表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/70

観察と護衛

秘密基地での協議を経て、計画は静かに、しかし確実に動き出す。


ケンの介入により、アカデミーの制約を無視して「解放」された力 。


夜明けの冷気と不気味な霧が立ち込める中、監視任務に就くFクラスを待ち受けていたのは、計算外の事態だった 。


システムの外側で蠢く影と、突如として現れた「介入者」の正体とは 。

秘密基地は静まり返っていた。僕の言葉が空中に漂った後、全員の視線が小次郎に注がれている。Fクラスの後輩が提案を処理する様子を観察した。彼の目に映っているのは恐怖じゃない――以前に気づいたあの計算の渦が、新たに背負った責任の重みで加速されているだけだ。


小次郎はゆっくりと息を吐き、無意識に姿勢を正した。既に彼の最大集中のサインとして僕の中でカタログ化されていた仕草だ。


「彼らの一人を捕まえる……か」


小次郎が繰り返す。声は低いが明瞭だ。


「リスクは高いが、論理的だね。最も具体的な未知の変数だ。だけど……」


彼が一呼吸置いた。僕は軽い承認の衝動を感じた。その「だけど」は、小次郎が盲目的に受け入れていないことを意味する――分析しているんだ。


「だけど直接的な捕獲は、たとえ成功しても相当な二次的問題を生み出すよ」


「説明してくれ」


椅子に寄りかかりながら促した。小次郎の推論を聞きたかった。


「第一に、彼らのメンバーの一人が消えれば、他の者たちに警戒されるだろう……」


小次郎が指を一本立てながら始める。口調は方法論的で、教育的だ。


「第二に、この基地を危険に晒さない安全な拘束場所が必要だ。第三に、たとえ捕まえて尋問しても、その情報は限定的か偽物かもしれない。そして第四、最も重要なのは――その者の不在だけでも、仲間による事態のエスカレーションを引き起こす可能性がある。アカデミー全体をさらなる警戒態勢に置くか……最悪の場合、僕たちが対処できない報復を引き起こすかもしれない」


軽い笑みを抑えきれなかった。僕が考慮していたのとまったく同じ問題の連鎖だ。小次郎は一手だけを見ていない――三手先まで見ている。


「その通りだ。捕まえることが最終目標じゃない。手段だ。でも無期限に観察だけしているわけにもいかない。第一手の情報が必要だし、たとえ僅かでも彼らのゲームのバランスを崩して、どう反応するかを見る必要がある」


「それなら二段階作戦を提案するよ」


小次郎が結論づけ、彼の目に抑えきれない熱意の閃きが見えた。それは真剣さの層の下に辛うじて隠されている。


「第一段階は集中的な監視とパターンのマッピング。一個人だけじゃなく、グループ全体の。彼らのルーティン、集合地点、可能な目標を理解しなければならない。第二段階は選択的な捕獲だけど、僕が挙げた二次的変数をコントロールできる時間と場所で実行する」


いいな、と思った。学者じゃなく、現場指揮官のように考えている。理論は実践に従属する。


「了解した。でも効果的な監視と最終的な捕獲のためには、広い範囲と複数の角度をカバーする必要がある。チームが必要だ」


メインスクリーンに投影されたアカデミーの地図に向き直った。ケンは既に黒服の男たちの目撃地点を散らばった赤いアイコンでマークしていた。


「僕のグループは既にある程度の連携と補完的なスキルがある」


考えながら続けた。


「監視段階のために以下のチームを提案する。アヤとかんな。二人の同調性は素晴らしいし、バトルでのモニタリングとデータ収集に理想的なスキルを持っている――もしあいつらが何か痕跡を残すならね」


