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兄の認証

平穏というものは、案外突然訪れる。


エリザと過ごす時間は、どこか柔らかくて、穏やかで。

そして――彼女の兄との出会いは、予想外に賑やかなものだった。


緊張するはずの初対面。

けれどそこにあったのは、警戒よりも笑いだった。


気づけば、肩の力を抜いていられる時間。

守るとか、戦うとか、選ばれるとか――

そんな重たい言葉を忘れられるひととき。


りんも。

かんなも。

それぞれの距離が少しずつ変わっていく中で。


そしてエリザもまた、アレンの世界の一部になっていく。


穏やかな日常は、決して止まらない物語の一部だ。

今日は静かな一日だった。


夏休みの宿題をやっていたところに、突然エリザからメッセージが届いた。短い文章で、寮の入り口で今すぐ会いたいと言ってくる。


何かあったのか……?


エリザに何かあったんじゃないかと心配になって、すぐに下へ向かった。


外に出ると、エリザが駆け寄ってきた。本当に心配そうな顔をしている。


「アレン、お願い、助けてください!」


「……どうしたんだ?」


「……わたしを、連れて行こうとしているんです!」


「はあ?」


連れて行く? どこに? 誰が?


頭の中で警報が鳴った。誘拐とか……? まさかカルトとか、そういうやつじゃないよな? 政府のエージェントとか、裕福な家族が失われた娘を取り戻しに来たとか、もっと悪いことに、何かの宗教団体とか……ありえない、ありえない。


「待って、エリザ! 落ち着いて! 『連れて行く』って……どこに!?」


でも、くだらない妄想を続ける前に、エリザはため息をついて言った。


「わたしのお兄さんのことです」


瞬きをした。


「あ! 君の……お兄さん? 待って、兄がいたのか?」


そういえば、クラスで自己紹介したとき、お兄さんのことを軽く話していた気がする。


「ああ……そうだった、そうだった。忘れてた」


「え? 何の話ですか?」


「いや、何でもない。それで、君のお兄さんがどうしたんだ?」


「今日、お兄さんのメッセージが来て……お母さんとお父さんと話したそうで……その、実家のレストランが大変なことになっているみたいで」


眉を上げた。レストラン? エリザの家族がレストランを経営しているなんて、想像もしていなかった。何となく、かんなみたいな上流階級の家庭を想像していた。


「わたしの家族はレストランを経営しています。おじいちゃんの代から続いている小さなお店です」


話し方からして有名ではないけど、地元ではそれなりに知られているらしい。


ゆっくりと頷いた。


「なるほど……一瞬、君もかんなみたいな感じかと思ってた」


「かんなさん?」首を傾げた。


「ほら、上流階級の家庭とか、お金持ちで、影響力があって、使用人とかいるような」


エリザは笑いながら首を横に振った。


「ふふ、そんなわけないです。わたしたちは普通の家族ですよ」


少し恥ずかしくなった。エリザをそういうタイプだと思い込んでいた自分が……今日は思い込みばかりで情けない……


「わたしの家は、ギリギリやっていけるくらいです。レストランが知られているといっても、大金持ちというわけではありません。ただ……働き者なだけです」


少し笑ってしまった。恥ずかしい。


「そうか……カテゴリーを間違えたな」


彼女は小さく笑ったけど、すぐに表情が真剣になった。


「お兄さんは、わたしが戻ってレストランを手伝うべきだと言っています。いえ、お願いというより……もう決まったことのように」


「だから『連れて行かれる』って言ったのか?」


「はい。最近、レストランの状態がとても悪いそうです」


「でも、君がいるかいないかで何が変わるんだ?」


「えっと……お兄さんとわたしは、よく手伝っていたんです。だから問題なかったのかもしれません。でも今は、わたしはここアカデミーにいて、お兄さんももうすぐ卒業で……」


状況が見えてきた。エリザとお兄さんが手伝っていたからこそ、店がうまく回っていたんだろう。でも今は二人ともアカデミーにいて外に出られない。両親は大変な状況にあるに違いない――そういうことか。助けが必要なんだ。


でも、待てよ! レストランなら従業員はどうなんだ?


