迫りくる過去
逃げ続けてきた名前が、
ついに目の前に現れる。
過去は終わったはずだった。
そう思い込むことで、心は保たれていた。
けれど――再会は、傷を“思い出”にはしてくれない。
これは戦いの始まりではない。
向き合うことを選んだ、ひとつの決意の物語だ。
中間試験が終わり、今日からアカデミーでは通常の活動が再開された。成績が最悪にならないことには自信がある。問題は来週に起こるかもしれないこと……Fクラスに新しい仲間が来るのだろうか?それが本当の謎だった。
一日は静かに過ぎていった。昨日聞いた噂は、ただの噂だったようだ。今日は似たようなことを何も聞かなかった。アヤさんが心配だと言っていたのは、大げさだったのかもしれない。
アヤさんが近づいてきて、一緒に演劇部へ行こうと誘ってくれた。廊下を歩いていると、二人の女子がいた。彼女たちは僕を見るなり、何かをひそひそと囁き始めた。何を言っているのかは聞き取れなかったが、明らかに僕のことを見ながら囁いている。アヤさんはまた例の噂のことだと察したようで、その生徒たちに対して敵対的になった。
「おい!何をこそこそ言ってんだ!」
二人はアヤさんを見て怯えた顔で何も言わずに去っていった。彼女はこういう時、本当に頼もしい友達だ。
ようやく教室に着くと、みんなステージの近くに集まっていた。守さんが何か発表するようだった。
「ちょっと聞いてくれ、みんな。今日は演劇部の顧問の先生からのメッセージを伝えなきゃいけないんだ」
そういえば、演劇部の顧問の先生を知らない……誰なんだろう?そして何より、どうしていつもここにいないんだろう?
「アルマンド先生が言うにはな、もうすぐ部活動向けのイベントがあるらしい。ポイントもたくさん稼げるし、何よりステージに立って自由に演技できるんだってさ」
イベントか……どんな部活動関連のイベントが待っているんだろう。
「演劇部の部長として報告しとくけど、そのイベントは定員がかなり限られてるから、参加できない奴らも心配すんな。文化祭とかでチャンスはあるからさ。まぁ、まだだいぶ先だけどな、ははは……」
守さんはもうあの時期まで計画を立てているのか。活動は本当に休む暇がない。
「今日はみんな中間試験の後で疲れてると思うから、自由に練習していいぞ」
周りのみんなが話し始めたり、好きなことをし始めた。これが自由練習なのか?それとも守さんが今日はみんなにサボらせる言い訳をしただけなのか?どちらにせよ、驚いたことに朋也さんが近づいてきた。
「おい、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん?何?」
「……図書館で倒れた生徒がいるって聞いたんだけど……お前だったのか?」
「どうして知ってるの!?」
「やっぱり俺の推測は正しかったか……」
何が起こっているのか分からなかった。どうして朋也さんがそれを知っているんだ?
「生徒の間でその出来事が広まり始めてるんだ。これは下手したら嘘の噂にまで発展するかもしれないな」
噂で聞いたのか。アヤさんはそれを聞いて怒り出し、まるで朋也さんが犯人であるかのように詰め寄った。
「おい!それってどういう意味だ?はあ!知ってること全部話せよ!」
「それが最初からの俺の目的だよ。俺も何が起きてるのか知りたいんだ」
何か悪意のある注目の的になりそうで、不安になってきた。朋也さんは続けた。
「俺のクラスメイトの何人かが、一年のFクラスの男子が図書館の前で倒れたって話してたんだ。プレッシャーだと思ってる奴もいるけど、他には……」
「他には?」
「他には、お前が何か変なものを摂取したんじゃないかって言ってる奴もいる。ある女子が、倒れる前にお前が変な行動をしてたって言ってたらしい」
あの時のことを思い出した。倒れる前、確かに変な行動をしたかもしれない。でもそれは仕方なかった。ひめかを見てしまったから……あんな反応をするのは当然だ。
「それに、お前がおかしくなって審判委員会のメンバーを襲ったって噂もある」
あの日起きたことが、完全に歪められた悪意のある噂として広まっている。冷静に分析すると、この噂はあの日のことを間近で見た誰かが、歪んだバージョンを広め始めたのかもしれない。でも一番の疑問は、なぜ?その人物が噂を広める目的は何なんだ?
