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ルートヴィヒ

――ガドライア帝国――


王ファウストは、何十年という歳月を経ても、老いることなく王座に座していた。

それは、先代レキシによって――

不老の歴史を定められていたからだ。


だが今、そのファウストは、苛立ちを隠せずにいた。


ヒストリアボードの運命が、書き換えられた。

――あり得ないはずのことが、起きたのだ。


「……ちっ」


乾いた音が響く。


バチンッ。


少女の頬が打たれ、細い身体が床に倒れる。


「お前が……出来損ないだからだ!!」


怒号を浴びせた相手は、ファウスト自身の娘だった。


少女の名はリーネ。

ファウストの実の娘であり、レキシの力を宿す者。


ファウストは、すでに狂っていた。


先代レキシによって王になる運命を定められたその瞬間から、

もはや彼は元の自分ではなかったのかもしれない。


王として君臨するため、

人としての理も、性格すらも――

王になると定められた歴史によって矯正された存在。


「すみません……お父様……」


リーネは頬を押さえることもなく、

ただ地に伏し、頭を下げて謝罪した。


「なぜだ……!」


ファウストの怒声が、玉座の間に響く。


「他にもレキシの力を持つ者がいると、なぜ知らせなかった!!」


リーネは、答えなかった。

答えられなかった。


ただ、謝罪を繰り返す。


――フラムヴァーレ城――


フラムヴァーレ義勇団は正式にフラムヴァーレの兵士となった。


そして――


フラムヴァーレ城には、一人の客人が訪れていた。


「おやおや……驚いたな!本当に生きているじゃないか、シャルル王子」


にやりと笑い、軽い口調で言う。


「いや、今は――シャルル王、だったかな?」


「貴様……王に向かって……!」


周囲の兵が声を荒げる。


「よい」


シャルルが手を上げて制した。


「その者は、友人だ」


男の名は、ルートヴィヒ。


ガドライア帝国と長年にわたり戦を続けてきた

アルシュトーレン公国の騎士である。


「久しぶりだな、シャルル」


軽口を叩きながら、ルートヴィヒは一歩近づく。


そして、核心を突くように言った。


「――フラムヴァーレにも、レキシがいるんだろう?」


その言葉に、あたりの空気が張りつめた。


ルートヴィヒは、話を続ける。


「知っての通り、我がアルシュトーレン公国は、ガドライア帝国と長年戦争をしている」


ルートヴィヒは、肩をすくめる。


「まあ、今は一応落ち着いてはいるがな。

……だが、なぜガドライア帝国が、あれほどの大国であり、ヒストリアボードを書き記す力を持ちながら、我が国に苦戦しているか……分かるだろう?」


「――レキシの存在だな」


シャルルの即答に、

カイラルがわずかに目を見開くが、口は挟まなかった。


「その通りだ」


ルートヴィヒは頷く。


「レキシが死んでから、ヒストリアボードに新たな預言が書き記され始めたのは、ここ数年だろう?」


「……ああ」


「つまりだ。

ガドライア帝国は――

“書き記す力”を持つ新たなレキシを手に入れたか、

あるいは、ようやくその力を使えるようになった」


それは、あくまで推測。

だが、筋は通っていた。


「先代レキシは、この時代までの歴史しか記していなかった。

今、ヒストリアボードに新たな歴史を書き込んでいるのは……別のレキシだ」


ルートヴィヒは、静かに続ける。


「そいつは、アルシュトーレン公国を滅ぼす未来を書こうとした。

だが――書けなかった」


「……なぜだ?」


シャルルが問う。


ルートヴィヒは、薄く笑った。


「簡単だ。我が国アルシュトーレン公国も、レキシを“保有している”からだ」


空気が、一段重くなる。


「そいつの能力は、すでに書かれた歴史を書き換えることはできない。

だが、新たな歴史を“妨害”することはできる」


「ただし……」


一拍置く。


「力は中途半端だ。妨害できるのは、アルシュトーレンに関する歴史だけ」


「……なるほど」


シャルルは、ゆっくりと息を吐いた。


「だから、ガドライア帝国は、我が国をすぐには滅ぼさなかった。いや、滅ぼせなかった。

ヒストリアボードに“確定した歴史”として書き記さない限り、動けないからだな」


「ああ」


ルートヴィヒは、苦笑する。


「あいつらは臆病者だ。

ヒストリアボードに書かれていない歴史には、踏み出せない」


そして、視線を鋭くする。


