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影の代理人

静かだったはずの日常は、もう戻らない。

小さな選択の積み重ねが、確実に未来を歪めていく。


仲間であるはずの存在、守りたいと願った想い、

そして――自分自身の弱さ。


戦いの前に避けられない「迷い」が描かれる。

信じることは、果たして強さなのか。

それとも、壊れる前触れなのか。


答えはまだ、見えない。

ベッドに横たわったまま、天井を見つめていた。


アラームが鳴るまで、まだ数分ある。だけど目が覚めてしまった。


昨日のエンマさんのこと……まだ頭から離れない。


床に倒れ込んだ姿。力の抜けた瞳。あの光景が、脳裏に焼き付いて消えない。


先生が彼女を保健室に連れて行った後、何も分からなかった。彼女がどうなったのか、何が起きているのか……全てが謎のまま。


でも、確信がある。この裏には、何かがある。


何が本当に起きているんだ?


思考が絡まっていく。まるで僕が操る糸のように、複雑に、解けないまま。疑問と不安のループに囚われている。


ふと気づく。もう何分も、こうして天井を見つめていた。答えなんて出ないのに。


頭はまだ霧がかかったまま。でも、やるべきことは一つ。


ウェンディさんと会う。急いで身支度を整え、部屋を出た。


寮の入口に着くと――驚いた。ウェンディさんが、もうそこで待っていた。


表情は真剣。でもその瞳には……何か遠くを見ているような、そんな色があった。


近づく。


「おはよう、ウェンディさん」


彼女はじっと僕を見つめた後、ゆっくりと空を見上げた。まだ暗い空に、朝焼けの色が少しだけ混じっている。


「エンマのこと、もっと話すわ。でも約束して。あんた、本気であの子を助けるって」


胸に、ずしりと重いものが落ちてきた。


責任……そう、責任だ。


でも、約束なんてできない。僕自身、何も確信が持てないから。何もかもが不確かで、不安で。


言葉が出てこない。ただ、ため息が漏れた。


ウェンディさんは僕から視線を逸らし、不機嫌そうに顔をそむけた。


でも、話し始めた。


「エンマはね……成績のことで悩んでたのよ。クラスを下げたくないって。できるだけ上を目指したいって」


彼女の視線が落ちる。拳が、ぎゅっと握られていた。


「でも少し前……二年生の男子たちが、解決策を教えてくれるって言ってきたって、あたしに話してくれたの。それで、エンマはその人たちに会いに行ったわ。そして翌日……あたしが『どうだった?』って聞いたら、エンマはこう言ったのよ……『何のこと、ウェンディ? あたし、誰にも会ってないわよ』って」


……ぞくりとした。


記憶を失う――あの症状だ。


「背筋が凍ったわよ。あの子、嘘をついてるのか……それとも本当に忘れてたのか。何が起きてるのか、全然分からなかった。それからずっと、エンマが二年生の男子と会ってるのを見かけるようになったの。でも、あたしは……近づくことも、何かすることもできなかった。おかしいって分かってたのに……それなのに、あたしは……何もしなかった……」