アヤさんはまだ朋也さんを疑っていて、言った。
「一つ聞きたいんだけど、何でアレンが噂の人物だって結論に至ったわけ?」
「それを聞かれるのは意外だな。すごく明白だと思うけど」
僕も気づいていたが、どうやらアヤさんは気づいていなかったようだ。これが彼女を怒らせ、説明を要求した。
簡単に言えば、噂ははっきりと「Fクラスの男子」と言っている。注意を払えば、僕がFクラスの唯一の男子だとすぐ分かる。だから視線がすぐに僕に向けられるのも当然なんだ。
アヤさんは朋也さんの意図にもかかわらず、まだ彼に対して敵対的で言った。
「あんたのこと信用できないわ。突然アレンのところに来てこんな話を持ち出すなんて、怪しすぎる」
「そう思われても仕方ないよ、アヤさん。でも俺は本気でアレンくんを助けたいんだ」
「え?なんで?」
「アカデミーの半分が間違ったイメージを持つストレスを味わってほしくないんだ。そういうのがどんな感じか、俺は知ってるから」
その言葉でアヤさんは朋也さんに悪意がないと確信したようだった。朋也さんには僕を助けたい独自の理由があるのかもしれないが、たとえ助けたくても、噂を止める問題は簡単ではない。
「どこまで役に立つか分からないけど、その噂を止めるアイデアがあるんだ」
アヤさんが眉をひそめた。僕は彼がもう噂を止めるアイデアを持っていることに驚いた……そう思ったが……
「俺には噂を止めることはできない。でも、それを広めた奴を突き止めることはできる」
アヤさんは明らかに懐疑的で、彼の言うことを何も信じないようだった。
「何言ってんの、本気で全部を始めた奴を突き止められると思ってるわけ?」
「ああ!もちろんできるさ」
「じゃあ説明しなさいよ」
「重要なのは噂の理由じゃなくて、誰が広めてるかなんだ。そして、これの裏にいるのは二年生の誰かだと思う」
「何で二年生だって分かるの?」
「二つ理由がある。一つ目は、こんなに早く広まるには、その日にその場にいた誰かが始めたはずだってこと」
「まあ、それは当たり前でしょ?」
「アレンくんはあの日、図書館にどれだけの生徒がいたか覚えてないよね。それが俺の二つ目の理由につながるんだ。アレンくんをすでに知ってる誰かだと思うんだ」
僕を憎んでいるかもしれない生徒を何人か思い浮かべた。でも重要なのは、朋也さんが二年生だと推測していることだ……アルムを思い出した。でも本当にあの日、彼は図書館にいたのか?見かけなかった。じゃあ誰?
「朋也さん、理解できないんだけど、なんで二年生だって確信してるの?」
「……だってあの日、図書館に俺もいたんだ」
彼の推論と、なぜこれをやっているのかが理解できた。確かにあの日、彼の存在には気づかなかった。朋也さんがずっとあそこにいたなら、何が起こったかよく知っているはずだ。
「あの日、周りを観察したんだけど、図書館にいた生徒のほとんどが二年と三年の先輩だったんだ。三年生は無理だって俺が思う理由は、単純に俺の推論がそう言ってるだけなんだけどね」
つまり、本当の理由はなく、ただ彼の推測なのか。これはどんどん複雑になっていく。
「アレンくん、俺たちは容疑者を調査し始めるべきだと思う」
「容疑者って誰?」
「それはお前しか分からない。犯人はもうお前が対決した誰かかもしれない。俺たちがやることは、その容疑者たちに話を聞きに行くことだ」
朋也さんはますます探偵のようだ。これを解決したいという気持ちが強い。
考えてみると、僕に復讐したいと思っているかもしれない人が何人かいる。アルムが最も可能性が高い。それからあの傲慢な奴……名前は何だっけ?忘れてしまったが、彼も選択肢の一つだ。
「二人の容疑者が思い浮かぶけど、一番怪しい人がやったとしても無理だと思う」
「なんでそう思うんだ?」
「だって対決した時、生徒会長と問題になったから」
朋也さんは腕を組み、可能性を評価していた。
