夏の選択と君の笑顔
静かな時間ほど、人の本音は隠せない。
戦いではなく――向き合う物語です。
凛が打ち明ける言葉。
アレンが受け止める想い。
偶然のようで、どこか必然にも思える二人きりの時間。
そしてもう一人。
影の中で揺れながら、それでも確かに前へ進もうとする少女。
小さな一歩。
けれど、それは確実に未来を変える一歩。
心が動き出す音を、どうか聞き逃さないでください。
今日は試験結果の発表日だ。
アカデミーの掲示板に表示された画面を見上げる。自分の名前を探して――見つけた。
『合格』
……ふう。
肩の力が抜けた。なんとか、試験をパスできたみたいだ。
せっかくだから、他のみんなの結果も確認しておこう。画面を上から順に目で追っていく。
りん、合格。アヤ、合格。エリザ、合格。かんな、合格。
……全員、合格してる。
よかった。本当に、よかった。
胸をなでおろす。これで、少なくとも誰も落第することはなかった。
でも――
新しい疑問が頭をよぎる。
今回、Fクラスに新入生は来るんだろうか?
この試験は例外じゃない。もし誰かがペースを落としていたら、Fクラスに降格してくる可能性もある。
その答えは、古橋先生の発表を待つしかないか。
そして、ホームルームの時間。
古橋先生は淡々とした口調で言った。
「今回は新しい生徒の編入はありません。みんな頑張ったみたいね。少なくとも当分の間は、現在のメンバーで続けることになるわ」
……そっか。みんな、必死に頑張ったんだな。
こうして、最後の一週間は特に大きな問題もなく過ぎていった。
ただ――
一つだけ、気になることがあった。
りんが、会長に会いに行ってから、どこか様子がおかしいんだ。
何か言いたそうにしてるのに、結局いつも言葉を飲み込んでしまう。
一体、何があったんだろう。会長は彼女に何を言ったんだろう?
そして――
ついに、夏休みが始まった。
最終日、みんなで連絡先を交換した。
……今まで誰も連絡先を交換してなかったなんて、よく考えたら驚きだ。
Fクラスのみんな、ちょっと抜けてるんじゃないだろうか。
自分の部屋に戻って、スマホの連絡先リストを眺める。クラス全員の名前が並んでいる。
その時――
ピロン、と通知音。最初のメッセージ。
送り主は――りん。
『ねえねえ、アレンくん!元気してる?』
『明日、どっか一緒に行かない?』
行きたい場所があるらしい。断る理由なんてない。
『いいよ』
すぐに返信した。
でも、メッセージのやり取りをしてるうちに、ふと思い出した。
この一週間のりんの様子。
……余計なお世話かもしれない。
でも、心配だ。
指が勝手に動いて、メッセージを打っていた。
『そういえば、最近ちょっと元気なかったみたいだけど、大丈夫?』
送信ボタンを押した瞬間――
しまった。
後悔が押し寄せる。
余計なことを聞いてしまったかもしれない。
りんからの返信を待つ。
三分経過。
……来ない。
十分経過。
……まだ来ない。
二十分経って――ようやく通知が鳴った。
『ごめんね、お風呂入ってて!』
……お風呂。そっか。で……。
え、今お風呂?! そんなこと言われても……どう反応すれば……!
変なこと考えるな、僕。
顔が熱くなる。
そして、次のメッセージ。
『明日、全部話すね』
――全部?
結局、その夜はほとんど眠れなかった。りんが何を話すのか、そればかり考えてしまって。
翌朝。
外出の準備をしながら、緊張が止まらない。りんは一体、何を話すんだろう。
寮の外で待つことにした。
周りを見渡すと、夏休みを満喫してる人たちがたくさんいる。
カップルで歩いてるみんな。大きなグループで笑い合ってる。みんな、ただ純粋にこの瞬間を楽しんでる。
そんな光景を眺めながら、りんを待ち続ける。
その時――
寮から誰かが出てきた。
九条さんだ。
彼女は僕に気づいたけど、すぐに視線を逸らして、まるで見なかったかのように通り過ぎていった。
……なんで、あんな態度を取るんだろう。
もしかして、今はアヤと過ごす時間が増えたことへの……嫉妬?