「だが――この前の歴史は、書き換えられた」


シャルルを、真っ直ぐ見据えた。


「フラムヴァーレのレキシが書き換えたんだろう?」


「…………」


「その力があれば、ガドライア帝国を倒せる。力を貸せ、シャルル」


軽く言うが重い要請だった。


シャルルは、頭の中で情報を整理する。


レキシは、少なくとも三人いることになる。


・新たな歴史を書き記すレキシ

・歴史を書き記させないレキシ

・そして、アヴニル――

 書き記された歴史を新たに書き換えるレキシ


もしかするとまだ、他にもいるかもしれない。そう思慮する。


「なぜだと思う?」


シャルルは、ふと問いかけた。


「なぜフラムヴァーレは、ガドライア帝国に狙われた?」


ルートヴィヒは肩をすくめる。


「大方、他の属国への牽制だろ。

よからぬことを考えれば、こうなるってな。深い意味はないだろうよ」


軽口のようで、その目は冷静だった。


「それと……」


一拍置いて、にやりと笑う。


「シャルル、お前がいずれ障害になると踏んだんじゃねえか?無謀王子だしな」


「……それが裏目に出たわけだ」


「ああ。見事にな」


二人は、少し笑みを浮かべ目線を交わした。


ルートヴィヒへの答えは、すぐには出さなかった。

その夜、ルートヴィヒは城に泊まることになる。


シャルルは、アヴニルと二人きりで話していた。


「……アヴニル」


名を呼ぶだけで、言葉は続かなかった。


「言わなくても分かるよ、シャルル」


アヴニルは、静かに答える。


「僕は、シャルルに力を貸す。

でも……僕の力は完全じゃない。

どうやって歴史を書き換えたのか、自分でも分からないんだ」


不安を隠さない声。

だが、シャルルはすでに覚悟していた。


「それでいい。ありがとう、アヴニル」


そして、はっきりと言う。


「明日、お前の力のことを皆に話そう。

――ルートヴィヒにも」


「……覚悟は、できてるよ」


アヴニルは、そう答えた。


翌日。


「で、どうだ?」


ルートヴィヒが、いつもの調子で切り出す。


「力を貸してくれる気になったか、シャルル?」


「ああ」


シャルルは一歩前に出る。


「――アヴニル」


名を呼ばれ、アヴニルはゆっくりと左目の眼帯を外した。


文字の浮かぶ瞳。


「……アヴニルが、レキシ……?」


カイラルが、思わず声を漏らす。


「すまない、カイラル」


シャルルが頭を下げる。


「皆を信用していなかったわけじゃない。

ただ……アヴニルが打ち明けてくれたことを、

俺の口からは言葉にできなかった」


「……みんな、ごめん」


アヴニルも、申し訳なさそうに俯く。


「かっけーじゃねえか、アヴニル!」


元義勇団の一人が、笑いながら声を上げた。


「お前のおかげで、うちの無謀王子は助かったんだぜ!」


場に、笑いが広がる。


それでも、アヴニルの表情は曇ったままだ。


「……僕が、ちゃんと力を使えていたら……

ゼイア王も、アルドフも……みんな、救えたかもしれないのに」


「だが」


シャルルは、真っ直ぐに言う。


「お前は、これからもっと多くの人を救えるかもしれない」


アヴニルは、ゆっくりと顔を上げた。


その様子を見て、ルートヴィヒがニヤリと笑う。


「なるほどな……こいつがレキシの一人か」


そして、軽い口調で続けた。


「じゃあ、信頼の証ってやつだ。

アルシュトーレンのレキシも紹介しとかねえとな」


そう言って、右目に嵌めていた

コンタクトのようなものを外す。


そこにあったのは――

あの、文字の浮かぶ瞳。


「初めまして。俺が、アルシュトーレン公国のレキシだ」


ルートヴィヒは、悪びれもせず笑った。


「お前……! 今まで隠してたのか!」


シャルルが声を上げる。


「当たり前だろ」


ルートヴィヒは肩をすくめる。


「ガドライア帝国の属国であるフラムヴァーレに漏れたら危ねえからな」


その場に、重い沈黙が落ちたが、さらに続ける


「だけど、これからは違うだろう?シャルル」


「ああ。我がフラムヴァーレ王国はアルシュトーレン公国と手を取り、ガドライア帝国と戦うことを誓おう!!」


フラムヴァーレ王国の王シャルルはアルシュトーレン公国と同盟を締結することを誓った。

評価していただけると大変喜びます


戦記もののイベント昨日まであったの知りませんでした…

誰かが楽しんでくれれば嬉しいです。

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