「論理的だね」


小次郎が呟きながら頷く。


「戦闘ユニットか……あの先輩たちが僕を救ってくれたのを覚えているよ」


「りんとひめか」


続けた。自分の名前を聞いて、りんは缶で遊ぶのをやめて背筋を伸ばした。


「りんはカリスマがあって、鋭い社交的本能を持っている。溶け込んで控えめに質問することができる。ひめかは……」


恥ずかしそうに見える彼女に視線を向けると、目を伏せた。


「君の場合は特殊だ。もしかしたら君の……エーテリアルとの異常な繋がりが、ある種のセンサーとして機能するかもしれない。もしあの男たちが彼らと繋がっているなら、何か感じ取れるかもしれない」


ひめかがほとんど気づかないほど小さく頷き、携帯を胸に抱きしめた。


「エリザは僕と一緒だ。彼女の迅速で冷静に考える精神性はいい均衡になる。そしてエドワーとマリが別のチームを組む。二人とも控えめで几帳面だ。レンはここで予備要員として、後方支援と通信を担当する」


その時、ずっと黙って地図を見ていたアヤが、画面から目を離さずに話した。


「目撃情報のタイミングを見直してたんだけどさ。ランダムじゃないわ。部活動が終わった後の45分の枠と、エーテリアルの警報が記録される20分前に集中してる。偵察か起動のパターンね」


その情報は盤上の金の駒のように落ちてきた。瞬時に吸収した。


「よくやった、アヤ。それで時間枠が決まる」


小次郎に向き直った。


「君のクラス。誰よりもよく知っている。どう配置する?」


小次郎は一秒間目を閉じ、まるで頭の中でグリッドを視覚化しているようだった。目を開けた時、決断は明確だった。


「弱点の補完と強みの増幅に基づいたチームだ……」


宣言した。


「マルコとひなた。マルコのカリスマと演劇性はドアを開いたり陽動を作れる。一方、ひなたの規律と義務感が彼を集中させ、すべてを几帳面な精度で記録するだろう」


まだ静かな観察者の役割にいるルカイが、論理を承認するかのようにわずかに頭を傾けるのに気づいた。


「イワンとアンヌ」


小次郎が続ける。


「イワンは物理的な安全保障と戦術的思考を提供する。アンヌは……」


小次郎が一瞬ためらい、言葉を探す。


「アンヌは最も怖がりだけど、それが彼女を超警戒にする。他の者が見ない危険を察知する。イワンが彼女の錨になれるし、彼女が彼の早期警戒システムになれる」


興味深い、と思った。最も弱い者を切り捨てていない――彼女の弱点を専門化された資産として再定義している。ランクじゃなく、役割の観点で考えている。


「涼太とアビゲイル」


小次郎が続けた。


「涼太のフィクション文化に培われた陰謀論的パラノイアは、純粋に論理的な心が見逃すような異常なパターンやシナリオを特定できる。そしてアビゲイルの異常なものへの学術的魅惑が、涼太が集めた『奇妙な』データを、馬鹿げたものとして判断せずに分析するのに最適だ」


「そして最後に」


小次郎がルカイを直接見ながら言った。彼は腕を組んで片眉をわずかに上げながら聞いていた。


「ルカイとサラ。ルカイは究極の観察者で、他の者が見ないものを見る。サラは繋ぎ役で、人々を動かし士気を高く保てる。二人一緒なら『現場アナリスト』になれる――対象が何をするかだけじゃなく、周囲の環境の反応も解釈できる」


ルカイは無表情を保ったが、最小限の頷きを検出したと思った。


「しっかりした配置だ」


認めた。


「でも能力の問題がある。僕のグループには……利点がある」


慎重に言葉を選び、ハッキングについての知識がまだ限定的なルカイの前で「スキル」と言うのを避けた。


「君のクラスは実質的に武装していない。紛争状況では、致命的な不利になる」


小次郎が眉をひそめた。妥当な指摘だ。


「何を提案するんだい?」


別のキーボードで猛烈にタイピングしながらデータを相関させていたケンを見た。


「ケン。お前が僕らに使ったプロセス……拡張可能か?」


ケンが顔を上げ、瞬時に理解した。


「一年のFクラス全員に?理論的にはイエスだぜ。システムの心理測定プロファイルに基づいたスキル割り当てスクリプトは自動化されてる。だがこれは大規模ハッキングだ。アカデミーの中央システムによる検出リスクは各ユーザーで指数関数的に増加するな」


