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終わった後の、始まり

静かに進んでいるように見える物語ほど、裏では何かが動いているものです。


表に出ない“選択”と“視線”が交差します。

りんと銀太郎が交わしたあの会話――それはただの忠告だったのか、それとも未来を予感していたのか。


そして、まだはっきりと姿を見せない存在。

リリス。


彼女の名はまだ囁きに過ぎない。

けれど、物語の流れは確実にその方向へと傾き始めています。


アレンが進もうとする道。

揺らぐ心と、消えない過去。


見えない糸は、すでに絡まり始めているのかもしれません。


どうか、その一瞬一瞬を見逃さないでください。

数日間、みんなで集まって勉強を続けていた。そのおかげか、Fクラスの絆が少しずつ深まっていくのを感じていた。


そして、ついに試験の日が来た。


今朝は、いつもと変わらない朝のはずなのに……空が今にも落ちてきそうな、そんな気分だった。教室まで歩くのさえ、妙に重たく感じる。


アカデミーの正門前で立ち止まった。ガラス張りの扉に、横に走る金属のバーが取っ手として付いている。深呼吸して、バーに手をかけた。


その瞬間――


もう一つの手が、同じバーに触れた。

白い手袋をした、僕よりずっと小さな手。


「……?」


顔を上げると――リリスさん!?


「あら!ごめんなさい、気づきませんでしたわ」


「い、いえ、こちらこそ……気づかなくて」


心臓がドキドキする。こんなに重要な人物が目の前にいるなんて。


沈黙が流れる。


リリスさんは僕の顔をじっと見て……ふふ、と笑った。


「ふふ……扉を開けてくださるのを待っていましたのよ?」


「あ! そ、そうだ!すみません!」


慌ててバーを引き、扉を押さえた。


「どうぞ!」


「ふふ、ありがとうございます」


彼女は優雅に中へ入っていった。


……やっぱり、緊張する。


そういえば、体育祭のとき、リリスさんが三年生と何か話していたのを見かけた。でも、別に怪しいことをしていたわけじゃない。ただ……彼女の行動には何か引っかかるものがある。今のこのやり取りも、どこか不思議で……よく分からない。


