夢ー始まり
僕はアイチ。15歳。銀杏ヶ丘町に住んでるごく普通の高校生。特にすごいところもない、地味な学生。今は、朝六時三十分。僕は、三重の目覚ましで起きた。
まだ眠くぼーっとする頭でぐったりとしている体を半分起こす。体がだるい。いつもこうだ。僕は朝が弱い。夢の世界が下ろそうとする瞼をこすったりして次第にピントをあわせていく。ふぅ。三つ。去年までは二つですんだのに、段々朝が起きられなくなってきてる。
そんな事を思いながら開けてくる視界の、ベッドの脚の横に、僕は昨夜寝るまではそこに無かったものを発見する。
それは言葉では表現できない何かが。真っ黒の何かが。「闇」が置いてあった・・・。
なにもかもを飲み込んでしまいそうな純粋な「闇」。僕は動けなかった。いや、正確には動かなかった。体が「動かなかった」。そして「闇」はすこしづつ僕の方に近づいてくる。
圧倒的な恐怖のあまり意識が飛びそうになる。
そして、闇が、足元にまで来たとき。急に周りが真っ暗になった・・・。まだ、体は動かない。
何かに向かって進んでいるようにも見える。それを見ていると、いつの間にかに意識を失ったようだ。
気がつくと、僕は森の中に居た。跳ねるように飛び起き、素足の裏に感じる土の感触に驚き、そして、辺りを見回す。
目は完全に醒めていた。周りに木々がそびえ立ち、時折鳥がばたばたと飛んでいく。心臓が高鳴り、僕の頭の中に当然の疑問が浮かび上がる。
、、、、、、ここは、どこだ!?
焦り、だった。焦りが僕を支配し、それが僕を混乱させ、体中がいやな汗でびっしょりと濡れてくる。まだ僕が着ている寝間着だけが、僕が持っている記憶、そう、あのさっきまでの日常が本当の日常だった事を証明してくれる。と同時に、今この現実が日常では無い事をも僕に押し付けてくる。
そして、背後から聞こえた足音に、僕は文字どおりびくん、と体を震わせた。
僕は後ろをふり返る。そこには、この世界に存在してはいけないような。とてつもないな大きさの獣が
いた。そして僕は気づいた。獣の背中に何かある?あれはなんだ?その獣の背中から無数に出てきている謎の黒い物体・・・。
そして思い出す。僕はあの物体を知っている。部屋の中で見た恐怖の塊。
そう・・・。その無数に出ている物体は紛れもなく「闇」だった・・・。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ」
僕は叫んだ。叫ばなければ死んでしまうという勢いで。
そして、走った。追いつかれるのは分かっていたけれど、僕の心の中は恐怖という言葉に支配されていて、そんなこと考えている余裕はなかった。足がもつれてくる。木の根に足が引っかかり転びそうになった。
そして、僕は、追いつかれた。すると、どこからともなく、自分の目の前に自分と同じくらいの女の人が出現した。そして、その女の人はムチのようなものでけものを叩くと、あっさり獣は消えていった・・・。すると、女の人が声をかけてきた。
「アイチ。」
獣は消えた。でも、さっきまでの恐怖がまだ僕を支配してる。安堵感は何故か無かった、まだ僕は何か得体の知れない、何かに追いかけられてる、追い詰められてる、そんな強迫観念だけが心臓をぐっっと掴み、僕を責め立て、僕に恐怖と混乱を強要している。
どさり、と、僕は膝を付いた。それは何が理由か、転びそうになった勢いか、それとも、なんなのか、まったくわからないまま。そして、僕は見上げる。
逆光で女の人の顔はよく見えなかった。シルエットだけがくっきりと脳裏に焼き付く。そして雲が流れ太陽を隠し、その瞬間、女の人の顔が見える。
「アイチ、、、」
女の人は、再度、僕の名前を囁いた。僕はその時、その顔に驚き、文字通り目を丸くしていた。その顔が僕の記憶、この記憶が確かなのか正しいのか、もうなんにもわかんなかったけれど、でも、確かに僕の記憶のあの女の人と重なった、その事実に驚愕していた、、、、、
、、、、、、、そこまでが、僕が思い出せる「記憶」と呼べる代物だった。気が付いた時、僕はベッドの上に居た。目覚まし時計は三つとも止まっていて、鳴らすはずの時間のわずか五分先を指し示していて、朝日が窓から差し込んできていて、僕の体も寝間着も汗でぐっしょりで、そして、ベッドの脚には、、、、
もう、闇は無かった、闇も何もなかった、そこはただの脚の近くの空間でしかなかった。
僕は激しく鼓動する心臓の音に導かれるようにしてその記憶を三度程たどり、それから心臓の辺りをぐっと握り締めて、その鼓動が少し収まったのを確認してから、ベッドを降りた。
僕はアイチ。15歳。銀杏ヶ丘町に住んでるごく普通の高校生。特にすごいところもない、地味な学生。今は、朝六時三十分。僕は、三重の目覚ましで起きた。、、、、、、はずだった、実際は、五分程、過ぎていたけれど。