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歪んだ愛の代償

過去の出来事は、終わったようで終わっていない。

忘れたつもりの感情は、ふとした瞬間に姿を現す。


この話は、新しい始まりのようでいて、

同時に――逃げてきたものと向き合う一歩でもある。

りんさんと一緒に、ひめかに向けて矢を放った。


りんさんの矢が空気を切り裂き、正確にひめかの体を貫いた。しかし、その姿は一瞬で消え去り――ただの幻影だったことが分かった。


これでひめかの三つ目のスキルが何なのか理解できた。彼女は自分自身の幻影を作り出せる。消えては現れる、そのパターンには何か特徴があった。


りんさんの方を見た。自分の直感を信じて。


「りんさん、もう一度!」


りんさんは迷わず矢を構え、右側へと放った。矢がひめかの腕をかすめる。今度は本物のひめかが驚いて後ろに飛び退いた。信じられないという表情で。


「どう……どうしてわたくしのスキルを見破れたのですの……?」


震える声で、ひめかが僕を見つめていた。彼女の顔にあった決意が、怒りと困惑に変わっていく。


「竜也! やりなさい!」


その瞬間、竜也さんが倒れているアヤさんに向かって走り出した。電気の剣を使ってアヤさんを攻撃しようとしている。


でも、エリザさんはすでに準備していた。彼女の二つ目のスキルを使うために。


このスキルは攻撃系じゃない――領域系だ。一定の範囲内で、相手のスキルを一時的に無効化する不可視の空間を作り出す。


その隙に、エリザさんは防御に専念でき、僕とりんさんが弓で狙いをつけられる状態で……アヤさんを救出することができた。


りんさんと僕が矢を放つ。竜也さんの電気の剣が消える。矢が彼の肩と脚に突き刺さった。エリザさんが走ってアヤさんを連れて戻ってくる。誰も止められない。


アヤさんが僕たちの側に戻ってきた。もう恐れることはない。


竜也さんが眼鏡を直して言った。


「なるほど……面白い戦略だな」


ひめかが竜也さんに近づく。


「これは全部わたくしに任せてくださいな」


「……ふざけるな、ひめか。これは全員でのバトルだ」


「わたくしが一人で戦うと言っているのですわ!」


竜也さんはひめかの要求に不満そうだったが、倒れているマウロさんのところまで歩いて行き、彼を拾い上げてバトルから離れていった。


なぜひめかは一人で戦いたがるんだろう?


全員が僕の味方にいる。有利な状況だ。それなのに、なぜこんなことを?


だんだんと、ひめかのことが分からなくなってくる。まるで、僕が覚えているひめかは……もういなくなってしまったみたいだ。


糸で作った弓を構えた。同時に、糸で鎖も作り出す。糸でりんさんやアヤさんのスキルを再現できる。そして、最後に一つだけ試したいことがあった。彼女のスキル、特にあの幻影がどう機能しているのか確かめるために。


矢を放った。予想通り、ひめかに命中した。でも、また何事もなかったかのように現れた。


これで全ての点が繋がった。まず、ひめかはスキルを切り替えなければならない。三つのスキルを同時に維持することはできない。次に、彼女が作る幻影は一つだけ――それは彼女がダメージを受けないことを保証するバリアのようなもの。でも、それは一度だけ。連続で何度も攻撃されれば話は変わる。


彼女はそのリスクを理解しているはずなのに、それでも一人で戦おうとしている。


ひめかの覚悟を見て、色々な感情が湧き上がってきた。


「りんさん、僕一人でひめかと戦わせてください」


「え? 本気?」


「はい」


数歩前に出て、ひめかと一対一で向き合った。


彼女の視線が鋭くなる。怒り、憎しみ、恨み――そういったものが僕に向けられている。そう感じた。


その表情を見るのが辛かった。だって、彼女はかつて僕の幼馴染だったから……


「ひめか、君の能力を完全に理解しているとは言わない。でも、何もしないつもりはないよ。以前似たようなものと戦ったことがある。それが君の動きを読む助けになった」


思ったより冷静な返答だった。でも、それがひめかをさらに怒らせたようだ。


ひめかは叫び声をあげ、鞭が彼女の手に再び現れた。でも今回は、攻撃に精度がない。空を打っているだけで、方向性も戦略もない。まるで感情に飲み込まれてしまったかのように。


攻撃を避けながら気づいた。パターンがとても予測しやすい。


彼女はいつもこんなに弱かったっけ?


