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運命の対決

過去と向き合うことは、前に進むための一歩でもあり、

同時に心を深く抉る行為でもある。


逃げてきた記憶、抑え込んできた感情。

それでもアレンは、再び“あの日”と向き合うことを選ぶ。


これは、強さではなく――

弱さを抱えたまま進もうとする物語。

守さんが言ったことを、まだ頭の中で整理できずにいた。どうすればいいのか、全く分からなかった。


アヤさんが懐疑的な表情を浮かべ、守さんに詰め寄る。


「はあ?正気?アレンが一人であいつと戦うなんて無理に決まってるでしょ」


でも守さんは自分の計画に確信を持っているようで、その自信そのままに答えた。


「だからこそ、一人じゃねーんだよ」


思考が渦巻いた。あの苦しみの年月、自分を蝕んだ恐怖、そしてこのアカデミーに入学した時に誓った約束を思い出した。目を閉じ、拳を握りしめ、決断を下した。


「守さん……僕は……やります!ひめかと戦います!」


アヤさんは驚きと誇らしさが混じった表情で僕を見つめた。守さんは満足そうに微笑んだ。朋也さんはただ黙って見ているだけだった。


守さんは今度は何かを自慢するかのように笑みを浮かべて言った。


「よし、じゃあひめかを誘き出す俺の作戦を教えてやるよ」


守さんはアヤさんを見て、次に朋也さんを見て、それから少し考えてから言った。


「アレン、お前にはひめかと戦うためにもっと仲間が必要だ」


「え?どういうことですか?」


「あいつにはいつも三人の親友が側にいる。あいつの友達も噂と関係があるのは間違いねー。お前が必要なのは噂を止めることだろ?ひめかだけが問題じゃねーんだよ、あいつの友達もそうなんだ」


考え込んでしまった。噂のことではなく、ひめかに……友達がいるという事実について。この間ずっと、彼女はあの頃のように一人のままだと思っていた。でも今、彼女にも友達がいると知った。僕が彼女のために占めていた場所は、もう失われてしまったようだ……それが何だ?どうでもいいじゃないか。ひめかは僕を苦しめたいだけなんだ……彼女に新しい友達ができたからって、何だというんだ……


「アレン、何かあった?」


アヤさんが僕の様子に気づいたようだが、首を横に振った。今はこんなことを考えている場合じゃない。もし仲間がもっと必要なら、僕にはいる。


「守さん、もっと仲間が必要なら、僕にはいます。助けてくれる人たちがいます」


「それはいいな」


そうだ。今はりんさん、アヤさん、エリザさん、そしてかんなさんの支えがある。一人じゃない。この恐怖と向き合う時が来たんだ。彼女たちが示してくれた勇気、それが僕に必要な力をくれた。偶然だろうが何だろうが、ひめかがこのアカデミーにいることはもう関係ない。大切なのは、胸に刺さったこの棘に終止符を打つことだ。何年も前から刺さったままのこの棘を抜かなければならない。ひめかという名前をつけたあの痛みを、過去に置いていかなければならない。


守さんがまた口を開いた。


「アカデミーの裏手にあいつらを呼び出す口実を作る。そこでアレンとお前の仲間が待ち伏せして、来たら戦えばいい。この作戦どうだ?」


この計画を受け入れる覚悟はできている。アヤさんが拳を握りしめて言った。


「最高じゃない!そのひめかとかいう奴に思いっきり一発食らわせてやるわ。顔に刻み込んでやる」


ずっと黙っていた朋也さんが再び口を開いた。


「みんな、ちょっとした詳細を忘れてないか?」


守さんが眉を上げ、考え込んだ。


「んー、何を忘れてる?」


「そのバトルには審判が必要だし、それに勝ったら約束を守らせる必要があるだろ。噂を止めさせるって確実にしないと」


「心配しすぎだよ朋也、俺が審判やってやるよ!」


どうやら守さんはかなり本気で、自ら審判を務めるつもりらしい。そして朋也さんの言うことは正しい。彼女が約束を守ると保証する何かが必要だ。何か特別なルールとか?


