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受け継がれる意志

空に浮かんだ“もう一つの月”。


それは警告だったのか。

それとも、宣戦布告だったのか。


封筒に託された言葉。

「生存者たちの抵抗戦線」という選択。


静かだったはずの新学期前夜は、

緑の光と共に砕け散る。


扉の向こうにいる“何か”。

すでに始まっていた侵食。


それでも――


逃げるという選択肢は、

最初から存在しなかった。


これは終わりではない。


本当の戦いが、

ここから始まる。

ドアが開く音が、かすかに聞こえた気がした。でも、それすら意識に届かなかった。埃っぽい教室「2J」の床に蹲ったまま、自分自身を抱きしめていた。まるで世界全体が崩壊しようとしているかのように。目から流れ出ていたのは涙ではなく……深く静かな震えだった。現実を引き剥がされた魂の衝撃だった。


エリザが僕を見つけたのは、その時だった。あの静かな洞察力で、もし僕がどこか予想外の場所にいるとしたら、ここ——盗まれた投票箱の謎の中心地——だろうと推理したらしい。僕のその状態を見た瞬間、いつもの穏やかな表情が崩れた。


「……質問はしないわ」


彼女は膝をついて僕の隣に座り、肩にしっかりと手を置いた。そして、いつもより柔らかい声で言った。


「一人じゃない」


その夜、Fクラスの中核メンバー——りん、アヤ、エリザ、かんな、レン、エドワー、マリ——といつもの教室に集まった。全てを話した。言葉は途切れ途切れで、まだ処理しきれない恐怖に染まっていた。


コーポレーション「5i」のこと。アカデミーが軍事基地であること。「脅威E」のこと。空の渦のこと。そして、リリスの冷たい視線と、僕たちが戦争のための駒に過ぎないという啓示のこと。


その後の沈黙は、どんな叫び声よりも雄弁だった。みんなの顔に衝撃が走るのが見えた。レンの最初の不信、アヤの目に浮かぶ深い困惑、エリザが情報を処理しながら眉をひそめる様子、全てを理解したかんなの鋭い眼差し、マリの青ざめた顔。


でも、誰も疑わなかった。誰も冗談だとは言わなかった。


真実はあまりにも恐ろしくて、作り話にはできないものだった。そして僕の状態——まだ残る震えと目の影——が、その真実を証明していた。


りんに呼ばれて遠慮がちにグループに加わったひめかは、目を大きく見開いて聞いていた。でも、離れるどころか、その表情には僕を支えようとする静かな決意が浮かんでいた。


次の数日間は、ゆっくりとした再統合のプロセスだった。廊下を歩きながら、床が偽物のように感じられた。教師の顔一つ一つが看守を隠しているかもしれない。全てのルールが機械の歯車に過ぎないのかもしれない。


でも、友達は僕を落ちさせなかった。


りんは頑固なまでの激しさで僕の側にいて、馬鹿げた計画で気を逸らし、いつも目まで届かない笑顔を見せた。でも、それは錨だった。


アヤは小さな競争で僕に挑戦し、現在に集中させようとした。


エリザは論理的な含意を議論し、システムのパターンと弱点を見つけようとした。


かんなは僕の影になり、新たな強さで背中を見守ってくれた。


レンやエドワーまでが、喧嘩や冗談で、僕たちが守ろうとしている日常を思い出させてくれた。


そしてマリ……まあ……マリはやっぱりマリだね……。


少しずつ、麻痺させるような恐怖が別のものに変わり始めた。真実を知った今、もう無意識な駒ではいられないと気づいた。新しい決意が、冷たく固く、内側に生まれた。


何ができるかはわからなかった。Fクラスのただの生徒一人が、全能のコーポレーションに対抗できるなんて。でも、今僕を囲むこの人たち――僕を信じて、揺るがずにいてくれた人たち――を守るという考えが、新しい羅針盤になった。


その意志を、守りたかった。


冬休みが来た。アカデミーは部分的に空いたけど、僕たちのグループは一緒だった。大晦日を教室で祝った。密輸した食べ物と、潜在的な不安をかき消そうとする笑い声で。


ひめかもそこにいて、恥ずかしそうに笑っていた。


そして、みんなが集まっているのを見た時――あまりにも熱心に乾杯するりん、レンと議論するアヤ、隅から微笑むかんな――単純な友情以上の深い親近感を感じた。


それは無言の誓いだった。


僕たちは、嘘の世界で団結した戦線だった。


新年と共に、バレンタインデーが来た。奇妙に感動的なイベントだった。


りんは明らかに手作りのチョコレートをくれた。形は少し不格好だったけど、完璧なリボンで包まれていた。彼女の顔は赤く染まり、その視線には初めて、いつもの憧れを超えた脆さの輝きがあった。


