絆の戦術
勝敗よりも、
心に残るものがある。
隣に立つ相手を信じること。
それが、戦いを難しくする。
このアカデミーで、
“二人”で進む覚悟が問われる。
九条さんが再び撃ってきた。三発のエネルギー弾が僕に向かって飛んでくる。反応する時間はほとんどなかった。糸を横に投げて素早く移動し、何とか直撃を避ける。
だが数秒後、また撃ってきた。最初の一発はかすっただけだったが、残りの二発が地面に着弾し、小さな爆発を起こした。その衝撃でよろめいてしまう。
「どうしたのよ?あんた、相手の動き読むの得意なんじゃなかったの?」
九条さんがリボルバーを装填しながら嘲笑してくる。
返事はしなかった。彼女の動きを分析することに集中していた。リボルバーは速いが、各射撃には最小限のリロード時間が必要だ。そこが僕のチャンスだ。
フィールド全体に糸を展開しようとする。罠を作るためだ。しかし九条さんは時間を与えてくれなかった。素早く動き、連射で僕を後退させ続ける。
「これが限界?」
九条さんは射撃の精度が高いわけじゃない。それも気づいた。でも彼女はすごく自信満々だ。ということは、リボルバーか弾に何か特別な仕掛けがあるはずだ。でも何だろう?
考える時間はない。新しい反撃の戦略を立てなければ。
距離を取ろうとしている間、九条さんがフィールドの構造物を有効活用しているのが見えた。軽やかに動きながら、射撃と戦略的な位置取りを組み合わせている。エネルギー弾は速いだけじゃない。危険なほど破壊力がある。
何とか弾の一つを糸で捕らえた。だが衝撃があまりにも強く、反撃できる前に糸が切れてしまった。
九条さんは僕の試みに気づいて、四方八方に撃ち始めた。反撃の機会を完全に潰すつもりだ。
「糸使いの男子にしちゃ、思ったより遅いじゃない。もっと楽しめると思ったのに」
彼女が直接僕に向けて連射してきた。糸を盾として使うしかない。大半の弾は防げたが、一発が防御を貫通して肩に当たった。エネルギーの衝撃が走り、後退させられる。
痛みが腕全体に広がっていく。でも止まるわけにはいかない。九条さんは有利な状況を築いている。この状況を逆転する方法を見つけなければ、このバトルはすぐに終わってしまう。
九条さんは僕の気の緩みに気づき、その瞬間を利用して真っ直ぐ弾を撃ってきた。ぎりぎりで避けたが、着弾が近すぎて地面に投げ出された。
起き上がろうとしている間、九条さんの嘲笑する声が近づいてくるのが聞こえた。
「アヤったら、あんたみたいな弱い奴のこと大げさに言ってたってわけ」
次の攻撃に備えなければ。勝つチャンスを掴むなら、全力を出すしかない。
九条さんは優越感に満ちた笑みを浮かべながら、リボルバーを僕に向けた。自信が彼女の一挙一動から溢れている。
「ここで終わりよ、糸使いの男子。認めなさい。あたしに勝つチャンスなんて最初からなかったのよ」
彼女の言葉が頭の中で響く。でも諦める代わりに、その過度の自信を僕の有利に使うことにした。
彼女が話している間も、糸はフィールド全体に展開され続けていた。構造物の影にほとんど見えないように。九条さんは僕を仕留めることに集中しすぎて、僕も最後の一手を準備していることに気づいていない。
彼女がエネルギー弾の連射を放ってきた。
今回は避けようとしなかった。代わりに、糸を前方に投げ、近くの構造物に絡めて全ての構造物を彼女に向けて投げつけた。
「――何やってんのよ!?」
彼女が反応する前に、周囲の構造物全てが彼女の上に落ち始めた。
「きゃああああっ!!」
この環境の構造物は重そうに見えるが、糸を巻きつければ動かせる。彼女に気づかれないように糸を張り巡らせて、タイミングが来たら全て糸で繋がれた構造物を、逃げ場のない彼女の位置に落とす。それだけのことだった。
金属的な声が空気中に響き、バトルの終わりを告げた。
「ウィナー:アレン・ウェバー」
アイアンハートさんは口を開けたまま固まっていた。僕が勝ったことを受け入れられないようだ。一方、九条さんは地面に膝をついて、何か考え込むような、そして悔しそうな表情をしていた。
デジタルフィールドが消え、二人は沈黙したまま、気まずそうに僕を見ていた。
「こ、これで……これで終わりだと思うなよ、糸使いの男子」
九条さんが立ち上がりながら言った。プライドを保とうとしているのが分かる。
アイアンハートさんもようやく我に返ったようで、九条さんに近づいた。でもまだ起きたことが信じられないという顔だ。僕を睨む表情には怒りが滲んでいる。間違いなく、これで彼女はさらに僕を嫌いになった。どう解決すればいいのか分からない。話しかけようとしても、全く聞いてくれないだろう。
二人が怒りながら去っていくと、僕はもう我慢できなくなった。脚が力を失い、仰向けに倒れ込んでしまう。
疲れた。
あの状況で、女性と戦うのに恐怖が発動しなかったのはなぜだろう?それとも、彼女が距離を取って戦ったから影響を受けなかっただけなのか?