「守さん、デジタルバトルシステムに、彼女が噂を止めると保証できる特別なルールはありますか?」


「いや、そんなルールはねーけど、プレッシャーをかけることはできる」


守さんが何を企んでいるのか分からなかったが、その目には何か厄介なことを考えているような光があった。


朋也さんが突然言った。


「もし負けたらどうするんだ、アレンさん?」


誰も答えなかった。僕はそんな選択肢すら考えたくなかった。負けるなんて、選択肢にはない。築き上げた友情が僕の最大の力で、一緒なら何が来ても立ち向かえる。


今、最初の一歩を踏み出した。ひめかとその友達との戦いが、いよいよ始まる。


細かいことを話し合った後、今日の演劇部の部活動は終わった。アヤさんは他のみんなにも守さんと話したことを伝えると言っていた。


寮に戻って自分の部屋に入ると、手が震え続けていた。ひめかのことを考えるだけで、こうなってしまう。それに不安が僕を蝕んでいた。もうこんなネガティブな考えを持つべきじゃない。前に進むべきだと分かっている。でも、ひめかのことになると、こういう反応を抑えられない。彼女は僕にとって怪物になってしまった。恐怖と畏れだけをもたらす存在に。そして今、現在の彼女がどんな人なのかを知るにつれて、心の中で何かが動き始めている。特に、彼女に友達がいると聞いた時。


時間が経てば誰だって新しい友情を築く。色々な理由で古い友情を置き去りにすることもある。でも僕の場合……ひめかに友達がいるということは、僕がもう彼女にとって大切な存在ではなくなり、あの日の出来事の犯人としか見られていないような気がした……


彼女はただ新体操選手になりたかっただけなのに、あの事故のせいで、僕が知る限りでは、もう二度とそれができなくなってしまった。母さんがそう話してくれた。それがひめかについて最後に聞いたことだった。


あの日のことは、僕の責任だ。もし本当にひめかともう一度話せるなら、伝えたいことがある。あの時言えなかったこと。今、伝えたい。あの「ごめんなさい」を。彼女がこの噂を広めている理由は、きっと復讐したいからだ。結局、僕が悪いんだから……


そんな考えに囚われたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。


* * *


今日は何か違う日な気がした。


空を見上げる。雲がちらほらと浮かんでいる。まだ朝早くて暗いから、ほとんど見分けがつかなかった。


教室に着くと、みんながもう揃っていた。僕を待っていたんだ。ひめかのこと、そして今日起こることについて話すために。守さんが、みんなで一緒にひめかと対峙する時を教えてくれるという。


緊張で汗が止まらない。でも、りんさん、アヤさん、エリザさん、かんなさんが、その緊張を和らげようとしてくれていた。


一日が進むにつれて、緊張は増すばかりだった。いつ守さんが来て「もう時間だ」と言うのか――でも、昼を過ぎても彼は現れなかった。


緊張は少し和らいだ。けれど、すぐに気づいた。ひめかとのバトルは、授業が終わってからになるんだろうと。そして再び、緊張が僕を飲み込んでいく。


秒が進むごとに、ひめかに再び会う瞬間が近づいてくる。


分が進むごとに、ひめかと対峙しなければならない瞬間が近づいてくる。


時間が進むごとに、何年も前のように、ひめかと向き合う瞬間が近づいてくる。


ついに、最後の授業が終わった。みんな教室に残って、守さんが来るのを待った。そして、それほど時間がかからずに、彼が現れた。


「時間だ」


僕たちは、アカデミーの裏手へ向かった。人の気配はない。木が何本かあるだけの、広い空間が広がる寂しい場所だった。


守さんがひめかを連れにいく前に、僕にこう言った。


「もし何かあったら、プランBがある」


「プランB?」


「ああ。もしお前が負けたら、俺が奴らを止める。その間にお前は女子たちと逃げて、生徒会長に知らせろ。昨日、会議の後で会長と話をつけた。何かあったら、俺が負けたって伝えてくれ」


