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戦いの果ての優しさ

想いは、時にぶつかり合わなければ届かない。


アヤとかんな。

強がりも、嫉妬も、不安も、

全部を抱えたまま逃げずに向き合うことを選んだ。


これはポイントのためのバトルじゃない。

勝ち負けを決めるための戦いでもない。


好きだからこそ怖い。

失いたくないからこそ、傷つけてしまう。


そしてアレンもまた、

二人の本気を前にして、

自分の気持ちから目を逸らせなくなっていく。


壊れるかもしれない関係。

それでも守りたい友情。


戦いの果てに残るのは、勝者か敗者か――

それとも、もっと別の何かか。

空気が張り詰めていた。


アヤとかんなの対立は、もう感情だけの問題じゃない。プライドの戦いになっていた。二人とも僕をじっと見つめて、答えを待っている。


「アレン、このバトルの審判やるわよね?」


かんなが自信に満ちた目で言った。


「当然。わたしが勝つって、アレンも分かってるはずだから」


アヤが揺るぎない自信で応じる。


「わたしに有利な判定するなんて思わないで、かんな」


……正直、この状況はかなり居心地が悪い。でも、逃げ道なんてない。このバトルには、ただのポイント争い以上の何かが賭けられている。二人とも10ポイントを賭けていて、ルールがこれから決まろうとしていた。


「ルールは……『キャプチャーバウト』でどう?」


かんなが提案する。


アヤが眉をひそめた。


「一つ聞くわ、かんな。あんた、そのルールで戦ったことあるの?」


かんなが微かに笑みを浮かべる。


「ない。そのルールでバトルしたこと、一度もない。でも適切だと思う。考えて。私とあなたがアレンを巡って戦う。このバトルで手に入れるべきオブジェクトが彼だとしたら……メタファーみたいなものだ」


アヤは迷っているようだったが、数秒後、受け入れた。


審判として、目の前のパネルを見る。このバトルのルールを把握しなければならない。


オブジェクトが空中に浮遊しており、それを獲得しなければならない。どちらかがそのオブジェクトを完全に入手するまでバトルは終わらない。自発的に降参しない限り、失格はない。


上を見上げる。獲得すべきオブジェクトが地上から数メートルの高さに浮かんでいた。表面に奇妙な記号が刻まれた金属製のブリーフケースだ。そこまで届くための足場も構造物もない。つまり、アヤとかんなは自分のスキルか環境を使って、あそこまで辿り着かなければならない。


全ての準備が整い、パネルにバトル開始可能の表示が出た。始めたくはなかった。でも、もう後戻りはできない。親友二人が戦おうとしている。しかも……僕のために。


ボタンを押した。


バトル開始。


躊躇なく、二人は攻撃に移った。


アヤが最初に動き、鎖が空気を切り裂いて飛んだ。でも、かんなが氷の刀で弾き返す。アヤは動じなかった。まるでその反応を予測していたかのように。かんなが逸らした鎖には、実は別の目的があった――かんなの足に絡みつく。アヤが力強く引っ張り、かんながバランスを崩して地面に倒れた。


一瞬で、アヤがかんなの上に飛びかかり、容赦なく殴り始めた。


「アレンが迷ってるって、知らないとでも思ってるの?」


憤りのこもった声で、拳を振り下ろしながら言う。


「だから待つって決めたのよ、でも……不安だったの……今まで生きてきた中で、怖かったのよ!」


でも、かんなは負けなかった。刀を使い、氷の突風を生み出してアヤを後退させた。素早く立ち上がり、両手で刀を構える。


「私も苦しんでないとでも?」


かんなが叫びながらアヤに向かって走る。


「私もアレンに見てほしい! 私も彼に近づきたい! 私も……!」


正確な斬撃の連続で、かんなが氷の突風を放出し、通り道の床が凍っていく。アヤは避けようとしたが、氷の広がりが速すぎた。滑って転倒する。


今度はかんながアヤに飛びかかり、左拳で殴りつける。


「私も……!」


でも、その言葉を終える前に、アヤが反応した。鎖がまるで生きているかのように動き、かんなの拳を捕らえて顔の数センチ手前で止めた。素早い動きで、鎖がかんなの体に巻きつき、動きを封じる。


