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言葉の重み

真実は、いつも優しい形では現れない。


投票箱の盗難。その裏にあったのは、単なる妨害ではなかった。

“脅威E”、消された記憶、そしてリリスという存在。


くるみの覚悟。

銀太郎会長への疑念。

そして、アレンが選んだ「休戦」という選択。


信じることは強さか、それとも弱さか。

正義とは衝動か、それとも計算か。


選挙は最終局面へ――

だが本当に問われるのは、誰の言葉を信じるのかということ。


その先に待っていたのは、

さらに世界を歪ませる存在だった。

桜井先輩……見つけた瞬間、僕は完全に固まってしまった。


投票箱を盗んだ犯人は、彼女だったのか……


視線を横にずらすと、そこには確かに盗まれた投票箱があった。


桜井先輩は反応が遅れていたが、突然声を張り上げた。


「あんた誰!?」


「あ、えっと……その、投票箱を盗んだのが君だって、分かってしまって……」


「はぁ!? ありえない! ここに来るはずなのは銀太郎のはずなのに……あんた、一体誰なんだよ!?」


「じゃあ、君の狙いは銀太郎会長だったんだね」


「ちっ……仕方ねぇ。あんた!入れ!」


言われるまま教室の中へ入ると、机と椅子が山のように積み重なっていた。金属と木でできた骨格が無秩序な障壁を作り、ドアと窓の間のわずかなスペース以外は身動きが取れないほどだった。


そして、窓際の机に座っている桜井先輩がいた。背中を窓枠に預け、足を少し垂らしながら。


驚いた様子はなかった。彼女の表情は、疲れ切った諦めを映していた。


「桜井先輩、投票箱を返してくれれば、何もしません。銀太郎会長に話して、何もされないようにしますから」


「そんなの、もうどうでもいいんだよ。これはただのおとりだったんだから……あたしの運命は、こいつを盗んだ時点で決まってる」


彼女は僕をじっと見つめた。


「それとさ、桜井とか先輩とか呼ぶのやめてくんない? そういう壁、嫌いなんだよね。あたしの名前はくるみ。それで呼んで」


その頼みは予想外だった。対立している最中に、対等な関係を求めるなんて……


短く頷いた。


くるみ……分かった。でも、どうして?


「さっき、それはおとりだって言ったよね?」


一歩近づきながら繰り返した。


「何のためのおとりなんだ?」


「銀太郎のためだよ。全部……盗み、暗号のヒント……全部あいつのためだった。あいつの秩序への渇望と頭の良さなら、ここに辿り着くって思ってた」


彼女は窓の方を向いた。


「そしたら、やっとあたしと向き合って、答えをくれるって思ってたんだけどな」


苦い笑いが漏れた。


「なのに、来たのはあんただよ。ありえない候補者。いつも予想外なところに現れるFクラスの男子」


背筋が冷たくなった。


彼女は選挙を妨害したかったわけじゃない。銀太郎会長を引き寄せたかった。僕は……彼女の計算ミスだったんだ。


積まれた机に寄りかかり、腕を組んだ。


「彼から、どんな答えを求めていたんだ?」


くるみはしばらく黙っていた。言葉を選んでいるようだった。


再び話し始めた時、声は低く、深い悲しみに染まっていた。


「あたしの兄……ハルキ。五年前、審判委員会の委員長だったんだ。すごく……優秀で、執着心が強くて。色々教えてくれたんだよ、断片的にだけど。上の連中が呼んでるもの――――『脅威E』ってやつをさ」


脅威E?


その言葉は、静かな水面に落ちた石のように僕の心に沈んだ。


脅威? アカデミーに?


リリスさんの曖昧な警告を思い出した。


繋がっているのか?


「兄は真実を明らかにするって誓ってた……」


くるみは続けた。指が机の埃の上で見えない円を描いていた。


「でも、兄は卒業した時……何かが変わった。何かが壊れた。脅威Eのこと、調査のこと聞いたら……何も覚えてなかったんだ。全く何も。まるで誰かが大切な記憶を全部消したみたいに」


息を呑んだ。


記憶喪失? 強制的に?


