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王道楽土設計図〜滅びのシステムを書き換える逆転の兵法〜  作者: 桐生宇優


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第十一章:魔都の残響 — 四人の悪党、再臨の夜

一九三二年、三月。

新京の夜は、氷点下の静寂と、建国を祝う狂騒が奇妙に混ざり合っていた。

ヤマトホテルの大広間。豪華なシャンデリアの下で、軍服の金モールとドレスの絹擦れが交差する。

石原莞爾は、バルコニーの影で一人、煙草を燻らせていた。その瞳は、六百年前の湊川で見た夕陽と同じ、燃えるような決意を宿している。


「……石原大佐。こんな場所で一人、何を企んでいる?」


背後から響いたのは、不敵で、どこか潮の香りがする声。

海軍大佐、山本五十六。かつて横須賀の空母『赤城』で魂の契約を交わした「海王・辰巳」が、白の夏服に身を包んで立っていた。


「……辰巳か。いや、今は山本大佐だったな。海軍の至宝が、わざわざ陸軍の泥臭い祝典に何の用だ?」


「フン、お前が『面白いものを見せてやる』と言うから来たんだ。……だが、まだ何かが足りない。俺と、お前。……あと二つ、欠けた歯車があるはずだろう?」


山本の問いに、石原は口角を上げた。その瞬間、会場の空気が一変した。


1. 弥助の「支配」:岩崎彦弥太の沈黙


「失礼。……石原大佐、そして山本大佐。少し、お耳を拝借したい『計算』がありましてね」

静かに、しかし抗いようのない威圧感を持って歩み寄ってきたのは、三菱財閥の若き総帥、岩崎彦弥太だった。


洗練された夜会服。眼鏡の奥に潜むのは、国家一つの予算を瞬時に解体する「経済の魔王」の眼だ。


彦弥太は、二人の前に立つと、懐から銀色のライターを取り出した。

「石原さん。あなたが満州中央銀行の設立に関して提示した『利権分配案』……。あれは、あまりに美しすぎる。まるで、六百年前から私が準備していた『帳簿』の続きを読んでいるようだ」


彦弥太はライターの蓋を跳ね上げた。カチン、という金属音が静かに響く。

その側面には、誰にも見えぬほど精緻に、「幾何学模様の菊水」が刻まれていた。


「……弥助。三菱の城を手に入れても、まだ足りないか?」

石原の言葉に、彦弥太の表情が初めて崩れた。冷徹な仮面の下から、かつて河内の蔵で泥まみれになりながら「若君!」と叫んだ少年の、熱い忠義が顔を出す。


「……若君。いえ、石原さん。三菱の金があれば、この時代の『兵站ロジ』は、湊川の時よりもさらに完璧です。……一銭の狂いもなく、勝利を買い取ってみせましょう」


2. 梓の「魅惑」:川島芳子の毒


「……あら、男臭い密談ですこと。仲間外れは寂しいわ」


三人の緊張を切り裂くように、妖艶な、しかし少年のような鋭さを持つ声が響いた。

群衆を割って現れたのは、軍服を纏い、短髪をなびかせた男装の麗人——川島芳子。


「東洋のマタ・ハリ」と謳われ、大陸の裏社会を支配する彼女は、蛇のようなしなやかさで三人の円陣に割り込んだ。


「山本大佐に、三菱の若旦那。……そして、関東軍の異端児、石原大佐。……これだけのメンバーが揃って、何を企んでいらっしゃるの?」


芳子は不敵に微笑みながら、石原の胸元にそっと指を這わせた。その指先が、石原の軍服の上から、彼が隠し持っている銀のメダルを正確に捉える。


「……梓。君は、今度は王女の仮面を選んだのか」


石原が低く囁くと、芳子の瞳に一瞬、深い絶望と、それを上書きするほどの激しい狂恋の色が宿った。

彼女は、手に持った扇子をひらりと翻した。その内側、誰の目にも止まらぬ場所に『湊川の約束』と一筆書かれていた。


「……やっと。やっと見つけた。私の、正成様」


芳子は石原の耳元に唇を寄せ、周囲が凍りつくような甘い声で囁いた。


「あなたの影になるために、私は王女の誇りも、女の幸せも、すべて捨ててこの泥沼を泳いできました。……今度は、毒矢の一本も、あなたの背中には通させない」


川島芳子という仮面の下で、梓の魂が泣いていた。六百年の孤独を埋めるための、あまりに劇的な、そしてあまりに危険な再会。


3. 四人の「悪党」:歴史への宣戦布告


石原莞爾、山本五十六、岩崎彦弥太、川島芳子。

戦略、海軍、財閥、諜報。

この時代における「最強のカード」を握った四人が、ヤマトホテルのバルコニーで、満州の闇を見つめていた。


「よし。役者は揃った」


山本が煙草の煙を吐き出す。「……で、石原。この四人で、今度は何を壊すつもりだ?」

石原は、三人の友を振り返った。

「……壊すのではない。書き換えるんだ。……昭和の日本が辿り着く『一九四五年』という名の絶望。……それを、我々の『悪党の知略』で粉砕し、夢と希望に満ちた『戦後』へ、この国を強引に着地させる」


「面白い。……三菱の金は、そのための弾薬ですね?」

弥助(彦弥太)が、眼鏡を押し上げる。


「大陸の裏も表も、私の糸でがんじがらめにしてあげますわ」

梓(芳子)が、唇を真っ赤に塗り直す。


石原は、夜空に輝く北極星を見上げた。

「……前世で敗れたのは、我々ではない。歴史という名のシステムだ。……だが、今度は違う。我々自身が、そのシステム(歴史)をハックしてやる」


一九三二年、新京。

六百年の時を超え、四人の「悪党」による、二度目の、そして最後の大逆転劇が、静かに、しかし確実に幕を上げた。


「魔都の残響 — 四人の悪党、再臨の夜」をお読みいただき、ありがとうございます!

ついに、昭和という巨大な戦場に「四人の悪党」が揃い踏みしました。

石原、山本、岩崎、川島。

史実では決して交わることのなかったこれらの「巨星」たちが、六百年前の湊川での約束を胸に、一九四五年の絶望を回避するために立ち上がります。

彼らが手にした「昭和の最強カード」をどう切っていくのか。そして、石原が軍服の下に隠し持った未来の記憶が、どう歴史をデバッグしていくのか……。

「四人がバルコニーに並び立つラストに鳥肌が立った!」

執筆意欲がマックスになるよう【☆☆☆☆☆】評価やブックマークで応援をお願いします!

次回、第十二章。

ついに始動する「石原機関」。

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