一瞬、守さんがどこまで本気なのか疑問に思った。これは彼の戦いじゃないのに。でも、その決意が、僕に少しだけ勇気をくれた。


守さんが行ってからわずかな時間待っていると、遠くから声が聞こえてきた。


「こんな場所まで来させるなんて、どういうつもりですの、守さん」


その声――呼吸が速くなるのを感じた。記憶とは少し違う。でも、その声の重みは感じ取れた。


次に、明るく元気な女子の声が割り込んできた。


「まあまあ、ひめかちゃん。それより、あたしたちに何か用意してくれたって子たちはどこかなぁ?」


さらに、落ち着いているけれど疑い深い口調の声が続いた。


「アル、守さんが何か企んでるのが見えないのか?」


怒った男子の声が響く。


「竜也はいつも疑ってばっかだな!」


そして、また聞こえた。あの声。間違いなくひめかだ。


「マウロ、うるさいですわ。声を下げなさいって何度言えばわかるんですの?」


ついに、彼らが姿を現した。僕たちの前に立つ。


そこに――ひめかがいた。


女子たちの後ろに隠れていたけれど、見えた。ひめかが、僕の前に立っている。


長い金髪。宝石のように青い瞳。自然な美しさ。子供の頃の記憶とは違う。成長している。でも、その本質は変わらない。彼女だ。


胸の中で色々な感情が渦巻いて、彼女から目が離せなかった。


「あの子たち、誰?」


ツインテールの、アイドルみたいな魅力のある女子――アルさん、だろう――が言った。


守さんは、自分の意図を隠すつもりはなかった。


「悪いな、アル。今回は竜也が正しい。嘘ついた。プレゼントを受け取るためにここにいるんじゃない」


アルさんは、とてもがっかりした様子だった。


赤毛で威圧的な目つきだけど笑顔の男子が言った。


「くそっ、竜也が初めて正しかったじゃねえか!」


「うるさい!黙れ、マウロ!」


眼鏡をかけた落ち着いた男子――竜也さん――が答えた。


ひめかが、僕が女子たちの後ろに隠れていることに気づいたようだった。でも、まだ僕だとはわかっていない。


「あなたたちの後ろに誰かいますの?」


りんさん、アヤさん、エリザさん、かんなさんが、戦闘態勢に入った。


その反応を見て、ひめかが言った。


「落ち着いてくださいな。あなたたちが誰で、なぜここにいるのかわかりませんけれど、せめて教えていただけますか?」


誰も何も言わない。ただ、ひめかへの不満を示すだけだった。


僕は隠れているしかなかった。何年も聞いていなかった声を聞いていた。少し違う。でも、彼女だ。


拳を強く握りしめた。震えていた。もう隠れているわけにはいかないとわかっていた。こんなことを続けられない。


ひめかと向き合うのは、彼女たちの役目じゃない。それは、僕だけがしなければならないことだ。


ゆっくりと、彼女たちの後ろから動いた。ひめかに姿を見せる。視線は地面に固定したまま。顔を上げられるかどうかわからなかった。


でも、もう彼女の前にいる。少し距離はあるけれど。


少しずつ、視線を上げていく。そして、久しぶりに、ひめかを間近で見た。


彼女は驚いているようだった。でも、その視線には憎しみも見えた。拳を握りしめて、言った。


「まあ、また会えるなんて驚きですわね……アレン。どれくらい経ちましたかしら?九年、でしょうか?」


一瞬、記憶に引き込まれそうになった。でも、彼女の声がその思考を断ち切った。


「相変わらずのようですわね。いつも他人の後ろに隠れて、自分では何もできない」


そのコメントは、ナイフのように突き刺さった。そして、彼女は言った。血が凍るような真実を。


「一度では足りなかったのかしら?あなたが何を引き起こしたか、覚えていますの?」


視線を逸らそうとしたけれど、できなかった。彼女の声は、僕の人生で最悪の瞬間のこだまだった。


足が震えている。手も同じだ。汗が止まらない。


「あなたのせいで、わたくしの太ももには消えない傷が残っていますのよ……あなたの呪われた痕が」


喉が閉まっていくような感覚だった。何年も埋めてきた恐怖と罪悪感が、僕を飲み込もうとしている。


でも、何か言おうとする前に、またアヤさんが僕を救ってくれた。素早い動きで、ひめかの頬を平手打ちした。


その音が空気に響き渡り、みんなが黙り込んだ。


「どうして……!?」


ひめかが頬に手を当てた。