アヤも勇敢に一つ渡してきて、何か言ってみろと挑戦してきた。


エリザまでが上品なチョコレートをくれて、「戦略家には糖分が必要だから」と主張した。


かんなは買ったチョコレートをくれたけど、手紙が付いていた。彼女の気持ち、僕への愛がいつもそこにあるという内容だった。


そして驚いたことに、ひめかも小さなチョコレートを差し出してくれた。恥ずかしそうに、以前は誰にもあげたことがないと言いながら。


陰謀の真っ只中で、なぜ戦う価値があるのかを思い出させてくれた日だった。


バレンタインの後、期末試験が来た。僕は新たな集中力で勉強に没頭した。単に進級するためじゃなかった。自分自身とシステムに、自分の頭が最も強力な武器だと証明するためだった。


全ての試験に問題なく合格した。そして静かな誇りと共に、Fクラスの全員も成功したことを知った。僕たちを無名の兵士にしようとする機械に対する小さな個人的勝利だった。


大きな安堵は、Fクラスに新入生が割り当てられなかったことだった。僕たちの小さなグループは無傷のまま、閉じた忠実な核として残った。今は、僕たちを破壊できる秘密を共有している。


そして、ついに三月が来た。


空気は郷愁と期待の混合で満たされた。卒業式の日が来て、アカデミーの主要講堂で大規模な式典が行われた。全学年の生徒が集まり、三年生を送り出した。


会話と角帽の間で、銀太郎の堂々とした姿を探し、見つけた。


未来と希望について語る演説がホールに響き渡る中——僕と友達だけが理解できる皮肉を込めて——群衆の中を進んだ。


元生徒会長に近づいた。彼はいつもの読めない視線で僕が近づくのを見ていたが、今の僕には認識できる知識の影があった。


最後の会話をする時が来た。コーポレーション「5i」の大きなゲームの中で、意識的な駒だったかもしれない人物の口から、たった一つでも確認された真実を引き出そうとする時が。


講堂は何百人もの生徒たちの熱気で溢れていた。だけど僕にとって、世界はたった一点に収縮していた――会場の入り口近くに立つ、銀太郎先輩の長身で穏やかな姿だけが見えていた。


二人は人混みから離れ、桜の木々が立ち並ぶ小道を歩き始めた。心臓が激しく打っていた。焦りと、妙な落ち着きが混ざり合った感覚だった。


「銀太郎先輩……!」


声は思ったより強く出た。


銀太郎先輩は立ち止まり、振り返った。眼鏡の奥の瞳は反射で見えない。穏やかな、ほとんど幻想的な微笑みが唇に浮かんでいた。


「アレン。君がこの会話を求めてくることは分かっていたよ。でも、随分と時間がかかったね」


「……すみません。このアカデミーのこと全部……知って、あまりにも……」


言葉が途切れた。二人の間に沈黙が降りた。木々の葉が風に揺れる音だけが聞こえていた。


「答えが欲しいんです」


前置きなしに言った。


「デジタルバトルシステムのこと、アカデミーのこと、それに……『脅威E』のこと。先輩はどこまで知っていたんですか?」


銀太郎先輩の微笑みは揺るがなかった。まるでガラスの壁を視線で突き破ろうとしているようだった。


「答え?」


銀太郎先輩は静かに笑った。


「僕はただ自分の原則を貫いただけだよ。何も間違ったことをしたとは思っていない。むしろ、感謝しているくらいだ。君が今知った真実に、直接立ち向かわなければならない世代の生徒じゃなくて、本当に良かったとね」


苛立ちがこみ上げてきた。どうしてはっきり話してくれないんだ?