「どのくらいだ?」


尋ねた。任務のコストを評価する指揮官の声だった。


「9人の新規アクセスを同時に……最初の12時間で検出確率35%だな。だが小さなバッチで、通常のシステムトラフィック中に――例えば、授業中や部活動中に――やれば、10%以下に減らせるぜ」


「やろう」


躊躇せずに決めた。


「小次郎、君の仲間は時間をかけてスキルを『アンロック』する必要はない。最初から基本セットを与える。強化された自己防衛、鋭敏な知覚、おそらく彼らのプロファイルに基づいた小さなユニークなスキル。僕のグループほど特化していないが、バトルでチャンスを与えるだろう」


小次郎の顔に内的葛藤が現れた。一方では、戦術的優位は否定できない。他方では、また破られるルール、また近道だ。ほとんど議論が聞こえるようだった。これは公平なのか?これが僕たちが勝つべき方法なのか?


「何か異議は?」


穏やかに尋ねた。


小次郎が深く息を吸った。


「いや。この文脈では、アカデミーシステムの公平性は無関係だ。生存と任務の効率性が最優先だよ。了承する」


また一つの閾値を越えたな、と思った。システムの純粋主義者が、ルールが君を負けさせるように設計されている時は、ルールの外でプレイすることを学んでいる。


「いいだろう」


軽く拳でテーブルを叩いた。


「ケン、プロファイルの準備を始めろ。小次郎のチーム構成に従って、二人ずつのバッチでやる。イワンとアンヌから始める――彼らの『守護者』プロファイルは最も緊急にスキルが必要かもしれないからな」


ケンが頷き、既にコードに没頭していた。


「じゃあ、作戦計画はこうだ」


部屋の全員に向けて要約した。


「フェーズ・アルファ、明日の夜明けから開始。観察とマッピング。各チームはアヤのパターン分析に基づいて、アカデミーのゾーンを割り当てられる。任務はすべてを記録すること――スケジュール、ルート、やり取り、どんなに些細な詳細でも。関与しない。接触しない。君たちは影だ」


言葉の真剣さを浸透させるために一呼吸置いた。


「毎晩ここに集まって情報を相関させる。72時間のデータの後、再評価してフェーズ・ブラボーを設計する――捕獲だ。小次郎と僕が、対象、タイミング、最適な場所を決定する」


ずっと黙っていたエリザが手を挙げた。


「もし観察中に発見されたら?」


「即座に控えめな撤退だ」


躊躇せずに答えた。


「事前に確立された言い訳を使え。部活動に行く、勉強している、迷った。英雄的なことは何もしない。優先事項は焼かれないことだ。一つのチームが危険に晒されたら、作戦全体がリスクに晒される」


小次郎が強く同意して頷いた。


「この段階では慎重さが最も重要な武器だね。クラスに伝えるよ」


小次郎を観察した。重みはまだそこにある、彼の肩のラインに。でも今は明確な目的、ロードマップが伴っている。もはや信頼の重みだけじゃない――指揮の重みだ。


「明日から本番が始まる」


低いが空気を電化させるようなエネルギーを帯びた声で言った。


「僕たちはただ生き延びているだけじゃない。調査している。狩っている。そしてこのアカデミーで一体何が起きているのか突き止める」


周りを見回すと、グループの目に決意が見えた。小次郎の顔に冷たい決意が見えた。そしてルカイの無表情な目に、何か新しいものを見たと思った――好奇心だけじゃなく、生徒間の単純な紛争よりもはるかに大きなものに乗り出したという認識だ。


