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守るべきもの

人は「守りたい」と思った瞬間に、同時に「失うかもしれない恐怖」を抱えてしまう。

アレンがその恐怖と真正面から向き合うことになる。


仲間を遠ざけた理由は、優しさだったのか、それとも弱さだったのか。

沈黙、視線、距離――言葉にされない感情が、彼の心を静かに追い詰めていく。


それでも彼は逃げない。

過去の痛みを思い出しながらも、「真実を話す」という選択をする。


守るべきものがあるからこそ、人は傷つく。

そして、その傷をさらけ出す勇気こそが、本当の信頼への第一歩なのかもしれない。

アカデミーへ行く準備をしていた。でも……昨日、エンマさんと会った時のことが、頭の中でずっと渦巻いていた。


それよりも奇妙だったのは、教室に戻った時のことだ。りん、アヤ、エリザ……誰も僕に話しかけてこなかった。皆、どこか……距離を置いているように見えた。


もしかして、僕は重大な過ちを犯しているのか? 彼女たちを仲間外れにしたせいで、僕の嘘に気付いたのか? もしかして、今、彼女たちは僕のことを……憎んでいるのか?


そう考えると、あの恐怖が戻ってくるのを感じた。また失敗している……そんな気がして、胸が痛んだ。ひめかの時に感じたあの痛みを、もう二度と味わいたくない。


でも、どうすればいい?


深く息を吸って、ただ一つの結論に辿り着いた。


彼女たち全員に……真実を話そう。


過去の痛みを思い出した。また失敗するかもしれない。それだけは嫌だ。


飛び出すように走り出した。皆より先に教室へ着いて、話をしたかった。


でも……着いた時には、もう全員が集まっていた。まるで僕を待っていたかのように。りん、アヤ、エリザだけじゃない。かんなもいた。


「どうして……?」


かんなが最初に近づいてきた。


「ごめん、アレン。秘密にしておきたかったのは分かってる。でも、昨日エリザにアレンが出かけるって話したら、説明を求められて……言うしかなかった」


かんなを責めることはできない。でも、自分自身にはがっかりした。最初からこうしておくべきだったのに……。


エリザを見た。落ち着いているけど、その視線の奥には、どこか僕を裁くような何かが見えた。


アヤを見た。怒っているというより……失望しているようだった。


りんを見た……彼女はまだ笑っていた。いつも通り……感情豊かに……。


くそっ! なんて馬鹿なんだ、僕は!


「みんな、ごめん!!」


頭を下げた。崩れ落ちそうだった。裁かれている気がした。全てが悪かった……。


でも……


りんの声が聞こえた。


「アレン、顔を上げて。謝らないで。いろんな理由があってこうしたんでしょ? その中には、あたしたちを心配する気持ちもあったはず。だから謝る必要なんてないよ」


「でも! 嘘をついた……みんなを遠ざけて……ひどいことをした……」


りんが近づいてくる足音が聞こえた。肩に彼女の手が置かれるのを感じた。


まだ頭を下げたまま、りんの足元しか見えない。でも……彼女の手が僕の頬に触れ、顔を上げさせた。


彼女の顔を見ると……まだ笑っていた。


どうしてこんなに優しいんだ? どうして僕を憎まないんだ? 本当に、りんみたいな人間が存在するのか?


「アレンくん、唯一気に食わないのは、何も言ってくれなかったことだけだよ。あたしたち友達でしょ? Fクラスでしょ? ……大切な仲間だよね?」


りんの優しさに、値しない気がした。自分が馬鹿に思えた。ひめかと向き合ってから変わり始めたと思っていたけど……実際はあまり変わっていない。恐怖が別の形に変わっただけだ。


アヤが近づいてきた。


「バカ! あんなに一緒にやってきたのに、また怖がってんの?」


「……で――」


「言わないで! あんたはバカだけど……あんたはわたしたちのバカなんだから……」


アヤはいつも言葉が厳しい。でも……心配してくれているのが分かる。


エリザが近づいてきた。


「アレンさん、あなたがわたしを助けてくれた時、とても感動しました。先輩のように尊敬していますわ。だからこそ、わたしたちを遠ざけたことは悲しかったです。でも、理由は理解できます……ですから、質問させてください。わたしたちに手伝わせてくれますか?」


彼女たちの助けが欲しかった。これまでも一緒に多くのことをやってきた。今回と以前の行動に、何の違いがあるんだ?


