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魔法少女ベリィベルあらわる

薫が目的の場所へたどり着くと、学生で賑わっているはずの食堂は半壊していた。

「テーステステステス! テーステステステス!」

巨大なテスト用紙、としか言いようのない怪物が暴れまわっている。ペラペラの手らしき部分を振り回し、自動販売機をぼこりと凹ませる。何度もそれを繰り返し、最後には自動販売機を数メートル吹っ飛ばした。

「うわああああ!!!」

「おい、誰か撮ってるか!?」

「そんなことより、逃げろ!!!」

普段通りの昼休みをぶち壊された学生たちは、右へ左へ走り回っている。為す術もなくただ化け物に日常を蹂躙される様子は直視できるものではなかった。しかし。



「そこのテスト用紙! すとーーーぷ!」



空気を読まない子どもの声がその場に響き渡る。声の主を探そうと、多くの者がきょろきょろと辺りを見回した。誰かが「あそこだ!」と音楽系サークルの部室のような扱いになっているプレハブの上を指差す。学生たちの視線はそこである人物に釘付けになった。


肩ぐらいまで伸びた内巻きの髪は濃いピンク色。薄桃色のスカートと白いフリル付きエプロンはハートやリボンで見事に飾り付けられている。一番目立つのは胸元の辺りで輝く大きいピンク色の宝石だ。全体の印象としてはど派手なメイドさん、といったところか。


「あたしは魔法少女ベリィベル! 困っているみなさんをお助けしに来ました!」


決めポーズなのか、腰に手を当てベリィベルはふんぞり返っている。とうとう魔法少女が登場してしまった、という絶望感に薫はふらふらと座り込んだ。10年ぶりに魔法少女が世間に姿を現した。つまり今暴れている巨大なテスト用紙も10年前の化け物と同じ種類のものだと判断できる。

「……どうして」

その言葉に答えるように吹き飛ばされた自動販売機がガタリと動いた。食堂の壁と変形した自動販売機の間にできたわずかな隙間に何か黄色いものがちらちら見えている。黄色、という色が目に入った瞬間に薫はその隙間の前まで移動し手を突っ込んでいた。


「いたたたたた、痛いでちゅ! 乱暴にしないでもっと優しくしてほしいでちゅ!」


やたらと耳のでかい、デフォルメされた黄色いネズミのぬいぐるみ。子ども用おもちゃであるはずのそれがバタバタと手足を動かし暴れている。他の人に見られると色々とまずいので慌てて物陰に隠れた。

「尻がぁ、尻がいたいでちゅ! 逃げ惑う市民A、放すのでちゅ!……ぶべらっ!」

望み通りに手を放すと顔面から地面に落ちる。先ほどウサギのぬいぐるみで同じような光景を見たな、と思いながら薫はネズミを掴みなおした。お尻は痛い、というので耳の生え際を掴んでやる。

「耳がちぎれるぅ! やめるでちゅ、逃げ惑う市民A! 君はただのエキストラであり、カチュアの存在を知るようなことがあってはいけないのでちゅ! …………あれ?」

意味のない手足の動きを止めて、ネズミと薫が見つめ合う。

「えーと、どこかでお会いしましたでちゅ?」

「久しぶりだね、カチュア」

10年ぶりの再会は喜ばしいものではなかった。幼い頃は可愛いと思っていた動物も、この歳になってみるとウザいだけの生き物である。「ちゅ」という語尾も気に入っていたのだが、子どもの頃の自分は可哀そうな趣味をしていたのだなという感想しかなかった。


「えぇーと、もしかして、もしかして、……カオルちゃんでちゅか?」


首を傾げて尋ねるカチュアにその通りだと手の力を強めた。

「いたたたたったたた!!正解!? 正解ってことでちゅか!?」

ばったばったと暴れるぬいぐるみはその勢いで薫の腕へしがみつく。木の枝にぶら下がるような格好になったカチュアはまるでナマケモノのようだ。

「いやあ、子どものころと違ってずいぶんと大きくて太くてたくましい腕でちゅね。こうやってぶら下がっても折れるんじゃないかという心配の必要がない安定感のある腕でちゅ」

さっきと同じように手を放してやろうかと考えたが、今は怒っている場合ではない。

再び魔法少女が現れるようになった訳を問いたださなければならないのだ。もしかすると薫が想像している以上に事態は深刻なのかもしれない。

「昔の話は後にしよう。それよりもどうしてあなたがここにいるの? 全て終わったんじゃなかったの? あの魔法少女はなに?」

ここ数分の間に湧き上がった疑問をカチュアに次々と質問していく。一気に答えるのはバカなカチュアには難しいかもしれないが、ぬいぐるみに気を使う余裕がこのときの薫にはなかった。何でもいいから早くしてくれと真剣な表情で答えを待っていると、返されたのは予想外の一言。



「ちっちゃいカオルちゃんはもういないんでちゅね。残念でちゅ。ただのおばさんじゃないでちゅか」



今は怒っていい時だと判断した薫は、力いっぱいカチュアを地面に叩き付けた。


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