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落ちこぼれの誇り

穏やかな日常は、いつも当たり前のように続くわけじゃない。

笑って、眠って、何気ない会話を交わす――そんな時間の裏側で、確実に迫ってくるものがある。


期末試験。

それはただのテストじゃない。

この場所に「居続けられるかどうか」を突きつけてくる現実だ。


Fクラスは弱い。人数も少なく、立場も低い。

それでも、だからこそ――守りたいものがある。


落ちこぼれと呼ばれても、誇りだけは失いたくない。

これは、静かに始まる小さな決意の物語。

日が経つにつれて、穏やかな日々を過ごしていた。今日もそんな日の一つだった。


教室を見渡すと、りんは教科書を読んでいて、レンは授業が始まる前に机に突っ伏して寝ている。遠くを見ると、エリザ、アヤ、そしてマリさんが会話をしていた。


夏休み前の期末試験がもう近づいている。


マリさんを見て、ふと思った。新入生たちはクラスによく馴染んでいる……いや、ほとんどが、だ。エドワーだけは、この クラスに来てから、ずっと皆と距離を置いたままだ。


彼の方を振り向くと、目を閉じて腕を組んでいる。誰とも関わろうとする気配すらない。


どうしてあんなふうなんだろう……前のクラスで何かあったのかもしれない。それでFクラスまで落ちてきたのか。それとも、自分の責任でここまで来たことを受け入れられないのか。


そう考えていると、もう一つ思い出した……期末試験。


今回は本気で頑張らないといけない。中間試験と違って、期末試験は本当に多くのことを決める。少なくともFクラスにとっては。起こりうる結果は二つ。一つ目は補習クラス行き。これはまだ軽い方の結果だ。でも、もう一つの結果は……アカデミーの規則によれば、成績が完全に不合格で回復の見込みがない場合は……退学。


そういう規則なんだ、ここは。


この小さなFクラス、たった八人の生徒を守らないといけない。そんな気がする。


準備する方法は勉強すること。そして、みんなで一緒にやるのが一番いい。


ふと思いついた。みんなで図書館に集まって勉強会をするのはどうだろう。そうすれば、エドワーも少しはクラスに近づいてくるかもしれない。


どうしてそんなことを考えているのか、自分でもよくわからない。でも……そうしたいんだ。


でも……僕は人付き合いが得意な方じゃない。こういうことをまとめるのは無理だ。


幸い、それができる友達がいる。りん。


彼女の方を振り向くと、まだ本を読んでいた。でも、視線に気づいたのか、すぐにこちらを向いた。


「どうしたの、アレンくん?」


「あ、え、えと……」


急に緊張してきた。りんに計画を話したいのに、なんで緊張しているんだろう?


勇気を振り絞って、みんなを集めて勉強会をする計画を伝えた。


りんは考え込むような表情になって、突然いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「えー、アレンくんがそんなこと言うなんて思わなかったよ。先生みたい、ふふ……」