キバとその仲間が使っていたデバイス……記憶を消す効果があった。エンマさんに起きたことで知っている。感情と記憶を操作する能力。


可能性はあるのか?また、あのデバイスの問題か。トラブルしか起こさない。


「デバイスのこと知った時、これが鍵だって分かった。心を操れるもの……兄に起きたことと関係してるに違いないって。探して、見つけて、キバに渡した。あいつの野心なら使ってくれて、本当の力を明らかにしてくれるって思ってた。ヒントをくれるって……」


拳を握りしめ、虚空を見つめていた。


「でも、全部台無しになった。キバは思ったより慎重で、部下を使って、ちっ……運悪く、デバイスを失くしちゃった……」


僕の方を向き、怒りに満ちた目で見た。


「あんたが……デバイスを手に入れて、銀太郎に渡したって知った」


怒りの表情が崩れ、敗北感に変わった。


「また失敗……」


彼女を見つめた。


声の怒りは僕に向けられたものじゃない。自分自身に向けられたものだ。失敗の連鎖に対して。


彼女は悪役じゃない。何度も失敗した研究者だ。彼女は……絶望しているんだ。


可能性を推測した。


「だから立候補したんだね。生徒会長になりたかったわけじゃない。アクセスが欲しかった。銀太郎会長に近づきたかった」


「そうだよ……」


くるみは細い声で認め、再び窓を見た。


「でも、それも無駄だった。あたしのクラス、自己中ばっかで、誰もあたしを支持しない。グループ作ろうとして、ひめかみたいな孤立してる奴らを勧誘したけど……何もかも駄目だった。だから、これを考えた。投票箱の盗難。銀太郎が追ってくるのに十分な手がかり。無理やり対峙させるために」


ようやく僕を直接見た。目には欲求不満と好奇心が混ざっていた。


「なのに、あんただった。ただの候補者でしかないあんた。暗号を解いたのがあんた。なんでだよ?」


視線をそらし、理由を考えた。


なんで? 何もせずにいられなかったから。それが……正しいことだと感じたから。


でも、もう一つの部分、論理的な部分は、すでに点と点を繋げ始めていた。


『脅威E』、デバイス、くるみの兄の記憶喪失……そしてリリスさん。いつもリリスさんが潜んでいる。


「分からない。ただ……論理に従っただけだ」


正直に答えた。その質問への理由について、それ以外に言えることはなかった。


くるみは笑った。乾いた、やる気のない音だった。


「論理、か。皮肉だね……」


前に身を乗り出し、声を激しい囁きに落とした。


「生徒会長の銀太郎が、これについて何も知らないと思う?ただの善良なリーダーだと思ってんの?あいつは、あんたやあたしが想像もできない情報にアクセスできるんだぜ。脅威Eの真実も、デバイスのことも、全部知ってる。なのに行動しないって選んでるんだよ」


その言葉は深く響いた。


銀太郎会長が? 知っている?


彼が僕の立候補を簡単に受け入れたこと、鋭い視線、いつも一歩先を行っているような様子を思い出した。


可能性はあるのか?何かを隠蔽している?


疑念が心に根を張り始めた。成長し始める毒の種のように。


「証拠なしには受け入れられない」


しっかりと答えた。


「銀太郎会長は僕にチャンスをくれた。信頼してくれたし、彼だけじゃない、友達もみんな」


「それとも利用されただけ?」


くるみは反撃した。


「あんたを候補者として提案したのが偶然だと思う?あいつがあんなに簡単に受け入れたのが?このアカデミーじゃ、誰も何もタダではくれない。みんな、もっと大きな盤上の駒なんだよ。銀太郎は……プレイヤーだ。味方じゃない」


胃が冷たくなった。


本当のことを言っているのか?それとも操作しようとしているだけ?