リリスさんはAクラスだ。武蔵さんと同じクラス。もし生徒会長選挙が行われたら、彼女も立候補するんだろうか……。


少なくとも、悪い人には見えない。そう、僕はそう感じている。


もし彼女が立候補したら……僕は彼女に投票するかもしれない。少なくとも、武蔵さんみたいに皮肉屋な人が生徒会長になるよりはマシだと思う。


教室へ向かう廊下を歩きながら、他のクラスを見る。もう結構な人数が集まっていた。


これから三日間、試験、試験、また試験。


誰もが分かっている。この試験がどれだけ重要か。


教室に入ると――誰もいなかった。


一番乗りか。


自分の席に座り、右隣を見る。


りんの席……。


空っぽの席を見ていると、なんだか不安になる。


……いや、今は大丈夫。ちゃんと勉強してきたんだから。疑う必要はない。


やがて、一人、また一人と入ってくる。


最初にりん、次にレン、それからエドワー、その後アヤ、エリザ、マリさん、そして最後に――いつも通り――かんな。


全員が揃った。


試験が、始まった。


一つ一つの問題、一つ一つの科目が、まるで目に見えない何かと戦っているような感覚だった。


教室は、濃い霧に包まれたように静まり返っていた。


聞こえるのは、鉛筆の音と、紙がめくれる音だけ。


気を散らす余裕もなかった。他のことを考える隙間もなかった。


初日は……思ったより早く過ぎた。


最後の試験が終わったとき、肩から見えない重りが外れたような感覚があった。


でも、まだ気を抜けない。


軽く昼食を取った後、図書館へ向かった。


静かで、落ち着いた空気。本棚に囲まれた、あの独特の雰囲気。


隅の席に座って、復習を続けた。明日使えそうな知識を、できるだけ頭に叩き込む。


時間が経つのも忘れていた……。


* * *


二日目は、もっと厳しかった。


みんなの表情に疲れが見え始めている。それでも、誰も諦めようとしない。


僕も、諦めるつもりはなかった。


その日の午後も、また図書館へ。


でも今日は――一人じゃなかった。


かんなが一緒に来た。


「私も少し復習したいから」


そう言って、隣に座った。


彼女の存在が、空気を和らげてくれる。


あまり話さなかった。でも、隣で誰かが一緒に勉強してくれている。それだけで、疲れが軽くなる気がした。


時々、彼女が小さくため息をついたり、ぼそっと何か呟いたりする。


それが、なんだか……少し、笑えた。


そうして、二日目も終わった。開かれた本と、遅くなった時計と、心地いい静寂と共に。


* * *


そして、三日目。

最終日。


教室の空気は、これまでで一番張り詰めていた。でも同時に、安堵の気配も漂っていた。


一つ試験が終わるごとに、まるで扉を閉めていくような感覚。


そして――最後の答案を提出したとき。


顔を上げて、天井をしばらく見つめた。


深く、息を吸った。


……終わった。


隣で、りんが長いため息をついて、鉛筆を机に落とした。


それから、少しこちらを向いて――爽やかな笑顔を浮かべた。その笑顔が、教室の重苦しい空気を一気に吹き飛ばすようだった。


「やっと終わったぁ! あたしの脳みそ、途中で溶けちゃったかも!」


少し笑ってしまった。荷物をしまいながら。


りんはそれに気づいて、少し机に身を乗り出してきた。いつもの、元気いっぱいの表情で。


「ねえねえ、アレンくん、ちょっとどこか出かけない?」


「えっ!? でも、どこに?」


「もう忘れちゃったの? 寮に向かう途中に公園あるでしょ? あそこでちょっとだけ休憩しようよ」


考え込んでしまった。


そういえば……りんと二人きりで、ただ時間を過ごすなんてこと、今まで一度もなかった。


あのとき――確かに俺が彼女に恐怖を打ち明けた。でも……あれはただの『告白』だった。二人で過ごした時間なんかじゃない。今とは、まるで違う。


返事ができずにいると、りんが続けた。


「三日間も苦しんだんだし、ちょっとくらい休んでもいいよね?」


彼女の自然な明るさに、驚いた。……いや、りんらしいと言うべきか。彼女にはいつもこういう、人を引っ張っていくようなエネルギーがある。断りにくい。


「……悪くないかも」


りんは満足そうに笑って、元気よく頷いた。


「やったぁ! じゃあ待ってるね!」


彼女は急いで荷物をまとめて、走って出て行く。廊下で何か鼻歌を歌っているのが聞こえた。


みんなも教室を出ていく。


僕も、ようやく試験から解放されたという安堵を感じていた。


これから、りんと少し時間を過ごせる。


廊下を歩き、角を曲がって階段へ向かおうとしたとき――


ドン――。


誰かとぶつかった。


幸い、強くはなかった。でも――


目の前にいたのは……リリスさん!?


「すみません!」


「いえいえ、私もぼんやりしていましたから」


また、彼女だ。

また、この緊張感。


どうして、彼女の前に立つと、こんなに落ち着かないんだろう……?


理由が分からない。でも、今は考えている場合じゃない。


「すみません、リリスさん。急いでるので……ぶつかってすみませんでした!」


そう言って、走り去った。


彼女を置いて。


少し離れてから、振り返った。


リリスさんは、こちらをじっと見ていた。


……なんだろう、この視線。


何か、違和感がある。


でも、今は考える時間がない。


玄関に着いて、靴を履き替える。


りんが外で待っていた。

二人で歩き出す。


楽しい時間だった。公園は心地よくて、りんの存在も、心を軽くしてくれた。


彼女の笑顔を見て、彼女の話を聞いて、自分の話も聞いてもらって――


どう言葉にすればいいのか分からないけど……りんと一緒にいると、安心する。


これから先、何が起こるか分からない。


でも、一つだけ確かなことがある。


怖い。


……友達に、何かが起きるのが怖い。


こんなに友達ができたのは、初めてだから。


昔のこと、ひめかのこと……彼女は、あの頃の僕にとって、唯一の友達だった。もしかしたら、僕は彼女に依存していたのかもしれない。だから、彼女に拒絶されたとき、あんなに傷ついた……。