冗談にされているように感じて、恥ずかしくなった。やっぱり馬鹿げた計画だったのか。こんなこと提案しない方がよかったのかもしれない。


りんが腕を伸ばして、鉛筆で軽く突いてきた。


驚いて飛び上がる。


振り向くと、彼女は笑っていた。でも、もういたずらっぽい笑みじゃなくて、もっと優しい笑顔だった。


「なんでそんなに緊張してるの? あたし、アレンくんのアイデア、すっごくいいと思うよ! やろうよ!」


その言葉に、何も言えなくなった。何を考えればいいのかもわからなかった。


りんは立ち上がって、みんなに声をかけ始めた。


最初はエリザ、アヤ、マリさんのところへ。よく聞こえなかったけど、勉強会のことで熱心に話しているようだった。


その会話でレンが目を覚まして、りんの方を見た。今度はかんなのところに向かっている。かんなとの会話は短くて、すぐに勉強会に参加することを承諾したみたいだ。


レンはりんがみんなに話しているのを見て、自分の席から手を振った。


「りん、何してんの?」


「今日の放課後、みんなで勉強会するって伝えてるのよ」


「へー!! オレも入れてくれよ!」


「もちろんだよ!」


りんはレンに親指を立てた。それがレンを励ましたようだった。


「よっしゃー!! オレの見せ場だぜ!」


どこからそんなやる気が出てきたんだろう……


そして、ついにその時が来た。


りんがエドワーに近づくと、まるでみんなが同じことを考えているかのように、教室が静まり返った。


「ねえ、エドワーくん。あたしたち、勉強会やるんだけど、一緒にどう?」


「……いや、興味ない」


「でも、楽しいよ? それに、すっごく大事な試験だし。一緒に勉強すればもっといいよ」


「……しつこいな。断るって言っただろ」


りんがどれだけしつこいか知っている。エドワーの反応を見て、りんが諦めないこともわかっていた。


「でもでも、聞いてよ。一緒に勉強すれば、わからないことも解決できるよ」


「関係ない」


「そんなこと言わないで、一緒にやろうよ」


「嫌だ。もう諦めろ」


声は落ち着いているように聞こえたけど、エドワーの顔はどんどん不機嫌になっていった。


心配になって、りんの隣まで歩いていった。


どこからそんな勇気が出たのかわからないけど、今回はただりんの隣に立つだけじゃなかった。言葉が出た。


「エドワー、どうしたんだ? なんで参加したくないんだ?」


「どうでもいいだろ。お前らはFクラスだ。このアカデミー全体の落ちこぼれじゃないか」


「……へっ……そうかもしれないけど、勉強会に参加してくれって言ってるだけなんだ」


今度はエドワーがりんの方を向いて、まるで観察するように見つめた。そして突然言った。


「お前らが勉強だって? この女子を見てみろよ。みんなに話しかけて、まるで自分が教室の中心だと思ってる。委員長でもないのに、そんなことまとめる資格なんてない」


りんはその言葉に傷ついたようだった。


それが……腹立たしかった。


でも、反応する前に、遠くからアヤが怒った様子で近づいてきた。


「ちょっと! 何言ってんのよ、バカ野郎! りんに謝りなさいよ!」


「は! 嫌だ」


「何ですって?」


「耳が聞こえないのか? 嫌だって言ったんだ。もう邪魔するな」


アヤはいつも通り、荒っぽい一面を隠さない。


「あんた、このクラスにいることを認められない臆病者なだけじゃない。それがあんたよ」


エドワーはかなり苛立って、今度は立ち上がった。明らかにアヤより背が高くて、それを利用して威圧しようとしているようだった。


でも、アヤは自分が正しいと思っているときに引き下がるような人じゃない。そんなことはよく知っている。


「あんた、自分の方が上だと思ってるの? もう前のクラスにはいないのよ。今はFクラスなの!」


「ボクはお前らより上だ。それは間違いない。このクラスまで落ちたのは、前のクラスで裏切られたからだ」


その言葉を分析する。


記憶が正しければ、エドワーはCクラスにいた。これはただの推測だけど、裏切られたと言うなら……Cクラスの内部で何か奇妙なことが起きているのかもしれない。そういう陰謀があるほどに。


エドワーはますます怒っていたけど、今度はアヤが驚くようなことを言った。


「そんなに自分が上だって言うなら、証明してみなさいよ! あんたにバトル、挑むわ!」


エドワーは答えず、視線を逸らした。まるで戦いを受けたくないかのように。


「どうしたの?『上』じゃなかったの?」


「黙れ! お前と戦う理由なんてない。お前らはみんな格下だ。ボクはCクラス以上としかバトルしない」


「はあ!? それ本当? そんなクラスだけに限定してたら、すごく問題じゃない?」


「余計なお世話だ!」


エドワーの真実が少しずつ見えてきた。


どうやら彼はクラスC、B、Aとだけ戦っているらしい。上位三つのクラスだけ……それって、すごくリスキーじゃないか?


別の推測が浮かんできた……もしかして、エドワーはポイントを持っていないんじゃないか?


連勝を維持するなんて不可能だし、おそらくほとんどのバトルで負けているはずだ。上位三つのクラスと戦っているんだから。彼はそのうちの一つに所属していたけど、何らかの理由でFクラスまで落ちた……