どちらにせよ、このバトルで40ポイント獲得した。そして、少し成長できた気がする。
手が震えて止まらない。目を閉じて、落ち着こうとした。
もっと状況を整理する前に、別の声が聞こえてきた。今度は柔らかくて親しみやすい声だった。
「起き上がるの、手伝おうか?」
突然、霧崎さんが現れた。
えっ!?
驚いて視線を向けると、彼女が隣に立っていた。でも、この体勢はまずい。僕は地面に倒れていて、彼女は立っている。この角度から……見えちゃいけないものが見えてしまうかもしれない。
慌てて視線を逸らした。
でも一瞬だけ、彼女の表情が目に入った。心配そうな顔で、助けようとしてくれている。
まだ地面に倒れたまま、ゆっくりと体を起こして座った。彼女を見上げたけど、言葉が出てこない。手がまだ震えているのを感じながら。
「すごかったよ!あたし、いつもびっくりしちゃうんだよね。アレンくんの戦闘バトル、毎回新しい技が出てくるんだもん」
彼女の言葉に戸惑った。
本当に……僕がそんな風に見えるのか?
霧崎さんが突然ここに現れた理由を聞きたかった。でも、言葉がうまく出てこない。
「あ、あ……」
彼女は気づいたようで、考え込み始めた。
「あたしに何か聞きたいの?」
頷いた。彼女はまた少し考えてから――
「んー……あたしがどうやってここに来たのか知りたいのかな?」
また頷いた。それと同時に驚いた。どうして彼女は僕の疑問をすぐに当てられるんだろう?
「偶然出くわしたのよ。女子寮から出たばかりで、周りを見渡したらあなたのバトルが目に入ったの。あの全部映し出す画面、本当に便利よねー」
彼女は僕の隣に座った。それ以上何も言わずに。
久しぶりに、少しだけ孤独じゃない気がした。心の中の混乱はまだ続いていたけど。
彼女はいつもより落ち着いているように見えた。口調が変わって、さっき起きたことの重さを軽くしようとしているみたいだった。
「アヤさん、あの時のことでまだ怒ってるなんて信じられないよ!話も聞いてくれないし、今度は他のクラスの友達まで連れてきて、あたしたちを戦わせるなんてさ」
彼女は少し間を置いて、九条さんとアイアンハートさんがいる方を見た。
ここからでも、あの二人が今喧嘩しているのが見える。
霧崎さんが僕の方を向いて、突然聞いてきた。
「ねえ、アレンくん……あなたが女子を怖がるようになったのって、何があったの?あたしに教えてくれる?」
彼女の言葉に完全に驚いた。
胸が締め付けられて、周りの空気が全部重くなったような気がした。何か言いたい、全部説明したい。でも口が言葉を形にできない。
彼女を信じていいのか分からなかった。こんなに辛いことを、どうやって話せばいいんだろう?