ウェンディさんの声が震えた。

そして、涙がこぼれ落ちた。


昨日のことを思い出す。


ウェンディさんは、エンマさんが「ヤーくん」という人物の名前を口にしていたと言っていた。その時、彼女は「誰なのか分からない」と言った。


でも今、こうして認めている。


もっと知っていたことを。エンマさんが二年生の誰かと一緒にいるのを見ていたことを。


昨日、全てを話さなかったのは……まだ僕に対して警戒していたからだろう。


「その男子が二年生だって、どうして分かるんですか?」


「二年生の校舎に入っていくのを見たからよ」


つまり、彼女はその男子を尾行していたということ。それは、彼の外見を知っているということだ。


「どんな見た目か、教えてもらえますか?」


ウェンディさんは説明してくれた。


背が高い。髪は金髪――だけど、上の部分だけ。下は暗い色のまま。そして、右耳にピアスをしている。


かなり目立つ外見だ。探すのは難しくないはず。


……とはいえ、驚きだ。このアカデミーが、そんな自由を認めているなんて。ピアスを許可しているとは思わなかった。


ウェンディさんを見る。彼女の苦しそうな顔。罪悪感に満ちた表情。


それが、胸に刺さる。


彼女が話してくれたこと……それは、この謎をさらに深くするだけだった。


もしエンマさんが本当に何も覚えていないなら……それは、事態をもっと複雑にする。


でも……このまま放っておくわけにはいかない。


たとえこれが混沌でも。誰も関わりたくなくても。


悪いけど……解決しないといけない。


その決意を胸に、拳を握りしめた。


「その二年生が、『ヤーくん』だと思いますか?」


「分からないわ……でも、多分そうじゃないか」


手がかりは掴めた。でも……分かってる。


これに首を突っ込めば、面倒なことになる。無謀かもしれない。助けもなく、一人で調べるなんて。


それでも……放っておけない。


ウェンディさんを見る。彼女は少し落ち着いたようだったけど、まだ視線は虚ろだった。


何か言いたかった。「心配しないで」とか、そういう言葉。


でも……そんな顔で言えるわけがない。


僕はヒーローじゃない。ただの馬鹿だ。巻き込まれた、どうすればいいか分からない馬鹿。


その時、一人の生徒が僕たちの横を通り過ぎた。


――そうだ!


いい考えが浮かんだ。


この寮には、アカデミーの全生徒が住んでいる。例外なく。


もしその男子が目立たないように行動していても……いつかは、ここを通るはずだ。


「ウェンディさん、先にアカデミーへ行ってください。僕はここに残ります。あの男子を見つける方法があるんです」


「何をするつもり?」


「後で説明します」


ウェンディさんが去った後、僕は寮の受付に入り、そこに置かれた椅子に座った。


スマホを取り出し、使っているふりをする。……通り過ぎる生徒たち一人一人を観察していた。


時間が経つにつれ、生徒たちが次々と通り過ぎていく。


でも、ウェンディさんが言っていた特徴に当てはまる人物は、まだ見当たらない。


その男子が本当にここを通るかどうかは分からない。でも、ここは全員が必ず通る場所だ。早かれ遅かれ。


時間は過ぎていく。


長く感じる。


でも、じっと待つしかない。


早起きして、本当に良かった。


――その時だった。


階段を降りてくる音。


視線を上げると――りんだった。


彼女はすぐに僕に気づき、不思議そうに近づいてきた。


「おはよう、アレンくん! こんなところで何してるの?」


「おはよう。えっと……誰かを待ってるんだ」


りんの表情が変わる。疑いの目だ。


「なんか嘘ついてない?」


「気のせいだよ。演劇部の仲間を待ってるんだ」


「ほんとに?」


「うん……」


りんはとても勘が鋭い。簡単に嘘を見抜かれる。でも、彼女自身も自分の直感を疑っているようだった。


「じゃあ、アヤさんも待ってるの?」


「えっ!? いや、彼女は彼女で別行動だから」


嘘をつくのは苦手だ。特にりんには。


「ふーん……じゃあ、頑張ってね。教室で会いましょ!」


りんは何も聞かずに去っていった。


……ほっとした。緊張で汗まで出ていた。


仕方ない。


りんや他のみんなには、これを知られたくない。


危険なことに巻き込みたくないから。


「人の記憶を操るデバイス」なんて……僕が今まで直面してきたどんなことよりも、はるかに危険だ。


時間が過ぎていく。


朝の喧騒。笑い声、おしゃべり、急ぐ足音。


遅刻しそうな生徒たちが走っていく。眠そうにあくびをする者もいる。


視線を巡らせる。


金髪のグラデーションヘア、ピアスをした男子……まだいない。


もしかしたら、今日は通らないのかもしれない。別のルートがあるのかも。もしかしたら――


「アレン?」


声に驚いて振り向くと――アヤとエリザだった。


「こんなところで何してるの?」


「アヤ! おはよう。朋也くんを待ってるんだ」


「朋也を? なんで?」


「ちょっと話があって」


エリザがじっと僕を見つめていた。その視線が……突き刺さる。もしかして、嘘だと気づいてる……?