エドワーについて、何かが見えかけていた。でも、考えを続ける前に、今度はアヤがさらに攻撃的になって、エドワーのシャツの襟を掴んだ。


「臆病者! バトル挑んでるのよ。わたしを倒したら、もう邪魔しないわ!」


「離せ!」


「嫌よ!」


「ちっ――!」


エドワーが腕を動かそうとしているのに気づいた。アヤを離そうとしている。


その様子から、優しく離すつもりはなさそうだった。荒っぽく突き飛ばすつもりだ。


でも、反応する前に、誰かが割って入って二人を引き離した。


それは……レンだった。


「もう十分だろ、二人とも……エドワー、そんな態度取るなよ。今回だけでいいから、誘いを受けてくれ」


「冗談じゃない! なんでFクラスのやつらに近づかなきゃいけないんだ。ボクはCクラスだったんだぞ!」


「そうだな! だった! もう違うだろ……」


「――!!」


「オレは前、Dクラスだった。そこじゃ邪魔者扱いされてた。まるでお節介な厄介者みたいにな。Dクラスは自分の居場所じゃないって思ったんだ」


「それが何だ? ボクに関係ないだろ!」


「……言いたいのはな、エドワー。お前の居場所もCクラスじゃなかったのかもしれないってことだ」


「――!?」


レンの言葉がエドワーを別の形で動揺させた。プライドが傷ついたようで、何も言わなかったけど、明らかに苛立っていた。


「お前に何がわかる。Dクラスだったからって、何も変わらない。お前がここまで落ちたのは弱いからだろ!」


「お前と同じだ」


「違う! 違うんだ。ボクは……ボクは裏切られて落ちたんだ!」


「裏切られようが何だろうが、関係ないだろ。ここのみんなは頑張ってる。みんな優しいんだ。前のクラスとは違う。お前みたいに、それを台無しにしようとするやつを……見過ごせない」


レンは違った。いつもの気楽な様子とは違って、今は真剣だった。


レンの中に、もっと深いものを見た。自分も持っている何か……クラスFのみんなを守りたいという思い。レンもそれを共有していた。


レンはポケットに手を入れて、スマホを取り出した。


「エドワー、お前を理解させる方法は力しかないみたいだな。バトル、挑むぜ!」


「は! 馬鹿なこと言うな。誰とも戦わない」


「お前、臆病者か? プライドはないのか? 自分が上だって言ってたよな? それとも……負けるのが怖いのか?」


レンの言葉がエドワーに深く突き刺さった。エドワーの怒りのレベルは、この時点で多くの感情が混ざり合っているようだった。


突然、アヤが割り込んだ。


「ちょっと、わたしが先に挑んだんだけど」


レンは皮肉っぽく笑って答えた。


「悪いな、アヤ。でも、コイツはオレに任せてくれ、な?」


アヤは何も言わなかった。それは、レンに任せるという意味だった。


一方、エドワーは頭を下げたまま何も言わなかったけど、拳を強く握りしめているのが見えた。


「……お前がどれだけ間違ってるか証明してやる。それだけじゃない、お前のポイント全部もらうぞ。この条件でいいか?」


「ああ、いいぜ。髪の毛まで賭けてもいい」


でも、このバトルは延期されることになった。


チャイムが鳴って、授業の開始を告げた。


みんなが席に戻る。


計画が、レンとエドワーのバトルになってしまったことに、少しがっかりした。


古橋先生が教室に入ってきた。今日はいつもより嬉しそうだった。


クラスのみんなを見渡して、言った。


「みんな〜、今日はお知らせがあるの……」


先生は劇的な間を置いてから、また話し始めた。


「期末テスト、しっかり勉強してね。みんな、自分たちがどんな立場にいるか、もうわかってると思うけど。落ちたら夏休み中ずっと補習よ。それは嫌だから……」


先生は口を手で覆って、「隠そう」としている言葉をつぶやいた。でも、クラス全員に聞こえた。


「……私の大切な休暇を教室で過ごすなんて……エヘン」


今度は、そんなことを言ってないふりをして、クラス全員に微笑んだ。


「みんな、夏休みに会いたくないから、しっかり勉強してね〜」


口調から明らかに、先生は休暇を無駄にする気が全くなかった。


つまり、アカデミーの先生たちは休みになる。だから古橋先生はみんなに合格してほしいんだ。自分のためだけに合格してほしいなんて……ちょっと無責任じゃないか。


「それからもう一つお知らせ。テストが終わって結果が出たら、夏休みが始まるわ。つまり、アカデミー周辺の施設が全部オープンするのよ。イェーイ! 拍手拍手〜!」


アカデミーの他の施設のことを思い出した。


レストランみたいな飲食店、テーマパーク、プールまである。これら全てがここにあるのは、誰もアカデミーから出られないから。生徒たちに何か気晴らしや娯楽が必要だからだ。


夏休みにそういう場所に行って時間を過ごすのも、面白いかもしれない。


「でも、夏休みの宿題のこと、忘れないでね!」


あ……やっぱり全部が楽しいことばかりじゃないんだな。


そうやって授業は続いて、バトルの時間になった。


レンとエドワーが戦うのに完璧な時間だったけど、エドワーがレンに近づいて提案した。


「バトル、放課後まで延期しないか?」


「オレは問題ないぜ」


レンはバトルを授業後まで延期することに躊躇しなかった。


バトルがあることに動揺している様子もない。


そう言って、残りの日は特に問題なく続いた。


そして、最後の授業が終わった。


エドワーが立ち上がってレンと戦う準備をしたとき、教室の緊張は明らかだった。


りん、エリザ、アヤ、かんな、マリさんもバトルを見るために残った。


でも、何かが足りなかった……このバトルの審判は誰が?