くるみを見た。目には深い疲労が満ちていて、時々僕自身が感じるものに似ていた。


彼女は何年も一人で戦い、何度も壁にぶつかってきた。絶望は本物だ。


「それで、何が望みなんだ?ただ真実を見つけたいだけ?それとも言ってないことがある?」


くるみは僕をじっと見つめた。疲労と希望を示す目で。


「同盟を組もうよ。あんたとあたし。一緒なら、真実を見つけられる。あんたには鋭い頭脳がある。あたしにはパズルのピースがある。お互い助け合えるんだよ」


首を横に振り、一歩下がった。


「駄目だ。できない。そんな権限はない。君を信頼できるかどうかも分からない」


くるみの表情が和らぎ、悲しい受容に変わった。


「分かった。あんたを責めないよ……」


囁き、頭を下げた。


「じゃあ、やるべきことをやって。あたしを銀太郎のところに連れてって。自首する。少なくとも……少なくともそうすれば、直接対峙する機会があるからさ」


彼女を見つめ、葛藤した。


信じるべきか?操作し、盗みを働いた人間と同盟を組むリスクを冒すべきか?


でも……もし彼女が正しかったら?もし銀太郎会長が信頼できなかったら?


疑念が襲ってきた。


『脅威E』の言及とリリスさんとの可能な繋がりは、無視するには大きすぎる。


「くるみ……」


より柔らかい声で言った。


「この『脅威E』が……リリスと関係があると思う?」


彼女は顔を上げ、驚いた様子だった。


「リリス? 誰、それ?」


くるみがこれだけ調査してきたのに、リリスさんのことを何も知らないことに驚いた。


それとも、リリスさんは関係ないのか?


「くるみ。何かがおかしい。夏休みの間、リリスさん、アカデミーでトップの成績の人が……僕と友達に近づいてきた。変なことを言って、このアカデミーの「秘密」について警告してきたんだ」


くるみは急いで顔を上げた。疲れた目が突然鋭く、警戒していた。


「あたし、彼女と一度も関わったことない」


くるみは認めたが、頭はフル回転していた。


「でも……あんたの言うことが本当なら……アカデミーでトップの成績の人が関わってて、「秘密」について話してるなら……」


間を置き、含意を吸収した。


「それは偶然じゃない。繋がりだよ。この陰謀はあたしが思ってたより深いってことだし、あんたがここにいること、アレン、偶然じゃないかもしれない。リリスはあんたを指名した。そして今、銀太郎があんたに目をつけてる。怪しいだと思わない?」