ゲームが始まった。そして初めて、目に見えない敵の手に反応する駒のように感じなかった。明確な盤と強力な駒――一流の戦略家――を味方につけたプレイヤーのように感じた。


真の謎は、黒服の男たちが誰かということだけじゃない――僕と小次郎と僕たちの仲間が、アカデミーの歪んだ現実に飲み込まれる前に、どれだけ耐えられるかだ。


明日、最初の答えが出るだろう。


* * *

(イワン)


夜明けを迎える頃には、もう起きていた。


制服に袖を通しながら、昨日の出来事を頭の中で整理する。装備チェックをする兵士のように、一つ一つ確認していく。


チーム。ハッキング。黒服の男たち。


言葉が頭の中で響く。まるで不完全な命令のように。


霧丘委員長が秘密基地から戻った後、クラス全員を集めた。説明は明確で、論理的だった。チームは編成された。俺の配属を聞いた時、黙って頷いた。


俺とアンヌ・ルブランだ。


戦略的な決定だろう。霧丘委員長には理由があるはずだ。


だが、頭の中で冷静に戦術分析をすると……確率は最適じゃない。


ルブランさん。弱点を識別――慢性的な恐怖、最低限の身体能力、パニック傾向。戦術的価値――疑問符だらけ。


それでも霧丘委員長は彼女を俺の相棒に割り当てた。命令系統は受け入れるしかない。


一番気になるのは、ハッキングの件だ。


アカデミーから支給された端末を手に取る。昨日まではスケジュールやポイント、成績を確認するだけの道具だった。今、画面を開くと……すぐに違いに気づいた。


見覚えのないアイコン。『VRSSスキルプロフィール』というメニュー。タップすると、リストが展開された。


『骨格筋強化:レベル1』

骨密度と衝撃耐性が15%向上。


『戦術知覚:レベル1』

視野が20度拡大、動体検知能力向上。


『戦術支援システム:レベル1』

解放済み――偵察ドローン・ベーシック(1機、射程500m)


瞬きをした。二年生たちの噂にあるような超常的なスキルじゃない。これは……強化だ。数値化できる、ほぼ軍事的な強化。


だが、それはハッキングによるものだ。システムへの侵入行為。


アカデミーの真のルールを読んだ時、デジタルバトル・システムについては知っていた。何が待ち受けているか、漠然とした理解はあった。だが今……全てがもっと複雑で、理解困難になっている。


アレン先輩。

前を思い浮かべると、矛盾した感情が湧く。

一方では、尊敬。すでに作戦基地を持ち、脅威に積極的に立ち向かう二年生。


もう一方では……不信。


本当は何者だ?正当な大義を持つ反逆者か、それとも火遊びをするアナーキストか?正式な資格証明はまだない。


だが、このツールを提供してくれた。生存確率を大幅に上げるツールを。


部屋を出ながら、再びルブランさんのことを考える。


重荷。任務を遅らせる責任。


だが文句は言わない。それは俺の立場じゃない。


父の軍隊では、伍長は中尉に疑問を呈さない。霧丘委員長はシステムによって割り当てられた中尉だ。俺は伍長。伍長は命令に従う。たとえそれが、準備不足の民間人を守ることを意味していても。


計画は単純だ。06:00時に寮の正面玄関で彼女と待ち合わせ。そこからアカデミーへ向かうが、直接ルートは取らない。迂回し、観察し、記録する。


普通じゃないもの全て。人、音、不適切な時間帯の活動。


俺たちは目と耳。それだけだ。


ロビーに降りると、すぐに彼女が見えた。


入口の固いソファに座り、まるでブレザーが不十分な鎧であるかのように、自分自身を抱きしめている。巨大な瞳が左右に飛び跳ね、薄暗いロビーの照明の中、あらゆる影をスキャンしている。


