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償いと許し、渦巻く謎

選挙戦の裏で起きた、もう一つの戦い。


謝罪。

誤解。

許し。


そして――消えない疑念。


ひめかとの和解は終わったはずだった。

けれど、話さなかったことが、新たな傷を生む。


信頼とは何か。

守るとはどういうことか。


友情が試される中で、さらに学院を揺るがす事件が起こる。

盗まれた投票箱。


それはただの妨害か。

それとも――もっと深い“何か”の始まりか。


許しの先に待つのは、救いか、それとも渦巻く闇か。

群衆が去った後、そこには一人だけ――僕をじっと見つめている人がいた。


ひめかだった。


彼女は落ち着いた足取りで、でも表情には明らかな緊張を浮かべながら、僕に近づいてきた。


「あ、あの……アレン」


「あ、ああ……ひめか。元気だった?」


「ええ……でも、驚きましたわ。まさかあなたが生徒会長に立候補するなんて……」


「……僕も信じられないよ」


お互い緊張してしまって、会話が続かない。気まずい沈黙だけが流れる。


突然、ひめかが何かを思い出したように口を開いた。


「そういえばアレン……桜井くるみさん、わたくしのクラスなんですのよ」


「――え!?」


桜井先輩が……ひめかのクラス? ということは、Aクラスってことか。頭の中で情報を整理しようとする。


「なあ……桜井先輩が生徒会長に立候補した理由、知ってる?」


「え? ……わかりませんわ……というか……最近、いえ……あの、あなたに負けたあのバトル以来……わたくしの評判はずいぶんと落ちてしまって……クラスでも、もう誰も近づいてこないんですの……」


「――っ!!?」


彼女の言葉を聞いて、僕が見過ごしていたいくつかのことが、ようやく見えてきた。


「待って、ひめか……それが君が今、一人でいる理由なのか?」


「……ええ……」


「……!!」


怒りがこみ上げてくる。たった一度の敗北で、クラス全員が彼女を除け者にするなんて……許せない。


「そんな顔で怒らないでくださいな、アレン。わたくしのクラスには、わたくしたちなりのやり方と、ルールがありますの……わたくしは……ただそれに従っているだけですわ……」


「そんなの、理由にならないよ」


彼女は視線を逸らして、もう何も言わなかった。


何か……彼女のためにできることはないだろうか。でも、今の僕には何もない。力もない。クラス全体を相手にできるような立場でもない。せめて……ひめかのクラスの内部ルールについて、もっと理解する必要があるのかもしれない。


ひめかが帰ろうとする。情報が必要だ。彼女を引き止めようとした、その時――


「ちょっと! アレンから離れなさいよ!」


遠くからアヤの声が聞こえた。走ってきた彼女が、僕とひめかの間に割って入る。


「あんた、帰りなさいよ! アレンから離れて! アレンを傷つけるだけなんだから、あんたは!」


ひめかは怯えた表情を浮かべ、そして悲しそうな顔になった。止めようとしたけど、アヤは僕に喋らせてもくれない。ひめかに次々と酷い言葉を浴びせ続ける……


これには怒りを覚えたけど……同時に気づいてしまった。


僕は……彼女たちに何も話していなかった。ひめかと話したことも、和解したことも……一言も。アヤにとって、多分みんなにとっても、ひめかはまだ「悪い人」のままなんだ。


自分に対する怒りが込み上げてくる。


「アヤ!やめろ!」


「は!? 何言ってんのよ、アレン、こいつは――」


「やめろって言ってるんだ!!」


僕の大きな声に、アヤは驚いた様子だった。ひめかは視線を逸らしている。


「ごめん、アヤ……僕、ひめかと和解したこと、みんなに話してなかったんだ……ごめん」


「えっ? ……えっ? ……わ、わかんない……」


混乱した様子で、アヤは走って行ってしまった。


追いかけるべきだろうか……いや、今の僕にその資格はない。それよりも――


頭を下げて、ひめかに謝った。


「ごめん……ひめか……」


「……いいんですのよ……あなたのお友達がわたくしに怒るのは当然ですわ。むしろ、わたくしの方こそ……あなたと……あなたのお友達に謝らなければなりませんわね……」


顔を上げると、ひめかの表情が……見たくない表情をしていた。


もし僕に力があれば……生徒会長のような……そうすれば、もっとうまく状況をコントロールできるのだろうか?