すぐにエリザに聞いた。


「なあエリザ、レストランなら従業員はいないのか? ウェイターとか、そういうの」


彼女は「あ、そこ聞かれちゃった」みたいな顔をした。


エリザの頬が赤くなった。何か言う前に、両手が前に飛び出して、人差し指同士が軽くぶつかり合った――突然の恥ずかしさからくる仕草だ。指先が何度も触れ合って、まるで謝罪の秘密のコードを解読しようとしているみたいだった。普段は落ち着いた声が、ささやくように震えた。


「両親はずっと二人でレストランを切り盛りしてきました。従業員を雇ったことは一度もありません」


目を細めた。


「一度も?」


「一度も!」エリザは繰り返した。


「家族の伝統だと言っています。自分たちの手でやらなければならないと」


一秒考えて、皮肉な考えが頭をよぎった。


ケチなのか、頑固なのか? いや、たぶん両方だな。


内心で皮肉っぽく笑いながら頷いた。


エリザは続けた。


「問題は、お兄さんがもう決めてしまったことです。来年卒業したら、街の外の大学に進学するつもりだと」


これを聞いて、エリザの本当の問題が明確に見えてきた。


「でも、それは誰かがレストランに残らなきゃいけないってことだよな。両親はわたしがそうすべきだと思ってる」


唇を噛んで視線を落とした。


「両親は、わたしが家業を継ぐべきだと思っているそうです。お兄さんがそう言っていました! ……できません」


思わず拳を握りしめた。


「つまり……アカデミーを辞めさせたいってことか……」


沈黙が二人を包んだ。エリザが話したことを完全に理解した。


状況はこうだ――エリザのお兄さんが、両親はアカデミーを辞めてレストランを手伝うべきだと言っている。どう見ても、エリザの気持ちを考慮せずに、自分たちの都合を優先している。さらに悪いことに、両親はお兄さんには好きなことをさせるのに、エリザには許さない――そんなの不公平だ。こんなことがエリザに起こるなんて許せない。


そよ風が吹いて、髪の毛が一房持ち上げられた。静かに彼女を見つめた。表情には苛立ちと悲しみが混ざっていて、笑おうとしても完全にはできないような感じだった。


「君はどうしたいんだ、エリザ?」


「もちろん嫌です! アレン。ここに残りたいんです。学び続けたいし、書き続けたいし……」


静かに彼女を見つめた。一瞬、彼女には自分の目標があって、自分の夢があるのに、両親はそれを奪おうとしている。しかも、お兄さんの意見を優先して、二人を平等に扱っていないようだ。こんな不公平なこと、許せない。


エリザは、ただルールに従うだけの女の子じゃない。本当に自分のやっていることを愛している人だ。


「それで……だから僕に助けを求めたのか?」優しく聞いた。


エリザは深呼吸をした。


「はい。なぜかわからないけど、あなたになら話せると思いました。それで……もしあなたがお兄さんと話してくれたら、説得できるんじゃないかと思って」


「僕が?」


すごく混乱したけど、これはお兄さんと話す絶好のチャンスだ。やっていることが間違っていると伝えなきゃいけない。エリザの気持ちを考慮しなきゃいけないって。そうだ! 今すごくやる気が出てきた。エリザのお兄さんと話さないと。


