ハドリニアフ大戦
――ハドリニアフ王国――
アルシュトーレン連合軍を観測したとの報せを受けた、ジェラール王は、苦虫を噛み潰したような表情で命じた。
「アレンツのもとへ、すぐに知らせよ!そして兵たちは戦の支度だ!」
玉座の間に、強い声が響く。
「我が大国ハドリニアフ王国の軍の強さを、あの女狐に思い知らせてやれ!」
言葉は冷静で、判断も迅速。
だが――胸中には、苛立ちが渦巻いていた。
(ヴァレンシア・ヴェルストレートめ……味な真似を……!)
アルシュトーレン公国連合軍
「そろそろ、我らの動きも観測される頃でしょうな」
ルートヴィヒが口にする。
「ああ」
ヴァレンシア・ヴェルストレートは、楽しげに笑った。
「だが、この大機を見過ごすほど――わたしはおとなしくない」
馬上で、胸を張る。
「今まで、ハドリニアフ王国には手を出せなかった。それに今は、ロアルテューヌ王国とマウリッツ王国の運命までも背負っている」
振り返り、行軍中の兵たちを見る。
「昂るだろう?」
その表情は、まるで戦場ではなく――
デートにでも向かうかのように、嬉々としていた。
――フラムヴァーレ王国――
エレメイア陥落からの撤退後、アルシュトーレン公国からの使者が、シャルルの前に立つ。
「シャルル王……ヴァレンシア大公より、言伝です」
申し訳なさそうに、言葉を選びながら告げる。
「我が国は、エレメイア王国への救援には応じず……マウリッツ王国、ロアルテューヌ王国とともに、ハドリニアフへ進軍する――とのことです」
「……なっ」
シャルルの口から、思わず声が漏れた。
「同盟国であるエレメイア王国を、巻き込んだのはヴァレンシア大公ではないか……それを、見捨てたというのか……」
理屈では、分かっていた。
アルシュトーレン公国とエレメイア王国の距離。
ガドライア帝国とハドリニアフ王国、二国を相手取る現実。
小国エレメイア王国が耐えられないことなど、考えるまでもない。
それでも。
感情が、先に口を突いて出た。
アヴニル。
カイラル。
ジェド。
誰もが拳を握りしめ――
何も、口にしなかった。
――アルシュトーレン公国連合軍――
「見えたぞ! ハドリニアフ軍だ!大層なお出迎えじゃあないか!さあ、兵士諸君――わたしたちの死に場所はここだ!蹂躙せよ!!」
その号令とともに、連合軍が雄叫びを上げ、ハドリニアフ軍と激突する。
アルシュトーレン軍 約一万五千
ロアルテューヌ軍 約二千
マウリッツ軍 約三千
――総勢、二万。
迎え撃つは、大国ハドリニアフ。
エレメイア侵攻軍を除いた兵力、約二万八千。
誰も引かず、誰も譲らない。
大規模な戦争が、ここに始まった。
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