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ここはなにかが欠けている

自称好敵手の自滅劇

作者: 浮月重月
掲載日:2026/11/04

王立中央学院では主に貴族と準貴族の子女が学業を修めている。

が、平民も各期に百名程度が学生として在籍していた。


貴族と準貴族の子女は、無試験に加えて学院の諸経費は必要ない。

対して平民の場合、結構高額な学費や制服代などを支払っている。

加えて彼ら彼女らには入学試験も存在し、その難易度は高かった。


格差があるのは事実だが、これは一種のふるい落としを兼ねている。

安いとは言えない学費などの諸経費を工面できる財力があるのか、

貴族や準貴族の子女と同等の学力をきちんと持ち合わせているのか。


平民に門戸を開くとはいえ、将来王国を担うはずの人材育成の場。

そこに将来性を見出せない者や実力不足の者は必要ないのだ。


とは言え、経済的に恵まれずとも優秀な者は確かに存在している。

よって平民枠には特待生制度が存在していた。上位三十名限定で。

この枠内に入っている平民の学生は諸経費が免除されている。

学費だけでなく、制服代や食事代、学生寮の寮費も一切合切だ。


仮に入学時、めでたく特待生となれた者も在学中の油断は出来ず、

期末試験で三十名からこぼれれば特待生資格は失効してしまう。

そうなれば次の期からは学費その他諸経費を支払わねばならない。

六年十二期の間、成績を維持するのは並大抵の事ではない。


まあ学院を目指す平民子女は裕福な家庭が大半を占めていたので、

おのずと特待生を目指す生徒は裕福とは言えない者に限られていた。

特待生でなくなろうとも、退学になる訳ではないのだから。


◆


さて。

現在というか、入学後首席を取り続けているロドという少年がいる。

彼と同郷の者達も一期下にいるのだが、彼女達も優秀で同率首席。

当然のように平民だった彼は特待生の地位にいた。


ただし学生寮は今使用していない。学院近くの借家から通っていた。


理由は複数ある。

彼は孤児院の出で、出身の村を豊かにしたいと思い学院に入学した。

入学してから学問を修める副産物としていくつもの発明品を制作し、

それらが売れに売れた為、膨大な資産を有するに至ったのである。


最初は学生寮にいたのだが、研究するには少々手狭となってしまい、

知人から学院近くの借家を紹介されて同郷の者達と共に移り住んだ。


また同時に、王国の治安と経済、食糧生産に多大な貢献有りとされ、

一代騎士、準男爵、男爵と叙爵してしまい絡んでくる者が増えた。

後ろ盾が王国の大公家、四大名家であるにも関わらず、である。


他人がどう思おうともやっかみで何を言われようとも気にしないが、

露骨に妨害してくる者も出てきた為、雑音を避けたかったのだ。


尤も現在では、彼に絡もうとする者はほぼ現れていない。

理由は借家へ移り住んだ直後に起こった事件に起因する。


◆


「貴様がロドとか言う孤児か。

 貴様の持つ利権は不相応である。我が家へと譲渡しろ」


図書館で大声を上げて言い放ったのは、大公国から来た同期生。

国は違えど王国とは兄弟国の位置づけの為、留学生扱いではない。

この少年、表向きの身分としては平民の特待生となっているのだが、

実は大公国のやんごとなき御方のご落胤と非公式に噂されていた。

実家は王国でも大公国でも名の知れた大商会の次男坊である。

そのせいか、取り巻きも二人ついていた。


「はあっ!?」


声を上げたのは言われたロドではない。隣に座る女子学生である。

彼女はロドに講義で不明だった点を尋ねている最中だった。


「言ってる意味が理解出来ないんだけど、そもそも誰かな?