答えは……少なくとも今の僕には、違いなんてない。


彼女たちの助けが欲しい。光が欲しい。四つの光が、暗い道を照らしてくれるはずだ。


「お願いだ、みんな……力を貸してくれ!」


りん、アヤ、エリザ、かんな……皆が「デバイス」の件に加わり、調査を続けることになった。


これまでの事実を整理する。


デバイスは僕が持っている。だから、犯人たちは少なくともその面では脅威じゃない。キバ先輩という名前が分かっている。調査が必要だ。エンマさんを訪ねた時、彼女は何も覚えていなくて、様子がおかしかった。でもミスを犯した……デバイスを見せようとしたら、画面が点いていて、何かが起きた。驚いて逃げ出してしまい、その後エンマさんがどうなったか分からない。


今日はキバ先輩を調べて、会長に進展を報告しなければ。


全てを話すと、皆は各自で調査すると言ってくれた。僕はできるだけ早く会長に報告したかったので、生徒会室へ向かって待つことにした。


生徒会室は空っぽだった。静寂が耳をつんざくほどで……恐ろしいくらいだった。


誰かが来るのを待ちながら座っていた。分かっていることを頭の中で整理し続けた。


数分後、会長が到着した。僕を見て驚いていたけど、もちろんすぐに全てを話し始めた。


でも、会長は僕の説明の間ずっと、とても思慮深く、静かだった。


説明が終わった後も、会長は考え込んでいるようだった。それから僕をじっと見つめて言った。


「アレン、そのデバイスがどう機能するかについて理論があるけど……もう何もしない方がいい。よくやってくれた。もう渡してくれ」


デバイスを会長に渡した。


やっと、あんな危険なものを持ち歩く重荷から解放された。でも、本当に危険だったのは会長の次の言葉だった。


「アレン、エンマを探した方がいい」


「どうしてですか?」


「……君が言うには、彼女の様子がおかしかったんだろ……デバイスを見せた時、エンマは何らかのトランス状態から目覚めて、今は復讐のために加害者を探しているんじゃないかと感じるんだ」


「は!? どうしてそこまで詳細に確信できるんですか?」


「もう分かっていると思ったけど。僕はアカデミーの生徒会長だ。全員の最高責任者で、代弁者で、それに大多数の先輩でもある」


「それでも、どうやってそんな結論に……」


「簡単に言えば、自惚れに聞こえたくないけど、僕は賢いんだ。君が言ったことを基に、ピースを繋げて推測しているだけさ」


銀太郎会長が自分の知性にこれほど自信を持って、ここまで詳細に断言できることに驚いた。もしそうなら……エンマさんが何かを企んでいるなら、止めなければ。


「キバ先輩については?」


「心配ないよ。アカデミー全体で、その名前の男子は一人しかいないし、誰か分かってる」


「賢いから分かるんですか?」


「いや、僕のクラスにいるからだよ」


「えっ!?」


知るたびに、現実に圧倒されていく。


会長は何人かの生徒を動かしてエンマさんを探すと言った。僕も同じようにしようと思った。急いで教室へ戻って皆に知らせようとしたけど、廊下でアヤに会った。


「アレン!」


「どうした?」


「ウェンディって子があんたを探してるわ」


ウェンディさん? どうして?


アヤについて教室まで行くと、ウェンディさんは必死な様子だった。そして、完全に動揺させられることを言った。


「朋也……朋也が……朋也を連れて行かれたの、あの二年生の男に!」


……!?