そんなことを考えていると――
玄関のドアが開いた。
そこに立っていたのは――りん。
彼女が着ていたのは、カジュアルなワンピースだった。午後の陽射しを浴びた麦畑のような、白に近い淡い黄色。肩には、ため息みたいに短いジャケットを羽織っていて、腕と肌の一部を太陽が優しく撫でている。
いつもと違う眼鏡をかけていた。フレームが太くて、古い苔みたいな深い緑色。その眼鏡が、彼女にどこか学究的で神秘的な雰囲気を与えていた。
肩には軽そうなバッグ。女性が気軽な日に持つようなやつ。歩くたびに揺れて、まるでこの瞬間の軽やかさを祝福してるみたいだった。
「ね、昨日アカデミーの地図見てたんだけどさ、すっごく広い屋外スペースがあるの!そこ行かない?公園みたいな感じだけど、公園じゃないみたい」
「……キャンプ場みたいなところ?」
「そうかも!行こ行こ!」
一緒に歩き始める。夏の日差しが容赦なく照りつける。
汗が滲んでくる。
りんが行きたい場所は、かなり離れてるみたいだ。
でも、文句は言えない。
「溶けそう」なんて口に出したら、せっかくの雰囲気が台無しだ。
我慢して歩き続ける。
そして――ついに到着。
広大な空間。木々が立ち並び、芝生の広がりが眩しいほど鮮やかだった。
他にも何人か人はいるけど、これだけ広ければ、誰にも邪魔されない。
少し離れた木の下に腰を下ろした。
空は雲一つなく晴れ渡っていて、木陰の涼しさが心地いい。
りんが空を見上げている。
その横顔を見て――あの日のことを思い出した。
あの時も、こうして二人で並んで座ってた。
……もう、我慢できない。
「りん、教えてくれないか。銀太郎会長に会った時、何があったんだ?」
彼女は空から視線を外して、自分の足元を見つめた。しばらく黙っていたけど、やがて口を開いた。
「あのね……会長は、色々言ってくれたんだけど、よくわかんなくて。あたしには凄い可能性があるとか……次の生徒会長に立候補すべきだって」
「えっ!?」
なんで――なんで会長は、りんを次期生徒会長に? いくら考えても、答えが出ない。
「ねえ、アレンくん。あたし、どうしたらいいと思う?」
その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。りんが、僕に助けを求めてる。
だから、こんなに悩んでたのか。
でも――
何て答えればいいんだろう。りんは会長に返事をしなきゃいけない。生徒会長になるってことは、色々なことが変わる。
まず――Fクラスを離れることになる。そして、僕たちから離れていく。
もう、今みたいに会えなくなるかもしれない。
そんなの――嫌だ。
絶対に嫌だ!
