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ポストエーレ解放戦 魔竜

翌朝。ヒストリアボードの歴史はそのままフラムヴァーレの敗走を書き記していた。

ポストエーレの街は、遠くから見ても堅牢ということが見てとれた。


シャルルたちにとってガドライア帝国から国を守る戦いではなく、攻める戦いは初だった。

嫌でも緊張する。少量の酒をあおるものもいた。


「いくぞ!」

だが、臆することなく、ヴァレンシアが剣を掲げる。


「突撃ぃ!!」


ポストエーレの街へ、約七千の兵がなだれ込む。


フラムヴァーレも、アルシュトーレン公国も両国は洗練された兵を有していた。


――そしてフラムヴァーレには、

わずかな兵力で一万の大軍を退けた実績がある。


一方、ガドライア帝国の兵たちは違った。


勝利するという歴史が記された未来だけを信じて戦ってきた彼らは、

フラムヴァーレ防衛戦によって敗戦した以来、明らかに士気を落としていた。


数では勝っている。

それでも――前に出る足が、鈍る。


そして、フラムヴァーレとアルシュトーレン公国の強さは、洗練された兵の技量だけではない。


声だ。


大地を揺るがすような咆哮が、

味方の士気を押し上げ、同時にガドライアの兵の士気を削っていく。


飛竜兵と騎馬兵が戦場を駆ける。

鎧のぶつかる音、刃の打ち合う音がこのポストエーレの街を満たす。


ヒストリアボードに記された歴史が、嘘であったかのように――

ガドライアの兵は倒れ、逃げ、投降するものすらいた。

そして確実にその数を減らしていった。


「いけるぞ!」

「勝てる!!」


兵たちが叫び、互いを鼓舞し合う。


――だが。


街の最奥に鎮座していた“それ”が、咆哮し動いた。


先代レキシによって生み出された魔竜。


飛竜の五倍はあろうかという巨躯。

その背に跨るのは、ダヴァーラ将軍。


「フラムヴァーレ王国、アルシュトーレン公国の雑兵どもよ!」


一人の声とは思えぬように戦場に響く。


「我が戦鎚と――魔竜の力を、その身をもって味わえ!」


魔竜が羽ばたき、尻尾を叩きつけ、ダヴァーラ将軍の戦鎚が振るわれる。


弓矢や、槍、剣を果敢に振るうもその全てを弾く魔竜。

「だ、だめだ……逃げろ!!」

「刃が……通らねえ!!」


鈍い音が響き、飛竜兵も騎馬兵も例外なく――

次々と兵士が叩き潰されていく。


アヴニルは魔竜を見据え、左眼に力を込める。

だが――


ヒストリアボードは、以前沈黙したままだ。


やはり歴史は書き換わらない。


「冗談じゃねえ!」


ルートヴィヒが、ガドライア兵の喉元に刃を突き立てながら叫ぶ。


だが――


ヴァレンシアは、相変わらずだった。

高笑いしながら、魔竜を指さす。


「はっはっはっ! 皆、見ろ!」


狂気すら帯びているように感じる。


「あれが魔竜だ!

――なんと荘厳じゃあないか!!」


そのヴァレンシアの姿を見て、

なぜか士気を高めるアルシュトーレン兵たち。


恐怖ではなく、昂揚が伝染していく。


その最前線へ、シャルルが歩み出た。


槍を構え、名乗りを上げる。


「ダヴァーラ将軍と見受ける!」


その声は、ダヴァーラ将軍と同じように戦場を満たす。


「俺は――無謀王子シャルル!尋常に勝負しろ!!」


二人の“王”が、魔竜に立ち向かう。


――あの無謀王子、またか!!


カイラルは、前線を突き進むシャルルの姿を見て、思わず息を呑んだ。

だが、眼前の敵を無視することなどできない。

歯を食いしばり、尚も剣を振るう。


シャルルは、汗を滴らせながらも冷静に魔竜の猛攻をかいくぐる。

隙を突き、渾身の力で槍を突き立てた。


ガキンッ!


やはり刃は

――通らない。


一瞬、動きが止まったその瞬間を、

ダヴァーラ将軍が逃すはずもなかった。

ブオンッ!

ダヴァーラ将軍の持つ巨大な戦鎚が振り下ろされる。


だが――


「くっ……!」


ルートヴィヒが、間一髪でそれを弾く。


「……っ!?なんて、パワーしてやがんだ……!」


その背後で、アヴニルが踏み込む。


だが次の瞬間、魔竜が咆哮し、尻尾を振るう。

それはまるで巨大な鞭のようであった。


アヴニルは弾き飛ばされ、地面を転がる。


「――アヴニル!!」


脚から血が滲み、本来曲がらぬ方向に曲がっている。


その光景を見て、

ヴァレンシアは――ニヤリと笑った。


そして、自らの剣を投げ捨てる。


「……なっ!?」


シャルルの声が裏返る。


ヴァレンシアは、迷いなくアヴニルへ駆け寄り、

華奢な体躯からは想像もつかぬ力で抱き上げた。

お姫様抱っこの形で――


「はっはっはっ!!見ろ、ダヴァーラ将軍!!」


高笑いが、戦場に響く。


「彼こそが!!君たちのガドライア帝国を脅かす“レキシ”そのものだよ!」


ダヴァーラの視線が、ぴくりと動いた。


次の瞬間――

標的が、ヴァレンシアへと切り替わる。


「……やれやれだ」


ルートヴィヒは、呆れたように呟く。


ヴァレンシアは、アヴニルを抱えたまま、

のらりくらりと攻撃をかわしていく。


「みんな!!死ぬ気で、私を守れ!!」


そして、アヴニルに向かって叫ぶ。


「そして、君は――早く!ヒストリアボードを書き換えろ!!」


ルートヴィヒ。

シャルル。

ジェド。

カイラル。

そして、名も知らぬ兵士たち。


彼らは、壁となり、刃となり、

ヴァレンシアとアヴニルを守って戦った。


――そして。

一人、また一人と、倒れ戦場に散っていく。


「どうだ!!」

ヴァレンシアの声が、容赦なく突き刺さる。


「私と君のせいで、皆が死んでいくぞ!!

アレックスも! ゼンも!もう……死んでしまった!!」


その言葉が、犠牲が増える現実が

アヴニルの心を抉る。


「――うあああああああっ!!」

アヴニルの咆哮。


その叫びに呼応するように、

アヴニルの左眼の文字が書き換わっていく。

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