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偽りのない想い

ついに秋が訪れ、アカデミーは文化祭の話題で持ちきりになります。


人数が少ないFクラスでは、出し物をどうするかで意見が分かれることに。


そんな中、不器用ながらも何かを伝えようとするアヤの提案が、意外な展開を呼びます。


一方、演劇部では配役を決めるオーディションが開催されます。アレンとアヤ、二人が舞台の上で演じることになる役目とは——。

(アヤ)


目覚ましの音が鳴り響く。


手を伸ばそうとするけど、体が重い。やっとの思いで一つ目を止めた。次のアラームに手を伸ばす――けど、力が抜けて枕の柔らかい感触の上に手が落ちる。


また鳴る。


「……うるさい!」


イライラして叩きつけるように三つ目を止めた。完全に起き上がる。


部屋がちょっと寒い。もう秋か。そういえば、文化祭が発表されたんだっけ。


みんなこういうイベントで盛り上がるけど、わたしには嫌な思い出しかない。


でも――


今年は、その痛みを和らげてくれる人がいる。


アレン。


一緒に過ごした時間が次々と頭に浮かぶ。


もう感じることはないって諦めてた。いや、感じたくないって誓ってた、あの感情。


でも……本当にそうなのかな?


アカデミーへ行く準備をする。


いつもと変わらない朝のはずなのに、外に出れば文化祭の話ばかり。


いつも通り、途中でエリザと会って一緒に歩く。前はマリも一緒だったのに、最近は姿を見せない。


「アヤさん、皆さん文化祭の話で持ちきりですね。お聞きになりました?」


「聞いたかって?部屋出た瞬間から聞こえてたわよ。掲示板にも貼ってあったし」


「この文化祭、きっと特別なものになるでしょうね。このアカデミーは何もかもが違いますから。何か競争のようなものがあると思われますか?」


「ないわけないでしょ。絶対そうよ」


考えるまでもない。この場所での文化祭は、ルールだらけの競争になるに決まってる。


それが……心配なのよ。


教室に着くと、アレンとりんがもう来てて、いつものように話してた。


普段あんまり細かいこと気にしないけど、最近のアレン、なんか……楽になった?自由になった?


うまく言えないけど、前より違う。


何かあったのかな?


席に座りながら、アレンとりんが話してるのを見てた。


見てると、胸がざわざわする。


りんのせいで変わったの?


りんは悪い子じゃない。それは分かってる。でも、二人が一緒にいるのを見ると――


見たくない。


立ち上がって、二人のところに向かった。会話を遮るように。


ただ一つだけ分かってた。


置いてかれたくない。


ホームルームが始まって、案の定、先生が文化祭について発表した。二週間後らしい。


そして予想通り――特別ルールがある。


クラスだけじゃなく、部活動も参加する。


つまり、二倍の労力。


当然、大量のポイントが収益と来客数に応じて配分される。


ただ、Fクラスは人数が少ないから特別措置があるって。


一つ目は、小規模な出し物をして、各自の部活動に集中する。二つ目は、クラスでは何もせず、完全に部活動だけに専念する。


部活動の参加拒否は不可。この二択のみ。


先生は十分間、クラスで決めるように言った。


みんな集まって相談する。エリザはクラス委員長だから、一番責任が重い。


「皆さん、わたしは部活動だけに集中すべきだと思います。残念ですが、この人数でクラスと部活動、両方は無理です」


静まり返る。


確かにそうよ。Fクラスは八人しかいない。ここで何かやって、さらに部活でも何かやるなんて無理に決まってる。


でも――


「やだ!」


りんが反対した。


みんながりんを見る。


「一緒に何かできるよ。小さくてもいいから、みんなで何かやりたい」


その言い方、不可能に立ち向かう勇気――


アレンを見たら、感心した顔でりんを見てた。


その顔が……嫌だった。


見ないで!そんな風にりんを見ないで!