「それでも聞きに行って損はないと思うけどな」
「えー!?」
緊張と不安が襲ってきた。アルムに話しに行く……そんなことをすべきじゃないと思う。彼にまた話しかけることを考えただけで不安になる。
アヤさんが割り込んで言った。
「手がかりがないんだから。もしあいつがやったなら、また会長に報告するって脅せばいいじゃない。アレン、試してみるべきだと思うわ」
アヤさんが彼に会いに行くことを提案するなんて驚いた。少し考えた後、決心した。
守さんのところへ行き、アヤさんと朋也さんと一緒に出てもいいか伝えた。守さんは何も聞かずに承諾してくれて、アルムと彼の仲間たちがいつもいる場所へ向かった。
予想通り、彼らはそこにいた。僕たちの存在に気づくと、アルムは僕を見ただけで怒り出した。
「え?またお前か?今度は何の用だよ?」
アルムがそう言った瞬間、朋也さんが一歩前に出た。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどね」
「知るかよ。とっとと失せろ、お前ら全員」
アルムには協力する気が全くないようだった。
ここで、僕は勇気を出すべきだと思った。確かにアルムは怖い。でも、僕はもっと恐ろしいことを乗り越えてきたじゃないか。一歩前に踏み出して、僕は口を開いた。
「アルム先輩、本当に大事なことなんです。聞いてもらえませんか」
「黙れ。『先輩』とか呼ぶんじゃねえ。吐き気がするぜ」
「では、アルムさん」
「もういい!何が聞きたいんだよ?」
「最近の噂を広めたのは、あなた達ですか?」
アルムは数秒間、黙り込んだ。僕の言葉に驚いているようだった。それから、彼の表情が嘲笑に変わった。
「ハハッ!」
アヤさんがすぐに彼を問い詰めた。
「ちょっと!これは真面目な話なのよ。笑うのやめろ!」
「じゃ、でもな、つい笑っちまったんだよ。お前らの考え方に驚いてさ。恨みを持ってそうな奴らのところに直接来るとはな。でも悪いけど、オレじゃねえぜ」
彼の言葉を信じていいのか分からなかった。だから、念のため確認することにした。
「本当ですか?もし嘘をついているなら、生徒会長にこのことを報告しますよ」
アルムは肩をすくめた。でも、彼の目に強い興味の光が宿ったのが見えた。それは僕に向けられていた。
「やっぱりな、お前は本当に見込みがあるぜ。だが、何度も言わせるな。オレも仲間も何もやってねえ」
今度は真剣な口調だった。それが分かった。アルムと彼の仲間たちが犯人じゃないなら、残るのは最後の選択肢だけだ。でも正直、あの傲慢な奴のことは選択肢として考えたくもない。
そんなことを考えていると、アルムが再び口を開いた。
「一つ教えてやるよ、お前が知らないかもしれないことをな。その噂はな、二年生のクラスの間で始まったんだぜ。オレのクラスでも話題になり始めたから知ってんだよ」
「それで…誰が始めたか知っていますか?君も二年生なら、もしかして」
「ハッ!誰だと思ってんだ?噂を広めるなんてオレのやり方じゃねえ。分かるだろ?もしお前に復讐するなら、直接お前を狙うぜ。こんなくだらねえことはしねえよ」
僕はますます、アルムが犯人じゃないと確信していった。それに、彼の話から分かったことがある。噂は二年生のクラスから始まったということだ。とりあえず、もう彼と話すことはない。
立ち去ろうとした時、アルムが言った。
「アレン!待てよ、最後に一つ言いたいことがある」
「……何ですか?」
「生徒会長のことだ。あいつには関わるな。舐めちゃいけねえ奴だぜ。このオレでさえ、あいつに挑むつもりはねえ。お前もやめとけ」
僕はただ振り返って、その言葉に困惑しながら去った。
もしかして、アルムは生徒会長がやっていることを知っているのだろうか?あの「衛星」の件を……彼が知っていてもおかしくない。でも、なぜあんな警告を?
