第二話:始まりは暗闇から
「ん……んぅ…………」
目覚めは最悪だった。
頭はガンガンするし体が重かったからだ。
「というより……ここ、どこ?」
そこは真っ暗な空間だった。
かろうじて見える周りには長年放置されていたのか埃が積もった本が積んである。
タイトルは……魔法学Ⅰ!?
ということはここ……VRMMO内?
しかし何かが引っかかる。
ともあれVRMMO内ならログアウトしないと。
そう思いメニュー画面を開いて気づく。
ログアウトボタンはどこ?
メニューのどこを探してもログアウトボタンは無い。
どういうこと!?
「確かに昨日私はVRMMOをやっていて……っ!?」
まさか……あの願い事が叶った……てこと?
転生しちゃったの?
どうしよう……。
ま、まずは現状把握よね。
「ステータス!」
そういうと新たに半透明の画面が目の前に現れた。
人物名 :Yuri Lv.1500
ジョブ1 :Battle Mage
ジョブ2 :Not
ジョブ3 :Not
年齢 :5歳
種族 :ヒューマン
HP 160489163721/170000000000 (+169444569539)
MP 25407932329087/25407932329087 (+7054914877505)
STR 99999 (+99000)
VIT 42054 (+41055)
AGI 89358 (+88359)
INT 99999 (+99000)
DEX 75290 (+74291)
LUK 72398 (+31399)
……なによこれ。
メニューとかは普通に使えるみたいなんだけど……
これは……言葉が出てこない。
この際HPが少し減っていることは気にしないけど……ステータス限界値がゲームの時から2桁増えているのだ。
しかも中にはカンストしているものがあり、上級職のはずのバトルメイジが普通のジョブになっている。
そして最後に…………5歳。
自分でも頬が引き攣るのを感じた。
はぁ……。
とりあえずこれで職なしで何もできないなんてことはないって分かったからいいけど。
どこか釈然としないがそう思うことで諦める。
さて、最初はここがどこかよね。
真っ暗なままでは何も分からないので部屋を照らす何かがあればいいんだけど……。
って魔法があるじゃない
確か魔法の中に《ライト》という魔法が……
そう思った瞬間自分の周りに白く発光する球体が現れた。
「……え?」
何が起こったの?
魔法が使えた?
何故?
VRMMO内では、魔法を使うにははキーワードが必要だったはず。
魔法は火・水・風・土・光・闇・無属性の7つの属性から成り立っており魔法ごとにキーワードが決められていた。
そのキーワードさえ入っていればそのキーワードを発することで魔法は発動できた。
例を挙げるとファイアという魔法には『炎』と対象を決めるための『彼の者』ということばが必要で、その二つさえ入っていれば『炎よ彼の者を焼け』という単純なものから『我が内に眠りし炎よ、顕現し彼の者を焼き尽くせ!』など厨二臭い表現でも発動してしまうのである。
もちろん高位魔法になるほどキーワードは長くなるのだが……。
つまり無詠唱で魔法は発動できないのだ。
「これはまずいような気がする」
でももしかしたらここはそういうのが常識な世界なのかもしれない。
ステータスも上限が上がっているみたいだしそうしないと生き残れないほど強い敵が徘徊している可能性がある。
「まぁ今は考えても仕方ないよね……。」
とりあえず光源は確保したけど何ここ。
照らしてみるとここはどうやら地下室のようで、物置として放置されていたようだ。
雑多に物が積まれており階段までの道も物をどかさないと通れないほどだ。
この風景……もの凄く見覚えがある。
それもつい最近。
そう、ここはたぶん……私たちのギルドホームだ。
ギルドホームとはギルドレベルがある一定に達すると貰えるものでギルドの拠点である。
そして地下室を私たちはネタ武器などの倉庫にしていた。
あまりに皆が物を置いたので出入りさえ難しい状況を作ってしまったのだけれど……。
「いくらなんでも置きすぎよね……」
とにかく物が多い。
どかさないと外に出れないのだけれどそこは5歳の体。
重い物をどけるのは難しい。
後から思えばSTRがカンストしてるんだから余裕で動かせたんだけどこの時は私にそんな余裕はなかった。
なので這うように進む。
それにしても……
「んー……んんっ!?ゴホッゴホッ……」
何でこんなに埃溜まってるのよ!
まるで数百年放置されてたみたいに多い。
うう……服と髪が埃だらけになるし、物は倒れてくるし……最悪ね。
おかげで扉までたどり着いたけど。
さて、着いたはいいけどどうしてこう何度も問題が降りかかってくるわけ……?
扉に鍵がかかっていたのである。
地下の寒さは洒落にならないくらいでそう長くいるわけにはいかない。
いっそ魔法で消し飛ばそうか。
そんな物騒なことを思ってると扉の向こうから声が聞こえてきた。
「すいません! 誰かそこいるのですか!? いるなら返事をしてください! 王国騎士団のものです!」
王国騎士団!?
って何……?
何で私たちのギルドホームに部外者がいるの?
それとも関係者かな?
色々な疑問は尽きないが今はここから出られるなら何でもいい!
「ここに……いるわ! 出られないの! ゴホッゴホッ ッ! たす……けて!」
空気が悪く多少咳き込んでしまった……。
でもこれで出ることはできそうね。
良かった……。
だけど私はこの時出られる事の嬉しさから他のことに目がいってなかった。
どうして王国騎士団なんて人達がここに居たのか。
どうして建てたばかりのギルドホームが地下とはいえあんなに老朽化していたのか。
どうして自分のHPが減っていたのか……
視界の端に揺れる銀色のそれに……
そして自分の容姿に目を向けずどうして外に出たのか。
私は酷く後悔するのだった。