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講和の使者 

――ハドリニアフ大戦――


 大国ハドリニアフ王国とアルシュトーレン公国連合軍による大規模な戦争は、多くの兵の血を流しながら続いていた。


「陛下!アレンツ将校の率いるエレメイア遠征軍が、合流したとの報告がありました!」

「ようやく、アレンツが」

 ジェラール王は将校アレンツの合流を嬉々と迎えたかったが事態は軽くなかった。


 戦争開始からしばらくして、ハドリニアフ王国の主力部隊――将校アレンツ率いる軍も前線へと合流したが、彼の不在中に前線はすでに押し込まれていたのだ。

 兵の損耗だけではない。食糧輸送の滞り、戦争による治安悪化への対応に追われ、ハドリニアフ王国の王ジェラールは疲労を隠せずにいた。


「ええい、あの女狐め!自分らも苦しいだろうに、心中するつもりか!」


 ジェラールの予想どおり、アルシュトーレン公国連合軍もまた、この戦に兵力を注ぎ込みすぎたことで深刻な兵糧問題を抱えていた。


 だが――ヴァレンシアには思惑があった。

「はっはっはっ!そろそろハドリニアフ王国も、大国とはいえ様々な対応に嫌気がさしている頃だろう」


 ――頃合いか?


「ハドリニアフ王国へ使者を向かわせろ!」

「ここは俺が行きましょう」

 ルートヴィヒが一歩前へ出る。


「本気か?」

 さすがのヴァレンシアも驚きを隠さなかった。アルシュトーレン公国が有する唯一のレキシであるからだ。


「お前は我が公国の切り札だ。それを死地へ送り込めと言うのか?」

「戦場も十分死地でしょ」


 笑いながら皮肉を言い、ルートヴィヒは続ける。

「ここが正念場なんでしょう。この戦争が続けば、どちらにせよ我々も厳しい。すでに兵からも不満が出ています」


「はっはっはっ!お前もいい男になったな!行ってこい!もしお前が切られたら、我が国は決してこの戦、引かぬだろう」


 こうしてルートヴィヒは、使者として敵国の本拠へ単身向かうことになった。


――ハドリニアフ城――


「ジェラール王!アルシュトーレン公国より使者が参りました!」

 兵の報告に、ジェラールは即座に声を荒げた。

「なに!?自ら戦争を仕掛けておきながら使者だと!?我がハドリニアフに勧告でもする気か?即座に叩き切ってくれるわ!」


「ジェラール王、お気持ちは分かります。しかし我が国も疲労困憊しております。話を聞くべきでしょう」


 そう進言したのは、ハドリニアフ王国宰相ポートワンであった。

 ジェラール王は怒りを隠しきれぬ様子だったが、しばし沈黙の後、使者の謁見を許可した。


 ルートヴィヒは使者として王城へ迎え入れられ、兵士に見張られながら歩を進めていた。


「おう、こえーこえー……雰囲気がピリついてやがる……」

 思わず漏れた独り言だったが、こうなることは最初から分かっていた。


 王の間へと辿り着く。


「アルシュトーレン公国の使者、ルートヴィヒと申します。この度はアルシュトーレン公国大公ヴァレンシアより、講和の申し出をしに参りました」


「講和だと!?馬鹿にしているのか!!」


 ジェラール王が玉座から怒鳴る。

「そちらから仕掛けた戦であろう!」


 ルートヴィヒは一切目を逸らさず、静かに返した。

「我がアルシュトーレン公国の同盟国、エレメイア王国へ行軍したのはハドリニアフ王国だと認識しておりますが?」


 さらに一歩踏み込む。

「そして、そちらもこの戦争を続けることに意味がないと理解しているのではありませんか?このまま私を斬り、戦争を継続すれば、アルシュトーレン公国大公ヴァレンシアは決して引かないでしょう。仮に勝利を得たとしても、ハドリニアフ王国は確実に痩せ細る。違いますか?」


「貴様ら、一体何が言いたい」


「痩せ細った大国ハドリニアフ王国を、ガドライア帝国が見過ごすとお思いですか?」

 ルートヴィヒは畳みかける。


「さらに言わせていただきますが、ガドライア帝国はこの戦争に援軍を出していますか?」


 ジェラール王は言葉を失った。

 援軍要請は出していた。

 だが、返答はなかった。

 ヒストリアボードに書き記されぬ戦――自国のためには踏み越えられても、他国のためにまで運命を越える覚悟は、ガドライア帝国にはなかった。


「元々、ガドライア帝国に要請され、エレメイア王国へ行軍したのでしょう?ですが、そのガドライア帝国は力を貸さない。もしかすると、ハドリニアフ王国の国力が落ちるのを待っているのではありませんか?」


 ジェラール王の胸中に、嫌な予感が広がっていく。

 疲弊したところを、ガドライア帝国に狙われる。

 現にあの帝国は、かつて属国フラムヴァーレへ侵攻した前例があるのだ。

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