試練の灯火
それは、知識を競う場だったはずだ。
けれどこのアカデミーでは、
問いはいつも正解だけを求めてこない。
観客の声。
突きつけられる言葉。
そして、心の奥に触れる何か。
この試練は、
答えられる者だけが進めるのではない。
耐えられる者だけが、立っていられる。
――それでも、舞台は続く。
今日が最後だった。イベントのために全力を尽くさなければならない。そう思いながら、図書館へ向かった。
図書館の扉を押し開けたとき、いつもそこにいるはずの九条さんがいないことに気づいた。あれ……?何度も来ているけど、彼女がいない日は珍しい。なぜ彼女はいつもここにいるんだろう。その疑問が、勉強の邪魔をしようとしたが、必要なことに集中しなければいけない。何時間も、何時間も机に向かった。
やがて空は夕焼けに染まり、時間が経つのは本当に早かった。やっと勉強を終え、図書館を出て廊下を歩いていると——
「あ、アレンくん」
振り返ると、そこには霧崎さんがいた。いつもの笑顔で。
「もう戻るの?」と、あたしが聞いた。その声は何か柔らかく聞こえた。
「あ、はい。明日のために準備を……」
「……良かった。あ、ねえ、一緒に寮まで帰ってくれない?」
霧崎さんの提案に、僕は何も考えずに頷いていた。
夕方の静かな風は気持ちよくて、何より彼女が隣にいることが、その雰囲気をより心地よくしていた。彼女は少し身を寄せて。
「ねえ、アレンくん。もう少し一緒に勉強手伝おうか?やりたい?」
またしても、考える間もなく「はい」と答えていた。
寮の部屋には行けないので、アカデミーにある特別な場所へ向かった。広いパークエリア。大きな木製のベンチがたくさんあって、街灯が道を照らしていた。ここは不思議で、ちょっと幻想的な場所だった。
ベンチに座ると、ふたりで勉強について話し始めた。得意な教科、難しい教科、そういったことが自然と言葉になって流れた。話すことが、こんなに楽しかったことはなかった。彼女がいるだけで、全てが可能に思えた。イベントで優勝するのは難しいかもしれないけど、高い成績を取ることだって、たくさんのポイントを獲得することだって、できるような気がした。自信が湧いてきた。
「アレンくん、明日は無理しないでね。できる範囲でやりなさい」
「……はい」
「ちゃんと何か食べてね!倒れちゃったら嫌だからね」
それは心配と、ほんの少しの冗談が混ざった声だった。その軽い態度が、僕を笑顔にさせた。
寮へ戻る道中、他のことは全部忘れて、ただ彼女と歩く時間を楽しんでいた。
寝床についたとき、胸の中は複雑な感情で満ちていた。明日は本当に重要な日だ。全力を尽くさなければ。
* * *
朝は特に変だった。曇った空が広がっていて、雨が降るかもしれない。アカデミーへ向かう途中、アイアンハートさんに会った。もう習慣のように、一緒に歩いた。
教室では時間が遅く感じた。今日のイベントでは重要な役割を担当することになっていて、その緊張感がずっと続いていた。
やがてチャイムが鳴った。一時間目が始まるという合図だ。
古橋先生が入ってきた。いつもの時間ではないけれど、イベントのために彼女が来たのだ。
「よし、アレンくん。準備はできてる?イベントがもうすぐ始まるから。下の階の建物、廊下の奥にある教室に行ってね」
一瞬、先生が一緒に来てくれるのかと思ったけど、そうではなかった。このことは一人でやらなければいけない。
教室を出ると、足を進めるたびに緊張が高まっていった。
一階に着くと、廊下の奥に教室が見えた。ドアの周りには大勢の生徒が集まっていた。ここが目的地なんだろう。迷う必要もなかった。
そのとき、学園長が教室の入り口にマイクを持って現れた。みんなを招き入れるのだろう。
人波が進み始めた。見回すと、二年生と三年生ばかりだった。一年生は観客として許可されていないらしい。そのことが、気になって仕方なかった。何で……?