糸を動かして、ひめかの手を捕らえて動けなくした。


これが彼女を激昂させた。


「あんたなんて何も持つ資格なんてないのよ! 守られたいだけの弱虫だったくせに、ただのクズですわ!」


言葉は強烈だった。でも、だんだんと心に響かなくなってきた。


なぜなら、こんなに必死に、こんなに弱々しく僕を傷つけようとする彼女を見ていると――もしかしたら、一番傷ついているのは彼女自身なのかもしれないと感じたから。


ひめかが糸から抜け出して攻撃してくる。でも、鞭の一撃を受けても、あまり痛くない。まるで、最後の瞬間に手加減したかのように。


その時、遠くから竜也さんが何かを準備しているのに気づいた。彼のスキルで――奇妙な光線が僕の方向に放たれた。


でも、その瞬間。


「アレン、危ない!」


りんさんの声が響いた。


矢が僕の横をかすめて飛んでいき、竜也さんが放ったものに衝突した。何が起きたのか理解できなかった。


りんさんとエリザさんが竜也さんとアルさんの方へ向かっていくのが見えた。彼らと戦うために離れていく。


視線を前に戻すと――ひめかはもう立っていなかった。


ほとんど地面に倒れかけていて、りんさんの矢が彼女の脚に刺さっているのが見えた。


「そ、そんな……」


ひめかの様子がおかしい。脚に刺さった矢を見つめている。貫通はしていないし、明確な身体的痛みもないように見える。でも、彼女の顔が変わった。目が絶望で満たされ、呼吸が乱れている。


「ひめか……?」


矢を掴んで引き抜き、再び立ち上がった。


「……アレン、あんたを倒してみせますわ……あんたに友達なんているはずがないのよ」


その言葉に、腹が立った。


「君に僕の友達が誰なのか決める権利があるのか?」


「黙りなさい! あんたはわたくしの言うことを聞いていればよかったのよ、いつもそうしていたじゃない」


過去のことを話すひめかに、違和感を覚えた。


こんなに壊れている彼女を見て、伝えたいことがあった。今がその時だ。


「ひめか、ずっと君に言いたいことがあったんだ」


「黙りなさい! 聞きたくありませんわ!」


「お願いだから……今回だけでも聞いてほしい!」


「嫌ですわ!」


「あの事故の後、あの日に起きたことについてなんだ」


「黙れと言っているでしょう!」


「……君を病院に見舞いに行こうとした日のこと――」


「やめて!!」


ひめかが両手で耳を塞いだ。


不思議なほど取り乱している。なぜそんなに聞くのを拒むんだろう?


* * *


あの日のことを思い出した。


アレンと初めて出会った日――わたくしにとって、彼は初めての幼馴染だった。あの頃、家族のことで色々なことが起きていて……わたくしが一番必要としていた時、一番必要としていた場所で、彼は現れてくれた。アレンはわたくしの人生において、とても大きな変化だったと思う。


でも――あの事故が起きた日。


彼はただ怯えて、逃げていった。地面に倒れて、足の痛みに苦しんでいるわたくしを置いて。


あの瞬間から、ずっと思っていた。アレンはわたくしを見捨てたのだと。


だから、彼がわたくしを訪ねてくると聞かされた日、感じたのはただ一つ――強い怒りと、彼を責めたいという衝動だけだった。会いたくない。話したくもない。もし彼があんなことをしなければ、わたくしは走り出すこともなかったし、あんな事故にも遭わなかったはずなのに。