「それじゃ足りません。みんなには知る権利があるはずです」


「知る権利?」


銀太郎先輩は首を傾げ、眼鏡を押し上げた。


「そうかもしれないね。でも、それは僕の役目じゃなかった。僕の役目はバランスを保つこと、システムの中で自分の責務を果たすことだった。そして、それを果たしたんだ」


じっと見つめた。すると、苛立ちが予想外の感情に変わっていった――尊敬。銀太郎先輩が持つ知識を穏やかに受け入れる姿勢、自分で選んだわけでもない運命に身を委ねる円熟への、尊敬だった。


「その……先輩が見せる円熟さ……」


拳を握りしめた。


「僕にはまだない、そういう人間性です……」


銀太郎先輩は本当に笑った。今度は苦みを帯びた笑いだった。


「ははは……! 円熟? 笑わせないでくれよ、アレン。僕は円熟なんかしていない。実を言うと、最後の最後で駄々をこねそうになったんだ。最後の一手で……君とりんの関係を、複雑にしてやろうかと思ってね」


驚いて瞬きした。りん? どういうことだ?


「それは……どういう……」


「どうでもいいことさ――」


銀太郎先輩は視線を逸らした。


「やらなかったんだから。円熟していたからじゃない。僕の原則が、僕の恨みよりも強かっただけだ。

円熟なんてものはね、アレン、駄々をこねたい自分を埋葬して、それで高潔になったと信じ込むために発明された、綺麗な言葉に過ぎないんだよ。

『円熟とは、消した炎の灰ではなく、まだ全てを燃やしたいという欲望を隠すために被る仮面だ』」


その詩的で皮肉な言葉は、鐘の音のように響いた。呆然として、その生々しさを噛み締めた。


「四月から、君と君の友人たちにとって、全てが変わる」


銀太郎先輩は続けた。口調は実務的で、ほとんど父親のようだった。


「準備しておくんだ。アカデミーはもう以前と同じじゃない。この隔離措置、これらの規則……全てには相応の理由があるんだよ」


「どんな理由ですか! 謎めいた言い方はやめてください!」


答えが指の間からすり抜けていく感覚に、懇願するように言った。


「すぐに君自身で理解するさ」


銀太郎先輩は静かに首を横に振った。


「現実と超常が、この壁の中で共存することになる。もし君がこの全てに逆らいたいなら、アカデミーとそれが象徴する全てに対する抵抗の前線になりたいなら……なればいいんだ!」


胃が空っぽになる感覚がした。抵抗の前線? 僕はただのFクラスの生徒なのに。


「いや……僕にはそんなこと……できそうにありません……」


「自分を過小評価するな!」


銀太郎先輩の声が初めて強くなった。


「可能性がある。自分を貶めるのはやめろ。たった一年で、君はクラスをまとめ上げ、何年も隠されていた謎を解き明かし、並外れた人々の忠誠を勝ち取った。それは大したことじゃないか。これから起こることに彼らを導けるのは、君だけなんだ」