集中できなかった。考えなければならないことが多すぎる。
演劇部の部室に戻ることにした。入った途端、守さんが何か考え込んでいるような表情で近づいてきた。
守さんは前置きなしに話し始めた。
「なあみんな、さっき俺ちょっと気になること聞いちゃってさ」
守さんの視線が僕に固定された。その目を見た瞬間、直感的に分かった。守さんは噂のことを知ったんだ。
「アレン、クロエから聞いたんだけどよ、お前についての噂があるらしいな」
「……」
「それで外出たのか?」
僕の沈黙が、守さんをさらに考え込ませてしまったようだ。何かを頭の中で分析しているような表情を浮かべている。
アヤさんが痺れを切らして言った。
「ちょっと、なんでそんな黙り込んでんのよ?何なのよ一体?」
守さんはアヤさんを見て、次に朋也さんを見て、最後にもう一度僕を見た。
「悪い、ただその……頭の中で噂についての出来事を整理してたんだ」
今度は朋也さんが興味津々といった様子で口を開いた。
「守さん、もしかしてその噂について何か知ってるのか?」
守さんは深く息を吐いて、何かしらの結論に達したようだった。
「いいか、これから言うことはよく聞いてくれ。俺のクラスの誰かが関わってるから、絶対とは言えねえ。あくまで推測だ」
守さんは一瞬ためらっているように見えた。いつもの明るい笑顔が消え、真剣な表情に変わっている。その口調は重く、まるでこれから発する言葉一つ一つに重みがあるかのようだった。
「その噂なんだけどさ、ほぼ確実に俺のクラスから聞こえ始めたんだ。俺って結構アクティブだからさ、他のクラスもよく訪問すんだけど、そっちじゃ一度もそんな噂聞いたことなかったんだよ。だから、噂の発信源は俺のクラスだと思う」
不快な沈黙が場を支配した。胸が締め付けられるような緊張感を覚えた。息をするのもやっとだった。
「俺も最初に聞いた時は気づかなかったっていうか、注目してなかったんだよな。俺って観察したり聞いたりはするけど、周りで起きてることにあんま重要性を感じないタイプでさ」
守さんは自分の観察力を自慢しているようだったが、すぐにまた真剣な表情に戻った。
「じゃあ……その噂を広め始めた人が誰か分かるんですか?」
信じられない思いで尋ねた。
守さんは深く息を吸い込んだ。まるでこれから明かすことの重大さを測っているかのようだった。沈黙があまりにも長く続いたため、明らかに苛立っているアヤさんが静寂を破った。
「もったいぶらないで言いなさいよ!誰なのよ!?」
守さんは一瞬目を閉じた。呼吸が不規則で、何か言いたくないことを抑えているようだった。そして、ほとんど厳粛とも言える口調で、全てを変えることになる名前を告げた。
「その噂を最初に聞いた相手は……」
守さんが名前を口にする前、妙な感覚が体の中を駆け巡った。まるで危険を察知する超能力でもあるかのように。
「不知火ひめかだ」
その言葉が頭の中で永遠にこだまし続けた。
ひめか。
体が瞬時に強張り、背筋に冷たいものが走った。まるで周囲の空気が凍りついたかのようだ。内臓を掴まれるような恐怖が僕を支配し始めた――完全には理解できない恐怖が。頭の中は答えのない疑問で埋め尽くされていく。
ひめか?どうして彼女が?なぜそんなことを?いつ彼女は僕がアカデミーにいることを知ったんだ?
思考を整理することが不可能だった。何かを理解しようとするたびに、新たな疑問が湧き上がり、判断力を曇らせていく。
アヤさんが僕の反応に気づいて近づき、肩に手を置いた。でも、ほとんど感じなかった。彼女の声は遠く、まるで別の次元から聞こえてくるようだった。
「アレン?ねえ……」
返事ができなかった。できなかった。言葉が口から出てこない。何かが内側から窒息させているかのように。
ひめかの姿が頭に浮かんだ。優雅で謎に満ちた彼女の顔――まるで古典絵画から抜け出したお姫様のようだ。いつもと同じ美しさなのに、今はその微笑みもなく、何か深い影に覆われているように見えた。
恐怖。それが今感じていることだった。普通の対峙への恐怖ではない。深く、非理性的な恐怖――何かが間違っている、とても間違っていると告げる恐怖。
ひめかは普通じゃない。彼女には何かがある。いつも感じていたけれど、名前をつけることができなかった何かが。今、その感覚は否定できないものになった。
「アレン、大丈夫?」
アヤさんが尋ねたが、その言葉は遠いこだまだった。
脚が鉛のように重いのに、同時に走り出したかった。できるだけ遠くへ逃げたかった。この啓示から、この瞬間から。聞いたことを否定したかった。間違いだと自分に言い聞かせたかった。でも、守さんの声はまだ頭の中で響いている。
混乱の中、一つの暗い考えが浮かんだ。もし彼女が最初から知っていたとしたら?もし最初から僕を観察していたとしたら?