目の前に立っているアレンを見て、次々と記憶が蘇ってきた。


わたくしが覚えているアレンは、小さくて、色々なものを怖がっていて……わたくしが守ってあげられると思っていた。彼との間には、強い繋がりがあると感じていた。


でも、今目の前にいるアレンは違う。背は高くなって、態度も変わっている。少なくとも、そう見える。


「ひめか! あの日、病院で言えなかったことがあるんだ。ずっと乗り越えようとしてきたけど、これが僕の中に引っかかってて」


聞きたくない。知りたくもない。今更言って、何の意味があるというの?


首を振って、両手で耳を塞ごうとした。でも、彼の声は思ったより強くて、どんなに耳を塞いでも、はっきりと聞こえてきてしまう。


「お願いだから、避けないで。これだけは言わせてくれ」


聞きたくない。あの言葉だけは聞きたくない。だって、もしそれを聞いてしまったら……全てが終わってしまうから。


「ひめか、申し訳ありません! 僕が君にしたこと、本当にごめん! もし僕を、君の人生を僕した犯人だと思いたいなら、それでもいい。でも――」


「黙りなさい! 聞きたくありませんわ! 知りたくもありませんわ!」


どうして言ってしまったの? 聞きたくなかった。彼にそんなこと言ってほしくなかった。だって……事故は、彼のせいなんかじゃないのに。


アレンは一体、何を考えているの?


* * *


ひめかを見つめた。


腕の力が抜けて、だらりと体の横に落ちる。まるで全ての力が失われたかのように。


「ひめか……言わなきゃいけなかったんだ」


声が震えているのが自分でも分かった。


「あの日から、ずっと君は僕の影だった。乗り越えなきゃいけなかった。置いていかなきゃいけなかったんだ……たとえ、辛くても」


ようやく言えた。何年も胸の中に溜め込んでいたものが、やっと口から出た。


「そうしなきゃいけなかったのは……ずっと君に憧れてたから。強くて、頭が良くて、あんなに意志が固い。昔も、今も……そんな君を、ずっと尊敬してたんだ」


彼女の方を向いた。


その瞬間、胸が締め付けられた。


ひめかの表情――まるで全てを失ったような顔をしていた。


どうして?どうしてそんな顔をするんだ?


何が彼女をこんなに打ちのめしているんだろう。


ひめかに何が起きている?何を考えているんだ?


どうして僕の言葉が、こんなにも彼女を苦しめているんだろう?


その答えが、分からなかった。


* * *


喉に何かが詰まったような感覚がした。


謝らないで。お願い。謝らないで欲しいの。


どうして……どうしてアレンが謝るのかしら?わたくしたちは幼馴染でしょう?ずっとそうだったじゃない。謝る必要なんてないわ。


それに、アレンが言った言葉——わたくしのことを「ずっと憧れていた」ですって?強い?決断力がある?


違うわ。わたくしはそんなものじゃない。


アレン、あんたはわたくしのことを一体どう見ているのかしら?


……でも、こんなことを考えているわたくしの方が悪者みたいじゃない。


ふと、スキルが解除される感覚が体を通り抜けた。


もう続けたくない。このバトル、終わらせたい。こんな馬鹿げた戦いなんて。


アレンはわたくしを憎んでなんかいない。アレンはやっぱりアレンのままだった。


……そうよね?


「でも聞いてくれ、ひめか……もっと大事なことがあるんだ。それを君に伝えたい」


「……何?」


アレンの表情を見た瞬間、息が止まった。


あんな表情、初めて見たわ。あの瞳に宿っているのは——強い決意。


いいえ、それだけじゃない。もっと別の何かが混ざっている。


それは——哀れみ?


嫌。


その目、嫌。


どうしてそんな目でわたくしを見るの?


何なのよ、その目は?


違う、違うわ!そんな目で見ないで!