エレベーターの音だけで飛び上がりそうだ。


大理石の上を響く足音で近づく。軍隊式のリズムが彼女をビクッとさせた。


「おはよう、ルブランさん」


声は中立で平坦。いつも使う声だ。


「あ、あっ……!おはようございます、ペトロフくん!」


ほとんど叫びながら飛び上がり、不器用な小さなお辞儀をした。


「は、早く着きました、小次郎くんが、いえ小次郎委員長が言ったとおりです。遅れたくなかったので、それは……もし遅刻したら途中で何か悪いことが起こるかもしれないと思って――」


「大丈夫だ」


彼女の言葉を遮る。不安の言葉の渦になりそうだった。


「出るぞ。俺の左側、一メートルの距離を保て。全て観察しろ。異常があれば報告」


「は、はい、了解です! 左側です。一メートルです。観察します。異常です。異常……」


マントラのように繰り返しながら、重いガラスドアを押す俺についてきた。


朝の空気は冷たく湿っている。空はようやく明るくなり始め、地平線を薄い灰色に染めている。アカデミーへの道は高い木々と街灯に挟まれ、まだ点灯している。人影はない。


観察には完璧だ。ルブランさんの神経には最悪だ。


最初の三十秒は静かに歩いた。そして、彼女が存在しない歩道の亀裂につまずいた。


「わっ!ごめんなさいです、地面が……不規則ですので……」


答えない。歩き続ける。


茂みの後ろから猫が出てきた。彼女は息を呑む悲鳴を上げ、ペンチのような力で俺の腕を掴んだ。


「ね、猫です! 猫でしたか!それとも……小さいエーテリアルでしょうか!小さいのもいますよね!?小次郎委員長は小さいエーテリアルについて言及しませんでした!」


「家猫だ」


確固とした動きで腕を引き剥がす。


「離せ。そして声を落とせ」


「も、申し訳ございません……」


再び歩き出す。今度は彼女が俺にくっつきすぎて、ほとんど踵を踏みそうだ。独り言をつぶやいている。


「大丈夫です、ただの猫です、猫はエーテリアルじゃありませんです、エーテリアルが猫に変身できるなら別ですけど、でも小次郎委員長は変身については何も言ってなかったですよね?いえ、言ってませんでした、でも言ってないからといってできないとは……」


顎の筋肉が緊張するのを感じた。偵察任務だ。心理的収容じゃない。集中しろ。


突然、彼女が立ち止まった。


「ペトロフくん!」


振り向く。警戒態勢。軍服なら、本能的に武器があるはずの場所に手が近づく。


「なんだ?」


「あ、あそこです!あの街灯です!ポスターが傾いてます!これは合図ですか?黒服の男たちが残したマーカーでしょうか!」


震える指で、読書クラブの色あせた告知を指す。確かに、わずかに傾いて吊るされている。


彼女を見る。それからポスターを見る。それからまた彼女を見る。


「ポスターだ。風で損傷した。進むぞ」


彼女のため息は聞こえた。


「よかったです。一瞬、私は――」


その時、音が朝の静寂を引き裂いた。


鋭い、耳障りな警報音。アカデミーの全員がすでに認識している音。


エーテリアル出現の警報だ。


世界が一秒間止まったようだった。


そして、緑色の霧が地面から湧き出し始めた。街灯、木々、俺たちの足首に絡みつく。


「いやああああああ!!」


ルブランさんの叫びは純粋な恐怖だった。両手で俺にしがみつき、顔を背中に埋める。


「ここじゃないです!今じゃないです! 私と一緒じゃないです!」


「離せ! 防御姿勢を取れ!」


命令しながら、引き離そうとする。だが彼女は恐怖に怯えたフジツボのようだ。震えが感じられる。激しく、制御不能に、服を通して伝わってくる。


「あ、あそこです!茂みの間です!誰かがこちらを見てますです!」


右手の茂みの中を指して甲高い声を出す。


目を凝らす。緑色の霧が視界を妨げるが……確かに、動きがある。暗い影、うずくまっている。


黒服の男か?それともエーテリアル本体か?