ヤーグのことだと理解した。でも、どうして? 何が起きてるんだ?


「ウ、ウェンディさん、何が起きてるのか説明してください」


「朋也、あんたと彼がやってることを教えてくれたの。昨日の午後、重要な手がかりがあるかもって言ってて……そのヤーグって奴と直接対決するって……」


どうして朋也はそんな危険な判断を……?


今、二つのことを考えなければならない。エンマさんを探すこと、そして朋也も。


「どこで見たんだ?」


「数分前、一緒に歩いてたんだけど……彼は昨日の午後からそのヤーグって奴を探してて、今朝早くに会うって言ってたの……でもその男、仲間を連れてきて、朋也をどこかへ連れて行っちゃったのよ」


「じゃあ全部どこで起きたんだ? アカデミーの入口?」


「そう」


状況はますます複雑になってきた。


「アヤ、朋也を探してほしい。みんなをまとめて、手分けして探すようにしてくれ」


アヤは朋也がどんな人か知ってるから探せる。かんなはヤーグを知ってる。それで、りんとエリザはアヤとかんなをガイドに、彼らがどこにいるか探せるはずだ。幸い、まだ早い時間で生徒がほとんどいない。


何か手がかりを見つけるため、廊下を歩き始めた。


ウェンディさんが付いてきた。そして、もっと良い方法を思いついた。


「ウェンディさん、朋也の連絡先持ってる?」


「ある……あ!」


彼女が朋也に電話をかけ、スピーカーにした。呼び出し音が鳴り、声が聞こえた。


でも……答えたのは朋也の声じゃなかった。


ヤーグの声だ。


間違いない……あれはヤーグの声だった――。


「やっと出たな、会長……」


会長?なぜヤーグは電話の相手が会長だと思っているんだ?


「お前がオレたちのもんを持ってるのは知ってる。返しやがれ!!そしたらこの余計なお節介野郎を返してやるよ」


会長のふりをすることにした。シンプルに答えるだけでいい。


「……ふむ」


「そうこなくちゃな、銀太郎会長。第二校舎の屋上で待ってるぜ――」


通話が切れた。


何が起きているのか完全には理解できなかったが、ヤーグの居場所は分かった……でも朋也は彼と一緒なのか?それとも仲間たちがヤーグと一緒にいるのか?とにかく今は自分で動かなければ。


「ウェンディさん、会長にこのことを知らせてください」


彼らが危険なのはあのデバイスがあるからで、もう持っていない。僕はこの確信を持って探しに行こうとしたが、ウェンディさんが止めた。


「待ちなさいよ!あんた一人で行くつもり!?」


「……!?」


ウェンディさんの言葉に、何もできずに立ち尽くしてしまった……彼女がいなければ何も考えずに走り出していただろう……またしても大切なことを忘れていた。今は支えてくれる仲間がいるということを。


指定された場所に行く前に、彼女たちを探しに行った。助けが必要だった。驚いたことに、廊下でアヤとエリザに出会った。急いで二人を呼び止めて状況を説明する。りんとかんなを探しに行く時間はなかったが、エリザが探しに行くと申し出てくれた。