そして、アレンもりんに賛成した。


「僕もやってみたいな。みんなで何かできると思う」


エリザは納得してなさそうだったけど、考え込んでる。


しばらくして――


「分かりました。でしたら、今すぐ何ができるか決めましょう」


みんなが考え始める。


わたしも考えるけど、何も浮かばない。


企画とか計画とか、そういうの苦手なのよ。


それが悔しい。みんな何か貢献しようとしてるのに、わたしの頭は追いつけない。


自分が馬鹿だって分かってる。頭良くない。でも、今この瞬間、Fクラスで一番役立たずだって実感するのは……辛い。


「ねえ!」


気づいたら声が出てた。


何も考えてない。ただ口が動いた。


なんで?何のアイデアもないのに。


みんなの視線が集まる。言葉が詰まる。


「どうしたの、アヤさん?」


エリザがじっと見てくる。余計に緊張する。


何を言えばいい?周りを見回す。何でもいい、何か――馬鹿げてても――


「そ、その……あの……」


アレンのリュックが目に入った。


「手作りバッグの販売とか……どうかな。売れると思うし、結構稼げるんじゃない?」


みんな考え込んでる。


笑われると思った。馬鹿な案だって言われると思った。


でも――


なんで真剣に考えてるの?


みんなを馬鹿にしてるみたいで申し訳なくなる。それなのに――


「いいね、その案。アヤ」


アレンの笑顔が真っ直ぐすぎて。


わたしの適当な提案が、こんな反応を引き出すなんて。


「では、決まりですね」


エリザがノートを準備する。


やめさせなきゃ。これでいいの?本当に?


「あ、あの……みんな……」


声が震えて、囁くようになる。


みんな嬉しそうなのに、わたしは罪悪感でいっぱい。


「あの!!」


みんなが振り返る。困惑した顔で。


「みんな……ごめん!」


深く頭を下げた。


「ごめん!さっきのは冗談だったの……ちゃんと考えてなくて、適当に言っただけで……本気にされるとは思わなくて。それに、何のアイデアもなかったし……ごめんなさい!」


誰も何も言わない。


でも、誰かが近づいてくる足音がして――アレンの声。


「顔を上げて、アヤ。悪いことなんてしてないよ」


アレンの優しさが、彼だからこそのものだって分かって、余計に辛い。


顔を上げて、彼を見た――


「アヤの提案はいいと思う。恥ずかしがる必要ないよ」


「でも!馬鹿げてるわよ。もっといい案があるはずでしょ?わたし、みんなみたいに頭良くないし……きっともっといいのが……」


「そんなことない」


アレンがわたしの肩に手を置いた。見上げると、真っ直ぐこっちを見てる。


「案が一番いい。深く考えずに言ったかもしれない、冗談のつもりだったかもしれない。でも、みんな賛成したんだ。それが大事なんじゃないかな」


この言葉を聞いて……何を考えればいいか分からなくなった。


優しさ?本心?


馬鹿だから、どう受け取ればいいか分からない。


でも、一つだけ確かなことがある。


アレンはまた、わたしの思い込みとは違うって証明してくれた。


みんなが話してるのを見て、誰もわたしを責めないのを見て思った。


もしかして、間違って見てるのはわたしの方なのかも。


こうして、Fクラスは手作りバッグの小さな販売ブースをやることに決まった。


ため息が出た。安堵か、諦めか。


アレンと出会ってから、考え方が変わってきてる。


前は男なんて、女の注意を引きたいだけの獣だって思ってた。実際に経験してきたから。


でも、アレンは別の見方を教えてくれた。


そのまま一日が過ぎて、演劇部の時間になった。


文化祭で演劇部が何をするか決める時間。


アレンと並んで演劇部の部室に向かう。


横顔を見る。穏やかで……成熟したオーラさえ漂ってる。


部室に着くまでの静寂は、心地よくもあり、息苦しくもあった。


中に入ると騒がしい。


守がステージの上にいる。何か発表するときはいつもあそこに立つ。


「注意、みんな。文化祭の準備をしなきゃいけない。もう恒例だけど、アカデミー全体に向けて一日中三つの出し物をやるぞ」


部活動でポイントを稼ぐ方法は、クラスとは違うらしい。部活動の場合、もっと直接的な競争になるって。アカデミーが実施してるシステムでは、他の部活動への参加が義務付けられていて、自分たちの得点にも繋がるんだとか。