沈黙が答えになったみたいだった。
霧崎さんは無理に聞こうとしなかったし、急かすこともなかった。でも動かなかった。隣に座ったまま、空を見上げていた。
横目で一瞬だけ、彼女を観察した。
横顔が穏やかで、静かで、ほとんど温かく見えた。説明しにくいけど、一瞬だけ、彼女が僕を守ってくれる人の隣にいるような気がした。まるで姉のような、信頼できる誰かのような――いや、僕のほうが年上なのに、なんか変だな。
何か言おうと口を開きかけた時、知らない男子が僕たちの前に現れた。
彼の身だしなみは完璧で、よく調整された眼鏡が鋭く分析的な視線を反射していた。
「失礼、君は霧崎りん、Fクラスの生徒かな?」
霧崎さんは興味深そうに彼を見て答えた。
「そうだけど、何か用?」
「自己紹介しよう。私は佐々木颯樹、審判委員会のメンバーだ」
彼の声は形式的で正確で、よく練習されたスピーチに慣れているようだった。
霧崎さんは眉を上げて、明らかに困惑している。
「あたしの名前、どうして知ってるの?何の用なの?」
佐々木さんは眼鏡を直して、厳粛な口調で続けた。
「審判委員会のメンバーとして、私は教師の許可を得て、過去の試験記録や統計を確認する権限がある」
一瞬、その言葉を分析した。審判委員会のメンバーは生徒の記録にアクセスできる。でも彼らも生徒だ。これって少し……逆効果じゃないか?
「君の統計データには、私たちが求めている潜在能力がある。細部への注目力と分析能力が際立っている。だから、委員会に参加してほしいと思っているんだ」
霧崎さんは更に困惑した様子で彼を見た。
「でもあたし、Fクラスだよ。無理じゃん」
「それは問題じゃない。次の試験で努力すれば、クラスを変更してもらえる。能力を証明すれば、簡単に昇格できるはずだ。才能を無駄にしないでほしい」
霧崎さんは数秒間、じっと彼を見つめてから、瞬きもせずに答えた。
「やだ」
佐々木さんは霧崎さんの返事を聞いて固まった。
「え?少し考えて――」
霧崎さんは少し首を傾げて、まるで自分の言語を理解できない人に話しかけるみたいだった。
「やだって言ったの。耳、洗ってないの?やだよ!」
佐々木さんはますます困惑しているようだった。
「お願いだから、帰って」
霧崎さんの口調はとても断固としていて、佐々木さんは一歩後ずさった。明らかに驚いて、頭を下げて、完全に打ちのめされた表情で去って行った。
霧崎さんは彼が去るのを見てから、僕の方を向いていたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「もっといい眼鏡を勧めてあげればよかったかなー?」
思わず軽く笑ってしまった。霧崎さんの何気ない一言が、バトル以来ずっと感じていた緊張を少しだけ和らげてくれた。
でも突然、霧崎さんが立ち上がって手を差し出してきた。
「さあ、アレンくん! 今日はまだまだ見るものがいっぱいあるんだから。バトル一つとか変な会話で一日を台無しにしちゃダメだよ!」
しばらく彼女を見ていたけど、その手は取らなかった。自分の力で立ち上がって、頷く。震える手を落ち着かせようとしながら。
一緒に戻る道すがら、彼女が前に聞いてきたことが頭から離れなかった。いつか全部話せる日が来るんだろうか?
週末はあっという間に過ぎた。特に問題もなく、ゆっくり休むことができた。
* * *
月曜日。ついに、ポイントイベントの日がやってきた。
古橋先生がクラスに入ってきて、このイベントがどう組織されるのか説明し始めた。
「みんなー、アカデミーでの初めてのイベント、準備はできてる?」
目の端で霧崎さんを見た。彼女がどんな反応をするのか知りたくて。でも彼女はとても落ち着いて見えた。視線を先生の説明に戻す。
「説明させてもらうわね。これはクラス対抗トーナメントなの。通常なら、各クラスから最大四人の代表が参加するんだけど、このクラスの特殊性があってね……」
先生が皮肉そうに微笑みながら一度言葉を切った。
「今年はルールが変更されたの!」
誰も何も言わなかった。教室全体が完全な静寂に包まれていた。
「このクラスからは二人だけが参加することになるわ」
どういう意味だ? 誰かが質問する前に、先生が続けた。
「参加者は二人一組のチームよ。そのうちの一人はアレンくん、このクラスで唯一の男子だからね」
心臓が一瞬止まった。
「アレンくん、一緒に組む人は決まってる?」