ひめかは悲しい表情で別れを告げ、去っていった。


時間を無駄にしたくない。この問題を解決しなければ――


校舎の入口のドアを開けようとした瞬間、そこには嘲笑うような表情で全てを見ていた人物が――完士だった。


「また会ったなFクラス」


「どけ、急いでるんだ!」


「なんだその態度は。選挙の対戦相手と少し話がしたいだけだぜ」


「……どけって言ってるんだ……」


今、自分がどんな表情をしているのかわからない。でも、絶望と怒りが混ざり合って、感情が乱れているのはわかる。


完士は少し怯えたように、しかめっ面で道を開けた。


僕が離れようとすると、背後から完士の声が聞こえた。


「よく聞けよFクラス!お前は絶対に勝てねえ!オレが絶対に勝たせねえからな!」


気にする余裕はなかった。今の問題は……犯してしまった大きな過ち……ひめかと僕のこと、お互いの違いを脇に置くことに決めたこと……それをみんなに話さなかったという過ちを正すことだ。


教室に着くと、アヤは何事もなかったかのようにそこにいた。でも、みんなが彼女を囲んでいる。何かに気づいたようだった。


僕はみんなの前で頭を下げ、謝罪した。


ひめかとの現状を全員に説明した。レンやエドワー、マリさんのように状況を知らない人たちには、特に詳しく説明する必要があった。


張り詰めた沈黙の中、突然りんが口を開いた。


「みんな、そんな深刻にならないでよ。ただちょっと話し忘れてただけでしょ? ねえ、みんな、そんな雰囲気にしないでよ〜」


りんの善意ある言葉も、緊張した空気を変えることはできなかった。でも、僕は気づいた。りんの握りしめた拳が……震えていることに。


そして再び、彼女が話し始めた。


「お願いだからみんな……特にアレンくん……あんまり深刻に考えないで。幼馴染との問題でしょ……それだけじゃない……実は、あたし嬉しいんだよ。アレンくんにとって大切な人と仲直りできたんだもん……」


言葉とは裏腹に、彼女の手は震え続けている。ただの緊張なのだろう。


誰もこの重苦しい空気を打ち破ることができない……そんな時――


教室のドアがゆっくりと開いた。


そこにいたのは――ひめかだった。


彼女は入ってきて、みんなに謝罪した。


「申し訳ございません! わたくしのせいで……」


事態はますます複雑になっていく。


みんなが頭を下げたひめかを見つめている。誰も何も言えない。


その時、りんが一歩前に出た。そしてもう一歩、ひめかに近づいていく。


「顔を上げて、ひめかさん」


顔を上げたひめかは、りんを見て驚いた様子だった。


「アヤさんって……ただ……衝動的だから……」


「でも……わたくしが憎しみに値します……アレンを責めないであげてくださいな。もし彼がわたくしのことを話さなかったのなら……何か理由があったはずですもの……だから、彼を責めないで……お願いしますわ……」


りんがひめかの肩に手を置いた。ひめかは驚いている。


「ひめかさん……あたしたちの友達にならない?」


――――!?


「――――えええっ!?」


全員が衝撃を受けた。誰もりんがそんなことを言うとは思わなかっただろう。


「え!? でも……わかりませんわ……わたくしはアレンを傷つけて……わたくしなんて……」


「うん、でもアレンとはもう仲直りしたんでしょ? だったら、この重い空気を吹き飛ばすために、あたしたちの仲間になってくれない? あたし、ひめかさんが悪い人だとは思わないよ」


ひめかは視線を床に落とした。そして……すすり泣く声が聞こえてきた。やがて隠すこともなく、涙を流し始めた。


りんが彼女を抱きしめて慰める中、ひめかは途切れ途切れの声で言った。


「は、はい……お友達に……なりたいです……友達が……欲しいんですの……一人は……あまりにも……寂しくて……」


こうして、この日は終わった。


ひめかと少し話しただけで、こんな予想外の展開になるなんて……


今日、学んだことがある。こんな重要なことを隠し続けるなんて、もう二度としたくない。


なぜ誰にも何も言わなかったのか……怖かったんだ。ひめかが本当は全部演技をしているんじゃないか、何か別の深い理由があるんじゃないかって……そんな可能性が少しでもあることが。


それと……もう一つ。自分でも理解できない、もっと深い何かが……僕の中にあって……だから誰にも、ひめかと和解したことを話せなかったんだ……。


* * *


今日は生徒会長選挙の候補者たちにとって、キャンペーン期間の最終日前日だった。


昨日のことがあってから、僕は強い決意を感じていた。できる限りのことをして、生徒たちの注目を集め続け、票を獲得しなければ。そう思いながら教室へ向かったんだけど……教室に着くと、既にりんがいた。でも、様子がおかしい。明らかに動揺している。