わたくしは——そんな風に見られたくない!


* * *


ひめかと再び向き合う時が来た。


彼女を見つめると、分かってしまう。幼馴染だった頃のひめかは、もういない。性格や態度は確かに同じように見える。でも、僕と彼女の関係に関しては——


「ひめか、僕がこのアカデミーに来てからまだ短い時間だけど、今まで経験したことがないくらい成長できた気がする。自分では絶対に超えられないと思っていた大きな壁を、新しい友達の助けで乗り越えることができたんだ」


そう、ここで新しい力を見つけられた。今の僕には、りんさん、アヤさん、エリザさん、かんなさんがいる。


今しかない。言わなければ。勝つためじゃない。自由になるために。


「アレン、何も言わなくてもよろしいので、ね〜?」


彼女がそんな風に言ったのは不思議だった。あのトーンは、まるで聞きたくないと言っているようだ。でも、言わなければならない。そうすることで、ようやく全てが終わる。彼女にとっても。


「ひめか、全てを終わらせよう……」


* * *


終わらせる? 何を言っているのかしら、この人は。わたくしに、いつ止めるべきかなど指図する権利はないはずですわ!


「終わりになどしませんわ! アレン、あんたがしたことの代償は、まだ始まったばかりなのですから!」


あら……? 今、わたくし、何を……?


違う。そんなことを言うつもりじゃなかったのに……。


でも……アレンの表情を見た瞬間、また胸の中に憎しみが湧き上がってくるのを感じてしまう。


……いえ、本気で憎んでいるわけではないのだけれど……。


「アレン、大人しく降参なさい。そうすれば、わたくしも慈悲深く接して差し上げますわ……」


そう! これでいいの! 怒りの方が楽ですもの。怒りがあれば、わたくしは強くいられる――。


* * *


ひめかの声が震えているのが分かった。


「もう君とは戦わない、ひめか。君のことを憎んでなんかいない」


息を吸う。


本当のことを言わなきゃ。ずっと分かっていたことを。


自分の恐怖は、実は歪んでいたんだ。女性が怖いんじゃない。すべての女性の中に、ひめかを見ていた。それが本当の恐怖だった。今ならもっとよく理解できる。本当に恐れていたのは、ひめかが引き金を引いたからだって。


「ごめん。君に起きたこと、本当にごめん。でも……この数年間、僕を縛りつけていたのは君の傷じゃなかった。たった一人の友達を、幼馴染を傷つけてしまったことだったんだ」


ひめかが凍りついた。


唇が震えているのが見えた。僕の言葉を受けて。


* * *


……なに……何を言っているの?


幼馴染……彼は今……「幼馴染」って……


違う。違う、違う、違う。


彼はわたくしを憎んでいるはず。怖がっているはず。そうでなければ、こんなこと……意味が分からないわ!


「黙れ! わたくしのことを友達なんて呼ぶな! お前がしたことの後で、お前なんて最初から友達じゃなかった!」


……どうして、こんなことを言ってしまったのかしら?


どうしてまだ、彼のせいにしようとしているの?


どうして……こんな言葉を口にしているの?


まるで、アレンよりも……わたくし自身の方が傷ついているみたいじゃない。


胸が……痛い。


どうして、こんなに痛いの?


視界が、ぼやけていく。


気がつけば、何か熱いものが目尻から滑り落ちていた。


……どうして?


一瞬、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


彼は、わたくしの幼馴染だった、あの少年と同じ人なのに……


それなのに、どうしてこんなに苦しいのかしら?