でも――
これは、彼女が決めることだ。僕が決めることじゃない。
無責任なことを言って、彼女の決断に影響を与えたくない。僕はただ、彼女の幸せを願うだけ。
自分勝手になっちゃいけない。
今まで自分勝手だったかもしれないけど、気づいてなかった。
でも今は、わかる。
りんが求めてる答えは――彼女自身の中にしかない。
りんは俯いて、靴の先で落ち葉をつついた。
「どうしたらいいのかわかんない。自分にできるとも思えないし。アレンくんなら……何か教えてくれるかなって思って」
「僕は……それは言えないと思う」
「えっ?なんで?」
驚いたような顔で聞き返してくる。
「だって……」
言葉を探す。草が敷き詰められた地面を見つめながら。
「その答えは、君自身から出てくるものだから。誰も、君が本当に何をしたいのかを決めることはできない。もし僕が『やれ』とか『やめろ』とか言ったら、それはフェアじゃない。君が自分で選ぶチャンスを奪うことになる」
りんは数秒、黙って僕を見つめた。風が吹いて、彼女の髪が軽く揺れる。
視線を逸らす。居心地が悪い。今の自分の言葉、どこか不器用だった。
「たまにさ、すっごく大人みたいなこと言うよね、アレンくんって」
「……まあ、僕の方が年上だから、かな」
「えっ!? マジで言ってる!?」
「えっ!?ひめかのときに気づかなかったの!?」
「うーん……。ごめん、全然意識してなかった」
気まずい沈黙が訪れる。
彼女が、少し笑った。
「あはは! でも、年上って言ってもたった1歳でしょ? 大した差じゃないよ!」
「……それ、褒めてる?それとも文句?」
「両方」
りんは笑いながら、耳元で髪を撫でた。
緊張が少し和らいだけど、その後の沈黙は違った。重くて、意識的なもの。
りんはまた空を見上げて、僕もそれに倣った。しばらく、どちらも何も言わなかった。
ただ空を見つめて、それぞれの考えに囚われていた。
「ねえ……もしアレンくんがあたしだったら、どうする?」
突然、りんが聞いてきた。
ため息をつく。
「多分……自分が心から納得できることをする。他の人が期待してることでもなく、正しく見えることでもなく。ただ、一日の終わりに後悔しないこと」
「んー……それ、素敵だけどね」
りんは顎を膝に乗せて、考え込む。
「でも、すっごく難しそう」
「うん、そうだね」
りんが顔をこちらに向けた。
「たまにさ、アレンくんって落ち着きすぎててイライラするんだけど」
頬を膨らませる。
「えっ?なんで?」
「だってさ、あたしハッキリした答えを期待して話してるのに、結局もっと考えさせられるんだもん!」
少し笑いながら文句を言う。
「アレンくん、イライラする!」
「……ごめん」
「謝んないでよ!」
手を振って否定する。
「もう、いいの!」
笑っていいのかわからなかったけど、思わず小さく笑ってしまった。
りんは眉を寄せたけど、すぐに一緒に笑った。
でも、雰囲気がまた変わった。
二人とも気づかないうちに。
「ねえ……もしアレンくんがそういうのに立候補したら、勝てると思う?」
まだ笑いながら、りんが聞いてくる。
少し考える。
「わからない。多分、無理だと思う。リーダーに求められるものを持ってるとは思えないから」
「もしあたしがアレンくんに投票したら?」
驚いて、彼女を見た。
りんは真っ直ぐこちらを見ていた。
いつもの、あの嘘のない眼差し。
あの目で見られると、言葉が出てこなくなる。
何も答えられない。
顔が熱くなってくる。
「そ、それ……関係あるの?」
「ううん、ただ言ってみただけ」
彼女はさっと視線を逸らした。頬が少し赤い。
また、沈黙。
でも、今度は違う種類の沈黙だった。
咳払いをする。
「それで……選挙のことだけど……」
「あ、そうそう!選挙ね……」
りんの声が妙に高い。平静を取り戻そうとしてるみたいだ。
「ありがとね、アレンくん。ちゃんと……言ってくれたこと、考えてみる」
彼女は小さく笑ったけど、視線が遠くへ向いて、口調が変わった。
「もし……最終的に受けることにしたら、アレンくんには近くにいてほしいな」
「えっ!?」
りんは頷いて、笑顔でこちらを向いた。
「うん。アレンくんが一緒だったら、心強いかなって」
心臓が跳ねた。
「一緒」って言葉が、何か違う意味を持ってるように聞こえた。
「い、一緒って……」