息を呑んだ。


彼女は正しい。


くるみはリリスさんを知らなかったが、研究者としての本能がすぐにパターンを見た。


リリスさんを言うすることで、僕は答えを与えたわけじゃなく、くるみが知っている『脅威E』と深く共鳴する、より大きなパズルのピースを与えた。


彼女の偏執病が正当化されたという間接的な確認だった。


「それが怖いんだよ」


くるみは低い声で認めた。


「誰も全体像を見てないってことが……」


初めて、絶望を超えた本物な尊敬のようなものが、くるみの顔に光った。


「じゃあ……なんで権力者を盲目的に信頼できないか、分かったでしょ? 銀太郎、リリス……同じ不透明なコインの表と裏だよ」


目が僕の目に突き刺さった。


「分かる?ピースはそこにあるんだよ。ただ繋げる必要があるだけ」


深呼吸した。決断の重さが圧倒的だった。


一方では、銀太郎会長と友達への忠誠。もう一方では、みんなに影響を与えるかもしれない隠された真実の可能性。


「分かった……」


ついに言った。


「正式な同盟は組まない。まだだ。でも……」


くるみは信じられないという顔で見た。


「何?」


「君の秘密は守る。投票箱を見つけたけど、君は見つけなかったって言う。犯人は逃げたって」


目を固くした。


「でも、これは同盟じゃない。これは……休戦だ。お互いにもっと調べる機会。もし嘘をついてたり、友達に脅威だって分かったら、これは終わりだ!」


初めて、希望のようなものがくるみの顔に光った。


ゆっくりと頷いた。


「了解。休戦だね」


机から滑り降りた。


「じゃあ、今どうする?」


ドアの方を見た。


「今は、戻る。君は別の場所から出て。誰も近くにいないようにする。そして、"見つけた"ものを報告する」


間を置いた。


「それと、くるみ……気をつけて。もし『脅威E』って呼ばれるものがあって、リリスさんが関わってるなら……僕たち両方とも危険なんだ」


彼女は頷き、悲しくも感謝の笑みを浮かべた。


「ありがと、アレン。あんたが……あんたでいてくれて」


教室を出る時、頭は渦巻いていた。


潜在的な敵を守り、銀太郎会長に間接的に反抗したことで、想像以上に大きな陰謀に巻き込まれてしまった。


でも、初めて真実に近づいている気がした。


そしてその真実は、すべてを変えることになる……分かっていた。


くるみが去れるように道をクリアし、みんなを集めて盗まれた投票箱を見つけたと告げた。


もちろん、銀太郎会長を説得するのは難しかったが、最終的に僕の言葉を受け入れてくれた。


教室に戻った時、何も隠すつもりはなかった……でも、発見したことをみんなに話すのも怖かった。


剣と壁の間に挟まれている。どうすればいいか分からない。


一度、何も言わない過ちを犯したが、今回は問題がさらに大きい。


友達を巻き込んだら、何か悪いことが起こるかもしれない。


教室のみんなを見ながら、考えて、考えて……


ついに結論に達した。


話す……でも、選挙が終わるまで待つ。


選挙が終わってからだけ……発見したすべてをみんなに話す。


* * *


昨日のことがあって、正直疲れていた。でも今日が最後の日だ。


今日、アカデミー全体に向けて最終演説をする。先生方も、重要な人物たちも、全員が聞いている。この アカデミーに何か隠されているもの、秘密、謎、「何か」があるって知った今――どうしても次の生徒会長になりたいと思い始めている。


入り口にある告知画面に、目を引くものが映っていた。


『くるみ、生徒会長候補を辞退』


一瞬、心配になった。でも……これは彼女が表舞台から身を引くための動きなのかもしれない。それとも、何か計画があるのか。


教室に着くと、みんなが心配そうな顔で僕を見ていた。今日何が起こるのか、彼らの方が僕よりも不安そうだ。でも、僕は彼らが思っているより落ち着いている。もしかしたら、これは発見し続けている全ての不安を押し込めている僕なりの方法なのかもしれない。


演説の準備はもう終わっている。アカデミー全体に何を提案するか、何を言うか、どう生徒たちを動かすか――全部決まっている。昨夜、部屋に戻ってからずっとそれを書いていた。


学校集会の時間が来て、みんな僕より先に教室を出て行った。


全員――かんなを除いて。


彼女が近づいてきた。何か言いたげな、切羽詰まった様子で。


「アレン、少しいい?」


「ああ。でも、すぐに行かなきゃいけないから」


「……覚えてる? 私が言ったこと」


「……ああ、それがどうかした?」


「……多分わかった。観察してた人が誰か」


「誰なんだ?」


「……名前は知らない。でもAクラスで、一年」


……可能性を考え始めたが、その前にかんながどうやって気づいたのか知る必要があった。


「何を見たんだ?」


「演説がアカデミー中で始まった時、ずっと同じシルエットが君を見てた。遠くから観察してた。その後、誰なのか確かめようとして……ひめかさんのことがあった日に気づいた。Aクラスの教室から出てきて、君がいる場所まで歩いて、二階の窓から君とひめかさんに起きたこと全部見てた。聞こえてたかはわからない。距離があったから……あ……私、あの日何も聞いてないから……」


かんなは、あの日ひめかに起きたことを見ていたと認めた。つまり、アヤがひめかと対峙して、あの騒ぎになったのも見ていたってことだ。いつも通り、かんなは影から全てを把握しているらしい。


