第三話:調査
今回は主人公視点ではありません
王都トリスティア。
それがこの街の名前です。
王の名前はギルバード・トリスティア。
そして私は世界一そいつが嫌いです。
いいえ、今さっき嫌いになりました。
何できらいになったかって?
いいでしょう説明しましょう。
っとその前に私の名前を言っておかないといけませんね。
私の名前は----アイン・エスフォード。
王国直属の騎士団の団長という忌々しい地位を押し付けられた元Sランク冒険者です。
◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇
さて、私は最近クレハというエルフの女性と結婚しました。
クレハはエルフ族の中でも特に美しい女性で気が利いてそれはもう自慢の妻です。
今日は久々に私とクレハ、二人共休暇を取ることができクレハとデートに行く予定だったんです。
それをあのクソ使えない王……失礼……ギルバートが見事に潰してくれやがったんですよ。
さあデートしようと意気込んだ時国王からの呼び出しがかかったのです。
本当に空気の読めない人ですね……。
思えば昔からそうでした。
ギルの我侭にいつも私は付き合わされて……!
おっと失礼あまりの憎悪に取り乱してしまいました。
私とあいつは幼馴染なのですが事あるごとに厄介事を押し付けられた記憶しかありません。
騎士団長のに任命したのだってそうです。
忙しくてクレハといる時間がなかなか取れません。
何なのですか本当に……。
くだらない用でしたら上級魔法を叩き込んでやると心に刻んでいるとどうやら王の私室にちょうど着いたようだ。
仕方ないですね。
「こんにちはゴミより使えない王、今日は何の用です? さっさと言ってください。そしてくだらない用だったら貴方の顔にその顔がを判別不能になるまで上級魔法をぶち込んであげますよ」
バン! と勢い良くドアを開けながら私はそう宣言した。
「おいおい仮にも僕は王なんだけどなぁ……しかもここは私室だよ? むしろ君に……いや悪かった! 謝る! 謝るからその炎を纏った手を降ろして! それは洒落になってないから!」
チッ! 謝らなければ本当に殴ってやろうと思っていたんですけど……。
「それで? 要件はなんです? 簡潔に言ってください。 そして私をデートに行かせてください」
「あ、あー……今日はデートの予定だったのか……機嫌がいつもの数倍悪いわけだ……いや、うん! 要件だよね! 分かってるもうこれ以上ふざけないよ。
さて……悪いがアイン、今日の休暇は無しだ。今さっき廃都オスティアに大きな魔力反応があった。それを今回君には調査してきてほしい」
廃都で大きな魔力反応!?
まさかあの事件と関係があるというのですか!?
……ふざけた雰囲気から一転し、真面目な表情でギルバートは要件を切り出した。
ギルはいつもふざけた態度をとっているがその実かなり優秀です。
王として生きているのは伊達じゃない。
正直これがあるから私はこいつを憎めないのです。
それにしても廃都オスティアですか……。
廃都オスティアは昔は王都だった大きな都市で、冒険者の街として栄えた都市でした。
そう、都市だったんです。
しかし数百年前、オスティアに突如魔王の軍勢が現れ王都オスティアは一夜で壊滅に陥れられました。
多くの優秀な冒険者が殺され、私たちヒューマンは多大なダメージを負ってしまいました。
もうダメかと誰もが思ったとき、後に英雄として語られる6人の賢者たちが現れ、魔王の軍勢を倒し、それ以上被害は広がることなくその事件は幕を閉じたのです。
しかしオスティアは都市としての機能が失われ、さらに都市全体には瘴気が溢れ一時は入ることさえできなかったくらいになってしまいました。
今でも入るには浄化の魔法が使える聖職者の存在が必須で、廃都として放置されています。
なので大きな魔力反応などあるはずがないのです。
あるとしたら……。
「魔王の軍勢が再びやってきた……ですか? ありえないでしょう?」
口では否定するが嫌な汗が出てきており、ギルバートも心なしか顔色が悪い。
「それだけは起こって欲しくないんだけどね……原因は不明。だから騎士団長である君にオスティアの調査を頼んでいるんだよ。」
「はぁ……わかりました。そういう事情なら行きましょう。今すぐに出たほうがいいですね……念話を飛ばすのでもしものことがあれば救援とかは任せましたよギル」
「ああ……話が早くて助かるよ……すまないこんなことを頼んでしまって。」
「はぁ…。 なら頼まないでくださいゴミ以下の使えない王様。帰ったら休暇2ヶ月くださいね」
「え?いやそれは無理……っておい!? ちょっと!? 何無言で出ていってるの? ねえ2ヶ月とか無理だからね!?」
こんな大変な事態なんだ2ヶ月くらい許しもらいますよギル。
とりあえず知り合いのヒーラーと一緒に早急に現場に行かないといけませんね……。
内心あせりが募る。
頼む、魔王軍とか洒落にならない展開は勘弁してくださいよ!