でも、エリザは静かに言った。


「頑張ってください、アレンさん」


「……ありがとう」


エリザはアヤに促し、二人は歩き出した。


アヤは眉を上げて困惑していたけど、エリザに従った。


……エリザは、何か気づいたんだろうか。


そんな気がする。


それでも、待ち続けた。


太陽はもう高く昇り、通る生徒の数も減ってきた。


もしすぐに現れなければ……また別の日に試すしかない。


その時――


「おはよう、アレンくん」


不意を突かれた。


振り向くと――朋也だった。


嘘で何度も名前を出していたら、本物が現れた。


朋也はウェンディさんの友人だ。


ちょっと待って!もしかしたら……彼の協力があれば、あの男子を見つけやすくなるかもしれない。


そう思い、今やっていることを説明した。


朋也は意外にも乗り気だった。


いや、むしろ――普段とは違う。ウェンディさんのことになると、彼はいつも以上に情熱的になる。


隣に座った朋也を見ながら、ふと思った。


彼も僕と同じだ。


友達を守るために、できることをしようとしている。


でも……彼の目には、もっと深い何かがあった。


心配。それ以上の、深い感情。


朋也は視線を落として言った。


「アレンくん、手伝わせてくれて、知ってることを話してくれて……ありがとうな。ウェンディさんは俺の友達だ。何かあったら耐えられない。きっと彼女、一人で危ないことやり始めてたと思うんだ」


朋也の勇気に……僕は胸を打たれた。少しでいい、あんな勇気が欲しい。


「いや……協力は本当に助かる。僕は、何が起こるか考えるだけで……緊張で動けなくなる」


朋也は軽く笑って、満足そうに頷いた。


時間がない。授業開始まで迫ってるのに、まだ何の手がかりも……。


大きくあくびをした。そして目を開けた瞬間――目の前にかんながいた。


「ああっ!!」


「……何してるの?」


「かんな!? ぼ、僕は、えと……」


何も思いつかない。他の子たちに使った言い訳はもう通用しない。頭が真っ白になった。


かんなの目が……疑いの色で僕を見つめてくる。こんな鋭い視線のかんなは初めて見る。


そして、さらに状況は悪化した。彼女の後ろに、人影が見えた。


背の高い、細身の男子、金髪。スマホを見ながら、ぼんやりと歩いている。


息が……少し荒くなった。


あの男子だ。間違いない。


僕はすぐに立ち上がった。


「行かなきゃ!」


朋也も迷わず立ち上がり、僕の後を追った。


だが、かんなも後ろからついてきた。


「……アレン、教えて。何してるの?」


「説明する、かんな。でも今は静かにしてくれ」


適度な距離を保ちながら、あの男子を尾行する。彼の歩みは遅い。まだスマホから目を離さない。どうやって前を見ずに歩けるんだ? このままじゃ誰かにぶつかる。


観察を続けながら、かんなが説明を求め続ける。


僕は一度立ち止まり、息をついた。


「かんな……実は……」


歩きながら、僕は簡潔に説明した。「デバイス」のこと。あの男子のこと。


かんなは黙って聞いていた。深いため息をついた。


「……手伝わせて」


「ダメだ! 危険すぎる!」


「危険なら、何であなたはやってるの?」


かんなは普段あまり表情を見せないけど……今は明らかに眉を寄せていた。もう僕には選択肢がない。彼女は僕が拒否しても、勝手に動くだろう。


それ以上考える暇はなかった。朋也が口を開いた。


「おい、あいつ道から逸れてるぞ」


急いで前を見ると、あの男子が道沿いの木々の間に入っていく。


なぜあんな場所に……?


音を立てないよう慎重に後を追う。そして辿り着いたのは……洞窟だった。


アカデミーは広大な敷地を持っている。様々な施設があり、生徒たちが退屈せず効率的に生活できるように作られている。周囲には豊かな自然もある。でも……こんな隠れた洞窟があるなんて、明らかにおかしい。


男子はそこに立ち止まり、誰かを待っているようだった。


僕たちは身を隠しながら近づき、会話が聞こえてきた。


「くそっ! あの女、昨日倒れやがって……これで面倒なことになる」


「オマエのせいだろ。無茶するなって言ったのに」


もう一人の声は男子のもので、どうやらエンマさんのことを話している。


「おい、ネルズ、どうすんだよ?」


「黙れ! オマエのせいだろ、ヤーグ」


名前……!


「ネルズ」と「ヤーグ」。金髪の男子がヤーグで、もう一人――姿は見えないが――ネルズ。


「ヤーグ」……あの名前に聞き覚えがある。「ヤーくん」……エンマさんと一緒にいた人物。愛称だったのかもしれないが、間違いない。このヤーグが、あのときの人物だ。


パズルのピースが、少しずつ繋がっていく。


「ヤーグ、当分何もするな。わかったか?」


「ちっ……わかったよ……」


誰かに連絡すべきか……? でも時間がない。直接対決はリスクが高すぎる。


本当に何もできないのか……?