アヤが素早く立ち上がり、後退しながら荒い息をついた。


「あんたもアレンに何か感じてるなら、さっさと離れたらどうなの?」


厳しい口調で言う。


「アレンにはわたしがいるんだから、あんたなんて必要ないのよ!」


かんなが悔しそうにもがく。


「それはあなたがそう思ってるだけ。分かってるはず、アヤ。アレンは迷ってる…… 彼はみんなにとって最善のことを考えてるだけ……」


突然、かんなの刀が冷気の輝きを放ち始めた。氷のオーラが彼女を包み、鎖へと広がる。数秒で鎖が凍りついた。


「な……!?」


アヤが驚いて目を見開く。


鎖がパキンという音を立てて砕けた。アヤは素早く後退し、鎖を確認した。そして深刻な事実に気づく――鎖の一部が失われていた。武器の一つが弱体化した今、バトルはさらに不確実なものになった。


緊張が高まる。二人は激しく見つめ合い、まだ決着には程遠いことを理解していた。


休むことなく、バトルは続いた。どちらも相手に譲る気はない。二人が内に秘めたプライドと感情が、一撃一撃を単なる攻撃以上のものにしていた。自分の想いを証明する戦いだった。


かんなが次の動きの準備をし、刀にエネルギーを集中させる。力強く地面を叩くと、氷の波が急速に広がり、アヤの足を捕らえた。一時的な優位を活かし、かんなはブリーフケースまで続く氷の階段を作り出す。


しかし、かんながそれに到達する前に、アヤが反応した。正確に鎖を投げ、かんなの足首を捕らえて強く締め付けた。かんなは動こうとしたが、動きが制限される。それでも、刀はまだ使える。素早い斬撃で鎖を断ち切ろうとしたが、アヤは興味深いことに気づいた――一撃ごとに、かんなの周囲の氷が弱くなっていく。


ついに氷が崩れ、かんなが地面に落下した。上昇は未完に終わった。


アヤがチャンスを逃さない。強く引っ張って自分の足を氷から解放し、かんなに向かって走る。一瞬の隙も与えず、再び鎖を投げた。


かんなが素早い反射神経で刀を使ってブロックする。


でも、これこそアヤが望んでいたことだった。


「捕まえたわ!」


アヤが自信に満ちた笑みで叫ぶ。


鎖が刀の鞘に絡みついた。回転とジャンプで勢いをつけ、アヤが空へと飛び上がる。金属製のブリーフケースに到達し、全力でそれに掴みついた。


しかし、バトルはまだ終わらない。触れるだけでは不十分だ。完全に外さなければならない。


かんなはそれを許さない。素早く空中に氷の階段を生成し、俊敏に跳び上がっていく。数秒で、アヤのところまで辿り着き、二人は顔を合わせ、全力でブリーフケースを引っ張り合った。


「離しなさいよ、かんな!」


アヤが額に汗を流しながら叫ぶ。


「離さない、アヤ」


かんなが同じ勢いで応じる。


二人とも力いっぱい引っ張り、譲ろうとしない。その視線は、この瞬間の激しさで燃えていた。


そして……


何とか、もみ合いの中で、二人とも地面に落下し、激しく打ちつけられた。


それでも……再び立ち上がろうと、全てを出し切ろうとしていた。


今度は拳だけで、殴り合い始めた。


アヤが叫びながら拳を振るう。


「どうして諦めないのよ!? これじゃどこにも辿り着けないって分からないの!?」


「アヤが始めたんでしょ! 私の空間に、私の……私の平穏に踏み込んできたのよ!」


かんながアヤの腕に拳を当てる。でも、この拳では、バトルを終わらせることはできない。


もう……我慢できなかった。審判の位置から、二人に向かって叫んだ。


「もうやめてくれ! 二人とも、十分だろ!」


声が苦悩に満ちている。でも、二人とも僕を無視する。


二人が離れ、疲労困憊だった。スキルが衰え始めている。アヤの鎖の動きが鈍くなり、かんなの氷ももう密度が薄い。


見つめ合う。そして初めて、ライバルではなく、同じように傷つき疲れた友人を見ているようだった……少なくとも、僕にはそう見えた。二人が何も言わず見つめ合い、ただ疲労で息を切らしている。


今、二人は何を考えているんだろう……?


* * *

(アヤ)


かんなを見た瞬間、思った。


……一体何考えて、このバトル受けたんだ?