「なんであなたなのか聞かないのか?」


「じゃあ……なんで僕なんだ?」


「……あなたのことを、とても信頼しているからです」


恥ずかしくなった。顔が熱くなるのを感じた。夏の暑さのせいじゃない。


真正面から見られて、少し居心地が悪くなった。でも不快じゃない。温かい感覚で、説明しづらい。


「わかった。君のお兄さんと話してみる」


「ありがとうございます。本当に」


「でも、どこで会うつもりだ? 女子寮には入れないし、君も男子寮には入れない」


エリザは考え込んで、何かアイデアが浮かんだように言った。


「近くにカフェがあります。そこで話せます」


メッセージを送り始めた。お兄さんにそこで会って話すために。メッセージを打ちながら、一緒にカフェへ歩いた。


カフェに着いて、窓際の席を見つけた。それぞれ基本的なコーヒーを注文した。


エリザのお兄さんの到着を待ちながら、もっと情報を知っておきたかった。そうすれば彼を説得できるかもしれない。


「なあエリザ、将来何をしたいんだ?」


突然の質問に驚いたようで、恥ずかしそうに小さな声で話し始めた。


「あの……文芸部に入っているの、知っていますよね?」


「ああ、それと関係があるのか?」


「はい。小説家になりたいんです」


エリザがそういうタイプだとは思っていなかった。


「意外だな。文芸部にいるから、編集者とか校正者、ジャーナリストかエッセイストになりたいのかと思ってた」


エリザは不快そうだった。言葉が理解されていないことの反響のように響いた。ゆっくりと目を細めた。太陽のせいじゃなく、自分が思っているより小さく見られていると気づいた人の苦い後味のせいだ。瞳の奥に失望の影があって、無言で「本気でそう思ってるんですか?」と訴えていた。


視線を逸らして、皮肉っぽく笑った。どうやらエリザは怒らせてしまったらしい。


「ひどいですね、アレン」


「ごめん。でも少なくとも君の新しい一面を知れた」


窓の外を見て視線を逸らした。二人の間に沈黙が生まれて、それから二人とも直接目を合わせた。


「それで? わたしの夢をどう思いますか?」


特に言うことはなかった。彼女がやりたいことだ。なんで意見を言わなきゃいけない?


「君が望むことを追い求めるのはいいことだと思う。たとえ両親やお兄さんに逆らってでも」


彼女は下を見つめながら微笑んだ。


「ありがとうございます、アレン。でも実は、今こうしていられるのはあなたのおかげなんです」


「僕の?」


「はい。アルム先輩とのこと、そして 図書館で起きたこと。覚えていますか?」


「ああ、覚えてる」


「あの日から変わり始めたんです。アレンのおかげで」


大げさだと思った。でも、彼女がこっちを見る目……こっちに向ける話し方…… まるで、エリザが僕を、奇妙な形で尊敬しているみたいだ……。


雰囲気が奇妙になった。彼女は見つめ続けて、その視線に居心地が悪くなった……彼女は手を伸ばし始めた。テーブルの上を滑らせて、テーブルに置いてある僕の手の近くまで来て、その瞬間――


視界の端に人影が見えた。振り向くと――


窓に、外に、誰かが張り付いていた。狂ったような顔で、息が荒く、目玉が飛び出していて、こっちをじっと見ていた。


驚いて叫んでしまった。


「うわああ――!」


エリザは逆に振り向いて言った。


「お兄さん!?」


お兄さん!?


男子は窓から離れて、カフェに入るために走ってきた。不機嫌な顔でこっちに近づいてくる。


エリザのお兄さんが、ぐっと僕に顔を近づけてきた。まるで値踏みするような、そんな視線で――


「君は誰だ? 僕の妹と何をしている?」


「アレンです。エリザと同じクラスで……」


「それで? 何でそんなに妹にくっついているんだ? ふん……」


どういうわけか、エリザのお兄さんはかなり苛立っているようだった――まさか、何か勘違いしているのか!?