新しい音が空気を満たした。調整の悪いラジオのような静電気のパチパチ音。近づいてくる。


そしてそれと共に、幽霊のような歪んだ姿が目の前の霧から現れた。


人型。だが輪郭が踊り、再形成される。グリッチしたホログラムのように。


エーテリアルだ。


手順を確認――脅威を評価。距離――15メートル。接近速度――中程度。相棒――パニックで無力化。利用可能なスキル――骨格筋強化、戦術知覚、偵察ドローン・ベーシック。


ドローンの起動方法は?精神的? 物理的?


ルブランさんの前に立つ。彼女が後ろから掴んでいるにも関わらず。頭は必死に「使用マニュアル」を探す。


ドローンはどうやって展開する?くそ、テストしてない技術め!


エーテリアルが突進してきた。形が緑色のピクセルの悪夢のように変動する。静電気のパチパチ音が耳を聾する。


拳を構える。骨に感じる奇妙な新しい密度。おそらく一撃は耐えられる。ルブランさんが逃げる時間を稼げる……もし彼女が俺から離れられれば。


だが――


攻撃は来なかった。


茂みの中から、ルブランさんが見た暗い影が飛び出した。


エーテリアルじゃない。


男だった。完全に黒い服を着て、フードと顔を隠すマスクをつけている。超自然的な速度で動く。


そして右脚、膝から下が……淡い琥珀色の光を放つ複雑な金属構造が輝いている。未来的な戦闘ブーツに似ているが、体に有機的に統合されている。


装着した装備じゃない。彼の一部のようだ。


これはスキルか?それとも別の何かか?


流れるような動きで、黒服の男が俺たちとエーテリアルの間に割り込んだ。改造された脚が旋風のように動く。


回転蹴りがエーテリアルの胴体に接続。音は物理的な衝撃じゃなく……データが破損する音だった。


甲高く短いデジタルの悲鳴。


エーテリアルが緑色の粒子の爆発となって崩壊し、霧に吸収された。


息を止める。戦闘は五秒未満だった。


黒服の男は息すら乱れていないようだ。わずかに振り返り、マスク越しに……評価するような視線の重みを感じた。


何も言わない。ただ永遠のような瞬間、俺たちを観察する。


それから踵を返し、速いペースで――走らずに――離れ始めた。


だめだ!情報だ!追わなければ!


「離せ、ルブランさん!」


唸りながら、引き剥がそうとする。だが彼女の恐怖が超人的な力を与えている。さらに強く掴みつき、ブレザーに向かって制御不能にすすり泣く。


「置いていかないでください!お願いです、置いていかないでくださいです!連れて行かれますです!また来ますです!」


もがく。だが失われる一秒一秒が永遠だ。


黒服の男の姿がどんどん小さくなっていく。キャンパスに隣接する森林地帯に入っていく。


胸の中で苛立ちが沸騰する。自分自身への怒りと混ざって。


役立たず!初めての本当のファーストハンド情報を得るチャンスなのに、ここで、怯えた女生徒に麻痺させられている!


父なら何と思う?


『イワン、兵士は適応する。兵士は即興する。兵士は他人の恐怖で任務を妥協させない』


失敗した!拳を握りしめる。関節が軋む音がした。


頭の中で、父の厳しい顔が見える。どんな叫びよりも悪い、沈黙の失望。


これ以上の失敗は許されない。ミス一つが正気や命を奪いかねない場所で。


まさにその激しい自己批判の瞬間に……感じた。


頭の中の接続。スイッチが入るように。


思考じゃない。本能だ。知らなかった筋肉を動かすように。


視界が分割された。


片目では、まだ道が見える。薄れ始めた霧、震えるルブランさんの背中。


もう片方では……上空からの視点が見えた。


まるで十メートル上空を飛んでいるかのよう。半透明のデータパネルが視界の端に浮かぶ。


『SAT-1: ONLINE』

『チャージ: 98%』

『射程: 500m』


ドローンだ!