先生がそう言っても、何も考えられなかった。つまり、このイベントは混合トーナメントだから参加を強制されるってこと? 今、参加を強制されている。
周りを見回すと、アイアンハートさんがからかうような表情でこちらを見て舌を出していた。隣の霧崎さんは僕を見つめて、何かを理解しようとしているようだった。もっと遠くを見ると、ハサウェイさんがチラリと横目で見ている。黒神さんを見たけど、彼女は動きもせず、こちらを見ることもなく、ただ先生の方を向いていた。
この決断に準備ができていなかった。その期待の重さに息が詰まった。どうしてこんなことに……と思いながら、頭の中で状況を処理しようとしていた。
そして、ほとんど反射的に、霧崎さんの方に顔を向けた。
彼女は僕の視線に気づくと、人差し指で自分を指して、まるで「あたし?」と聞いているような表情をした。好奇心と困惑が混ざった顔だった。
先生は僕の反応に気づいて、満面の笑みを浮かべた。
「りんさんをチームに入れたいのね。わかったわ」
信じられない速さでスマホを取り出して、人間離れしたスピードでタイピングし始めた。
「もう二人の名前で申請書を埋めちゃった。忘れないでね、あなたたちはFクラスの代表なんだから。勝ったらポイントはクラスメイトたちにも行くの。だから最善を尽くしてね!」
もう後戻りできないことはわかっていた。でも不思議と気にならなかった。心の奥底で、本当に霧崎さんをパートナーにしたかったんだと感じていた。
先生にはイベントについて他にも伝えることがあるようだった。
「さて、トーナメントのルールについてね……言った通り、今年は少し変更されたの。あなたたち二人は他の一年生のクラスと対戦することになるわ。各チームが自分のクラスを代表して、ラウンドを進んでいくのが目標よ」
説明は明確だったけど、先生の口調がより真剣になった。
「でもね、ここからが本当の挑戦なの。各バトルには三つの異なるチャレンジがあって、その時の審判を務める先生が設定するわ」
先生がデジタル黒板に書き始めた。
「そのチャレンジを達成してバトルに勝てば、ボーナスポイント付きで次のラウンドに進めるの。勝ってもチャレンジを達成できなければ、それでも進めるけど、知っておくべきことが二つあるわ」
言葉に重みを持たせるように間を置いた。
「一つ目:追加ポイントを獲得するチャンスを失うの。各バトルでは合計最大50ポイントまで獲得できるけど、チャレンジなしでは勝利だけの最大ポイントになるわ」
黒板に説明の例が表示された。
「二つ目:決勝戦まで進んで、前のバトルのチャレンジを達成していなかった場合、ペナルティに直面することになるの」
先生が背筋の凍るような笑みを浮かべた。
「例えばね、合計二キロメートル走るチャレンジがあって達成できなかった場合、シナリオが通常より大きくなったり、移動を制限する障害物でいっぱいになったりするかもしれないわ」
霧崎さんが手を挙げた。
「それって相手チームにも影響するの?」
「しないわ。ペナルティはチャレンジを達成しなかったチームだけに適用されるの。シナリオが同じでも、相手チームは同じ制限を受けないわ」
目に見えない重さが肩にのしかかった。追加の障害物に直面するという考えは恐ろしかった。
「あ、それと最後にもう一つ。私もどこかのバトルで審判を務めるわ。もし当たったら、私のチャレンジに怒らないでね? とりあえず今日はこれで全部よ。しっかり準備してね、二人とも。トーナメントは数分後に始まるから!」
先生が教室を出ていくと、空気が複雑な感情で満たされた。少なくとも僕にとっては。
横目で霧崎さんを見る。彼女は落ち着いているように見えたけど、その目には今まで見たことのない決意が宿っていた。
どうして僕なんだ……と心の中で問いかけながら、霧崎さんが僕の方を向いて自信に満ちた笑顔を向けてきた。
先生が教室に戻ってきて、僕と霧崎さんにトーナメントのイベントが行われる教室に向かうよう指示した。
廊下を歩きながら、プレッシャーを感じた。一歩一歩が重く、拷問のようだった。まるで刑が宣告されたみたいに。
このイベント用に割り当てられた教室に着くと、他の一年生のクラスの生徒たちがもっとたくさんいた。
周りを見回すと、この教室は教室というより小さなアリーナのようだった。照明は明るく、観客席は空っぽで、これが非公開の競技になることを示していた。
他のクラスの生徒たちが、「Dクラス」「Eクラス」と表示された画面の前に集まっているのが見えた。まずはEクラスのチームに視線を向けた。