「あの、お兄さん。これは君が思っているようなことじゃなくて、君と話をするために……」


「"お兄さん"と呼ぶな。夏休みとはいえ、ここはアカデミーの敷地内だ。"先輩"と呼べ。分かったか?」


その瞬間、エリザが彼の肩をとんと叩いた。


「痛いじゃないか、エリちゃん!」


「エリオット兄が悪いんです」


……どうやら、二人の関係は僕が予想していたよりもずっと近しいものらしい。


そう認識を改めながら、改めてエリオット先輩の顔を見た。よく見ると、エリザによく似ている――まるでエリザの男性版じゃないか!!


冗談はさておき、僕はエリザとエリオット先輩と一緒に再び席についた。


そして――沈黙が場を支配した。


今度は言葉が見つからない。エリザのお兄さんはもっと違うタイプだと思っていた。妹を含め、誰に対しても冷たい、そんな人物を想像していたのに……こうして二人が普通に話しているのを見ると、エリオット先輩に対する認識を完全に間違えていたような気がする。彼は……エリザを過保護にしているだけなのかもしれない。


一人っ子の僕には、兄妹の関係なんて分からない。


そんなことを考えていると、エリザはすでにエリオット先輩に、アカデミーを辞めたくないという自分の気持ちを打ち明けていた。


「エリちゃん、でも実家のレストランは、僕たちが何かしないと潰れてしまうかもしれないんだ」


「分かっていますわ。でも……わたしも自分の道を進みたいんです。お父さんやお母さんの言う通りにするんじゃなくて、わたしがやりたいことをやりたいんです!」


エリオット先輩は何も言わず、ただエリザを見つめていた。


すると突然、エリザが僕を指差した。


「アレンさんは、それをエリオット兄に伝えるためにここにいるんですわ」


エリオット先輩が再び僕を睨む。その視線は明らかに「お前は邪魔だ」と言っているようだった。


僕はため息をついた。でも、もう時間を無駄にはできない。


「エリオット先輩。エリザから聞いたんですが……ご両親が先輩に、エリザにアカデミーを辞めて実家のレストランを継がせるよう頼んだって。本当ですか?」


エリオット先輩は深くため息をついた。一瞬、さっきまであった笑顔が消えた。エリザを見て――彼女は視線を逸らした――それから僕に視線を戻した。


「両親と話したのは事実だ。でも、君が思っているような内容じゃなかった」


エリオット先輩は指だけを緊張させて、まるで見えないスプーンで遊んでいるかのようだった。そしてゆっくりと話し始めた。レストランの状況は、エリザが話していたよりもずっと複雑だった。


「売上は下がり続けている。客足も遠のいている。正直に言えば、あのレストランはもう長くは持たないだろう」


……なるほど。だからご両親は家業のことをそこまで心配しているのか。でも、それでもエリザを連れ戻すのは間違っている。


「エリオット先輩、状況は理解できます。でも……エリザに無理をさせるのは間違っていると思いませんか? 不公平だと思いませんか?」


エリオット先輩は眉をひそめた。困惑しているように見える。なぜ?


