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パパ、がんばらない

「とりあえず、新しい魔法少女が現れた理由はわかった。けど今回はあのピンクのウサギがカチュアの代わりなんだよね? ならどうしてカチュアがここにいるの?」

この黄色いネズミと再会してから何度も質問したことだが、未だに答えはもらっていない。発見したときに自動販売機と食堂の隙間という謎の場所にいたり、今戦っている魔法少女のサポートをする気もなかったり、目的がよくわからなかった。

まさか薫に、変身してもう一度戦えと鬼畜なことを言う気なのだろうか。

「あ、安心してくれてオッケーでちゅ。どう見ても『少女』ではないお年寄りのカオルちゃんに『魔法少女』になってほしくて来たわけじゃないんでちゅ」

時々はさまれる年齢ネタに、私はまだ20歳だ。はたちだ。若いんだ。と薫は心の中で繰り返す。母親に「大学でおばさん扱いされちゃったよ」なんて話した日には「じゃあわたしは何なのかしら?」と目で殺す勢いで説教されるに違いない。


「私に用がないならどうして?」

母親の般若のような顔を想像から追い出して話を続けることにした。これ以上考えるのは薫の精神衛生上よろしくない。

「娘の初仕事でちゅからね。心配で見に来ちゃったんでちゅ」

「え、娘?」

予想外の単語に驚いていると、カチュアはあっさりと娘の正体を口にした。

「魔法少女ベリィベルと一緒に頑張ってる、ピンク色のキュートなこでちゅ」

「それってあの、ウサギのぬいぐるみの?」

「ああそういえば、地球では耳長のタイプはウサギっていうんでちゅよね」

アンタドコサではネズミの子がウサギというのは特におかしなことではないらしい。耳長タイプ、という耳の長さが違うというただそれだけなのか。

「娘の名前はヨシュアでちゅ。いじめちゃダメでちゅよ」

今後娘と関わる可能性の少ない薫よりも、すでにヨシュアを平然と地面に落としているベリィベルに注意するべきだろう。まあその現場をカチュアは目撃していないのだから、注意しようもないのだが。

「それにしても気が付けば自動販売機に押しつぶされそうになったり、鬼婆のようになった昔の相棒にあったり、娘の働く姿をこっそり覗き見するために苦労してたどり着いたというのにあんまりでちゅ。というわけで、もう聞きたいこともないでちゅよね? ヨシュアのこと見守りに行ってもいいでちゅか?」

カチュアの希望に特に文句もなかったので食堂の方へ戻ることにした。もう魔法少女ではない薫にとってしなければならないこと、またしたいこともない。この小汚いねずみのぬいぐるみを置いたら美香を探そう。そのつもりで健康管理センターと呼ばれる建物の壁を曲がり、薫はその動きをぴたりと止めた。



「……う、……うん」

登場した時の様子とは打って変わって、魔法少女ベリィベルは華美な衣装を泥で汚し傷だらけの状態で倒れていた。痛みで顔を歪めながら必死に立ち上がろうとしている。その少女を心配するようにピンクのウサギが周りをうろちょろとしていた。

「……ちょっと、カチュアの娘とそのパートナー、弱すぎない?」

魔法少女に変身すれば身体的能力は強化される。化け物たちの攻撃にもある程度は耐えられるし、物理的にもダメージを与えることができるのだ。だが、彼女は生身で戦ったかのように疲弊し地に伏している。

「ヨシュアが魔法石に込めた魔力がうまくベリィベルに流れてないでちゅね。魔力が魔法少女を覆っていないから攻撃をまともに受けてあんな怪我をしちゃったんでちゅ」

10年前に魔法少女のパートナーだったカチュアには、ベリィベルがああなってしまった原因がはっきりわかるらしい。さすが年の功、といったところか。しかし感心している場合ではなかった。

「どうするの!? 負けちゃいそうだよ!?」

残念ながら薫には何もできることがない。地面に転がる魔法少女にゆっくりと近づきながら、テスト用紙の化け物は勝ち誇ったように鳴きつづける。「テーステステス」というギャグっぽいものだったが、それが余計に怖く感じられた。

「どしまちゅ!? どうしまちゅ!? ごめんでちゅヨシュア! 役立たずのパパを許してくれでちゅ!」

冷静に状況を分析していたカチュアは娘に近寄る化け物のせいですっかり取り乱してしまった。その場でバタバタと暴れて謝罪の言葉を繰り返すだけで全く役に立ちそうにない。

「魔法が使えるんだから、早く何とかしてよ! 大切な娘なんでしょ!」

薫がカチュアに怒鳴りつけたその時だった。



「ふっふっふっふ。か弱い少女のピンチか。これは見逃せないな」



最初に魔法少女ベリィベルが現れたのと同じ位置に、悠然とたたずむひとつの陰。ベリィベルや学生たちの視線が集まったのを確認すると、その影は颯爽とその場でジャンプし、倒れている魔法少女の傍へ降り立った。

顔の上半分を隠す白い仮面。真面目な印象を与えるビジネススーツ。肩から腰のあたりまである白いマントはどう考えても邪魔そうだ。宴会芸でも始めるのかとツッコミたくなる外見なのだが、本人はいたって真面目なのを薫は知っている。


「魔法少女が困っていればたとえ火の中水の底どんな場所でも即参上! もう嘆き悲しむことはないぞベリィベル! 後は任せたまえ!」

闖入者にどう反応していいのかわからないようで一時的に化け物の進撃が止まった。

「……あ、あな……たは?」

苦しそうに息を吐き出しながら、魔法少女ベリィベルは白い不審者に手を伸ばした。その手に自分の指をからませ彼は白い歯を見せながら自慢げに笑って見せた。



「私の名はホワイトソード。通りすがりのただの紳士さ」




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