ!?」

ホワイトソードがその白いマントをなびかせて青空を背景に飛んでいく。ゆっくりと吹き飛ばされるその姿はなぜかスローモーションで見えた。「ホワイトソードさまぁぁ!!」という数人の女たちの叫び声のせいで悲壮さが増した。


「よくもホワイトソードさまを! ヨシュア! あれやるよ!」

「はいでしゅ!」

白い男がぶっ飛ばされたのは無意味ではなかったらしい。やる気に満ち溢れた魔法少女ベリィベルのピンク色の宝玉が強い光を放つ。必殺技前の謎の風が魔法少女のスカートを揺らしたが、不思議な力に守護されてもちろん下着は見えない!

「来たれ! ヨシュアのつるぎ!」

光の粒子がベリィベルの手元で一つの形を成す。キャロルスターの武器は黄色のほうきだったが今の魔法少女の武器はどうなるのか薫は興味があった。

ピンク色の光がおさまると、ベリィベルの手には片手で扱えるスティックタイプの掃除機。ハートや可愛らしい模様で飾られたそれは、吸引力の変わらないあのサイクロン式だった。

「吸っちゃえ!」

「テステス!?」

驚きの薄さで様々な物を破壊していたテストの化け物が、魔法少女の掃除機へ引き寄せられている。必死に抵抗しても空しい努力にしかならず、あっさりと化け物は掃除機の中へ吸い込まれてしまう。そんな簡単に終わるなら最初からやれよ、というツッコミを薫は心の中でするしかなかった。


「お願い! 元の綺麗な大学に戻して! ストロベリィベル!」

ベリィベルが片手で掃除機をぐるんぐるん振り回すと、辺りに鐘の音が響き渡り強烈な苺の匂いが充満した。そして半壊していた食堂や凹んだ自動販売機が本来の姿へ修復されていく。怪我をした学生もいたようだが、その怪我さえマジカルパワーで癒えていた。


「よくやった、ベリィベル! 君に本気を出させるために私はわざと化け物に殴られてやったのだ! というわけで、そろそろ会社……いや私の世界に戻らねば! また会おう!」 

いつのまにか復活したホワイトソードはボロボロの衣服でそんな言い訳をすると、食堂の裏へ走り去った。昼休みが終わる前に会社にたどり着かなければならない男は必死である。


「ホワイトソードさま……素敵な人だったな」


ぼんやりとそんなことを呟いた魔法少女ベリィベルは、自身にたくさんの人の注目が向いていることに気が付くとはっと姿勢を正した。

「みなさん、化け物はもういません! だから安心して学生生活を続けてください! 何か困ったことがあれば魔法少女ベリィベルがいつでもお助けしに来ます!」

少女の頑張りにぱちぱちと感謝の拍手が送られる。「ベリィベルたん! 最高!」という野太い声もいくつか聞こえたが、薫は目線をずらしてなにも無かったことにした。

「追ってきたグラドラスはもう逃げちゃったし、学校に帰ろうか。ヨシュア」

「そうでしゅね」

普通の人間ではありえない跳躍力で、魔法少女はいくつかの建物をぴょんぴょんと跳び回りその場からいなくなった。残されたのは化け物と魔法少女の戦いを生で見て興奮しきった大学生である。



「……美香を探そうか」

地面に押し付けていたカチュアをその場に残して、薫は友人の捜索に向かうことにした。


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