自分の手を見る。鎖を握ってる手が……震えてた。


分かってる。なんでこうなってるか、分かってるんだ。


怖いんだ。


愛してる人を失うのが怖い……それだけじゃない。友達も、全部失うのが怖い。


「……ねえ」


声が出た。


「あんたがそこで、わたしたちを待ってるの見た時……怒ってなかった。わたし……怖かったんだ」


かんながゆっくりと刀を下ろす。


「……怖い?」


「そうだ。怖かったんだよ……全部、台無しにしちまったんじゃないかって。アレンだけじゃない、あんたとも。みんなとも」


また自分の手を見る。まだ震えてる。


「わたし、いつも考える前に動くだろ。全部ぶち壊す。で、あんたにあんな風に言われて……一番怖かったことが、現実になった気がしたんだ」


かんながじっとこっちを見てる。


その目を見て……確信した。


かんなも、悲しんでるんだ……


* * *

(かんな)


アヤを見た瞬間……胸が、痛かった。


ボロボロで、傷だらけで、立っているのがやっとみたいに見える。こんな姿……見たくなかった。


怖い……の。


……わたしも、怖くなってきた。


この友情のために、自分が何をしようとしているのか。失敗して、全部失うことが。


今のアヤの表情……あれは、いつもの不敵な顔じゃない。クラスで謝ってた時のアヤだ。自分が役立たずだって思い込んで、怯えてた時の。自分が足りないんじゃないかって恐れてる時の。


わたしが……もう一度、アヤをそんな気持ちにさせてる。


氷の刀が、細かい霧になって消えていく。


「私も……怖かった」


怒りが消えて、疲れと弱さだけが残った。


「アレンにあんな言葉をかけたって聞いた時……誰かに奪われる気がしたの。ずっと静かに大切にしてきたものを……アレンの隣にいる場所を」


アヤの鎖が引っ込んでいく。


「あんたの場所……!?わたしがそれを奪おうとしてるって思ってるの!?かんな、わたしだってあんたもそうだなんて知らなかったのよ……!」


「言わなかったから……っ!」


声が震える。でも、言わなきゃ。拳を握りしめて、アヤを真っ直ぐ見つめた。


「全部、胸の中にしまい込んでた。静かに待ってれば、誰よりも理解してあげてれば、誰よりも見守ってれば……いつか気づいてもらえるって。でもアヤは……私にできなかった勇気を持ってた。みんなの前で振られるかもしれないのに、自分から踏み出した。私は……それが憎かった」


重い沈黙。お互いの言葉が、ゆっくりと染み込んでいく。


* * *

(アヤ)


かんなを見た。


あいつはいつも静かで、感情を表に出さない。でも今は――違った。その壁を越えてきた。


脅かされてると感じてる。怖がってる。わたしと同じように。


演劇でアレンに告白してから……二週間。


ってことは、かんなはずっと……ずっと我慢してたんだ。必死に抑え込んで、自分に嘘をついてまで、現実を受け入れないようにしてたんだろう。


胸が痛い。


わたしのせいで、友達が傷ついてる。


かんなだけじゃない……アレンも。アレンは優しいから……きっと傷つけちゃったんだ。


すごく……すごく悲しい。


一歩、前に出た。手には何も持ってない。


「……わたしたち、そんなに違わないんじゃない? 二人とも怖がってる。二人とも……同じものを欲しがってる」


かんながアレンを表すブリーフケースを見て、それからわたしを見た。


「バトルで勝ち取るブリーフケースじゃない。私たち……手に入らないもののために戦ってる」


ゆっくり頷いた。悲しくて、でも分かり合えたような笑みが浮かぶ。


「……人間だもん。自分の気持ちがあって……それに、めちゃくちゃ混乱してるはずよ」


疲れたような笑い声が出た。


「ったく、アレンから見たらわたしたち、完全にイカれてるわよね」


かんなの唇から小さなため息が漏れた。ほとんど笑いみたいな。


「そう。イカれてる」


「あはは……!」


「ふふ……」


* * *

(アレン)