つまり……各生徒は文化祭の間に最低でもいくつかの出店や部活動を訪問しなきゃいけない。客や観客として参加すれば、訪問した部活動にポイントが入る……けど、自分の部活動にもポイントが入る仕組み。誰かが棄権して他を妨害するってことを防ぐためらしい。


演劇部の場合、普通の演劇と同じで誰が出演するか決めなきゃいけない。守が全員を見渡して言った。


「今回は副部長のクロエに、役者を決めてもらう」


クロエがいつものリラックスした笑顔で近づいてきた。


「みんな、頑張ってね。劇に参加する人には特別ポイントがあるわよ」


ふと、アレンの方を見る。何か考え込んでるみたいだった。


もしかして……参加したいのかな。


もしそうなら、わたしも頑張って役をもらいたい。


……正直言うと、演技なんてあんまり興味ない。選ばれたくもなかった。


でも、この部活動に入った理由は……個人的なものがあった。


アレン……


あいつのことをもっと深く知るようになってから、何か変わった気がする。あいつには独特な雰囲気がある。いつも落ち着いてて、それでいて強い。一緒にいても無理する必要がない、そんな相手。


でも……これってほんとに本物なのかな?また勝手な幻想に流されてるだけじゃないの?


ダメだ。考えすぎるのはよくない。


まずは自分で確かめないと。


「よく聞いてね。今すぐ配役を決めるわ。一年生から始めるから、一年生は全員集まって」


クロエの声で我に返った。


もう緊張してきた。周りのみんなも緊張してるみたいだった。まあ、そう見えただけかもしれないけど。


クロエが全員に台本を配った。


「みんなには台本の一部を読んで、自分なりに演じてもらうわ。物語と正確に関係なくてもいい。大事なのは演技力を見ることだから」


配られた台本を読む。


……待って!


この場面のキャラクター……男?


変だったけど、結局手を上げた。


「クロエ、女子もこの役を演じなきゃいけないんですか?」


あからさまに失望した表情でわたしを見て、ため息をついた。


「アヤ、演じてもらうって言って詳細を指定しない時は、全員平等ってこと。演劇では誰がどの役をやるかなんて関係ないの。台本に男性キャラクターって書いてあっても、男性が演じなきゃいけないわけじゃない。女性だって上手くできるわ。それに、この劇はオリジナルだから、そんな細かいこと気にしなくていいの。変更できるんだから」


最後に少し不気味な笑みを浮かべた。何か罠にはまった気がした。


アレンを見る。


意外と……落ち着いてる。少なくともそう見える。


一人ずつ、ステージに上がって台詞を読んでいった。


朋也が最初の方だった。緊張してるのが分かった。終わった後、クロエは容赦なく直球で言った。


「ごめんね、朋也。でも条件を満たしてないわ。あなたは裏方を手伝ってもらうわね」


次はカリ。Dクラスの子だ。


演技に驚いた。クロエも興味を持ったみたいで、こう言った。


「面白かったわ。候補に入れておくわね」


そして……わたしの番が来た。


ステージに上がる一歩一歩が緊張する。


ここから全部見える。先輩たちは別のことをしてて、一年生のことなんて気にしてない。


クロエがそこに立ってわたしを見てる。まるで審判みたい。


追い詰められた気分だった。


……でも目はアレンに向かっちゃった。


あいつ、わたしが何をするのか気になってるみたい。


深く息を吸って、始めた。


「あんたがそんな風にわたしを見るたびに……あんたのこと考えずにはいられなくなる……でも……教えて、あんたにとってほんとに大事なの?あんたにとって……ほんとに何か意味があったの……?わたしはあんたの側にいた……それなのに……気づかなかった……知らなかった……じゃあ教えて……どうして今更……?」


