歴史に頼らぬ戦争 意志を無駄にせぬ者たち
――エレメイア国――
エレメイアの将校ヴォーバンは、剣を構えた。
眼前には、アレンツ率いる、ハドリニアフ軍がなだれ込んでくる。
その隣で、アーロイ王もまた、剣を抜く。
「……ここまで、か」
静かに息を吐き、ヴォーバンを見る。
「ヴォーバン。すまんな」
「何をおっしゃいます、陛下」
ヴォーバンは、笑った。
「――楽しかったですぞ。最後まで、お供いたします」
僅かな兵数で、二人は前へ出る。
忠義と誇りだけを携えて。
アレンツは、その光景を見て、敬意を抱く。
剣を構え、さらに盾を構える。
「……いい顔だ」
戦いは、一方的だった。
その頃。
フラムヴァーレ軍は、ついにエレメイア王国へと辿り着き、ガドライア帝国、ハドリニアフ王国と戦闘を行なっていた。
「……城が……!」
アヴニルが、声を失う。
「……遅かったか」
ジェドが、絞り出すように呟いた。
その直後――
ハドリニアフ国とガドライア帝国の兵が、勝利の雄叫びを上げながら引いていく。
それが意味するものは、ひとつ。
――王の首が、取られた。
やがて、フラムヴァーレ軍にも報が届く。
将校アレンツにより、エレメイアの王アーロイは討たれた。と――
シャルルは、歯を食いしばる。
なおも戦おうとするエレメイア兵たちを受け入れながら、撤退を命じた。
守れなかった国。
救えなかった王。
この勝利は、ガドライア帝国の士気を、大きく高めた。
一方。
ヴァレンシア・ヴェルストレートは、軍を率いて進軍していた。
その背後には、マウリッツ王国とロアルテューヌ王国の軍もある。
ヴァレンシアは、空を見上げ、低く呟く。
「……すまないな、アーロイ王」
そして、いつもの不敵な笑みを浮かべる。
「もし私が、地獄ではなく天に昇ることがあれば――高級な酒を、持っていこう」
戦争は、さらに大きな段階へと進もうとしていた。
――ハドリニアフ国――
エレメイア王アーロイが討たれた――
そのほぼ同時刻。
ハドリニアフ王ジェラールのもとへ、凶報がもたらされた。
「陛下!アルシュトーレン大公、ヴァレンシア・ヴェルストレートが――アルシュトーレン公国、マウリッツ王国、ロアルテューヌ王国の連合軍を率い、我がハドリニアフ王国へ進軍中とのこと!」
ジェラールは息を呑む。
「……主力は、まだエレメイアだぞ……?」
理解した瞬間、アーロイの背筋が冷える。
時は、少し遡る。
マウリッツ王国の王フランソワと、ロアルテューヌ王国の王セオドアのもとへ、ヴァレンシア大公からの間者が到着していた。
「……なに?」
報せを聞いた二人は、言葉を失う。
「ガドライア帝国とハドリニアフ王国がエレメイアを攻めている間に――ハドリニアフ王国へ、攻め入る……だと?」
誰かが、吐き捨てるように呟いた。
「……悪魔か、あの女は」
ヴァレンシアは、分かっていた。
エレメイア王国へは、距離的にも、兵力差的にも――間に合わない。
それでも、ごく少数ではあるが、兵を送った。
それは、彼女なりの小さな贖罪だったのかもしれない。
だが。エレメイア王国の犠牲を、無駄にするつもりはなかった。
ガドライア帝国が、ヒストリアボードを使えない今。
その同盟国にして大国――
ハドリニアフ王国を攻め入れば、戦況は一気に傾く。
それが、ヴァレンシアには見えていた。
彼女はレキシではないが、まるで未来を見通しているかのように。
「帝国を倒すためなら、悪王にもなろう!」
ヴァレンシアは高らかに笑う。
「はっはっはっ!なあ、ルートヴィヒ!私はクズか?」
「まあ、クズですな」
即答だった。
「だが、芯がある。だから私は、あなたが好きなのです」
「……照れるじゃあないか」
ヴァレンシアは、なおも馬を走らせる。自らの悪行が大義であると信じるために。
――フラムヴァーレ軍――
シャルル率いるフラムヴァーレ軍は、辛うじてエレメイア王国からの撤退に成功していた。
「……くそ……」
シャルルは歯を噛みしめる。
「同盟国であるエレメイアを、守れなかった……まさかガドライアが、ヒストリアボードを書き記さない戦争を起こすとは……」
拳を握る。
「予想できたはずだ。……それでも、止められなかった」
「すまない……エレメイアの兵士諸君……」
だが、生き残った兵の一人が、首を振った。
「いいえ。我々は、アーロイ王の決断についていったのです」
兵は、まっすぐに言う。
「王は、ガドライア帝国による圧政に苦しむ各国の現状を、常に嘆いておられた。……許されるならば」
一瞬、言葉を切り。
「道半ばで倒れたアーロイ王の無念を、晴らしたい」
その言葉を聞いた瞬間。
シャルルやアヴニルたちは、必ずガドライア帝国を滅ぼすと、改めて誓った。
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