それに気づいた瞬間、レンがみんなを振り返って、誰が立候補するか見た。


エリザが一歩前に出て言った。


「クラスの委員長として、わたしがこのバトルの審判を務めさせていただきます」


レンはエリザが審判になることを受け入れた。エドワーはどうでもよさそうに頷いた。


バトルが始まろうとしていた。


言った通り、レンは全ポイントを賭けた。一方、エドワーは少しだけ賭ける。


合計は……284ポイント……とても少ない数字だ。二人とも、その合計にしてはポイントがとても少ない。


デジタルフィールドが二人の上に広がった。


画面から、僕と他のみんなは、このバトルがどう展開するか注意深く見守っていた。


レンとエドワーのバトルが始まった。


レンのスキルは……今まで見たことがないものだった。レンの両手から炎が生まれる。まるで自然の力を操るように、手から直接火を操っていた。


一方、エドワーのスキルは……!?


エドワーのスキルは、レンのものよりもさらに奇妙だった。エドワーのスキルは……傘だった。


レンが両手を合わせ、炎をエドワーに向けて放つ。だがエドワーは傘を開いてそれを防いだ。


炎の渦が立ち上り、空気が煌めいた。レンの腕が赤く輝き、指先から火花が噴き出す。思わず息を呑んだ。見ているだけで、肌が焼けるような感覚がした。


一方、エドワーは黒い傘をゆっくりと回しながら構えていた。傘の表面は金属的な光沢を帯びていて、その姿勢は絶対的な自信に満ちていた。傘の先端を地面に軽く突き刺し、炎の圧力を吸収しながら、片眉を上げる。


自信というより……傲慢だな。


そう思った。


レンが次の一撃を放つ。掌から噴き出した炎が獣のようにうねり、猛スピードで突き進む。エドワーは傘を横に動かし、地面を舐めるような熱の流れを逸らした。火花が散る。完璧な防御だった。まるで炎が彼を避けて逸れていくようだ。


だがレンは止まらない。次々と火弾を放ち、空間を支配していく。炎が弧を描くたび、地面に焦げ跡を残しながら、エドワーは軽やかに後退し、傘で受け流す。


その動き、確かに正確だ。


でも……無駄が多い。


目を細めた。受け流すたびに、エドワーの呼吸が乱れていく。レンの火力に圧倒されているわけじゃない。余裕を保とうとして余計な動きをすることで、体力を消耗しているんだ。


対してレンの動きは荒削りだけど、理にかなっている。一歩一歩、確実に距離を詰めながら、掌で炎を爆発させ、その爆発を利用して滑り込む。まるで炎が彼自身の一部のようだった。


目を眩ませる速度で踏み込み、腕を引いて炎を纏った拳を叩きつける。


エドワーは反射的に傘を閉じ、盾のように掲げた。衝撃音が響き、砂埃が舞い上がる。炎と風がぶつかり合い、一瞬視界が白く染まった。


混乱の中、エドワーの顔が見えた。その一瞬、焦りを感じ取った。


炎の奔流を防ぎながらも、エドワーは再び傘を開き、刃のように回転させて反撃する。風圧が炎を押し返し、レンの動きを制限した。一瞬、均衡が戻ったように見えた。


だが……見えた。


レンの足元、空気が熱で歪んでいる。


あれは……罠だ。


エドワーは気づいていない。自分の優位を確信している。傘の先端で炎を切り裂くたび、わずかに笑みを浮かべている。


勝ったと思った瞬間、一歩踏み出した。


次の瞬間、爆炎。


地面に溜まっていた熱気が一気に爆発し、足元から炎が噴き上がる。エドワーは傘で防ごうとしたが、遅かった。防御の角度がわずかにずれ、爆風が肩を打つ。


傘が手から飛んだ。


熱風が砂を巻き上げる。その中で、レンがゆっくりと手を下ろした。炎が消える。


エドワーが膝をつき、歯を食いしばったが、立ち上がることはできなかった。


そして画面に勝者の名が表示された……レン。


デジタルフィールドが消えた後も、レンとエドワーを静かに見つめていた。


結果は明白だった。レンの勝利は力によるものじゃない。冷静さと観察力によるものだ。エドワーの敗北は、彼の傲慢さと過信によるものだった。自分の強さを証明しようとするあまり、相手の意図を読み違えたんだ。