ゆっくりと床に倒れ込むように膝をついて、下を向いた。深い悲しみの中にいるキャラクターみたいに。


突然、拍手が聞こえた。


前を見ると、アレンが拍手してた。


胸の奥が温かくなって、思わず小さく笑ってしまった。


クロエが眉をひそめて、台本でアレンの手を叩いた。


「静かにして」


苛立った様子でそう言ってから、わたしの方を向いた。


「面白かったわ。まるで本気で言ってるみたいだった。合格よ!どの役を割り振るかはまた考えるけどね」


「え? ええっ!!」


信じられなかった。


劇に選ばれた。というか、最初に選ばれたのがわたしだった。


それ以上考える暇もなく、すぐにアレンが呼ばれた。


自分の場所に戻って、アレンがステージに上がるのを見る。


アレンは何も怖がってないように見えるけど、演技を始めた時、何か違う感じがした。


言葉が誰かに向けられてるんじゃなくて……自分自身に話しかけてるみたいだった。


「ねぇ……昔、僕は目的もなく歩いてた。風に流される葉っぱみたいに。自由ってのは一人で進むことで、縛られないことだって思ってた……でも今日、ここでみんなの顔を見て、分かったんだ。本当の自由は逃げることじゃない。帰りたいと思える場所を見つけることなんだ……世界が混沌としてても、誰かが「ここにいるよ、君と一緒に」って言ってくれる場所を……」


最後の「ここにいるよ、君と一緒に」って言葉で、心臓が跳ねた。


顔が熱くなって、視線を逸らした。クロエの横顔を見る。考え込んでるみたいだった。


「保留にするわ。次」


アレンが降りて、自分の場所に戻った。


わたしは近づいた。


「よかったよ」


「まあ、クロエ先輩には選ばれなかったけど」


「……参加したいの?」


「うん、まあ……そうだね」


アレンが参加したいなんて驚いた。


わたしはもう劇に入ってる。だから今度は、アレンも劇に入ってほしいって思い始めた。


残りの候補者が次々と演技した。正太郎、ディオニ、そして最後にカサンドラ。


彼女は特にクロエの興味を引いたみたいだけど、迷ってるようだった。


最終的に、クロエが眉をひそめながらみんなの前に立った。


「よし、アヤが劇に参加することは決めたわ。でもまだ二人目を選べない。カリ、アレン、カサンドラの中で……」


突然、守がクロエの後ろに現れて、彼女のノートを見てた。


「なるほどな……」


「きゃっ!そんな風に驚かさないでよ、守!」


「誰を選ぶか迷ってるのか?」


「そう……ちょっと難しいのよ」


守は落ち着いた様子でノートを見て、クロエに何か囁き始めた。


聞こえない。「……すべき……」とか「……じゃあ……」とかの断片だけ。


話し終わると、クロエが頷いた。


一歩前に出て、発表した。


「よし、守の推薦を受け入れるわ。アレン!あなたが選ばれたわ。おめでとう」


アレンとわたしは驚いて顔を見合わせた。


カサンドラが抗議してるのが聞こえるけど、わたしの頭の中はアレンのことでいっぱいだった。


アレンとわたし。二人とも劇に出る。


偶然なんて信じないけど……どうしてあいつと一緒に演技することになったんだろう?


もしかして……ただもしかしてだけど……運命がわたしにチャンスをくれたのかもしれない。


アレンに対して本当に何を感じてるのか、確かめるための。

次回――


アヤとアレンの配役が決まり、物語は一気に加速していきます 。


さて、気になる次は……?


文化祭に向けた演劇部の猛稽古が始まる。

演じるのは、悲劇的な最期を遂げる犯罪者の二人 。

稽古を重ねる中で、アヤは台本の中の言葉に「本当の自分」の想いを重ねていく…… 。


そして文化祭当日、舞台の上で彼女が放った「台本にない言葉」とは!?

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