アヤとかんなが視線を交わす。張り詰めていた空気が、すっと消えていった。


バトルが全てを吐き出させたんだ。残ったのは……お互いへの認識だけ。


「ねえ、かんな……さ」


アヤが口を開く。


「もう、これ……やめない?」


「やめて、どうする」


かんなの声は相変わらず平坦だ。


「待つの」


アヤがかんなの目を真っ直ぐ見つめた。


「二人で。ライバルとしてじゃなくて……同じクソみたいな状況にいる友達として」


かんなが驚いたように目を見開く。でも、すぐにその表情が和らいだ。


「……一番、賢い。一番、難しい」


「わかってるわよ」


アヤが続ける。


「でも、わたしたち同士で争ったら、アレンを苦しめるだけ。グループも壊れる。それに……わたし、あんたとの友情を失いたくないのよ、かんな。本気で」


……アヤの言葉は、本心だ。よく知ってる。彼女がそう言うとき、嘘はない。


こんなことがあっても、まだ二人の関係を大切にしてる。


もしかして……もしかして、この恋は戦争じゃなくてもいいのかもしれない。


共に待つことができるのかもしれない。


かんなが一歩前に出た。距離を詰める。


手を差し出す。握手のためじゃない。掌を上に向けて――休戦の証として。


「……わかった。待つ。一緒に。決めるのは、アレン。私たちのプレッシャーなしで」


アヤが、かんなの手を見つめる。それから自分の手を。


微笑んだ。さっきまでとは違う、心からの、安堵した笑顔だった。


そして、かんなの手の上に自分の手を重ねる。誓いのように。


「約束ね。でも……もし最終的にアレンがどっちかを選んだら……選ばれなかった方は、ちゃんと身を引く。いい?」


「……約束」


かんながしっかりと頷く。


二人が……僕の方を向いた。


安堵と、深い混乱が入り混じった表情をしてる僕を見つめてくる。


手を離し、二人は同時にブリーフケースに近づいた。スキルを使って。


でも、掴まない。そっと、同時に触れる。もう、僕を奪い合う物じゃないってことだ。


その時、パネルに目をやる。


オプションの項目がある……この戦闘を、勝者なしで終わらせることができる。


迷わず、ボタンを押した。


金属的な声が響く。


「バトルドロー」


勝者のいない戦いが終わった。


でも、二人とも勝ったんだ。もっと価値のあるものを――お互いへの敬意と、友情を守ることを。


デジタルフィールドが完全に消える。


アヤとかんなが、僕をじっと見つめてくる。


そして……二人とも、悪戯っぽく笑った。


!?


近づいてくる。両側から――抱きしめられた。


アヤの声が耳元で響く。


「アレン、わたしに惚れさせてやるからね。覚悟しなさいよ!」


かんなの声も、反対側から。


「アレン。私が一番、理解できる。私がアレンに感じてるのと同じ気持ちにさせる」


……ふああ。


これで確定した。


アヤとかんなの気持ちを、はっきりと意識した今……これから先、物事はもっともっと複雑になっていく。


でも……


嫌じゃない。


自分自身をもっと理解できるようになりたい。二人が僕に向けてくれる愛を、ちゃんと理解したい。


……幸せだ、と思った。


* * *

(りん)


日々はあっという間に過ぎていった……そして、ついにその時が来た。銀太郎会長と話さなきゃいけない時が。ずっと先延ばしにしてきたこと。でも、もう決めたの。


生徒会室の扉の前に立って、深呼吸する。


みんなのことが頭に浮かぶ。アヤは……なんだか変だった。アレンに対して距離を置いてて、すごく冷たい感じで。かんなも様子がおかしくて。エリザが二人の間に入って仲裁しようとしてたけど……あれは数週間前のことだった。


それなのに、気づいたら突然全部元に戻ってた。今じゃアヤとかんなはすごく仲良しで、前よりも親密になってるみたい。


あたし……何か見逃してる気がする。


みんなから取り残されてる感じ。


ううん、違う! 今はそんなこと考えてる場合じゃないよね!


Fクラスのみんなを守りたい。そのためには、あたしも一歩踏み出さなきゃ。だから……この案を思いついたの。


でもね、これはあたし自身のことじゃない。


アレンのこと。


扉をノックする前に、もう一度心の中で確認する。


そう――あたしは銀太郎会長に伝えるの。


次の生徒会長にふさわしいのは――アレンだって!

次回――


選挙戦が正式に始まりました。


ルールは変わり、

下位クラスにも道が開かれた。


でも――

道が開かれるということは、

それだけ競争も激しくなるということ。


武蔵タロウ。

高遠完士。

そして、謎めいた桜井くるみ。


それぞれが抱える思惑。

そして、アレンに向けられる視線。


信じるということは、

支えるということ。


りんはアレンをどう導くのか。

アレンは自分の動機を見つけられるのか。


そして、静かに微笑むあの先輩の本当の狙いとは――?


選挙戦、いよいよ本格始動。


お楽しみに。

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