私はそう願いながら現場に向かうため準備を進めるのだった。
◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇
相変わらず廃都は嫌な空気ですね……。
私、アイン・エスフォードは廃都オスティアにいる。
あの後、私は知り合いのヒーラーに連絡し、廃都オスティアに一日かけてたどり着きました。
過去最短のスピードではないかと思う。
オスティアは予想以上に酷いものでした。
もう何時間彷徨ったでしょうか。
家は破壊され、殺された兵や街の人間の骨がそのままにしてあり、
さらに見渡す限りに黒く渦巻く瘴気が漂っていてヒーラーによる結界がなかったらと思うとゾッとするような状況でした。
「はぁ……」
「どうしたの? まぁこんな状況で、しかも何も見つからないんだから溜息付きたくなるのはわかるけど」
今話しかけてきたのは私が冒険者であった頃、一緒にパーティーを組んでいた一人。
ミリア・クロスロード。
先程から言っていた、知り合いのヒーラーというのは彼女のことだ。
しかし……。
はぁ……。
そうなのだ。
彼女の言う通りここ何時間か彷徨っているのですが何も発見できていない。
大きな魔力ということだったのですぐ発見できるかと思っていたのですが……。
「すみません、付き合っていただいて。 すぐ何かしら発見できると思っていたのですが……」
「相変わらず真面目だね。見たところ危なそうな気配はしないしこのまま見つからなくて実は勘違いでしたってのが一番なんじゃない?」
「まぁそうなのですが……」
しかしどこか引っかかる。
王都からそれなりに距離があるにもかかわらず王都で観測できるほどの魔力の歪。
通常オスティアのように王都から離れた距離にある場所で魔法を使ったところで観測や、ましてや歪みを発生させるなんて不可能だ。
できるとしたら勇者と呼ばれる伝説上の存在、あるいは魔王、それに準ずる魔族くらいだ。
逃げたという可能性もあるが先ほどから探索してみた限りでは何かが居た形跡は無かった。
「手詰まり……ですかね」
「だね、さすがにこれ以上とどまっても何も見つけられ……ッ!?」
これは……!
急速に吐き気がするほどの濃密な魔力の波が周りを支配した。
視界が歪み、立っているのもやっとなくらいだ。
まずい……意識が持っていかれる……。
油断した……。
そして意識が暗転しそうになった時、周りにあった魔力が何も無かったかのように霧散した。
「何だったんでしょう……今のは……」
「わからない……でも今はこの魔力の原因を突き止めないと!さっきので場所はわかったよ」
そうだ……何のためにここまで来たのだ。
原因を突き止めないと。
だが……もしこの魔力の持ち主が敵だったら私は倒せるのか?
たぶん、無理だろう。
だが……国に被害を出すわけにはいかない。
もし敵だったときは、刺し違えても喰い止めてやる。
「行こう」
私は覚悟を決めて魔力の発生源であると思われる建物の中に向かっていった。