「その人は女子……いつも優雅で上品に歩いてる。長い銀色の髪で、目立つ特徴は……手袋みたいなものをつけてる」


それを聞いて、わかった。


ずっと僕を見ていた人物は――リリスさんだ。


「かんな、一つだけ教えてくれ。その人は君の存在に気づいていなかったのか?」


「いいえ、少なくとも、私の視点からはそう見えた」


考えることが山ほどあったが、もう時間がない。演説に行かなければ。


* * *


舞台裏から、話し声が聞こえてくる。ステージでは学園長が話しているが、僕は注意を向けていない。隣には完士と武蔵さんがいる。


学園長が全員に静かにするよう叫び、会場は墓場のような静寂に包まれた。


全ての視線がステージに注がれている。数百の視線の重みを感じる。背筋を這う緊張感。僕が最後に話すことになっている。


最初は完士だ。


演壇に立った彼は、まるで勝利が既に自分のものであるかのような挑発的で傲慢な笑みを浮かべていた。


「生徒たち!」


彼の声がスピーカーで増幅される。


「くだらねぇ争いにウンザリしてるだろ!? オレが全員に最高のもんを用意してやる! オレの政権は勝利ポイントを倍にして、強い奴らに新しい報酬システムを作る! 実力が正当に評価されるアカデミーにするぜ!」


空っぽな演説だと、すぐに思った。ポイントをどこから持ってくるかの説明もなく、強者の欲と自尊心に訴えかけている。複雑な問題に単純な解決策を提示する、典型的な政治家だ。


観客は歓声と懐疑的な囁きに分かれた。上位クラスの生徒や自分の能力に自信がある者たちは熱狂的に拍手していたが、下位クラスの生徒は眉をひそめていた。「強者への報酬」が既に存在する格差をさらに広げることを知っているからだ。


冷たい軽蔑を感じた。完士はイデオロギー的なライバルじゃない――ただの騒がしい障害物だ。


次は武蔵さんの番だった。


彼の存在だけで会場が静まり返った。声を上げる必要すらなかった。落ち着きと、ほとんど触れられるような権威を持って話した。


「デジタルバトル・システムはこのアカデミーの心臓だ。だが、その鼓動は混沌とし、集団的成長より個人主義を助長している」


彼は間を取り、視線を講堂全体に巡らせた。


「俺はその『リマスタリング』を提案する。『チーム制チャレンジモード』の導入だ。クラスが一つの存在として競い合う。勝利はもはや個人に依存せず、全員の戦略と相乗効果に依存する。リーダーの下でなく、真のアカデミー・コミュニティとして団結しよう」


……完璧だ。


いつも批判的な僕の思考でも、欠点が見つからない。提案は堅実で、本当の問題に革新的な方法で取り組んでいて、団結と進歩の言葉で包まれている。大多数が聞きたいことそのものだ――秩序、目的、帰属意識。


講堂が最も轟くような拍手で爆発した。完士の支持者たちの熱狂的な叫びではなく、敬意に満ちた大規模な喝采だった。全てのクラスの生徒が頷き、感銘を受けていた。


プレッシャーと落胆の塊が胃の中で締め付けられるのを感じた。あれにどうやって対抗できる? 武蔵さんはハードルを高く設定しただけじゃない――信頼性と雄弁さの成層圏に置いたんだ。


ついに、僕の番が来た。


演壇に向かって歩く間、脚が鉛のように重かった。群衆の視線が突き刺さる。深呼吸をして、自分の中に完璧な演説ではなく、真実を探した。


「武蔵さんはコミュニティとシステムについて話しました……それは力強いアイデアです」


最初はためらいがちだった声が、徐々に確固としたものになっていく。


「でも、僕は最も小さなコミュニティ、教室が、強者に報いて倒れた者を見捨てるシステムに苦しむのを見てきました。リマスタリングを約束しに来たんじゃありません。救命ボートを提供しに来ました。誰も底に触れないための『バックアップシステム』と、一人の成功が全員の支えになる『共有利益基金』です。大きな理想の話じゃない……誰も置き去りにしないという話です」


