7 悪巧み
「……で、王様の何を問題にするんです?」
僕は尋ねないでおけなかった。
方法は分かっても、それを結果にすることはひどく難しいように思えた。
でもラスディはそれが何だという顔をする。
「まぁぶっちゃけるとさ、資質問題なんて適当なでっち上げが出来るんだよね」
それは随分ぶっちゃけ過ぎじゃないかな……。僕は自分の顔が蒼くなったことを自覚した。
僕らがすることを思えばたしかに善人の所業じゃないけれど、だからと言って堂々と詐称を宣言しなくてもいいのに。
「王がどんな問題で更迭されることになるにしろ、対外的には当たり障りのない理由が広まることになるんだし。民の混乱は少ない方がいいだろう? だから中身が何であってもいいんだよ。ここ五年の国王がやらかした小さな失敗をつついて、それっぽい感じに事実を膨らませれば出来上がりさ」
嫌なことをこうまで晴れ晴れと言われると、本当に微妙な気分になるな。
ラスディはでもねと続けた。
「その権限を持つ枢密顧問――僕の他の二十票の行方を操作しなきゃならない。三分の二に至るには最低でも僕の他に十三票が必要だ。いま考える限り、確実に僕の意見に賛同してくれるのはせいぜい三人くらい。他の人間は、ウルを引っ張り出した場合に国益になると盲目的に信じている者、あるいは僕みたいな魔術師の台頭を許せないために断固反対に回る者。どちらに着くかぎりぎりまで明かさなそうな者の三種類だ。厄介なのは魔術師嫌いな人間がけっこう多いってことだね。発案者が僕となれば反発は免れない」
「そのためにはまず、“表”の人間が必要になるな」
師匠の口出しに、ラスディは頷く。
「前宰相のハルナッシュ老に頼もうかなって思ってるけど」
「<古国の良心>か。大物だな」
「そのくらいの名前があった方がいいでしょ。彼は現国王が若いときの教育係を務めたんだ。そんな人物が王の資質に問題アリって声を出すってことは、かなりの威力があるよ」
「そこまで王に近い人間が引き受けるのか?」
「やるさ。ハルナッシュ老はたしかに良心の名に相応しい温厚で理知的な人だけど、宰相まで勤めただけあって情に流されない冷徹さも持ってる。むしろ自分が教育したからこそ辛い目で王を見てるだろうし」
「なら決まりだな」
「“表”の力でさらに三票は堅いよ。これで老も入れて八票だ」
「もう二票足せ。今の枢密顧問には、たしかエラン侯爵と銀鷲騎士団長の父親がいたろう? その二人なら俺の方でなんとかなる」
「何かい? 弱みでも握ってるわけ?」
「エラン侯爵家の後継問題と、騎士団長の急激な出世秘話だ。顧客なんでね」
「かぐわしい秘密の匂いだね」
これで七票、とラスディは呟いた。
「魔術師と折り合いの悪い騎士団方面を落とせるのは大きいな。揺さぶり方によってあと三票も早々に決まるかも」
「そう上手くはいかないだろ。お前を邪魔に思ってる連中は全力で邪魔しにかかる」
「王が君を呼びつければさらに魔術師が出張ることになるのにかい?」
「そんなことはどうにでもなると思ってるはずだ。魔術師たちと一時の休戦をするよりも、この更迭を失敗させてお前を追い出す取っ掛かりにしようとするだろうな」
「そこまで嫌わなくたってねぇ」
逆の期待に応えたくなるじゃないか、とラスディは笑った。
だいたいの方向性は決まった。これからは努力と根回しとラスディは言う。
「ウルは目立った行動がとれないからね。逆に僕は攪乱がてら反対派の周りをうろちょろするとしようかな。お互いの弟子を情報収集に当てないかい?」
オタガイの弟子――それはもしかして、僕のことも入っているよね?
恐る恐る師匠を見れば、何とも無感動な金妖眼が僕を眺めている。
「リオン、行って来い」
「ど、どこに……?」
「情報は敵陣だ。宮廷に決まってる」
簡単に言ってくれるが、何度も言うけど僕は庶民なのだ。宮廷なんて足を踏み入れることを、たとえ夢の中だってしたことはないんだ!
僕の心の叫びは絶対に届いているはずなのに、師匠はそれでいいなとばかりに一人納得して終わったし、じゃあしばらくは僕と一緒だねとラスディは人の悪い笑みを浮かべた。
はぁ、出来ることなら関わりたくなかったなぁ。師匠たちの悪巧みには。
こんな悪い大人ばかりでリオンは大丈夫だろうか……と心配になります。