僕とアヤは先に行くことにした。二年生の校舎へ向かい、屋上まで走った。屋上の扉の前に到着する。


勢いよく押して、扉を力強く開けた。


そこに、遠くに彼らがいた。ヤーグ、ネルズ、そしてタダ。だがリーダーだというキバの姿はなかった。朋也は彼らの後ろで縛られ、膝をつき、苦痛の表情を浮かべていた。


僕たちを見て最初に反応したのはヤーグだった。


「はあ?てめぇら誰だ?失せろ!」


朋也は僕を見ると、息を切らした声で叫んだ。


「お前ら、気をつけろ!」


ヤーグは振り返り、朋也の顔を蹴った。


この暴力を見て最初に反応したのはアヤだった。


「てめぇら何やってんだ!?」


「てめぇには関係ねぇだろクソ女!」


間違いなく、ヤーグが一番暴力的だ。タダはただ場面を見ているだけで、ネルズは目を閉じて冷静さを保っていた。まるでこれが些細な迷惑事のように。


タダが話し始めた。その声は震えていた。


「あ、あの、お前ら、……帰った方がいいよ。オレたち誰かを待ってるし、ここにいると危ないから」


ネルズがそれを遮り、少し近づいてきた。その声のトーンから、かなりの傲慢さが感じられた。


「デブの言うことを聞いた方が身のためだよ。ここは君たちがいるべき場所じゃない……痛い目に遭いたくないならね」


その視線が真剣になり、一瞬、空気が重くなったような気がした。


アヤがネルズに近づき、直接対峙した。危ない!僕も少し近づいたが、まだ距離を保つ程度にした。


「あんたに指図されたかないんだけど、クソ長髪」


もう彼女なりの侮辱を始めている。これは状況を悪化させるだけだ……。


ネルズはすぐに我慢の限界が来たようで、眉間にしわを寄せた。そして拳を上げようとしたその時、僕が危ない、と反応したが――


その瞬間、反対側の屋上のもう一つの扉が勢いよく開いた――


全員が振り返って誰なのか確認する。そして事態をさらに複雑にするかのように、まるで嵐が入ってきたかのように、ここに到着した人物は――


エンマさんだった。


すぐに気づいた。エンマさんは包丁を持っている。


会長が言っていたことを思い出した。今、エンマさんはヤーグたちよりも危険だ。なぜなら彼女は怒り、絶望、復讐という強い感情に目が眩んでいるから。


ヤーグは彼女を見て驚き、言った。


「エンマ!?何でここにいるんだ?」


ヤーグの反応を見て、信じられなかった。ヤーグがこんなに馬鹿で、エンマさんが包丁を持っていることに気づかないなんて。幸い気づいたのはネルズで、それを知らせた。


「ヤーグ!気をつけろ、あの女の手に持ってるもんを見ろ!」


「っ!?」


エンマさんは何も言わず、動かず、ただヤーグを見据えている。


「どうしたんだよエンマ?なんでそんな危ないもん持ってんだよ?」


ヤーグが近づこうとするが、ネルズがすぐに止めた。


「馬鹿!近づくな!」


ヤーグは状況を理解するのが遅いのか、それとも今起きていることの危険性を測れていないのか?


エンマさんは長い間何もしなかった後、ゆっくりとヤーグに向かって歩き始めた。


当然、ヤーグはとても怯えた。


エンマさんが一歩踏み出すたびに、ヤーグは後ずさりしていく。そして……エンマさんの口から、小さく呟きが漏れ始めた。


「……あんたのせい……あんたのせい……」


ヤーグはもう逃げ出そうとしていた。だが、逃げ道は一つしかない――僕の後ろにあるドアだけだ。反対側にはエンマさんが迫ってきている。彼女の方へ逃げるなんて、ありえない選択だった。


その瞬間、ドアが勢いよく開いた。


「全員止まれ!」


銀太郎会長だ。


会長の登場は、ヤーグたちにとってさらなる問題を運んできた。そして何より……エンマさんが激昂した。会長の姿を見た途端、包丁を握ったまま走り出す。


「ああ――!!」


ヤーグは……恐怖で動けなかった。周りの仲間たちも、彼を置いて散っていく。


だけど――


エンマさんの背後から、誰かが駆けつけて、彼女の腕を力強く掴んだ。


「離せ! クソ野郎! 殺してやる! 死ねヤーグ!!」


エンマさんが叫び続ける中、ヤーグは震えながら、その場に崩れ落ちた。


僕の視線は、エンマさんを止めた人物に向いた。


中肉中背の男子生徒。真っ白な髪。そして……何も感じていないかのような、まるで何も見ていないかのような瞳。その目は……死んでいるかのようだった。


その生徒は、さらに力を込めて、エンマさんの手から包丁を落とさせた。包丁が床に落ちると、彼はそれを蹴り飛ばす。もう危険な武器は何もない。エンマさんは力が抜けたように抵抗をやめ……泣き始めた。


すべてが解決したかに見えた。


だが――


「キバ先輩!」


ネルズが突然叫んだ。


――!?