新しい友情が、怖かった。また誰かを傷つけるのが、怖かった。


でも、今――


りんと過ごすこの時間、みんなと過ごす時間は、今まで経験したことのない感覚だ。


自分が味わえるなんて思ってもいなかった、こんな気持ち。


未来に何が待っているかは分からない。


でも、少なくとも――


Fクラスのみんなを、守りたい。


そう思った。


声には出さない、誓い。


僕だけが知っている、約束。


* * *


日々は過ぎ続けていた。来週には試験の結果が発表される。今回の結果は数字の点数ではなく、合格か不合格かだけが表示されるらしい。このアカデミーの評価システムは本当に変わっている。中間試験は数字での評価なのに、期末試験は「合格」か「不合格」だけ……間違いなくこのアカデミーは変だ。でも、まあ何とかなる範囲だ。もっと酷いこともあり得たんだから。


今日は金曜日。夏休みは二週間後に始まる。少しは気が楽になってもいい頃だ。


今日は……何だか妙に気分が高揚していた。りんを誘ってみようか。初めて、自分から誘ってみたい。そう思った。


一日中、時々彼女を見ていた。りんは僕の視線に気づいていたようで、たまに微笑みかけてくる。その笑顔を見るたびに、心が揺らいだ。でも結局、授業が終わるまで何も言えなかった。


……情けない。


でも、まだ諦めたくなかった。振り返って、彼女を見た。


「りん! 今日、時間ある?」


りんは目を丸くした。本当に驚いているようだった。確かに、僕から誘うなんて初めてだ。でも――


「……誘ってくるなんて珍しいね……でも、ごめん。今日はちょっと無理なの」


「……そっか。ごめん、邪魔して」


「ううん、全然! あたしもびっくりしちゃっただけで」


「何かあったの?」


「……えっとね……生徒会長の、銀太郎くんに呼ばれちゃって。生徒会室に来てほしいって」


は!? いつそんなことが? なぜ会長がりんを?


「何の用だって言われたの?」


「それが、詳しくは聞いてないんだけど……大事な話があるって」


「……聞いていいか分からないけど、いつそれを言われたの?」


「数日前かな。部活に向かう途中の廊下で会って」


そうか……。


会長は一体何を企んでいるんだ? なぜりんと話す必要があるのか、全く分からない……。


すごく嫌な感じがした。りんに、行かないでほしいと言いたかった。会長と関わらないでほしいと。でも……そんなこと言えるわけがない。何が起きているのか、僕自身も理解できていないんだから。


りんは何も言わずに去っていった。明らかに気が重そうだった。まるで、会長に会いたくないような……。


行きたくないなら、なぜ行くんだ? くそ……!


その時、アヤが僕に近づいてきた。意地悪そうな笑顔を浮かべて。


「どうしたのアレン? フラれちゃった?」


「……」


その言葉が胸に刺さった。アヤから視線を逸らす。でも彼女は、この瞬間を楽しんでいるようだった。


「え〜? なに? 当たった?」


イラッとした。何も答えない。本当に無神経だな……。


アヤはさらに近づいてきて、腕を僕の首と肩に回した。


「もう怒んないでよ〜。わたしと一緒に遊ばない?」


「……!!」


アヤが一緒に遊ぼうなんて……本当にアヤか? 一体誰だ?


「……君、誰?」


「何言ってんの?」


彼女は離れて、諦めたようにため息をつき、肩をすくめた。


「まあ、嫌なら別にいいけどさ……」


彼女を見ていると、何だか失望させてしまったような気がした。反射的に、口が動いていた。


「……分かった。どこに行きたいの?」


今度はアヤの顔が赤くなった。え……なぜ?