もしかして、わたくしは……


* * *


ひめかの瞳に涙が浮かんでいるのが見えた。


ああ、そうか……ずっとそこにあったんだな。


「君の言う通りだ。もう違う」


これが一番伝えにくいことだった。でも、今の僕が感じていることを、ひめかに言わなければならない。


「僕の友達だったひめか……一緒に笑って、体操選手になる夢を語り合っていたあの子は……あの事故で失われてしまった。そして僕は、ずっとその子のことを悼んできたんだ」


両手を強く握りしめた。


もしひめかの言葉が本当なら――もう僕のことを何とも思っていなくて、ただ憎しみをぶつける対象としか見ていないのなら――それなら、僕にもこの時間で決めた答えがある。新しい友達と出会って、気づいたことがあるんだ。


「でも……今ここにいる君は、憎しみに満ちて、僕を壊そうとしている。そんな君を、ひめか……もう友達だとは思えない」


すまない、ひめか。


でも、これが僕の出した結論だ。もう君を友達として見ることはできない。君は僕を憎んでいる。それしか考えていない。その憎しみを受け止めることはできるけど――それは君から離れることで、二度と君を煩わせないようにすることだ。


もう、お互いに別れを告げるしかないんだ。


* * *


彼が……もう……わたくしを……拒絶している?


いいえ。彼にそんなことができるはずがない。拒絶するのはわたくしの方ですわ!傷ついているのはわたくしですのよ!支配しているのはわたくしなのですから!


彼にそんなことを言う資格はないはずですわ。だって、だって……なぜかしら?


……どうして床が揺れているの?


あ―、わたくし……わたくしが震えているのですわ。


彼はもうわたくしを友達として見ていない。幼馴染としても見ていない。わたくしは……何でもない存在。


わたくしの復讐……わたくしの憎しみ……全ては彼にわたくしを見てもらうため。わたくしを無視できないようにするため。たとえ憎しみであっても、わたくしが彼の人生で一番大切な人間であり続けるため。


『もう友達だとは思えない』


あの言葉……どんな攻撃よりも痛いですわ。


わたくしという存在を……全て……引き裂いている。


わたくしの仮面が!憎しみにすがりつかなければ!それだけがわたくしに残されたものですもの!


「嘘ですわ!全て嘘!あんたはわたくしを憎んでいるはず!憎まなければならないのですわ!だって、わたくしは……!」


わたくしは……!


……何?


* * *


彼女は崩れ落ちそうだ。


ずっと――ひめかの影に怯えて生きてきた。でも、目の前にいるのは、ただ傷ついた一人の少女だけだった。


「どうして君が、ひめか?」


言ってくれ。頼む、二人のために――その言葉を口にしてくれ。


* * *


「だって、わたくしは……わたくしは……!」


言葉が出ない。喉に詰まった何かと、胸を引き裂くような痛み。どうして泣いているの?どうして震えが止まらないの?


彼はもう、わたくしを見ていない。

彼はもう、前に進んでしまった。

彼には新しい友達ができた。

彼はもう……わたくしのものじゃない。


でも、わたくしは……!わたくしは一度も……!


記憶が押し寄せてくる。あの事故の記憶ではない。全てが壊れる前の、晴れた日の記憶。アレンがわたくしに花を差し出してくれた。わたくしは笑った。心から、本当に幸せだった。


愛。


あの純粋で無垢な、子供の頃の愛。


消えたことなんて、一度もなかったのに。


失ったものを思い出すのがあまりにも苦しくて、何トンもの憎しみの下に埋めてしまっただけだったのに。


ずっと……ずっとそうだったのね!


わたくしは彼を壊したかったわけじゃない……もう一度、昔みたいにわたくしを見てほしかっただけ!この悪夢から救い出してほしかっただけ!わたくしが変わり果ててしまったこの悪夢から!


でも、もう遅い!


わたくしがあまりにも多くの憎しみを彼にぶつけたから、彼の中に残っていた最後の優しさまで殺してしまった!


違う、違う、違う!そんなの望んでいない!失いたくない!アレンを失いたくない!