あの生徒が……キバ先輩?


キバ先輩は、まだエンマさんの腕を掴んだまま、冷たく言い放った。


「弱いな。平均的な女の弱さか……ゴミめ」


そして彼女を乱暴に床へ突き放し、銀太郎会長を見据えた。


「来たな、銀太郎。そろそろ俺たちの問題を解決する時じゃないか?」


会長は何も言わず、キバへと歩み寄る。


「まずは全員をこの件から外してくれ」


「んー……それは無理だな。縛られているゴミは俺たちを覗き見していた。俺の仲間を襲おうとしたゴミには罰が必要だ。そしてここにいる全員も、余計な首を突っ込んだゴミだ。当然、罰が必要だろう?」


信じられなかった。全員を「ゴミ」呼ばわりするなんて……こいつ、何なんだ?


腹が立ってきた。こんな奴を「先輩」なんて呼びたくない。こいつは……


ネルズが調子に乗って口を挟んだ。


「そうですよ会長、だから――」


「ネルズぅ〜……」


キバが視線を向けた。だがその表情は、一瞬で変わった。目が暗く沈む。怒りでも激昂でもない。もっと悪い何かだ。言葉なしに伝わる――「黙れ」と。


いつも自信満々で嘲笑を浮かべているネルズの顔から、血の気が引いた。彼は頭を下げ、何も言い返せない。


キバは……味方にすら恐怖を与える存在だった。


「銀太郎ぉ〜、君は持っているんだろう?俺たちのアカデミーでの完璧な生活への鍵を返してもらおうか」


会長は眼鏡を直したが、何も答えない。


苛立ったキバが続けた。


「とぼけるなよ。ノーランド先輩が残したあのデバイスは俺たちのものだ。返せ」


会長は黙ったままだ。


……二人には、複雑な過去があるんだろうな。


そしてようやく、会長が口を開いた。


「君のやっていることは間違っている。生徒会長としての僕の責務は、仲間たちが生徒の道を外れないようにすることだ……」


会長は眼鏡を外し、床に投げ捨てた。そして続ける。


「通常なら、アカデミーの規則に従ってデジタルバトル・システムで解決すべきだが……今回はそうはいかない」


会長はシャツの袖をまくり上げ、戦う構えをとった。


――何をしようとしているんだ?


キバは、その姿を見て嬉しそうに笑った。


「いいね、銀太郎。昔みたいだ。そう、これが俺たちの問題の解決方法だ」


僕は、会長のこの様子を見て、何かを理解し始めた……。


だが考える間もなく、会長が叫んだ。


「アレン!全員を遠ざけろ!」


会長は、朋也や、エンマさんを僕に遠ざけさせたいらしい。でも、どうやって? ヤーグもネルズもタダもまだ近くにいるのに……。


だが突然、会長が信じられない速さで動いた。ネルズに一撃。次にヤーグ。そしてタダを見据えて言う。


「タダ、二人を連れて行け。この勝負はキバと僕の間だけだ……」


怯えたタダは、ヤーグとネルズを引きずって離れていった。


僕は……目の前で起きていることについていけなかった。何より驚いたのは、キバが会長の行動を止めようとしないことだ。


「アレン!ぼーっとしてる場合か! 早く!朋也とエンマを遠ざけるんだ!」


アヤの助けを借りて、僕は朋也とエンマさんを会長とキバから離した。


全員が遠ざけられ、屋上の中央には会長とキバだけが残った。


……まるで、殴り合いが始まろうとしているみたいだ。


「アレン!もう一つ」


会長は振り返らずに言った。


「生徒会長が元不良だったって知ったら、ショックだろうな?」


「不良……?」


「ああ、いわゆる不良少年ってやつさ……」


僕は一瞬考えた。でも……違う。過去に何があったかは、会長の一部だ。今の会長こそが、僕が知っている会長なんだ。それだけが見えるものだ。失望なんてしない。むしろ……生徒会長が、見た目以上にすごい人だと分かって、尊敬の念が湧いてきた。


