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幸せな時間を君と

  初めて会ったあとも、何度かリィナと街で偶然会って話すことはあった。だが花屋を訪ねる勇気は出せずにいた。

 その日、アヴニルは緊張した面持ちで佇んでいた。リィナから渡された紙を握り、花屋の近くの路地まで来たものの、足が止まってしまったのだ。


 「……迷惑じゃないかなぁ」

 ぽつりと呟くが、意を決して歩みだす。


 小さな背中をむけ、花の手入れをしている子がいた。揺れる金の髪を見て、リィナだと確信して声をかける。


 「リ、リィナ」


 その言葉で彼女は振り向き、笑顔を見せた。

 「アヴニル!来てくれたんだ!ちょっと待ってて、あと少しで終わるから」


 その言葉にアヴニルもホッと胸を撫で下ろし、近くのベンチに腰をおろしてボーッと時間を潰すことにした。


 それほど時間が経ったわけでもないのに、リィナが手を振り駆け寄ってくる。


 「おばさんに言って、はやめにあがらせてもらっちゃった」

 息を切らせながら、目を細めて笑う。


 わざわざ僕のために、と思ったがなんだか恥ずかしくて口に出せなかった。


 「ど、どこに行こっか?」

 少し吃りながら尋ねるアヴニル。


 「うーん、景色綺麗なとこがいいな」

 斜め上を見て考える仕草をする。


 「少しはずれたところの丘がすごく綺麗なんだ。馬に乗らないとだけど」


 アヴニルがそう言って歩き出すと、リィナは自然と手をとりついてきた。

 突然、繋がれた手に戸惑いながらも、アヴニルはそっと握り返す。


 「馬、乗ったことある?」

 そう言いながら自身の馬に慣れた手つきでまたがる。首を振るリィナに手を伸ばし、引っ張りあげる。


 「しっかりつかまってて」

 リィナは言われるがまま、アヴニルの腰に手を回しギュッとつかまる。

 アヴニルは深く考えてなかったが、状況を俯瞰で見て緊張し、ドキドキと鼓動が一気に早まった。


 蹄鉄の音とともに土が蹴り上げられ、風を切って進む。

 しばらくすると丘に辿り着き、その先に木々と花に覆われた絶景が広がる。


 二人は馬から降り、ぽつぽつと話しはじめる。


 「綺麗……ありがとう、アヴニル。こんな景色初めて」

 「気に入ってくれて嬉しいよ」

 握った手に汗が滲む。


 「私、数年前からしか記憶がないの。まるでその時に生まれたみたいに、気づいたらフラムヴァーレの国にいて」

 アヴニルにもたれかかりながら語り出す。その話を黙って聞いていた。


 「これからもアヴニルと一緒にいたいの。でも、アヴニルは兵士だから、また戦争に行っちゃうんでしょ? だから……もし戦争に行っても絶対生きて私のもとに帰ってきて」

 「うん。絶対リィナのもとに戻ってくるよ。約束する」


 互いに景色を見たまま喋っていたが、ふと目が合い、そっと口付けを交わした。

 初めて触れた唇は、ほんのり湿り気があり温かかった。


 顔がゆっくり離れ、少し照れたような顔でリィナが見つめる。

 「はい、これ御守り」

 差し出した手には、手作りの押し花のプレートが握られていた。


 「ありがとう。でも……僕なんも用意してなくて」

 はっとした表情で頬を赤らめるが、少し俯いて答えた。

 「知ってる」

 そう言ってにこりと笑う。


 しばらく2人は肩を寄せ合いながら喋り、フラムヴァーレの街へと戻っていった。


 そして、新たな戦争が始まろうとしていた。

心が折れてました

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