第三話
その日彼女は珍しく学校に来ていた。
まるで空気の様に誰も彼女に構わない。
そして彼女は、ずっとうつ向いたまま短いはずの休み時間を誰よりも長い時間をかけて過ごしていた。
「あ、朝霧来とるやん。」
南が声をかけてきた
「珍しく来とるな。てかほんまに前髪長いな。」
うつ向いて更に長く見える前髪。
孤独が伝わってくる。
「話かけんの?そんな心配そうに見とるんやったら声かけたえーやんか。」
「何でやねん。何で俺が声かけなあかんねん」
「声かけたそうやったから。はよ声かけな休み時間終わってまうで。」
「意味わからんわ。もう時間ないからはよ席戻り!」
「このシャイボーイめ!」
そう言い残して二人各々の席に戻っていった。
そして、その日の昼休み。
「あーあ。勇作君がヘタレだから、もう昼休みになっちゃった。」
南がからかってきた。
「うるさーい!誰も声かけるなんかゆってないし!」
「お前な、隠しキャラがやっとでてきてんから即唾着けとかなあかんやろ?あいつ実はヲタ共にはもてとんねんで。」
「だからまだ惚れた訳ちゃうから。」
「へぇー。ま だ 惚れた訳ちゃうんや。そんなんやったら惚れるんは時間の問題やろ!はよ唾着けに行け!物凄く寂しそうやぞ!」
ちらっと彼女を見ると、一人でうつ向いたままパンをかじっている。
「な?はよ声かけてきたれ。保険室連れてったん俺ですって。」
「う…うん。わかった。」
気押された。
「わかったんならはよ行けー!」
背中をバンと叩かれ送り出される。
自分の席に座り南の方を見ると、いつの間にかギャラリーを作っていた。
やりにくい。
向こうのギャラリー、基、指令室からはGoサインが飛び交っている。深く深呼吸をして彼女の方を向いた。
一気にテンションの上がる指令室。
「な…なぁ」
まず一言。先手必勝!
「は…はい?」
応えた!
「あ…あの、貧血大丈夫?前倒れて家帰っとったやろ?」
「あ、は、はい。大丈夫でした。ありがとうございます。」
「そりゃあよかった。頭も大丈夫やった?タンコブとか。」
それを聞いて彼女は、はっと思い出したような仕草をして
「ごめんなさい!こちらこそ大丈夫でしたか?あと保険室にも連れて行ってくれたんですよね?」
「うん。まぁ。」
「本当にごめんなさい!あと先にお礼も言わずに帰ってごめんなさい!」
必死に謝られる事五分。
「うん。もういいって。んで何で長いこと休んどったん?」
返事に困っている彼女。
「それは…秘密です。」
「秘密ゆわれたら普通聞いてってゆっとるもんやし。何かしとったん?」
「あ、はい。何かしてました。」
「何?」
「ひ、秘密です。」
彼女の顔が段々と曇ってきたので、それ以上は詮索しなかった。
「まぁ、学校休みまくっとるな。出席足りんのちゃう?」
話題を変える
「はい。だから今日から毎日来ないと駄目です。」
「学校嫌なん?」
うつ向いて彼女は答える。
「苦手です。」
「誰とも話さんからちゃう?」
「そうかもしれないです。けど、話題とかないし。」
「話題なくても話せば出てくるかもよ?まず話してみいよ。」
「は、はい。頑張ります!勉強になりました。」
真面目に答える彼女。
「隣の席になったんも何かのえんやし、まず話相手なったるから練習のつもりで話そうや。ついでに学校にも来いや。来んと話できんやろ?」
「はい。ありがとうございます。」
そう言って、彼女は初めて笑った。
予玲がなり、話を止めて指令室があった黒板に、こう書いてあった。
「ビクトリー!ありがとう性春!」