銀太郎先輩の言葉は、自分では感じられない信頼に満ちていて、疑いの殻を破り始めていた。


「それなら、お願いがあります……」


懇願した。


「全ての真実を教えてください。それか、少なくとも……立ち向かう方法を」


銀太郎先輩は長い間こちらを見つめ、それから、穏やかで悪意のない笑みを浮かべながら、ポケットから封蝋された封筒を取り出した。


「秘密の拠点がある。君と君の友人たちが避難し、計画を立て、準備できる、忘れ去られた場所だ」


封筒を差し出してきた。


「受け取って。後で読むといい。書かれた指示に正確に従うんだ。もしかしたら、もしかしたらだけど、これで君は準備のための確かな基盤を得られるかもしれない」


封筒を受け取った。見た目より重かった。


銀太郎先輩は去ろうとしていた。その姿が卒業生たちの群れに溶け込もうとしている。最後の衝動で、名前を呼んだ。


「銀太郎先輩!」


元生徒会長が立ち止まった。


「先輩も『脅威E』に関する記憶を全て忘れてしまうんですか? 本当に……それでいいんですか?」


銀太郎先輩はゆっくりと振り返った。几帳面な仕草で眼鏡を押し上げ、謎めいた、穏やかで、深く悲しげな微笑みを浮かべた。


何も言わなかった。


ただ永遠のような一瞬、僕の視線を受け止めてから、踵を返して人混みの中へ消えていった。秘密と、独特の平穏を抱えたまま、永遠に。


そこに立ち尽くしていた。封筒をしっかりと握りしめて。


銀太郎先輩のことを深く考えた。毒のある賢明な言葉、一年目に経験した全てのこと。迷った。自分に力があるのか、知性があるのか、勇気があるのか、自問した。


でも、突然の明晰さが流れ込んできた。


りん、アヤ、エリザ、かんな、みんなを思い出した。


自分が十分に優秀かどうかの問題じゃない。他に選択肢がないということだ。裏切れない。リリスと企業「5i」が計画した運命を、戦わずに受け入れることはできない。


迷いが蒸発し、鋼のような決意に置き換わった。


守れる全ての人を守ることに集中する。それが僕の真実、僕の円熟、僕の炎だ。


何ヶ月分もの緊張を解放する溜息をついて、封筒を安全にしまい、出口近くにいたエリザの方へ向かった。


友人たちのところへ戻る時間だ。


* * *


そこで、エリザは珍しい光景の真ん中にいた。


背の高い、生真面目そうな若い男性――エリザと同じ生まれ持った優雅さを持つが、泣きそうな表情をしている――を抱きしめていた。エリザの兄、エリオットだ。


「……それから、必ず手紙を書くんだぞ、分かったな?」


エリオットは厳格に見せようとしながらも心配を隠せない仕草で、エリザの制服の襟を直していた。


「ええ、ええ、お兄さん。そんなに大げさにしないでください。大学に行くだけでしょう?」


エリザはいつもの尊大な口調で答えたが、頬が少し赤くなっていた。


「何だと!? どうしてそんなに不機嫌なんだ? 僕は海外の大学に行くんだぞ、分かってるのか?」


エリオットが言い返し、それから視線が僕に落ちた。


「あっ! あなたか。未来の兄貴に挨拶しに来たのか?」


少し気圧された。


「いえ」


「遠慮するなって、こらこら」


相変わらずだな、と思っていたら、突然エリオットが僕の前で背筋を伸ばし、真剣に頭を下げた。


「妹を頼む。お願いだ! エリザに何も悪いことが起きないように、アレン」


エリオットがエリザを託す姿を見て、責任感と、何より守りたいという感覚が、ついに芽生えた。


「任せてください、エリオット。エリザを……このアカデミーの全ての悪から守ります」


「……アレン?」


エリオットは宣言の仕方に戸惑っているようだったが――


「付き合ってるんだろ?隠しても無駄だよ」


「ちがうよ!!」


「ラブラブだな」


「ちがうって!……めんどくさいなあ」


エリオットは安堵の笑みを浮かべながら、僕の髪をぐしゃぐしゃにし始めた……何か誤解されたようだけど、でも一部は本当だな、と思った……言ったこと。


最後に、エリオットは遠くで手を振り、ゆっくりと歩いていった。


僕とエリザは、その背中が人混みの中へ消えていくのを、ただ見つめていた。


これからやるべきことは分かっている……銀太郎先輩が残してくれたこの封筒と、これから何をするか……全て決めた。


僕たちみんなで――


『生存者たちの抵抗戦線』になるんだ。


* * *


週末のある夜……ちょうど新学期が始まる前のことだった……


何かが窓の外から僕を目覚めさせた。カーテンを閉めていたのに、外から何か緑色の光が輝いているのが見えた――


奇妙な音が聞こえ始めた――


近づくにつれて、音は大きくなったが遠くから聞こえてくるようだった――


エンジンのような音だけど、トランペットを思い出させた――


覗きたかったけど――


勇気が出なかった――


でも好奇心の方が勝って――


空に奇妙な月が現れていた。本物の月は左の方に見えたけれど、アカデミーの上に別の月があった。緑色で、同じように全てを照らしていて――


その時、何かが動いている音が――いや、引きずられている音が下の階から聞こえてきた。墓場のような静寂の中で聞こえていて、そこで見たものは――


誰かの、あるいは何かのシルエットだった。人間のように見えたけど、同時に本能が、あれは人間じゃないと告げていた。


その時、足音が部屋のドアに近づいてくるのが聞こえた。続いて奇妙なうなり声が――


ドアノブががちゃがちゃと動かされ始めた。誰かが入ろうとしている。


パニックになって、何か身を守るものを探した――


どういうわけかドアが開かれ、真夜中の闇の中でかろうじて見えるシルエットには、緑色に光る二つの目があった。


それが近づいてきて――――。

次回――


現実の洗礼。


完璧だったはずの少年、霧丘小次郎。


だがそれ以上に衝撃だったのは――


入学式の最中に襲来する“エーテリアル ”。


閉ざされた正門。

青く揺らめく力場。

そして戦う二人の少女。


一年生の視点で描かれる、あの日の真実。

あの戦場は、こうして始まっていた。


そして彼が出会うのは――


二年Fクラス。


新章開幕。

これは、もう一つの“始まり”。

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