犯人たちは目の前にいる。これ以上好き勝手させるわけにはいかない。


その時、足音が聞こえた。


ヤーグが歩き出す。


「クソが! キバの野郎……こんなクソみたいな仕事押し付けやがって……覚えてろよ……」


ヤーグは木々の間を去っていく。両手で閉じた段ボール箱を抱えている。


あれはどこから……? もう一人、ネルズが渡したのか?


直接対決は無理でも……洞窟の中に何かあるかもしれない。


僕は周囲を注意深く観察した。もう一人の気配はない。物音もしない。


今がチャンスだ。


でも前に進もうとした瞬間、かんなが僕のシャツを引っ張った。


「待って。何するつもり?」


「あの場所を調べる」


かんなは何も言わなかったが、僕が近づくと、彼女も朋也も後ろからついてきた。


洞窟の中は暗い。僕はスマホのライトを点けた。かんなと朋也も同じようにする。


慎重に進む。


それほど深くはなかった。そして……テーブルがあった。その上に、青く光る液体が入った瓶が五本ほど。


さらに奇妙なものがあった。PCケースのような機械……だが、冷蔵庫ほどの大きさ。


一体これは何なんだ……?


「おい、アレンくん……これ見ろよ」


朋也の声に、僕は急いで近づいた。


テーブルの上に「スマホ」があった。少なくとも、そう見えた。だが、デザインが奇妙だ。青い本体。画面は小さく、ボタンがついている。まるで古い携帯電話のようだ。今の時代、ボタン式の携帯なんて存在しない。全てタッチスクリーンだ。


じゃあ、これは一体……?


……!?


これが……噂の「デバイス」なのか……?


でも、こんな重要なものを、なぜここに置いたままに……?


かんなが近づいて、じっと見つめた。


「……アカデミーのスマホとは違う」


僕は手を伸ばした。


でも、なぜか……嫌な予感がする。触れてはいけない気がする。


突然、それは自動的に起動した。画面には見たことのないシンボルの、奇妙なアプリが表示される。


まだ理解する前に――かんながそれを奪い取った。


「見せて!」


「おい、気をつけろ。何が起こるかわからない」


僕は警告したが、彼女はもう興味津々でボタンを押している。


突然、画面が光った。かんなの顔を照らす。


彼女の目が……デバイスに釘付けになった。表情が……空虚になった。


「かんな?」


彼女の体がふらつき、バランスを失い、「スマホ」が手から滑り落ちた。金属音を立てて床に落ちる。


「かんな!」


僕は彼女の肩を掴んで揺さぶった。


どうすればいい……!?


「反応して!!」


その瞬間、彼女が素早く瞬きをして、困惑した目で僕を見た。


「アレン……? 何があったの?」


「それはこっちが聞きたい。大丈夫か?」


「わからない……」


彼女は頭に手を当てた。


「変な感じ……ここ、どこ?」


その返答に、さらに不安が募った。


「洞窟の中だ。何があったか覚えてるか?」


彼女は片方の眉を上げた、思い出そうとしたが、困惑だけが顔に浮かんでいた。


「寮の受付で会って……あなたを追いかけて……二年生の男子のこと聞いて……」


一度言葉を切って、苛立ちながら床を見つめる。


「それから先……覚えてない……」


……!?


背筋に冷たいものが走った。


これで確信した。ウェンディさんがエンマさんについて話していたこと。このデバイスには……記憶を消す力がある。


でも、なぜ……? これは一体、何と関係しているんだ……?