レンがエドワーに近づく。手の炎はもう消えているけど、その目は同じ強さで輝いていた。


エドワーはまだ膝をついたまま、視線を落とし、眉をひそめ唇を噛んでいる。肉体的な痛みじゃない。もっと深いところ……彼のプライドが傷ついているんだ。


レンは落ち着いた呼吸で、嘲笑も優越感もなく、ただ静かに言った。


「お前が負けたのは、一人で戦ってるからだぜ」


声は穏やかだけど、確固としていた。


「誰も信じてねーだろ。自分自身もな」


エドワーが顔を上げた。驚いた表情。怒りに満ちていた目が、一瞬揺らいだ。


レンは続けた。沈黙が広がりすぎないうちに。


「お前の使ってる傘は、いい武器だ。正確で、エレガント。でもお前は、それを自分と他人の間の壁みたいに使ってる……誰も近づけさせない。近づければもっと勝てるのにな」


静かに見守っていた。レンの言葉は傷つけるものでも、傲慢なものでもなかった。……真実だ。


その口調には、エドワーが拒絶できない何かがあった。武装解除するような正直さ。


「オレもお前みたいだったんだ。Dクラスじゃ、誰もオレを近くに置きたがらなかった。邪魔だ、面倒だって言われてな。だから誰も信じないって決めたんだ……ここに来るまでは」


「なに!?D クラスを捨ててFクラスに来たって言うのか? なんで?」


「なんでだろーな……色んなイベントに参加してるやつら見て、ここに配属されてーなって思ったんだ。わざと成績落としてここに来たんだぜ」


レンが周りを見回す。全員が何も言わずに見ているけど、その目には……彼がここに皆がいることを喜んでいるように見えた。声が温かく、生き生きとしている。


「Fクラスには誰もお前を見下すやつはいねーよ。競争もない。ただ進みてーやつらがいるだけだ。ゆっくりでもな。ここじゃ何も証明する必要なんかねーんだ、エドワー。ただ……一緒にいればいい」


続いた沈黙は重かったけど、不快ではなかった。エドワーは視線を逸らし、深く息を吸った。地面に触れる手がわずかに震えている。何か見えないものを掴もうとしているみたいだ。


分かった。


あの震えは怒りじゃない。恥ずかしさだ。強く見せようとした努力が、自分の恐怖に対する壁でしかなかったことに気づいた者の恥ずかしさだ。


レンは一歩下がり、それ以上追い込まなかった。


「一日で変われって言ってんじゃねーよ。ただ……周りを見てみろよ。ここで息するのがどんだけ楽か、びっくりすっぜ」


しばらくの間、誰も話さなかった。誰も呼吸すらしていないようだった。全てが夕日に染まった静寂だった。


ついに、エドワーがゆっくりと頷いた。何も言わなかったけど、その仕草で十分だった。


分かった。


あの小さな動きは、どんな謝罪よりも価値がある。初めて、エドワーが警戒を解いたんだ。


彼らを見ながら、胸の中に温かい感覚が広がった。レンへの称賛でも、エドワーへの同情でもない。もっと……シンプルなものだ。


理解した。Fクラスは「落ちこぼれ」の集まりじゃない。転んだ者たちが、たとえ不器用な歩みでも、また立ち上がれる場所なんだ。


そしてこの瞬間、ようやく全員が同じ方向に歩き始めたと感じた。


この緊張感が解けたのは、りんがいつもの調子で全員を図書室に導いたときだった。全員で勉強会の準備が整い、温かさと友人と勉強に満ちた心地よい午後が始まった。

次回――


期末試験、開幕。

張り詰めた空気の中で、それぞれが抱える不安と覚悟が交差する。


そして、アレンの前に再び現れる“彼女”。

偶然に見えるその出会いは、本当に偶然なのか。


終わったはずの時間が、

静かに、しかし確実に動き出す――。


その一歩が、何を変えてしまうのか。

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