どうやっているのかも分からないまま、命令を思考した。


追跡。ターゲット――黒服の人間、北東方向。


上空視点が動いた。木々の上を滑らかに、静かに掃射する。


そして、そこに……冷たい緑の海の中の熱点のように、見えた。


黒服の男の姿。異常な速度で木々の間を走っている。息を止める。集中。


ドローンが追跡を続ける。距離を保ちながら。


男が森の特に密集した地域に入っていくのが見えた。使われていない古い温室の近く。


そして突然、熱点が消えた。木の後ろに隠れたんじゃない。建物に入ったんじゃない。


ただ……そこにいなくなった。


まるで見えない境界線を越えたか、森そのものが彼を吸収したかのように。


隠された基地?死角?高度なカモフラージュ技術?


ドローンの信号が変動した。


『ターゲットロスト。追跡中断』


ドローンに何度かその地域を旋回させたが、何も見つからない。ただ木、下生え、温室の廃墟構造だけ。


完全に視界を取り戻す。制御パネルが頭から消える。緑色の霧は完全に消散していた。警報も止んでいた。


再び静かで冷たい朝。まるで攻撃など起こらなかったかのように。


加速する心拍と、しがみつくルブランさんの重みだけが現実を確認する。


彼女を、意図していたよりも優しく引き離した。離れて、赤くなった涙目で見上げてくる。


「き、消えましたか?か、怪物は?」


「無力化された」


機械的に訂正する。頭はもう別のところにある。データを分析している。


「右脚に義肢かスキルを持つ男によってな。その後、北東の森林地帯、古い温室近くで消失した……」


彼女は、まるで別の言語で話しているかのような顔で見てくる。


「あ、あなたは……全部見たんですか?」


無視する。頭の中で疑問が雨後の茸のように湧き出る。


あの男は誰だ?なぜ俺たちを守った? それとも単独でエーテリアルを狩っていただけか?なぜあんな風に消えた?そして何よりも――なぜ霧丘委員長は、フィールド状況に最も不適格な人間を俺と組ませた?


彼女を見る。


今、まだ震える手で髪を整えようとしている。唇は祈りか防護呪文かわからないものをつぶやいている。


これは試練か?非効率性についての残酷な教訓か?それとも霧丘委員長は、俺には見えない何かを見ているのか?


「行くぞ」


いつもより粗い声で言う。


「これを報告しなければならない。歩け。そして……次の猫で叫ぶな」


彼女が激しく頷く。手の甲で涙を拭く。


「は、はい! 頑張りますです、ペトロフくん。ただ……怖くなると、時々体が勝手に反応して、それで……――あっ、神様、蜘蛛です!」


蜘蛛なんか見えない。


ルブランさんが一メートル空中に飛び上がり、不器用に着地し、それから躓いて転ばないように再び俺の腕を掴み、両方とも引きずり込んで馬鹿げたよろめきになるのだけが見えた。


ため息をつく。忍耐の基盤そのものから来る、長く深い吐息。


アカデミーへの道は、とても、とても長くなると判断した。


そして初めて、小さく不遜な疑念が兵士の頭に忍び込んだ。


甲高い悲鳴への耐性を上げるハッキングされたスキルってあるのか?

次回――


自由時間の調査任務。

エドワーとマリは、人気のない裏庭へ向かうことになる。


そこで見つけたのは、放置された倉庫。

そして――誰かが残した“不自然な痕跡”。


静かな調査の中で、二人の距離にも少しずつ変化が生まれていく。


だが、その倉庫の奥には、まだ誰も知らない「何か」が隠されていた。


静寂の中で、新たな手がかりが見つかる――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