「……ごめん、冗談だったんだけど。本気で承諾するとは思わなくて……」


こいつ…… 絶対わかっててやってる。


「まあ、もうオッケーしたんだから、どっか行かなきゃね。最近、アカデミー内の店舗が開き始めたって聞いたし、見に行こうよ」


はあ……アヤと話すのは本当に疲れる。改めて思い出した。


出かけようとした時、エリザが近づいてきた。


「どこか行くんですか?」


「アカデミーの店舗を見に行くんだ」


「私たちも一緒に行ってもいいですか?」


「……う、うーん……」


アヤは僕を見た。僕としては、別に構わない。


こうして、みんなで一緒に行くことになった。でも、もう一人いることに気づいていなかった。エリザの後ろから、遠慮がちにマリさんが顔を覗かせた。


「わ、わたしも……い、行きますよね……?」


エリザが振り返る。


「マリさん、遠慮しないで。みんなで行くんですから、リラックスしてください」


「は、はい……!」


アヤ、エリザ、マリさんが先に教室を出て行った。でも、その時――かんながまだ席に座っているのが目に入った。


「かんな、君も来ない?」


「……うん、でも……」


「どうした?」


「……りんのこと」


「りんが……どうかした?」


「……嫌な予感がする」


かんなの言葉に、緊張が走った。りんに何か起きてほしくない。


「教えてくれ、かんな。何を考えているんだ?」


「推測だけど……会長はりんを勧誘しようとしてると思う」


「勧誘? 何のために?」


「……りんが前に言ってた。審判委員会の誰かから勧誘されたことがあるって」


あの時のことか。僕も一緒にいた。


「りんにとっては単なる誘いかもしれないけど……あの時の話を聞いた時、何か裏があると感じた……今回も似たようなことが起きる気がする。でも今度は生徒会長」


どう受け止めればいいんだ……最良のケースは、りんが単純に断ること。あの時と同じように。


「心配しすぎだよ。それより、一緒に来ないか?」


「……そうかも。行く」


かんなも合流して、みんなで時間を過ごすことになった。


向かった先は、どうやらゲーセンだった。レンもそこにいた。


でも……みんなが楽しんでいる中、りんのことが頭から離れなかった。


……今、何が起きているんだろう?


* * *

(りん)


生徒会室に着いた。


扉を開けると、メンバーたちはもう帰る準備をしていた。みんな何も言わずに出て行って……会長だけが残っていた。


「銀太郎会長、大事なお話って何ですか?」


「……うん、まず座ってくれるかな。すぐ終わるけど、いくつか説明しないといけないことがあるんだ……」


何だか……すごく真剣な雰囲気。胸がドキドキしてきた。


「まず最初に、りん。君を褒めたいんだ。君は才媛だよ」


「え?」


「才媛……つまり、才能だけじゃなくて、感性も、心も持っている女性のことさ。そして君にはそれがある」


目を見開いてしまった。何を言われてるのか、わからなくて。


「あたし……が?」


会長はゆっくりと頷いた。


「君はいつも人を結びつけることができる。意図していなくてもね。自分から前に出るわけじゃないのに、みんなが自然と君の方を向く。それは……教えられるものじゃない。持って生まれたものなんだ」


会長の言葉は穏やかで、確信を持って話す人の声だった。でもそこには……何か温かいものが含まれていた。


「……わかんないよ、なんであたし?何もしてないもん」


「それは違うよ。エリザのことで、僕に相談に来た日のこと、覚えてる?」


「う、うん……覚えてるけど、あの時はただ状況を話しただけだよね……?」


「それが理由なんだ。君は友達のために、できる限りのことをした。すべての可能性を見て、冷静に行動して、犯人を捕まえることができた」


「……でも、あたし一人じゃ何もできなかったよ。アレンくんもすっごく頑張ってくれたし」


「それは確かにそうだね。でも、ここで大事なのは君自身なんだ、りん。生徒会長として言わせてもらうけど……君には計り知れない可能性が見えるよ」


会長はあたしをじっと見つめていた。まるで、あたしという人間を記憶に刻もうとしているみたいに。それから、静かに息を吐いた。


「こう考えてみてくれないかな、りん。君は認められたくて行動するんじゃない。正しいと思うから行動する。そういう人こそが……前に立つべきなんだ」


「……え?……それって、どういう……?」


「……次の生徒会長選挙に、立候補してほしいんだ」


「ええっ――!?」


息が……止まった。


信じられない。何を言われているの?


そもそも、生徒会長選挙なんてまだまだ先のはずなのに。どうして今?どうしてあたしに?