「もちろん、そう思うさ。僕の意見としては、家業は方向性を変えるべきだと思っている。でも父さんも母さんも聞く耳を持たない」


……そうか。エリオット先輩にとっても、あのレストランは大切なんだ。


「じゃあ、なぜエリザを引き離そうとするんですか? なぜ彼女を苦しませようとするんですか?」


「誰が妹を苦しませたいなんて言った?」


「先輩です! 先輩が彼女を苦しめているんです。エリザは変わろうとしている。嫌がらせを受けた時も……」


「ハッ!? 待て、そんなこと初耳だぞ」


……エリオット先輩の反応を見て、ひとつ分かった。エリザは、自分が経験したことを何も話していなかったんだ。


「エリちゃん、一体どういうことだ? この「嫌がらせ」って何のことだ?」


「……ごめんなさい、エリオット兄。実は……」


エリザはアルムのことそして図書館で審判委員会のメンバーと対峙したことを全部話した。


当然、エリオット先輩は完全にショックを受けていた。


「そいつに復讐してやる! 僕の妹に手を出すやつは許さない」


「落ち着いてください、エリオット兄」


……エリオット先輩は、エリザのこととなると感情的になるらしい。


僕は話をレストランとエリザのことに戻した。


「それで、エリオット先輩。エリザのことなんですが……」


「あ? まだその話か? もう言っただろう? レストランは危機的状況なんだ」


「先輩、聞いてください!」


声を荒げてしまった。エリオット先輩は困惑した顔で固まり、視線を外さない。エリザまで、僕が声を上げたことに驚いているようだった。


「エリザは賢いんです。聡明で、優しくて、礼儀正しい。周りの話をちゃんと聞ける。クラスの委員長で、危機的な状況でも冷静でいられる。誇りを持っているのに、それを鼻にかけたりしない。彼女は正しい権威とは何かを体現している……僕はそう思います」


エリザは顔を背けて、僕とエリオット先輩の両方から隠れようとしていた。エリオット先輩は彼女の反応に気づき、それから僕を見た。まだ困惑した表情だ。


なぜまだそんな顔をしている? 僕まで混乱してきた。エリザの兄は、話の流れが分かっていないのか?


「アレン、だよね?」


「はい……」


「ひとつはっきりさせておきたい……僕は両親に、計画を立てるべきだと言った。店に専念できる人間がいれば助かるだろう、と」


「それがエリザだったんじゃないんですか?」


エリオット先輩は首を横に振った。


「僕は『エリザをアカデミーから連れ戻せ』なんて言ってない。状況を説明して、解決策を提案しただけだ。もし彼女がそれを命令だと受け取ったなら……それは僕の言葉選びが悪かったせいだ」


はぁ――――?


……やっと分かった。エリオット先輩が僕の言葉に反論しなかった理由が。


彼は最初から、エリザをアカデミーから辞めさせる計画なんて持っていなかった。ただエリザが言葉を誤解しただけだったんだ。


……何を考えればいいのか分からない。……裏切られた、というか……別の意味で。


エリオット先輩は僕とエリザを見て、この誤解だらけの状況に笑い出した。エリザは怒って彼の肩を叩いた。


「エリちゃんが友達を呼んで僕と話をさせようとするなんて……存在しない問題についてね……ハハ……」


そう、その通りだ。エリザは兄の言葉を誤解して、それがこの結果を生んだ。でも、もう危険はない。エリザは何のリスクも背負っていない。そう分かって安心した。


「兄として、彼女のことは心配だよ。幸せでいてほしい。もし両親がそんなことを言い出したら、僕が真っ先に反対する」


……エリオット先輩は、いいお兄さんなんだ。


そこにいたのは、誇りのために妹を伝統に縛りつけようとしない兄だった。


エリザが突然立ち上がって、お手洗いに行くと言った。


僕とエリオット先輩だけが残された。


会話は予想外の方向に進んだ。エリオット先輩は首を傾げて、半分笑いながら、まるで冗談めかして探りを入れるように僕を見た。


「じゃあ教えてくれ、アレン。君はエリちゃんから本を奪おうなんて考えていないよね? 僕の許可なしには? 僕を倒してからにしてもらおうか!」


……何を言っているんだ、この人?


エリオット先輩は人差し指でテーブルを叩いていた。まるでその指に怒りを込めているかのように。


冗談と警告の境界線があまりにも曖昧で、僕は一瞬呆然とした。


そして突然、また変なことを言い始めた。


「もしその誰かが、臆病な目と変な笑顔を持つアレンという名の人物だったら、せめて会う時にクレープでも持ってくる礼儀くらいは持っていてほしいんだが」


「え?エリオット先輩、何の話ですか?」


「まさか君、彼女の心を盗んでどこかへ連れ去る密かな意図を持ってここに来たんじゃないだろうな!?」


……唾を飲み込んだ。


口調は冗談めいているのに、エリオット先輩がその言葉を発する様子には、保護者としての真剣さがあって、僕は気の利いた返答ができなかった。顔が熱くなって、反射的に呟いた。