「りん、どうしたんだ?」


「あっ、アレン! 来てくれてよかった……大変なことが起きたの!」


「何があった?」


「エリザが生徒会室に呼ばれてね……どうやら、投票箱の一つが盗まれたみたいなの!」


「何だって!?」


問題の後に問題……起こるのはそれだけか。


今のところ、りんもこれ以上の情報は持っていないらしい。エリザは委員長として生徒会室に呼ばれ、この問題について話し合っているようだ。


待っている間、ただ緊張感だけが僕を包んでいた。教室のドアが開くたびに、他のクラスメイトたちが入ってくる。でも、まだエリザの姿は見えない。生徒会室に行こうかとも思ったけど……僕は候補者だ。行けば、かえって状況を悪化させるかもしれない。


結局、エリザが戻る前に全員が集まってしまった。かんな、アヤ、レン、エドワード、そしてマリさんが僕とりんのところに近づいてきた。起きていることを説明すると、みんな焦りを隠せない様子だった。


そして、授業開始を告げるチャイムが鳴った。それが、さらに状況を悪化させた。


今日の一時限目は、幸いホームルームだった。古橋先生が入ってきたけど、いつもの彼女とは違う。心配そうで、真剣な表情をしている。もう状況を知らされているのかもしれない。


「みんな、その表情を見ると……もう何が起きているか知ってるわね?」


先生の説明によると、今まさに生徒会室では、アカデミー全体の全クラスの委員長たちが緊急招集されているらしい。何をすべきか、あるいは犯人を見つけることができるかどうかを話し合っているとのことだった。


こうなることは分かっていた。投票箱を無警備で放置しておくなんて、馬鹿げている。今になって反省しているなら、そもそもこの選挙をどう組織したのか、それ自体が問題だ。


突然、授業の途中でエリザが現れた。


「先生、授業中失礼します。アレンさんを生徒会室にお呼びです」


緊張と不安が、一歩踏み出すごとに増していく。生徒会室に向かう足取りは、どこか重かった。


到着すると、中には多くの人が集まっていた。銀太郎会長は自分の席から、ただ考え込んでいるように見えた。そして、僕の方を向いた。


「アレン、まず聞きたいんだけど……君のクラスには副委員長がいないのかな?」


「あっ!」


そういえば、エリザが委員長に選ばれたとき、先生が人数が少ないから副委員長は後で決めようと言っていた。


「すみません、僕たちのミスです」


「……まあ、いいよ。エリザが君を副委員長に選んだから、この議論に参加してもらうことになる」


その言葉に、抗議の声が上がった。


「会長、それはダメですよ! 彼は生徒会長候補じゃないですか! なんでここにいるんですか!?」


「そうだ!」


「その通りです!」


「出て行ってもらいましょう!」


でも、会長は譲らなかった。


「静かに! 候補者であろうとなかろうと、全クラスの委員長と副委員長の出席が必要なんだ。彼が犯人かどうかは、今は関係ない」


会長の決定に、誰も反論できなかった。


「よく聞いてくれ。犯人を見つける計画がある。見つけたら、投票箱が改ざんされたかどうかは犯人の証言次第で決める」


会長は全員に計画を説明した。要約すると――今ここには36人の生徒がいる。二人一組でチームを作り、アカデミー全体に散らばって投票箱を探す。あるいは、犯人につながる手がかりを見つける。さらに、会長はアカデミー中の全ての先生に、生徒を教室内に留めておくよう指示したという。今呼ばれた36人以外、誰も外に出られない。


「投票箱を見つけるのに二時間ある。もし見つからなければ、あるいは犯人の手がかりが見つからなければ……その票は全て破棄することになる」


生徒会室には重い緊張感が漂っていた。この決定に納得していない者もいるのが分かった。でも、誰も何も言えない。


全員が調査のために出て行った。


廊下を歩きながら、今分かっていることを整理する必要があった。エリザに尋ねる。


「盗まれた投票箱は二年生の廊下にありました。階段を上がったらすぐ目に入る、壁際に置いてあったので見つけやすい場所でした。昨日は誰も怪しいものを見ていませんし、今朝早くにアーノルド先生がその消失に気づかれました」


アーノルド先生? 聞いたことのない名前だ……知らない先生もたくさんいるんだろう。


それはさておき、証拠がないということだ。犯人が投票箱を盗む機会は二つ考えられる。一つは昨日の午後。もう一つは、先生たちより早く、かなり早い時間に来たということ。


「エリザ、二年生の校舎の廊下に行こう」


歩きながら、可能性を考え続けた……もし昨日だったとしても、どんなに遅い時間でも、誰かが何か怪しいものを見ていたはずだ。だとすると……早朝にやったというのが最も論理的な選択肢かもしれない。