「危険すぎる……」


僕はその「スマホ」をポケットにしまった。


朋也がかんなを立たせるのを手伝いながら言った。


「アレンくん、これからどうするんだ?」


明確な答えはなかった。だが、一つだけ確かなことがある――ここから出なければ。誰かに見つかる前に。


とりあえず……授業に戻るしかない。もう遅刻してる。


アカデミーへ走りながら、僕は考えていた。


会長に報告するのが最優先だ。それに、あの「スマホ」を持ち出したことで、あいつらは必ず動き出す。一歩先を行かなければ。そのためには……会長の力が必要だ。


結局、僕とかんなは授業に遅刻し、叱られた。


りん、アヤ、エリザが……とても心配そうな顔で僕を見ていた。授業が終わったら、絶対に詰め寄られる。そのとき、何て説明すればいいんだろう……。


昼休みが始まると同時に、アヤがすぐに駆け寄ってきた。説明を求めているのは明らかだった。


でも……僕は何も言わずに、急いでその場を離れた。


彼女なら追いかけてくるだろうと思っていた。でも、振り返っても誰も追ってこなかった。


アヤのことは信頼している。他のみんなも。でも……何かが引っかかっていた。これは危険すぎる。必要以上に巻き込みたくなかった。


足は自然と生徒会室へ向かっていた。


昼休みだから誰もいないかもしれない……そう思っていたけど、扉を開けると、意外にも全員が揃っていた。


「おや、座ってくれよ、アレン」


会長が穏やかな笑みを浮かべて、席を勧めてくれた。


「こんな時間に、どうしたんだい?」


「会長……報告したいことがあります」


僕は今朝起きたことを全て話した。ヤーグという名前の生徒のこと。あの奇妙な「スマホ」を見つけたこと。そして、あの洞窟のことも。


会長はしばらく黙って僕を見つめていた。それから、目を細めてこう言った。


「信じられないな……僕が一年かけて探していたものを、君があっさり見つけてしまうなんて。本当に驚いたよ、アレン」


少しの沈黙が流れた。


「でもね……」


会長は指を組んで、顔の前で重ねた。


「そのデバイス、君が持っていてほしいんだ」


「銀太郎会長!」


副会長の柳さんが勢いよく席を立った。


「一体何を考えているんですか!?」


室内の空気が一気に張り詰めた。


「落ち着いて、柳。ちゃんと考えがあるんだよ」


「そういう問題じゃありません!」


「柳……教えてくれないかな。僕が会長として下した判断で、何回間違えたことがある?」


柳さんは唇を噛み締めて、視線を逸らした。結局、何も言わずにまた座った。


僕には会長がなぜそんな結論に至ったのか、全く理解できなかった。


「……なぜ、僕にそのデバイスを持たせたいんですか?」


会長は小さく息を吐いた。


「正直に言うよ。君にはモルモットになってもらいたいんだ。どう機能するのか調べるため……それと、あの生徒たちを引き寄せるためにね」


確かに正直だった。あまりにも直球すぎて、その誠実さに感心すべきか、それとも恐れるべきか分からなくなった。


「……それだけですか? 本当にそれだけ?」


疑念を隠せずに尋ねた。


会長は少しだけ笑みを浮かべた。


「君がそのデバイスで何をしようと、僕は心配していないよ。君はあんな連中とは違う。たとえ試しに使ってみたとしても、自制できるはずだ。狂ったことはしない……君の目を見れば分かるんだ」


その言葉に、僕は戸惑った。


本当に……そんな風に見てくれているのか? そこまで信頼されているのか?


結局、僕はデバイスを保管することを承諾した。完全に納得したわけじゃない。会長が何か企んでいるのは明らかだった。


それでも……今はこれしかない。


生徒会室を出たとき、胸の中には不安と決意が混ざり合っていた。


新しいピースは手に入れた。でも、まだ答えの見えない疑問が多すぎる。


そして何より……この謎は、まだ始まったばかりだと感じていた。


階段に向かう角を曲がったとき――


「……」


そこに、かんながいた。


まるで待っていたかのように。


「この件、まだ手伝わせて」


彼女の目は真剣だった。


断れるわけがなかった。彼女はどうせ関わってくる。だったら一緒に動いた方がいい。


「……分かった」


彼女が提案した。アカデミーの裏庭で話そう。二人で静かに話せる場所へ向かった。


そして裏庭への扉の前に着いたとき――


「よう、待ってたぜ」


朋也がそこにいた。


なんで分かったんだ……?


「かんなさんから連絡もらってたんだよ」


ああ、そういうことか。


こうして、調査メンバーが揃った。


でも……本当に奇妙なのは、ここからだった。

次回――


謎の装置が起動した瞬間、空気が変わった。

それはただの道具なのか。

それとも、記憶に干渉する“何か”なのか。


アレンの行動をきっかけに、エンマの中で失われていたはずの記憶が、

断片的に、そして不自然なほど鮮明に蘇り始める。

だが、それは救いなのか――それとも新たな不安の始まりなのか。


誰がこの装置を用意したのか。

何のために、そして“誰に”使うつもりだったのか。


疑念が連鎖し、沈黙が重くのしかかる中、

真実を追う者たちは、気づいてしまう。

この出来事は、偶然ではない。


動き出したのは、記憶か――それとも、罠か。

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