アヤさんは引き下がらなかった。


「あんたこそ、どうして変えられないことで彼を苦しめ続けるわけ?」


その勇気が、僕に必要な勇気をくれた。拳を握りしめ、ひめかの目をまっすぐに見た。


今こそ、彼女と向き合う時だ。自分の過去と向き合う時だ。


守さんが前に出て、不必要な緊張が制御不能になる前に手を上げた。


「落ち着け、二人とも。バトルで決着つけるってのはどうだ?」


ひめかは嘲笑するように言った。


「ふん。それで何が得られますの?そもそも、あなたがわたくしたちをここに連れてきた理由は何ですの?」


アヤさんが黙っていなかった。ひめかに向かって言った。


「はあ?今さらとぼけるの?あんたがここにいるのは、アレンについての噂を流した責任者だからでしょ」


ひめかは怒った目でアヤさんを見た。ひめかの後ろから、竜也さんが近づいてきた。


「みんな落ち着こう。守さん、どういうつもりでひめかを責めてるんだ?」


守さんは肩をすくめ、皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「ひめかだけじゃないさ。お前らも関わってるだろ?」


竜也さんは何も言わなかったけれど、守さんを見つめる視線には緊張があった。


マウロさんが、まるで叫んでいるような声で言った。


「証拠なんかねえだろ、守!だから俺たちは帰るぜ!」


マウロさんが去ろうとしたけれど、守さんが言った。


「俺がお前なら帰らねえな。証拠が欲しいって?あるに決まってんだろ」


守さんは歯の間で微笑む。


「ただの筋肉馬鹿じゃなくて、Aクラスにいるんだから頭使えよ。俺は証拠がなきゃこんな計画立てるわけねえだろ」


マウロさんは振り返り、とても怒った目で守さんを見た。緊張は高まるばかりだった。


その緊張が、アルさんの声で中断された。


「みんな!やめて。きっと誤解だよぉ、ねえ?」


みんなアルさんを完全に無視した。空気はさらに張り詰めていた。


竜也さんが眼鏡を直し、分析的な表情で守さんを観察した。リラックスしているけれど計算高い姿勢は、彼が軽率な決断をしないことを示していた。


「仮にこのバトルを受けるとして、俺たちに何の得がある?」


守さんは冷静さを保った。


「勝ったら、俺たちのポイントの70%を持っていける。俺のも含めてな」


緊張した沈黙が広がった。竜也さんが言葉を吟味しているようだった。


彼が答える前に、アヤさんの平手打ちで赤くなった頬に手を当てたひめかが、冷たい口調で割り込んだ。


「それだけでは……足りませんわね」


彼女の視線は、恨みに満ちてアヤさんに向けられた。それから、りんさん、エリザさん、そして最後にかんなさんを見た。彼女たちを見る目には、様々な感情が込められていた。


「教えていただけますか?あなたたちは誰ですの?」


みんながひめかとその友達に自己紹介した。


彼女たちから視線を離さずに、ひめかが言った。


「つまり、あなたたちは全員Fクラスですのね……」


アヤさんが対峙する。


「それが何?Fクラスだからって、わたしたちは自分で決めてこのクラスに残ったの。みんな良い友達だから!」


「ふふっ!良い友達、ですって?馬鹿らしい。あなたたちは、あそこにいる愚か者に騙されているだけですわ。アレンなんて、一人では何も立ち向かえない哀れな存在。昔も今も。見てごらんなさい。クラスメイトを連れてきて、代わりに話してもらっている。あまりにも情けないことですわ」


アヤさんがとても怒って、拳を上げようとしたけれど、守さんが止めるように言った時に手を止めた。その代わりに、大きな声で自分の気持ちを明確にした。


「いい?聞きなさいよ、クソお嬢様。アレンはそんなんじゃない。あんたには、彼があんたのせいでどれだけ苦しんだかわからないの。それがどういうことか、わかってるの?」


ひめかは何も言わなかったけれど、まだ怒っていた。


「あなたたちはアレンの隣にいる価値なんてありませんわ……彼はただの虫、クズ、何の価値もない。いつも他人に頼って生きていく――」


「だから何?」


「……!」


「言ってるのよ、だから何ってね。わたしたちとアレンの関係は、わたしたち自身が決めたこと。あんたに何の権利があって決めるわけ?知りもしないことについて、馬鹿なことばっかり言って」