「会長!かっこいいです!」


……言ってから恥ずかしくなった。特にアヤが、困惑した表情で眉を上げてこっちを見てきたときは……。


突然、会長が声をかけてきた。


「なあ、アレン!」


「何ですか、会長?」


「……りんは、これをどう思うかな?」


「りん? そう……多分、会長を応援すると思います」


「そうか……ありがとう、アレン。おかげでやる気が出てきたよ」


――なんで会長は、りんさんのことで励まされるんだ?


考える間もなく、キバが会長に殴りかかった。でも会長は倒れず、腹部に一撃を返す……。


僕は……拳で殴り合う二人を目撃していた。


この状況に至るまでのすべての出来事……これがこんな殴り合いに繋がるなんて、まるで非現実的だ。疑問だらけで、ほとんど何も理解できていない。僕にできることは……ただ、会長がキバと戦う姿を見守ることだけだった。


数分が過ぎ、朝日がすべてを照らし始めた頃――会長が笑みを浮かべ、最後の一撃を放った。


キバが床に倒れる。


会長は深呼吸し、スマホを取り出した。


「ああ、終わった。早く来てくれ!」


――誰に電話してるんだ?


その瞬間、キバが笑い始めた。高笑いだ……敗北を受け入れる彼なりの方法なんだろうか。


「はははっ! ……やっぱり誰も敵わないな、銀太郎」


「……喋らない方がいい、キバ」


「……実はね、俺はあのデバイスなんてどうでもよかった。あれはあの三バカが欲しがってただけだ……俺はただ、ノーランド先輩の思い出を守りたかっただけなんだよ」


誰も破れない沈黙が訪れた。少なくとも人間には――


ドアの音が響き、生徒会の残りのメンバーが駆け込んできた。キバたちを取り押さえる準備は万端だ。


会長が僕に近づいてきた。


「ここからは僕が引き受ける。君は友達のところに戻っていいよ」


信じられなかった。こんな形で……すべてが終わるなんて。


その時、急ぎ足の音が背後から聞こえ、ドアを抜けて入ってきたのは――りん、エリザ、かんなだった。


三人は心配そうに僕に駆け寄ってくる。


結局……僕は目的を果たせた。誰も怪我をしなかった。できる限り平和的に解決できた。それだけが大切だった……。


だから、彼女たちと一緒に教室に戻ろう。これ以上何が起こるのか、何が隠されているのか……もう知る必要はない。僕がこれをしたのは、彼女たちのためだ。すべてが解決した今、これ以上関わる理由はない。


階段を降りようとしたとき、みんなが同時に話しかけてくる中――ウェンディさんが朋也に向かって走ってくるのが見えた。彼女はそのまま彼に抱きつき、エンマさんを見て安堵の涙を流していた。


間違いなく、この一件はジェットコースターのようだった。でも、僕はこれを解決する重要人物じゃない。だから……立ち去るんだ。


疑問はあるし、真実も分からない。でも、それでいい。なぜなら結局、僕が守りたかった大切な友達たちは、無傷でこの件から抜け出せたのだから。


それだけが……僕にとって大切なことだった。

次回――


語られるのは、アレンではないもう一人の“過去”。

銀太郎が歩んだ、反抗と誇り、そして後悔の記憶。


夢を持った友。

同じ道を歩けなくなった親友。

選んだはずの未来が、誰かを傷つけていたと気づいた瞬間。


「正しかった」と信じた選択は、本当に正解だったのか。

失ったものは、もう取り戻せないのか。


交錯する過去が、静かに現在を締めつけていく――

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