ポストエーレ解放戦 終
このポストエーレの戦場の多くの兵の死が引き金となり、アヴニルの内側で、何かが限界を越えた。
「……っ、あ……」
左眼が焼けそうなくらい熱い。
みんなを救いたい、守りたい。
その瞬間――
ヒストリアボードの歴史がまた書き換わる。
だが、アヴニルも力を使った代償か気絶する。
ポストエーレ解放戦において、ダヴァーラ将軍と魔竜が立ちはだかり、ポストエーレを解放しようとするものたちの多くの犠牲が出る。
だが――
シャルル王が所有する聖なる槍が、
それらを貫き、ポストエーレは解放される。
ヒストリアボードが書き換わると同時に――
シャルルの槍が、威光を放つ。
「なっ……!?」
ダヴァーラ将軍の顔に、
初めて明確な動揺が浮かぶ。
「……槍が……!」
標的が、完全にシャルルへと切り替わる。
魔竜と、ダヴァーラによる猛攻。
だが――
「させるかよ!!」
ルートヴィヒが斬り込む。
「今だ!」
ジェドが叫び、
カイラルが体を張って援護する。
一瞬の――
ほんの一瞬の隙が魔竜とダヴァーラ将軍にできる。
「行け、シャルル!!」
ルートヴィヒの叫びが、背を押した。
シャルルは、威光を放つ槍を突き上げる。
先ほどまで何度も数多の刃を弾いてきた硬い鱗が、
嘘だったかのように――
肉を抉り、そのまま――
ダヴァーラ将軍の身体をも貫通する。
「っ――!?」
声なき断末魔。
魔竜と将軍は、ヒストリアボードが書き換わった通り戦場に崩れ落ちた。
「……これが……」
シャルルは肩で息をしながら、呟く。
「これが……アヴニルの力……」
歓声が上がる。
アルシュトーレン兵も、
フラムヴァーレ兵も。
ガドライア兵は、
投降する者、逃げる者、なおも抗う者がいた――
だが、もはや戦況は決していた。
ポストエーレ解放戦は、
アルシュトーレン公国・フラムヴァーレ王国、両国の勝利となり終わりを迎えた。
――約二千四百名の犠牲の上で。
街を支配していた鎖は断たれ、
民の中には喜び、涙する者もいた。
だが同時に、不安そうに空を見上げる者もいた。
この解放戦をきっかけに、
事前にヴァレンシア大公によって流言されていた国々が――
ついに、声を上げ始める。
ヴァレンシア大公は、気を失ったままのアヴニルを抱え、シャルルの前に歩み寄った。
「シャルル王。よくやってくれた。改めて、感謝する」
「ええ。こちらこそ」
シャルルは頷く。
「この勝利は、ガドライア帝国を打ち滅ぼすきっかけになるでしょう。
ですが……あなたのやり方は、褒められたものではない」
ヴァレンシアは、苦笑した。
「自分でも、よく分かっているさ」
だが、視線を逸らさずに続ける。
「それでもな。こんな私についてきてくれる兵がいる。民がいる。今さら、己を曲げるわけにはいくまい」
彼女は、アヴニルを抱く腕に、わずかに力を込めた。
「多くの英雄を失った。
……だからこそ、彼らの意志を背負って、私は戦う」
「ならば」
シャルルは胸に手を当て、はっきりと言った。
「我が国も、改めて誓おう。共に戦うと。
死んでいった英雄たちに。
そして、未来を変えようとする者たちに――」
振り返り、声を張り上げる。
「兵士諸君!我々はまたしても、ガドライア帝国に――いや、運命に勝利した!」
一拍置き、叫ぶ。
「死んでいった同胞にも、今一度聞かせてやれ!
勝利の叫びを!!」
ポストエーレの街全域に、雄叫びが広がった。
「この地獄を、生き延びたんだ!」
ヴァレンシアが高らかに笑う。
「今日は、たらふく飲め!!」
その言葉を合図に、勝利の宴が始まった。
だが――
アヴニルは、まだ目を覚まさない。
「ヴァレンシア大公! 一緒に飲みましょう!」
ルートヴィヒが、いつもの調子で声をかける。
「お前は、どれだけ私が好きなんだ!」
「めちゃくちゃであります!」
二人のやり取りに、周囲から笑いが起きる。
その笑い声の中で、眠ったままのアヴニルだけが、静かに取り残されていた。
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