男子は……本当に普通だった。人混みに紛れたら、すぐに見失ってしまいそうなタイプだ。黒髪に、リラックスした姿勢。特別な何かを感じさせるものは何もない。だが、彼の相方は正反対だった。赤毛の髪を後ろでまとめて、額を出している女子。その瞳には自信に満ちた輝きがあった。
次に目を向けたのはDクラスのチーム。赤毛の男子は攻撃的な雰囲気を纏っていた。動きに迷いがなく、その笑みはどこか挑発的だ。まるで、もう勝利を確信しているかのような――。隣にいる相方は、短い黒髪の女子。その目には純粋な怒りが宿っていた。威圧感が凄い。彼女の存在だけで、場の緊張が一段と増しているような気がした。
Cクラスのチームへ視線を移す。金髪の男子は、Dクラスの奴とは真逆だった。幸せそうで、どこか呑気な雰囲気。大げさなジェスチャーと大きな笑い声で、注目を集めている。しかし、彼の相方は全く違った。同じ金髪だが、はるかに真面目で控えめだ。相方の冗談にほとんど反応せず、まるで慣れっこになって無視しているようだった。
Bクラスのチームを見た時は、思わず驚いてしまった。男子がとにかく高い。おそらく二メートル近くある。疲れた姿勢で、常に文句を言っているような様子は、どこか場違いに見える。対照的に、彼の相方は小柄だった。彼と並ぶと、その差は一層際立つ。金髪を二つに結んで、何も言わないが、相方への苛立ちが表情から滲み出ていた。
そして最後に、名門Aクラスのチーム。男子は落ち着いた雰囲気で、銀髪が教室の光に反射して輝いている。表情には余裕があるが、同時に責任感のようなオーラも感じられた。隣にいる相方は、黒髪をポニーテールにまとめた女子。その目は鋭く、まるで周囲の全ての動きを分析しているかのようだ。二人とも完璧に息が合っている。まるで、こういう大会の経験が豊富なベテランのような――。
軽い不安が胸をよぎった。強い。それは明らかだ。
だが、霧崎さんを見ると、彼女の自信に満ちた笑顔が少し落ち着かせてくれた。
「あたしたちのスキルを信じましょう」
霧崎さんがそう呟きながら微笑む。
本当に、彼女がチームにいてくれるのは幸運だ。彼女がこんなに頑張っているんだ。僕も応えないと。
その時、教室のドアが開き、一団が入ってきた。全員の視線がそちらに向く。アカデミーの学園長、副学園長、そして何人かの教師たち。古橋先生と、先週見かけた気さくな雰囲気のオズワルド先生も一緒だ。
どうやら学園長が、このイベントの開会の挨拶をするらしい。
「親愛なる諸君!アカデミー初の公式イベントに臨む君たちの姿、実に頼もしい限りである!」
年齢の割に、驚くほど元気な口調だった。話しながら手を大げさに動かしていて、少しコミカルに見える。
「このトーナメントは、単なる競争ではない。諸君らの実力を証明し、絆を深め、真の可能性を見出す好機である!全力を尽くし、己の限界を超えてみせよ!」
言葉自体は励みになるものだったが、あの年齢であれだけエネルギッシュなのは、やっぱり少し不思議だ。見た目とのギャップが凄い。
「加えて、このトーナメントは諸君らの教師によって評価される。これはチームワークと戦略の試練である。ここでの結果は、アカデミーにおける君たちの評価に影響を与える。決して軽んじてはならぬ」
最初の言葉の後、学園長は同席している教師たちに向けて手を振った。
「これらの教師たちが、バトルの審判を務め、チャレンジを設定する。既に承知の通り、チャレンジは追加ポイントを獲得し、将来的なペナルティを回避するために不可欠である!よって、与えられる課題には細心の注意を払うように!」
教室が一瞬静まり返った。全チームが情報を処理している。
そして、学園長が付け加えた。
「では――ポイントイベント、開始である!」
興奮と緊張が空気を満たした。
霧崎さんと一緒に教室の隅へ移動し、最初のバトルに呼ばれるのを待つ。冷静でいようとしているが、心臓の高鳴りは抑えられない。
このイベントは始まりに過ぎない。だが、ここから先、物事はもっと難しくなっていくだろう――それは分かっていた。
――次回。
次に始まるのは、
ただの対戦じゃない。
組まれたチーム。
逃げられない条件。
そして、繋がれた手。
信頼は武器になるのか、
それとも足枷になるのか。
勝敗の裏で、
誰かの心が静かに揺れ始める。
アカデミーの戦いは、
少しずつ形を変えていく。
この先を、どうか楽しみに待っていてほしい。