「だって、生徒会の一員としてさ。信頼できる人が側にいたら、楽だもん」
彼女は僕の混乱に気づいてない。
「あ……ああ、そういうことか」
呟いて、落ち着こうとする。
でも、もう遅い。
一瞬だけ、頭の中にイメージが浮かんでしまった。
りんと僕が、カップルとして一緒に歩いてる姿。
そんなこと考える前に、顔が熱くなった。
りんがすぐに気づいた。
「なに?なんで顔赤くなってるの?」
「い、いや、何でもない」
視線を逸らす。
りんはしばらく僕を見てから、クスッと笑った。
「アレンくん、わかりやすいよね」
「君こそ……言葉選んだ方がいいと思う」
「えっ?なんで?」
「だって、たまに……紛らわしいから」
りんは数秒、じっと見つめてきて――
そして、理解した。
彼女の顔も赤くなった。
「あっ……ちょ、待って、もしかして……そっちだと思ったの!?」
「い、いや!そうじゃなくて、ただ……」
もう何を言っても無駄だ。
二人とも同時に視線を逸らした。
顔が燃えるように熱い。
風が吹き抜ける。
沈黙が戻ってきた。
今度は、今までで一番気まずい沈黙。
やがて、りんが小さく咳払いをした。
「と、とにかく……聞いてくれてありがと。ちゃんと考えてみるね」
「うん……そうして」
彼女がバッグをゴソゴソと漁り始める。
「あ、そうだ!弁当作ってきたんだ。一緒に食べない?」
りんの手作り……
「もちろん!」
二人で食事を楽しんだ。
この場所で、こうして時間を過ごす。
やがて、帰り道を歩き始めた。
あまり言葉は交わさなかったけど、空気には何か新しいものが漂っていた。
目には見えない、でも確かに存在する何か。どちらも、それに名前をつける勇気はなかった。
寮の近くまで戻ってきた時――
りんがまた提案してきた。
「ねえねえ!今からゲーセン行かない?」
ゲーセン。そういえば、みんなで行ったあの日。全然集中できなくて、楽しめなかった。今度こそ、ちゃんと楽しめるかもしれない。
それに、りんはあの時いなかったんだ。
「いいよ」
二人でゲーセンへ向かう。
目的はただ一つ――
一緒に、楽しむこと。
ゲーセンの点滅するライトが、ワックスのかかった床に青とピンクの色を反射していた。りんは、どんな暗い場所でも明るくできるような笑顔で僕の前を歩きながら、まるで新しく発見された宝物のように一つ一つのマシンを眺めていた。
一方、僕はあまり緊張しているように見えないよう努めていた。こういう場所に来るのが初めてだからというわけじゃない……彼女が目にするもの全てを楽しんでいるように見えたから、彼女のペースについていくべきか、それともただの観客のように眺めているべきか分からなかったんだ。
「ねえねえ、アレンくん!眠そうな猫ちゃんのUFOキャッチャーよ!」
りんは、眠そうな表情をした柔らかいぬいぐるみでいっぱいのマシンを指差した。
「ああ……かなり、リラックスしてるみたいだね」
自然に聞こえるよう答えたつもりだったが、頭の中で考えていたのは、りんがあの猫たちの誰よりも幸せそうに見えるということだけだった。
僕が何か言う前に、りんはもうスマホで支払いを済ませてしまっていた。
「取ってみせるわよ!ごめんね、アレンくん、今日は後戻りなしだから!」
フックが下がり、震え、ぬいぐるみの頭の真上で止まった。一瞬、成功するかと思ったんだが……猫はゆっくりと山の中に落ちていった。
「えーッ!?なんでいつもこうなるのよーッ!?」
りんは両手でマシンを軽く叩いた。まるで純粋なエネルギーでマシンを説得できるかのように。
僕は肩をすくめた。
「多分、物理法則は賄賂を受け取らないからだと思うけど」
「シーッ!そんなこと言わないでよ!声に出して言ったら、絶対もっと怒っちゃうわ!」
彼女の反応があまりにも真剣だったので、思わず笑ってしまった。
りんはちらりと僕を見て、怒っているようで優しい表情を浮かべた。
「何笑ってるのよ、えッ?あなたの方がうまくできるか見てみましょうか!」
「え?いや、僕は……」
言い終わる前に、りんはもうマシンにもう一回分の支払いを済ませていた。
「はい、あなたの番よ。失敗したら、クレープおごってもらうからね」
いたずらっぽい笑顔でそう言った。
僕は首筋に冷や汗を感じた。
どうしていつもこういう状況に巻き込まれるんだろう……?