「僕は……先輩と話をしに来たんです。エリザをアカデミーから辞めさせない解決策を……見つけられないかと思って」


エリオット先輩は柔らかく笑った。


「見てみろよ。立派な守護者じゃないか。まあ、彼女の騎士になるつもりなら、少なくとも約束してくれ。事態が悪くなった時、彼女を一人にしないって」


それから、厳粛な態度を装いながら、挑戦的な視線を送ってきた。僕の方に身を乗り出し、声が変わった――もう冗談めいた調子はなく、はっきりとした、何かに区切りをつけるような声だった。


「本当に彼女を守るのか?」


エリオット先輩は真正面から僕を見た。単純な依頼ではなかった。困難な時に彼女を支え続ける覚悟があるのか、そう問われている気がした。


唾を飲み込んだ。鼓動が喉を打つ。


「はい。できる限りのことをします」


エリオット先輩は頷いた。一瞬、これは兄が忠実な友人に向ける典型的な確認だと思った。


でも、視線を外す直前に、彼は付け加えた。それまでの全てのユーモアを焼き尽くすような真剣さで。


「じゃあ……君は彼女の恋人になるのか?」


その質問は、まるで冷水を浴びせられたようだった。


僕は動けなくなった。エリオット先輩の言葉が頭の中で反響する。頬に紅潮が広がり、首筋に熱を感じた。


ちゃんと聞こえたのか分からない。


全身が緊張して、笑うべきか、否定すべきか、説明すべきか、逃げるべきか分からなかった。


その時、エリザが戻ってきた。まだトーンの変化に気づいていない。僕たちの前の椅子に座って微笑んだ。


「お二人とも、大丈夫ですか?」


無邪気に尋ねる。


僕はまともな返答ができなかった。言葉が絡まっているようだった。エリオット先輩は半分笑みを浮かべて僕を見ていた。明らかに自分が起こした効果を楽しんでいる。


「ああ、大丈夫だ。何でもないさ」


エリオット先輩はカジュアルな声で言った。まるで秘密を隠して冗談に包んでいるかのように。


三人で一緒にカフェを出た。エリザはどうでもいいことについて楽しそうに話していた。今起きたジェットコースターのような出来事には全く気づいていない。


僕は二人と並んで歩きながら、頭が少し軽くなったような、同時に妙に重くなったような気分だった。エリザを兄の前で擁護したことだけでなく、エリオット先輩がたった一言で示唆した、奇妙で新しい次元のせいで。


歩きながら、つい横目でエリオット先輩を見てしまった。あれは単なる保護者的な冗談だったのか、それとも僕自身の中の予期せぬ何かを発見させようとする、ささやかな人間的テストだったのか。


別れ際、僕はもう一度二人を見つめた。エリオット先輩は友好的に――あるいは脅迫的に――僕の肩を叩いた。


頭の中で混乱が反響していた。今、エリザとの関係はどうなったんだ? そして、エリオット先輩の「承認」を受けたことは、本当は何を意味しているんだ?


ぎこちなく笑って、次にエリザと話す時には、自分が本当に何を感じているのか確かめようと心に誓った――たとえそれをまだ声に出して言う方法が分からなくても。

次回――


空気が変わる。


夏の匂い。

演劇部。

そして偶然の再会。


何気ない時間のはずだった。

だが、衝動は予告なく心を揺らす。


触れる指先。

近すぎる距離。

止まらない鼓動。


アヤの言葉は、ただの冗談では終わらない。


だが――

それ以上に重いものが動き出す。


リリスの警告。

アカデミーに隠された“場所”。

選挙。才能。秘密。


誰も知らないところで、

何かが確実に目を覚まし始めている。


選ぶのは未来か。

それとも真実か。


アヤの覚悟。

リリスの思惑。

そしてアレンの立ち位置。


夏は、ただ暑いだけでは終わらない。

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