言葉を……言葉を探すけど、何も出てこない……。


「わかんないよ……なんであたしなの?」


「もう言ったよ。君には大きな可能性がある。一年生の中で、君が一番生徒会長になる資質を持ってるんだ」


あたしは今まで、何か凄い役職とか、大事な立場とか……そんなの引き受けたことなんてない。いつも普通の人、その中の一人だと思ってた……。


会長が言う「可能性」とか、そういう難しいこと……全然ピンとこないよ。


プレッシャーで胸が苦しくなってきた。それに、まだ納得できない。どうして会長はそんな結論に至ったの?


「考えてみてくれないかな。りん、時間はたっぷりあるから。この夏休みの間、よく考えてほしいんだ」


会長を見ると……すごく自信を持った表情をしてる。


でも、あたしには……あたし自身が、そんな大役を引き受けられる人間だなんて、思えない。


無理だよ。


それに……もっと大事なこと。どうして会長はそう思ったの?ちゃんと理由を教えてほしい。今まで言ってくれたことだけじゃ……納得できないよ。


「会長……お願いです、説明してください。どうしてあたしなんですか?あたし、何をしたっていうんですか……?」


会長は目を逸らして……何も言わなくなった。


沈黙の意味が、わからない。


眼鏡に手をかけて、自然な動きで調整する。


「そうだね……君にとっては、自分がやってることは普通のことに感じるかもしれない。でも、誰かが君を観察すると……周りの人たちは、君自身が気づいていないものを見ることができるんだ。それが僕の考えだよ」


その言葉に……ハッとした。


他の人からどう見られているか……そんなこと、真剣に考えたことなんてなかった。


本当に……あたしってそんな風に見えてるの?


自分では……会長が言うような人間には、全然思えないのに。


また沈黙が訪れた。会長は何も言わず、もうあたしの方を見ていなかった。


あたしは……緊張で、スカートの裾を指で弄びながら、会長を見つめていた。


やがて、会長が顔を上げた。


その瞳は――穏やかで、それでいて鋭くて――あたしに向けられた視線には、何か……読み取れない輝きがあった。


「りん……もう一つ、お願いしたいことがあるんだ……」


「……何ですか?」


「……これは個人的なお願いで、生徒会長とは関係ないことなんだけど」


「はい?」


「……君は……僕の……友達に……なってくれないかな?」


頭の中が……真っ白になった。


言葉が……浮かばない。考えることもできない。思考が……停止した。


断る理由なんて……ないよね。


「……はい、そんなに堅苦しくしなくても大丈夫ですよ、会長」


会長の目に――銀太郎くんの目に――何かがキラリと光った気がして、思わず目を逸らしてしまった。


「会長っていつもそんな難しいこと言うんですか……?」


彼は微かに、どこか物憂げな笑みを浮かべた。


「今はそう思えないかもしれないね。でも時間が経てば、僕が正しかったってわかるよ」


首を傾げた。


よくわからない。


突然、才能があるって言われて、次の生徒会長に立候補しろって言われて、そして一番予想外だったのは……銀太郎くんが友達になってって……。


全部が不思議で、何をどう考えればいいのか……。


席を立って、会釈をして部屋を出た。


彼はあたしが扉を閉めるまで、ずっと見送ってくれていた。


そして静寂の中で……最後に見えたのは、会長の微笑み。まるで、自分だけが知っている秘密を抱えているような……。


廊下を歩きながら、さっきのことを考えていた。


答えを出さないといけない。返事をしないと……。


生徒会長になるって、きっと責任だらけだよね。あたしにできるとは思えない。


でも……どうしてだろう?


会長の言葉が……心に残って、考えが揺らいでる。


誰かに相談した方がいいかな。あたしにとって、とっても大切な人に……。


アレンくんと、話してみようかな。

次回――


激しい波のあとは、不思議と静かな時間が訪れるものです。


大きな衝突ではなく――

心と心が向き合う時間。


りんが明かす、これまで隠していた想いと真実。

それを受け止めるアレン。

逃げてきた過去ではなく、“今”を選ぼうとする小さな一歩。


そして、思いがけない形で訪れる二人きりの時間。


それは偶然か、それとも必然か。


ぎこちない距離。

重なる視線。

何気ない会話の中に宿る、確かな変化。


静かな一日。

けれど確実に動き出す、二人の関係。

お楽しみに。

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