 さすがに見ず知らずの相手に施しするつもりはないんだけど」


ロドは表情を変えることなくこの少年に問いかける。

実際、彼の世界は同期に対しては狭い。知らない相手ばかりである。

反面と言うべきか教員や軍関係者、王国商工会などには顔が広い。

腕章からすると同期の三期という事は確認出来るのだが。


無意識にこの少年を煽っているのだが、ロドには自覚などはない。

最近減ってはいたが、他人から謂われなく絡まれるのは慣れていた。

相手に見下されて、出自を盾に脅せば言う事をきかせられるだろう、

などと思われているという意識すらない。


自分とは面識のない無関係な人物。主張には正統性の欠片もない。

単にまた妙な相手が絡んできたと考えていた。時間の浪費だなと。


「この俺を知らんとは、いかにも無知無学な孤児らしい。

 ならば教えてやる、大公国金剛石商会の一子、コルンドだ。

 名を聞いたことぐらいはあろう。貴様と同様に特待生でもある。

 この名を覚えておくがいい」


面と向かって物乞い扱い、は気づいていないのか無視したのか。

特待生が誇らしいのか、胸を張って大声で名乗る。というか怒鳴る。

金剛石商会は王国でもそれなりに有名な商会ではある。しかし。


「悪いけど誰が特待生なのかなんて、知る必要もないんだ。

 友人ならともかく、無関係の相手とかどうでもいい事だし。


 それから、商会の一子とか名乗っていたけれど。

 事業の話なら直接僕にではなく商業規約通り王国商工会を通して。

 学院内でどうのこうの言われても対応する訳がない。


 第一、約束も取り付けずに話を持ちかけるってどうなのかな。

 最初は名乗りもしなかったし、全く話にならないよ」


などと嚙み合わない不毛な会話を続けていると、教員が駆け付ける。

最初に声を上げた女子生徒が急ぎ呼んできたらしい。


◆


コルンドは駆け付けた教員に連行、学院長より厳重注意を受ける。

学院内で恐喝行為とは何事か。しかも平民が男爵に向かって。

不敬罪が即時適用されて投獄でもおかしくはないのだぞ、と。


一緒に連れてこられた取り巻き達二人は話の詳細を知らなかった。

絡んだ相手が王国の男爵当主と知り、事の重大さに青ざめている。


当のコルンドは不満顔であり、今一つ良く理解していなかった。

彼は自分ならロドより利権をもっと上手く活用出来ると思い込み、

出自の不確かな孤児より血統正しき者が持つべきと信じていた。


だが、無関係のコルンドがそれを受け取る正当な理由など何もない。

この利権は王国財務局、内務局と王国商工会の下で保証されている。

つまり王国に喧嘩を売っている。民間人は口をはさむ資格などない。


当のロドは「なんか訳の分からない相手が話しかけてきた」程度で、

特に問題視すらしてはいなかったものの、法に照らせば不敬罪確定。


やんごとなき御方のご落胤などと言っても所詮は噂に過ぎない。

学院に提示されているコルンドの身分は公式上平民なのだ。

国は違えど男爵に平民が噛みついて良いはずもない。


◆


コルンドは確かに大商会の次男坊であるが、当然跡継ぎではない。

上に兄一人と姉二人がいて、もう既に商会の幹部として働いている。

上の三人とは母親が異なり辺境伯の元にいた愛人が彼の母親だ。


下賜される形でコルンドの父親に愛人として贈られたのだが、

その後すぐさま妊娠が発覚したため、そんな噂が流れたのだった。


コルンド自身は気に病んでいたのだが、兄と姉達は気にしなかった。

何せ母親が身内としても関わりたくないような癖の強い人物であり、

むしろ愛人の方が人間的に出来ていたためコルンドも可愛がられた。

おかげで甘やかされつつもひねくれ、兄と姉達に恩返しはしたいが、

見返す事もしたいといういびつな感情が芽生えているのである。


とはいえコルンドはまだ十歳であり、功績など普通立てようもない。

知識ある富裕層という事で王立中央学院への入学はかなったものの、

同じ平民の特待生で飛び抜けた存在がいて全く目立てていない。

しかもそいつは孤児だったと言うではないか。


孤児など名誉も利権もふさわしいはずがない。自分にこそ相応しい。

奴さえいなければ功績は自分のものだったはずなのだ。

兄や姉達も自分を誇らしく思ってくれるだろう。


ロドの持つという利権とやらの内容すら知らぬまま突っかかった。

学院長から溜息交じりにそれを聞かされても理解は出来なかった。

「誰かに譲れるようなものじゃない」という事だけは理解し、

コルンドがその場で逆上したため説教は延長された。


◆


夜中の学生寮。

コルンドは、せめて何か奴から奪わなければと気が済まないと、

ロドが使っていた部屋へ侵入と物色を試みていた。


取り巻きの二人はもういない。

絡んだ相手が男爵子息ではなく男爵家当主と聞かされたために、

コルンドを形だけは引き止め、拒絶されたので距離を取ったのだ。

ずるずると引きずってつるんでいれば、自分達の身が危うくなる。

大したおこぼれにも預かれなかった彼らは逃げ足も速かった。


確かここだ。生意気にも一人部屋を使っていると聞いた。

鍵開けの道具も準備している。起こさぬよう気を付けて侵入するか。

扉に手をかける。


動かない。いや、動けない?

扉はびくともしない。いや、鍵開けの道具を使うことが出来ない。

身動きもとれない?目は動かせる。呼吸も出来ている。声が出ない。

首も動かない。足も動かせない。手ももちろん動かせない。

逃げる事すら出来ない。


用を足したくなってきた。でも逃げられない。


そろそろ我慢も限界だ。動けない。


明け方、清掃員が現れた頃には廊下に人だかりが出来ており、

その中心部では小さい泉が出来ていた。


身動き一つ出来ず、声も出せずに泣いている少年の下に。


◆


「あ、忘れてたな」


「ん?何を?」


「寮を引き払う時に、扉に仕掛けてた魔術罠の解除。

 扉に手をかけると周囲に障壁作って逃げられなくするやつ」


「マズくない?ロド兄(にぃ)。外しておかないと」


「そうだね、ローホ。講義前に外しに行くよ」


絡んでくる相手が多かったため、自室に仕掛けておいた罠である。

現行犯なので言い訳も出来ず、停学を喰らった者は十名余りいた。

身動き取れず、不浄に間に合わなかった者は今までいなかったが。


罠の解除に朝一番でロドは向かったものの。

まあ手遅れであった。犠牲者は出ていた。自業自得ではある。

この後より「あいつに絡んだら悲劇が起こる」と周囲に広まり、

在学中の学生で文句を付けようとする者はほぼいなくなった。


コルンドは一週間の停学を喰らったが、その間に自主退学した。

「おもらしご落胤」という異名を残して。


ちなみにロドは普段通りコルンドの顔も名前も覚えていなかった。

教員を呼んだのは「目指すは女性騎士」の少女。


ロドは一代騎士を叙爵し二期から特待生でなくなってます。

ただし準貴族の為、諸経費無料は変わっていません。

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