教室に入ると、見覚えのある顔を探した。群衆の中から、イベントの企画を担当しているオズワルド先生が見えた。
オズワルド先生が振り返るのが見えた。あ、目があった。
「ん?君、参加者の一人か?」
そう言われて、僕は近づいていった。
「はい……どこに待機すればいいでしょうか?」
「ここにいろ」
先生は参加者用の指定エリアを指差した。その顔は明らかに疲れていた。なんだか聞かずにはいられなかった。
「あ、あの……このイベントって、いつもこんなに大変なんですか?」
先生は長く息を吐いた。
「ああ……こいつは最高にカオスなイベントだな、っす。ここじゃあ、審判は観客なんだ。二年生と三年生だな」
えっ?
その瞬間、思考が止まった。生徒が審判?それって……どういうことだ?
「先生、それって……」
でも先生は説明する暇もなかった。学園長がまた話し始めたからだ。室内の空気が張り詰めた。
「――注目しなさい、諸君!これより、勉強会イベントを開始する。規則を説明しようぞ」
その声とともに、不安がどんどん膨らんでいく。
規則は明確だが、同時に恐ろしかった。第一段階では、参加者同士がランダムにペアリングされ、四択問題に答えることになる。ボタンを押した方が解答権を得て、正解すれば加点。最低でも二問正解すれば進出できる。これなら……まだ何とかなるかもしれない。でも第二段階。
そこから地獄だ。
観客である先輩が質問を出せるんだ。オズワルド先生とアレックス先生が妥当性を判定して、承認された質問には三十秒以内に答えなくちゃいけない。先輩たちが仕掛けてくる罠みたいな質問を、時間制限付きで答える。その プレッシャーを想像しただけで、胸が重くなる。
そして第三段階。
四人の決勝進出者が直接対決になる。観客からランダムに選ばれた審判が、小さな戦略ゲームの入った封筒を引く。そのゲーム結果で勝者が決まる。こんな予測不可能なシステムなんて……正直、逃げ出したくなるぐらいだ。
学園長の声が何度も頭を過ぎっていく。
本当に、僕に勝機があるのか?
周りを見回すと、二年生と三年生が暗がりに座っている。この会場、照明がほとんどないんだ。だから先輩たちはシルエットのように見える。なんだか……審判たちが暗い影に隠れているようで、より恐怖心が増す。
でも……
ここに来たのは、逃げるためじゃない。試すために来たんだ。難しかろうが、正体不明の審判がいようが、今から逃げるわけにはいかない。
「では、対戦相手を発表する!」
学園長の声が鳴り響いた。その瞬間、胸の中が不安と決意の混合物で満たされた。未知の領域へ足を踏み入れることになる。これは単なるイベントじゃない。これは自分自身に対する試練だ。自分の能力を証明するだけじゃなく、自分自身を超えるための機会なんだ。
学園長の背後の大きなスクリーンが光った。
デジタルルーレットが表示される。参加者全員の名前とクラスが含まれている。
全部で十八人。各クラス代表一人ずつ。
ルーレットが回転を始める。名前がキラキラと輝きながら次々と過ぎていく。
最初の名前が停止した。
「佐藤和也、二年 Dクラス」
聞いたことのない名前だ。でも観客から何か反応があったから、多分知られた生徒なんだろう。落ち着いた様子で、その子は中央へ歩んでいった。
スクリーンに対戦相手が表示される。
「鈴木美咲、三年 Eクラス」
背が高くて、スレンダーな女子が立ち上がった。自信満々の笑みを浮かべながら、中央へ歩く。二人は机の前に座った。ボタンと画面がついている。
オズワルド先生が二人の間に立つ。
「では、説明する。ボタンを最初に押した者が解答権を得る。外すと、相手が答えるか、パスするか選べる。二問正解で勝利。わかったか?よし、始めるぞ」
最初の問題は物理だった。等加速度運動についての計算問題。
鈴木美咲さんが素早くボタンを押した。正解。
次は数学。二次方程式。
今度は佐藤和也さんが押した。彼も正解。
一対一。同点。
三問目が決め手になる。
生物。人間の泌尿器系。ある臓器の機能についての問題。