それでも、身をかがめて慎重にレバーを動かした。フックが下がり、震え……そして外科手術のような精度で猫を掴んだ。
りんは目を見開いた。
「えッ!?一回で取れちゃったの!?」
僕はぬいぐるみを少し困惑した表情で取り出した。
「運が良かっただけだと思うけど……」
「ううん、ううん!あれは運じゃないわ、純粋な技術よ!」
りんは大げさな演技で僕を指差した。
「あなた、UFOキャッチャーの秘密のプロなの!?」
僕は頬を掻いた。居心地が悪かった。
「もしそうなら、メダルでも持ってると思うけど?」
「じゃああたしの永遠の尊敬をあげるわ……それといちごチョコのクレープもね」
りんは笑いながら、僕の袖を軽く引っ張って甘味の屋台へと連れて行った。
クレープを待っている間、りんは甘い笑顔でぬいぐるみを眺め続けていた。
「ねえ、この猫ちゃん、集中してる時のあなたにそっくりよ」
深く考えずにそう言った。
僕は少し驚いて彼女を見た。
「え?僕が?」
「そうよ。集中する時、同じ『やってやる』って顔してるわ」
りんはぬいぐるみを自分の顔の横に掲げて比較し、笑った。
「ほら!そっくりでしょ!」
僕は顔を背けた。耳がわずかに赤くなっていた。
「眠ってる猫はあまり良い比較じゃないと思うけど」
「いいえ、そうよ。だってリラックスしてる時、あなたも眠そうだもの」
りんは満面の笑みでそう答えた。
その言葉に数秒間言葉を失ったが、りんがあまりにも伝染性の高い笑い声を上げたので、僕も結局笑ってしまった。
その後、リズムゲームエリアに移動した。りんは一緒にプレイしようと主張し、僕は不器用ながらも受け入れた。結果は輝かしい大惨事だった。りんは世界が存在しないかのように踊り、僕はステップについていこうとして毎秒失敗していた。
「頑張ってよ、アレンくん!その足を動かして!」
「動かしてるよ!ただ……正しい順番じゃないだけで!」
二人ともあまりにも笑っていたので、他のプレイヤーたちの注目を集めてしまった。
ゲームが終わる頃には、僕は立っているのがやっとで、りんは笑いすぎて前かがみになっていた。
ゲーセンを出ると、太陽が沈み始め、空を柔らかなオレンジ色に染めていた。りんは僕が取ったぬいぐるみを抱きしめたまま、左右に揺らしていた。
「楽しかったわ。一緒に来てくれて嬉しいな」
満足そうな笑顔でそう言った。
僕はちらりと彼女を見た。
「僕も……良い一日だったよ」
一瞬、沈黙が心地よくなった。りんはゆっくりと歩き、夕焼けの反射が道の木々の間を通り抜けるのを眺めていた。
「ねえ、アレンくん」
「うん?」
「次は、全部のゲームであたしが勝つからね、分かった?」
僕はかすかに微笑んだ。
「じゃあ、練習しないといけないな」
「約束よ!」
りんは元気よく親指を立て、そのあまりにも自然なジェスチャーに、僕は胸の何かがリラックスするのを感じた。
ぬいぐるみはまだりんの手の中にあったが、今、なぜか分からないが、僕はあの眠そうな猫を勝ち取ったのは自分だと思った……そして逆ではないと。
次回――
静かな変化は、やがて決断へと姿を変える。
芽生えた感情。
それは、ただの安心感なのか――それとも、もっと別のものなのか。
そして物語は、黒神かんなへと焦点を移す。
父の影。
家の名。
消えない期待と、消したい過去。
彼女はまだ、完全には影の外に出ていない。
けれど――もう立ち止まってはいない。




