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魔法使いの卵  作者: 青生翅
ウルとラスディ
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4  親切と罪と罰

 嵐が舞い降りた。文字通り何もかもを蹴散らす風を吹かせたのが、小奇麗な軽装で佇む青年で、彼が自分を魔術師だと言ったときには、二重三重の意味で驚いた。

 警戒しないなんて無理な話だった。だって僕が唯一知っていた痩せた男の魔術師は、違う場所から湧き出るようなことはしなかったし、こんなに大きな風を操ったことなどなかった。せいぜい盾のような障壁を出し、人間一人を焦がす雷を下ろす程度だった。


『急ごしらえの少年兵にしては……ああなるほど、禁を破ったやつがいるんだな。おおかた戦場から脱出できない三流に出会ったんだろう? でもよく生きてたなぁ。ここまでくる間、子供なんて獣に食い散らかされた骨しか見てないよ。幸運だね、君たちは。で、君らを仕込んだ魔術師はどこだい? 死んだ?』 

 僕と手をつないでいたもう一人が、否定を表して首を振った。置いて行かれた身では、果たしてあの魔術師が生きているのかなんてわからなかったけれど……他になんともできない。

 いつからか声が出せなくなったもう一人の代わりに、僕はある日その男が姿を消したことを説明した。


『ふぅん……まぁ安心しなよ、そういう輩には相応しい末路があるもんだ。このままじゃあ済まさないさ』 


 いったい痩せた男が何の禁を破ったのかは知らないが、目の前の青年魔術師の碧眼の奥が、ちろりと物騒なゆらめきに満ちたのを見て、僕らは身を硬くした。 

 武器を持った大人たちを跡形もなく消した相手だ、今は話をするために残されていても、次の瞬間には殺されるのかもしれない――。 

 けれどそうはならなかった。恐怖と空腹で震えるもう一人をひょいと抱え上げて、若い魔術師はもう一方の手で僕の手を引いた。


『普段はこんなに親切じゃないんだけど、三流魔術師の被害に遭ったのは素直に気の毒だと思うしね。放っておいたら死ぬのをわかってて見放せば、そのうち僕にも因果が巡るし。――ま、大人しくおいで』




 予想していた通り、青年魔術師は同盟軍に属する人物だった。それなりに規律をもって動くべきところを堂々と単独行動し、二人のみすぼらしい子供を引き連れて本隊に合流した後でも、彼への周囲の態度は丁寧すぎるほどに恭しかった。

 戦場に似つかわしくない、何人もの女性を引き連れて荒野を背後に立つ姿は、異様以外の何者でもなかった。


 荒野に張られた天幕の一つに、僕ともう一人は引きずり込まれて、ふかふかの絨毯に汚い服のまま腰を下ろすように指示された。


『さて、非常に残念なお知らせをしなくちゃいけないんだ』 


 どこも残念そうじゃない笑顔のままで、彼は僕たちに言った。


『困ったことに君たちを普通の子供に戻してあげることが出来ないんだよねぇ。平穏な国に養子が欲しい人間を探して世話する方が僕もよほど簡単でいいのだけど、知らなかったとはいえ君たちは魔術師の禁を犯す行動をしちゃってるわけだよ』 


 僕たちのように正式な魔術師と認められない者が、魔術を使って生死に関わることは禁じられているのだと彼は説明した。僕たちは魔術を使って戦争に参加し、人を殺したのだから――と。


『普通はそういう場合、罰を受けるのは保護者――僕らの常識では師匠ってことになる。君たちに魔術を教えた三流についてはすぐに見つかるだろう。腕はないが鼻は利きそうだから、死んでいることもたぶんない。厳罰を受けることになるね。死んだ方がマシなほどの。ただ問題になるのは、君たちはその男と師弟関係なわけでもないってことだ。この場合は君たち自身も罪に問われる』


 生き残るために与えられた術が罪なんてね、と彼は苦笑した。


『ここで僕が君たちに対して用いることのできる方法は二つだ。一つは、三流魔術師も君たち二人も殺して綺麗さっぱり証拠隠滅。僕にとっては最も簡単で面倒がない方法だ。君たちとしても、これ以上の苦痛を感じないという意味では楽な道だろうね。痛くも痒くもないように殺してあげよう。もう一つは、しかるべき教育を受けて魔術師になる方法。見習い期間を清貧に、かつ品行方正に過ごすことで厳罰を求め、なおかつ正式な魔術師になったときに多少の罰金を納めることでチャラになる。何年もかかるし面倒くさい。引き取った魔術師には常より監督責任が重くかかるし、第一君たちには魔術師以外の選択肢がなくなる』


 僕たちは迷わなかった。死ぬ機会は今までにいくらでもあったし、実際に自分で命を絶った子供がいないわけじゃなかった。僕たち二人はその段階を越えてしまって、ずるずると今日という日を迎えた非常の間の悪い人間だったのだ。

 魔術師になるという返事を僕はして、喋れないもう一人もそれに頷いた。


 彼は溜息を吐き出し、それじゃあ仕方がないと僕一人を立たせた。


『残念なお知らせその二だ。君たちがそれを選んだ場合、まぁ順当に言って拾った僕自身が監督者を務めなければならない。だけどねぇ、僕は――弟子は女の子しか取らないんだ』


 ……喋れないもう一人は、女の子だった。となれば僕だけがその条件に合わない。


『普段は偽善さえ施さない僕が君たちを拾ったことはとっても珍しいんだけど、こればっかりは譲れないんだよね』


 はぁ残念だ悲しいことだと彼は呟きつつ、天幕の外に僕を引っ張り出した。

 後ろから喋れない子が――女の子が、僕の袖を掴んでいやいやと首を振った。


『大丈夫だよ。だからって放り出したりしないって。魔術師は他にもいるんだから。僕の親友に相当な変わり者がいるんだよね。弟子も取らずに籠っているっていうので、上が目をつけててさぁ。そのうち僕にどうにかしろとかなんとか余計な連絡が来そうだったし、ちょうどいいから君、彼のところに弟子入りしなさい』

 

 涙目の女の子に晴れやかな笑顔を返し、僕にはそう簡単に告げる。


『ちょっと人嫌いなところがあるから追い出されるかもしれないけど、まぁ同居人の女の子が優しいからたぶん大丈夫さ。手紙持たせるし、やっぱり駄目だと思ったら次を考えるよ。うん、よし。元気を出して! さー、行ってみよー!』




 その後のことは言うまでもなく、魔術によって長大な距離を跳ばされた僕は、手紙一つで師匠に会い――今日に至る。




 

魔術師にはいろいろな掟があります。

そして個人の嗜好はいろいろですから……

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