アカデミーは一日も門を閉めない。犯人はいつでも入って投票箱を盗むことができた……これで少し複雑になった。真夜中に何かをした可能性も出てくるからだ。でも、その可能性は除外しよう。たとえ犯人が真夜中に動いたとしても、選択肢は投票箱を自分の部屋に持ち帰るか、アカデミーのどこかに隠すかの二つだけだ。


動機を考えようとすると……特定の誰かに勝ってほしくないから、としか思えない。銀太郎会長が言ったように、票が失われれば、それはカウントされず、無駄な票になる。犯人が求めているのは、まさにそれだ。


二年生の廊下に着くと、投票箱が置かれていた棚だけがあった。周りを調べても、何も……手がかりは一つもない。


可能性を排除して、重要なことだけに集中しなければ。犯人が候補者と関係しているなら、そこから始めるべきだ。


「エリザ、一年生の廊下に戻ろう」


確かめたいことがあった。


廊下の窓から、候補者たちがいるかどうか見えるはずだ。でも、僕が行って見たら、すぐにバレてしまう……


「エリザ、お願いしたいことがある」


エリザに頼んで、歩きながら候補者の武蔵さんと完士がそれぞれのクラスにいるか確認してもらった。


エリザが戻ってきて、二人ともクラスにいたと言った……なら、残るは……桜井先輩だ。


今度は僕が廊下を歩き、横目で二年Aクラスの教室内を見る。まず、ひめかの姿が目に入った。でも、彼女に集中すべきじゃない。一歩進むごとに、僕の目は必死に桜井先輩の姿を探す。でも……見えない。


エリザにもメッセージを送って確認してもらった……彼女も見なかったようだ。


最初の容疑者を見つけた。


会長のところに戻って報告する。


「なるほど、つまり君は二年Aクラスの桜井くるみが主な容疑者だと思っているんだね」


「十分な証拠がないように見えるかもしれませんが――」


「それ以上説明しなくていいよ。ただ、また君には驚かされるな、アレン」


「……?」


「僕は盗まれた投票箱を探せと明確に指示した。でも、君は犯人を探すことに集中した。だから驚いているんだよ」


会長が立ち上がった。今度は彼が動くようだ。


僕とエリザは会長について行った。桜井先輩の教室に向かい、ドアをノックして担任の先生と話す。戻ってきた会長は、桜井先輩が昨日体調不良を報告し、今日は欠席していると言った。


アリバイか? それとも本当に病気なのか……いや、偶然にしては出来すぎている。何か関連があるはずだ。


会長は集中している僕の肩を軽く叩いた。


「それで? これからどうするつもりかな?」


「……」


会長の言葉が、励ましのように感じられた。


犯人につながる可能性を考え始めた。でも、どんな手がかりがあるだろう? もし桜井先輩が犯人なら、彼女は何をするだろう?


投票箱が置かれていた棚をもう一度調べた。まるで棚が犯人を教えてくれるかのように、じっと見つめる。


そして……今まで気づかなかったものに気づいた。


棚の表面に、インクの色のせいでほとんど区別できないくらい薄く、鉛筆で書かれた文字があった。三つの数字と文字の組み合わせ――「1K、2J、3L」


これは何を意味する?


ずっと観察していた会長が、突然言った。


「その数字と文字の組み合わせ……使われていない教室を思い出すね」


それだ! 決定的な手がかりを見つけた。桜井先輩は、使われていない教室のどこかにいるはずだ。


「会長! 犯人がどこにいるか分かりました」


急いで、投票箱か桜井先輩が使われていない教室のどこかにいる可能性を説明した。


すぐに、三人は別々の方向に分かれて、使われていない教室へ向かった。


僕は二年生の校舎にある「2J」の札がついた教室に行くことにした。


静寂に包まれた廊下。そして、目の前にあるドア。


それを開けると……そこにいたのは――――桜井先輩だった。

次回――


言葉の重み。


盗まれた投票箱の先に待っていたのは、

ただの犯人ではなかった。


消された記憶

そして、デバイスの真実。


桜井くるみが語る過去。

銀太郎会長への疑念。

リリスという存在。


信じるべきは誰か。

疑うべきは誰か。


選挙は終盤へ。

だが、これは始まりに過ぎない。


真実に近づくほど、世界は歪み始める。

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