「……だって、わたくしはまだ……!」


叫びが嗚咽に変わる。


「……まだ、あなたがいなくて寂しいのよ、馬鹿……!」


囁きは途切れ途切れに、敗北した告白として零れ落ちる。


終わった。


全てを失った。


夢も、幼馴染も、生きる理由も……全て。


「復讐に燃える被害者」としての自分が崩れ落ちていく。観客であるアレンがもう信じていないと気づいた瞬間、わたくしの演技は意味を失った。


彼がもうわたくしを友達として見ていないなら、この役割に何の意味があるというの?


愛と憎しみの間で引き裂かれていた心が、ついに決壊した。抑え込んでいた愛が勝ったけれど、それはあまりにも虚しい勝利。


まだ彼を想っていると認めることは、完全な降伏を意味する。


この数年間の全ての行動が、自分の痛みと渇望を隠すための偽りだったと認めることになるから。


わたくしの最大の恐怖が現実になった。


アレンは今、わたくしを「憎しみに満ちた他人」として見ている。かつての「幼馴染」としてではなく。


これでわたくしには何も残らない。


アイデンティティも、「わたくし」という存在も、何も……。


* * *


彼女をこんな風に見て、罪悪感が胸を刺した。


ひめかさんは、そのまま地面に崩れ落ちた。泣き続けている。これは今まで対峙してきた冷徹で計算高い人物じゃない。全く別の誰かだった。彼女の顔に浮かぶ絶望と苦痛は本物で、目を逸らすことができなかった。


一体何が起きている?なぜ彼女はこんなに苦しんでいる?何か企んでいるのか?演技なのか?


混乱していた。彼女は僕を憎んでいるはずじゃなかったのか?なのに、どうして今、こんな姿を――


「お願いアレン、もう一度わたくしを独りにしないで!」


……理解できなかった。今、彼女をこうして見ている自分の感情を処理できなかった。そして気づけば、彼女に向かって歩き出していた。


体の内側で何かが命令を拒んでいた。危険だと分かっていても、一歩前に踏み出していた。そしてもう一歩。


もう、僕たちを倒そうとした敵は見えていなかった。ただ、ひめかだけが見えた。かつて人生の一部だった幼馴染が。


彼女の顔には何かがあった。引き返すことを不可能にする何かが。これまで起きたことすべてにもかかわらず、あの状態の彼女を見て、無視できない感情が目覚めた。


もし彼女も何かを背負っているとしたら?もし彼女の冷たさや攻撃の裏に、僕と同じように彼女を蝕んでいる何かがあるとしたら?


十分近づいた時、ひめかさんが顔を上げて僕を見た。その瞳は悲しみと混乱で満ちていた。以前の敵意の欠片もなかった。


「アレン、助け――」


彼女は言葉を終えることができなかった。


巨大な水晶の槍が空から降り、彼女を完全に貫いた。


金属的な声が即座に響き渡り、その瞬間を遮った。


「ウィナー:Fクラス」


デジタルフィールドが消え始め、現実の環境に置き換わっていく。


バトルは終わったのに、何も理解できなかった。何が起きたのか、ひめかさんが何を言おうとしていたのか。ただ麻痺したように、彼女の友人たちが彼女を立ち上がらせるのを見ているだけだった。


一体何だったんだ?あれは何だ?何も分からない……


「アレンくん」


りんさん、アヤさん、エリザさん、そしてかんなさんが僕の側に近づいてきた。


その時、気づいた。ひめかさんの友人たちの中で、アルという名前の女子が、ぞっとするような笑みを浮かべていた。彼女だけがひめかさんのから離れていた。


何かが起きた。理解することはできなかった。


でも、アルさんを見て、はっきりと分かった。彼女が何かをして、このバトルを終わらせたんだ。

次回――


クラスが変わり、環境が変わり、

それでも人の内側までは簡単に変わらない。


新しく加わる存在。

それぞれが抱える事情と、沈黙の裏にある視線。


何気ない教室の空気の中で、

少しずつ“違和感”が形を持ち始める。


それはまだ小さな波紋。

だがやがて、確実に何かを揺るがしていく――。


次回も、ぜひ見届けてください。

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