手が震え始めた。止めることができなかった。
アヤさんを見て、それから守さんを見たが、誰も求めている答えを持っていなかった。
守さんは、まるで僕の考えが読めるかのように、慎重に言った。
「アレン……彼女はなぜそんなことをしたのかは分からねえ。でも断言できる。クラスで最初にその話題を口にしたのは彼女だ。それから、噂は火事みたいに広がっていったんだ」
その説明はあまりにも率直で、疑う余地がなかった。でも、それは僕の内側の絶望をさらに大きくするだけだった。胸が圧迫され、まるで空気が肺に入ることを拒んでいるかのようだ。
どうして、ひめか?どうして君が?
もしかして、いつか彼女は僕がこのアカデミーにいることを知ったのか?じゃあいつから?いつから彼女は僕がここにいることを知っているんだ?
話そうとしたが、声が出なかった。視線は虚空に彷徨い、聞こえるのは加速する心臓の鼓動だけだった。
アヤさんが何か言おうとしたが、その言葉を捉えることができなかった。周囲の全てが遠ざかっていく。まるで世界が崩壊していくかのように。
そして、混沌の中で一つの確信だけが道を切り開いた。
これから逃げることはできない。遅かれ早かれ、ひめかと向き合わなければならない。
でも、その瞬間が来るまで、恐怖はそこにあり続ける。胸に突き刺さった棘のように、引き抜くことが不可能な棘のように。
恐怖に飲み込まれていた僕を、現実に引き戻してくれたのはアヤさんだった。
言葉もなく、彼女の手が僕の頬を叩いた。予想していなかった力で。平手打ちの乾いた音が空気の中に響いた。
彼女の視線は怒りと決意が混ざり合って燃えていた。
「いい加減にしてよ……あんた、そんな顔してどうすんのよ」
彼女は叫んだ。心配しながら怒りを抑えています。
「さっきのやる気、どこ行ったのよ!?わたしたちに嘘ついてたの!?それとも、自分にまで嘘つくつもり!?」
彼女の声は、手よりも強く僕を打った。
正しい。恐怖に飲み込まれることを、麻痺することを許してしまっていた。
一瞬目を閉じて、深く息を吸った。もう一度彼女を見た時、彼女の言葉はまだ頭の中で響いていた。
「その通りです、アヤさん……すみません」
ようやく口を開いた。罪悪感を決意に変えながら。
「これ、手伝ってください」
黙って観察していた守さんが口を開いた。
「俺に策があるんだ」
全員が彼の言うことに注目する。守さんの計画――何を言うんだろう?
「でもまず言っとかなきゃなんねえことがある。アレン、お前とひめかの関係には踏み込まねえ。でも知っといてくれ――彼女と直接対峙することが、この問題を乗り越える第一歩だ」
アヤさんが腕を組んで、苛立たしげに遮った。
「余計な説明はいいから、計画を言いなさいよ!」
守さんは続ける前に溜息をついた。
「アレン、お前はひめかにデジタルバトルを挑まなきゃなんねえ」
えっ!?
はあああ!?
完全に凍りついた。守さんの計画が信じられなかった。デジタルバトル?ひめかと?息が止まった。
何年もの苦痛の源であるひめかと向き合うという考えは、脚から力が抜けていくほど僕を恐怖させた。
今の僕はまるでジェットコースターに乗っているようだった――高く上がったかと思えば、急速に落ちる。決意を感じる。勇気があると感じる。でも、ひめかに再び近づかなければならないという事実を考えた途端、全ての意欲が失われてしまう。
でも……
もし彼女がこの全てを始めたのなら、それは彼女が僕がここにいることを知っているからだ。いつ彼女が気づいたのかは分からない。でも一つ確かなことがあった。
もし彼女が僕だと知った上でこの全てを始めたのなら、それはただ一つのことを意味している。
ひめかはまだ、僕に恨みを抱いている……
そのことを理解した時、一つの考えが浮かんだ。
僕がこの何年間も彼女を忘れなかったように……それは彼女も、僕を忘れなかったということなんだ。
次回——
言葉は刃となり、
沈黙は鎖となる。
譲れない条件。
切り捨てられる関係。
そして賭けられる、あまりにも重すぎる代価。
恐怖の中心に立ったとき、
アレンは“過去のままの自分”でいられるのか。
次回、
すべてを背負ったバトルが、ついに始まる。