即座に爆発的な拍手はなかった。重苦しい沈黙があり、Fクラスや他の下位クラスの列から同意の囁きがそれを破った。


僕は武蔵さんのような完璧な論理で説得したわけでも、完士のような空虚な約束をしたわけでもない。心に語りかけた。誰もがある時点で感じる脆弱性に。


ステージから退く時、轟くような喝采の高揚感は感じなかった。でも、もっと価値のあるものを感じた――少数の人々の感謝の眼差しと、演説が最も完璧ではなかったとしても、最も本物の自分らしいものだったという内なる確信。


でも初めて、自分の声、見えないと感じていた者たちの声が響いたと感じた。


学園長が最終演説と最後の指示をしている間、完士が近づいてきた。


「お前の負けだ、Fクラス。あんな薄っぺらい演説じゃ話にならねぇ。絶対オレが勝つ!」


議論したくなかったが、遠くから別の声が彼と対峙した。


「馬鹿なことを言うな。俺の勝利は確定している」


その声は武蔵さんだった。


壁に寄りかかり、腕を組んでいる。完士とは違い、武蔵には全ての言葉に真実の重みがあるようなオーラがある。


完士は怒ったが、議論せずに立ち去った。


あとは結果を待つだけだ。


学園長の言葉によれば、投票はあと一時間で締め切られます、今日の午後は全員が自由に過ごせる。アカデミーから出ることは許されていないが、担当の先生方が投票の集計を終えるまで、アカデミー内を自由に歩き回れる。今日中に勝者が発表される。


この数時間を待つ間、教室に戻ろうと決めたが――


「どこに行くつもりだ、アレン?」


「……?」


振り返ると、誰が呼んだのかを確認する。そこにはまだ動かずにいる一人の人物がいた……武蔵さんだ。


「随分落ち着いてるな。そんなに自信があるのか?」


「……いや、全然自信なんてない……ただ……結果がどうであれ、受け入れるつもりだ」


本当は勝ちたい。この一週間、すごく頑張った。勝ちたい。


「表向きはそう言うが……見えるぞ。内側で権力を渇望している。勝利を掴みたがっている」


武蔵さんの洞察力に驚いた。彼は正しい。僕は他の人のために冷静を装っているだけで、不安に疲れている。


突然、武蔵さんが眉をひそめた。


「まだ信じられないな、お前について聞いたことが」


「僕について何を聞いたんだ?」


「大したことじゃない、少なくとも俺にとっては。ただ……まあ……フフフ……」


突然、抑えきれない奇妙な笑いを含み始めた……そして突然言った。


「アレン。『2J』の教室で君を待っている者がいる」


それを聞いて、冷水を浴びせられたような感覚に襲われた……武蔵さんはどうやってあの教室のことを知っているんだ? あそこはくるみと一緒にいた場所だ。


「どうして――?」


「待て、俺は君の質問には答えない。もっと適切な人物がいる」


「誰だ?」


「……なぜ自分で確かめに行かない?」


怪しげに笑って、何も言わずに去っていった。


振り返って、くるみと一緒にいた教室へ急いだ。歩きながら、頭は推測でいっぱいだった。


真実が明らかになったのか? くるみは危険なのか? それとも……


ドアの前に着いた時、誰かが胸を押さえつけているような感覚があった。まるでドアの向こう側で狩人が獲物である僕を待っているかのようだ。


息を吸い込んで、ゆっくりとドアを開けた……


そこに、背を向けて窓の外を見ている人物がいた――――リリスさんだ。

次回――


歪んだ真実。


リリスが語る、このアカデミーの正体。


空を覆う黒い渦。

操作された選挙。

保証された勝利。


アレンの世界は、音を立てて崩れ始める。


一方その頃――

りんの前に突きつけられる、もう一つの「真実」。


告白。

拒絶。

そして気づいてしまった想い。


世界が壊れ、心が揺れる。


真実は、もう引き返せない。

すべてが衝突する。

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