力の条件と成長する王
――フラムヴァーレ王国――
シャルルたちは、アルシュトーレン公国軍と別れ、フラムヴァーレ王国へと帰還していた。
ポストエーレは解放後、アルシュトーレン公国の統治下に置かれる運びとなった。
そして――
アヴニルによって存在を書き換えられたシャルルの槍は、いまなお聖なる槍として威光を放っている。
その光は、眩くレキシの異質な力を彷彿とさせるものであった。
「おい、無謀王子」
ジェドが、かつての異名で呼びかける。
「ヒストリアボード……なんか結構なヒビ、入ってねえか?」
空を仰ぐ。
ポストエーレ解放戦の後、ヒストリアボードの亀裂は、明らかに広がっていた。
シャルルは、静かに考える。
――歴史を書き換えるたびにヒビが入っているのか?それともヒストリアボードを壊す力を無自覚にアヴニルが使っているのか……どちらにせよ、
胸の奥に、確信が芽生える。
ヒストリアボードは――
壊せる。
アヴニルは、帰国後しばらくして目を覚ました。
意識が戻ると同時に、ポストエーレ解放戦の記憶が、鮮明によみがえる。
ヴァレンシアに言われた言葉。
「私と君のせいで、皆が死ぬ」
力を持ちながら、使いこなせない。
救えたはずの命が、救えなかった。
コンコンと扉を叩く音がし、その後すぐに扉が開く。
「やっと目覚めたかよ!アヴニル!シャルルたちにも伝えてくるぜ!」
ジェドがアヴニルの目覚めを確認すると、慌ただしく駆けていく。
アヴニルは、自身の無力さを噛み締める。
シャルルは、ジェドからアヴニルが目を覚ました報を受けアヴニルの元へ行く。
「良かった!目を覚ましたんだな!脚の調子はどうだ」
「うん……。なんとか、大丈夫だよ――シャルル僕のレキシの力なんだけど……」
言いにくそうに口を開く。
「おそらく、誰かが犠牲にならないと発動できない……しかも、人数だったり関係値とかが影響するのかは分からない。でもなんとなく犠牲が出ないと発動できないのは、分かるんだ……」
「そうか。心に留めておくよ。とりあえず今は安静にしろ」
シャルルは少し考え、その言葉だけ残した。
――レキシであることが、何よりも重い。
シャルルはアヴニルの様子を見た後、カイラルから声をかけられていた。
「またしても……ヴァレンシア大公から文が届いております。私は、嫌な予感がします」
「……だろうな」
シャルルはそう答え、文を開いた。
新たに、マウリッツ王国、ロアルテューヌ王国、エレメイア王国の三国がガドライア帝国に対し、開戦の意を示した。
さらに、数か国と非攻撃協定を締結したとのこと。
「……」
シャルルは、静かに息を吐く。
「ヴァレンシア大公は、かなりのやり手のようだな。どこまで見通していたのやら」
「ですな」
カイラルは腕を組む。
「とはいえ、小国ばかり。依然として、ガドライア帝国とその同盟国の方が、兵数では上でしょう」
「ああ」
シャルルは否定しなかった。
「だが……何年も反旗を翻さなかった国々が、こうして声を上げ、協力し合っている」
窓の外のヒストリアボードを見上げる。
「それ自体が、奇跡のようなものだ。
アヴニルや……ヴァレンシア大公のおかげだろう」
一拍置いて、カイラルが言った。
「シャルル」
珍しく、呼び捨てだった。
「あなたのおかげでもあるのですよ」
シャルルは、何も言わなかった。
ただ、その友人の言葉を――
確かに、胸に受け止めた。
――ガドライア帝国――
またしても、リーネは殴られていた。
そして彼女は度重なるレキシの力の使用によって、疲弊し力を使えない状況にあった。
床に倒れ伏す彼女を、ファウストは見下ろす。
「なぜ、こうもお前は出来損ないなんだ!」
二度の歴史書き換えによってファウストは激昂する。
実の娘であるリーネにとって、父ファウストは――
ヒストリアボードよりも“絶対”の存在だった。
だが。
その絶対が、少しずつ、揺らぎ始めている。
――本当に、お父様は正しいのだろうか。
初めて芽生えた疑念は、まだ小さく、しかし確かに、そこにあった。
コンコンと扉を叩く音がする。
「ファウスト王。お取り込み中失礼します。数か国が……よからぬことを考えているようです」
そう口を開いたのは、帝国の若き宰相・モーデルだった。
「ここは一つ、準備が整う前に叩くべきかと。レキシを有していない国――たとえば、エレメイア王国などはいかがでしょう」
慎重に、だがはっきりと告げる。
「もっとも……我が国の兵は敗戦続きで士気が低下しております。同盟国であるハドリニアフに、兵の援助を要請すべきかと」
ファウストは、沈黙した。
「……だが」
重い声で言う。
「リーネは疲弊している。新たに歴史を書き記すことはできん」
その言葉に、モーデルは一歩踏み出した。
「ファウスト王」
語気をわずかに強める。
「無礼をお許しください。――我々も、ヒストリアボードを乗り越えるべきです」
緊張が走る。
「リーネ王女の力に頼らずとも、勝利を手にすることは可能です」
そして、覚悟を示すように続けた。
「もしお気に召さぬなら……この場で、私の首を刎ねていただいても構いませぬ」
そう言い自らの剣の柄をファウストへと差し出す。
ファウストの指が、震える。
――恐怖。
ヒストリアボードに書かれていない歴史へ踏み出すことへの、純粋な恐怖。
だが。
ファウストは、その恐怖を押し殺した。
「……よい」
低く、命じる。
「エレメイアを、落とせ」
その一言で、帝国は一線を越えた。
ヒストリアボードに頼らぬ戦いが――
今、始まろうとしていた。
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