「黙りなさい!」


「それで、アレンの幼馴染だったって言うの?ただのわがままな子供じゃない。ずっと昔に起こったこと、しかもアレンに責任のないことで、こんなに馬鹿なことばかりして」


「黙れと言っています!」


今度は、ひめかがアヤさんの言葉に追い詰められているようだった。そして、考えを変えたようだ。


「わかりましたわ。認めます。あの噂を流したのは、わたくしですわ」


竜也さんが動揺した。


「ひめか!」


「いいのよ、竜也。どうせ彼らは本気なんですもの。あの軟弱者のために、これだけのことをしているんですから」


「ひめか……?」


「バトル、受けますわ。でも、それだけでは足りませんわね。もしわたくしたちが勝ったら、ポイントだけじゃなく、あなたたちにはあの愚か者から離れてもらいますわ。全員、彼との関係を断つこと。それがわたくしの特別な条件ですわ」


アヤさんが怒って反論した。


「はあ?さっきも言ったけど、わたしたちの関係を決めるのはあんたじゃないってば」


「ではバトルはありませんわね」


「じゃあ、わたしたちはあんたたちが責任者だってバラすから」


「んん……」


バトルの交渉はとても混沌としていた。でも、僕の立場を明確にしなければならなかった。


息を吸い込んで、もう一歩前に出た。できるだけ大きな声で話そうとした。


「あ、あの、わ、わかった!その条件、受け入れる!」


僕がその条件を受け入れると言った時、みんな驚いた。もちろん、アヤさん、りんさん、エリザさん、かんなさんは心配していた。


でも、僕は本気だった。負けないと確信していたから。


もう一歩、ひめかとアヤさんがいる方へ近づいた。そして、もう一歩。ついに、ひめかに言えるくらい近くに立った。


「……僕たちは……負けない!」


ひめかは怒っただけだった。でも、こんなに近くにいると、彼女が僕の存在を全く喜んでいないことがわかった。


「アレン。わたくしの人生に戻ってこなければよかったと、後悔させてあげますわ」


僕から視線を外さずに、彼女はスマホを取り出した。そして、一人ずつ、他のみんなも同じようにし始めた。


ひめかが僕を見て、それから他の女子たちに視線を移した。


「始める前に、誰が参加するか決めていただけますこと?わたくしたちは四人、あんたたちは五人。一人多い状態で戦うわけにはいきませんわ」


僕は振り返って全員を見た。誰が外れるかなんて、決められるわけがない。


僕も決められないし、女子たちも誰も手を挙げない。そんな沈黙を破ったのは、りんさんだった。


「じゃんけんで決めようよ!」


……これが最善の解決策なのか、それともりんさんがただ場の緊張を和らげようとしているだけなのか、僕には判断がつかなかった。


結局、バトルに参加できなくなったのは、かんなさんだった。


これで準備が整った。ひめか、竜也さん、マウロさん、アルさん――彼らと、僕、りんさん、アヤさん、エリザさんが戦うことになる。守さんが審判として、デジタルフィールドが僕たちの上空に展開され、仮想世界へと引き込まれていく。


緊張、恐怖、様々な負の感情が渦巻いている。ひめかがこんなに近くにいる。それだけで息が詰まりそうだ。


でも、今は正面から向き合わなければならない。


画面に表示された数字――510ポイント。


とんでもない量のポイントが賭けられている。


まさか自分がひめかの前に立って、彼女にバトルを挑むことになるなんて、信じられない。彼女や彼女の仲間たちがどんなスキルを持っているかも分からない。でも、躊躇してはいけない。もう弱い姿を見せたくない。ひめかの影に立ち続けて、ただ苦しめられるだけの自分でいたくない。


正直なところ、彼女が僕を見ても、ただ思っていることを口にしただけだったのは意外だった。想像していたよりも衝撃は少なかった。一瞬、ひめかが突然怪物に変わって、僕を一口で食べてしまうんじゃないかと想像したこともあったけれど――そんなことは起こらなかった。ひめかは、やっぱりひめかのままだ。


バトルが始まる直前、僕はあることを思いついた。


このバトルで……自分の気持ちを伝えられるかもしれない。


そう、必ずそうする。なぜなら、この仮想空間では――現実とは違うから。


彼女を見ると、背筋に奇妙な感覚が走った。吐き気すら感じる。でも、不思議なことに気づいた。何かが変わった気がする――彼女じゃない。僕自身が。

次回――


絡み合うのはスキルだけではない。

過去の痛み、誤解、そしてまだ言葉にできない本音。


アレンの前に立ちはだかるのは、

敵か、それとも“向き合うべき存在”か。


崩れかけた均衡の中で、

本当の戦いが静かに始まろうとしている――。


次回も、ぜひ見届けてください。

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