鈴木美咲さんが再びボタンを押した。彼女の答えも正解だった。
試合終了。鈴木美咲さんの勝利。
僕は黙って観察していた。これが現実か。ただ速く、正確に答えるだけじゃない。相手の反応を読む。心理戦もある。これなら……確実に大変だ。
スクリーンがまた回り始める。
次の名前が出た瞬間、胃がざわめいた。
「レミー・アボット、一年 Aクラス」
あ……あの子だ。いつも武蔵さんの側にいる子。
武蔵さんがいない理由を聞いてないけど、あいつは絶対に参加してそうなタイプじゃないか。なのにレミーさんなんて……。
でも待てよ。もし彼女が Aクラスにいるなら、相応の実力があるはずだ。まだ知らないだけで、学力も高いのかもしれない。
考えてる間に、ルーレットがまた回った。
「高橋ニコ、二年 Fクラス」
レミーさんが立ち上がる。その表情は……冷静そのもの。
戦いが始まった。
でも、すぐに終わった。
レミーさんの反応速度が尋常じゃない。ボタンを押すたびに、高橋さんが反応できる前に答えが出ている。全問正解。高橋さんはほぼ何もできなかった。その圧倒的な差に、会場からも異なる空気が流れた。
次のペアリング。
「ルビー・スチュアート、一年 Bクラス」
ああ……あの子か。いつも真琴さんの傍にいる背の小さい子。正直、学力とは関係なさそうな印象だったけど……。
「田中ユリア、三年 Fクラス」
このバトルは……様子が違った。
ルビーさんは速い。でも田中さんも知識が深い。三問とも激しい競り合い。最後の問題で、ルビーさんが先にボタンを押した。彼女の答えも正解だった。
勝利の笑顔が彼女の顔に浮かぶ。
ルーレットが何度も回る。
その度に、神経が研ぎ澄まされていく。次は僕かもしれない。そう思うと、体が緊張で固くなる。
「トーマス・スミス、二年 Cクラス」
あ—。
あのクラスのアルムたちと同じ。そういう連中なのか?スミスさんって子、一体どんな学力があるんだろう…。自信満々の歩き方をしてるけど。
ルーレットが最後に回転する。
心臓が大きく鳴った。
「アレン・ウェバー、一年 Fクラス」
僕だ。
会場中の視線が、僕に集まる感覚。
身体が勝手に立ち上がっていた。顔は平静を保つよう努めたけど、内心はボロボロだ。中央へ歩く。足は多少震えてるかもしれない。でも、歩を進める。
机の前に座った。
目の前のボタンを見つめる。
スミスさんの顔には、嘲笑があった。まるで勝利は決まってるとでも言いたげな表情。
流されるな。落ち着け。
ここまで観た全てのバトルから、學べることがある。その子たちの動きを見て、パターンを理解した。今は、それを使う番だ。
オズワルド先生が中央に立つ。
僕の心臓は、かなり大きく鼓動していた――
オズワルド先生が自分の位置に立ち、その声が場所全体に響き渡った。
「最初の問題だな...。地球の大気に微量含まれる希ガスはどれかい?」
スクリーン上に三つの選択肢が表示された。『酸素』『窒素』『アルゴン』。
待たなかった。思考するより先に、手がボタンを叩いていた。声がわずかに震えながら答えた。
「アルゴンです」
先生が黙った。永遠に感じるような瞬間が過ぎる。
「……正解だ」
深く息を吐き出した。心臓の鼓動を落ち着けようとする。悪くない滑り出しだ。だが気を抜いてはいけない。対戦相手のスミスさんは、僕のパフォーマンスに特に感心していないようだった。
「次の問題だ……。動物細胞でエネルギーを生成する責任のある構造は?」
スクリーン上に選択肢が現れた。『ミトコンドリア』『リボソーム』『葉緑体』。
今度はスミスさんの方が速かった。ほぼ即座にボタンを押し、自信を持って答える。
「ミトコンドリアです」
また沈黙が降りてくる。オズワルド先生が口を開いた。
「正解。一対一だな……」
プレッシャーが増していくのを感じた。今、全てが三問目にかかっている。オズワルド先生が二人を見つめていた。まるで戦略や決意を分析しようとしているかのように。
「三問目……。社会学における機能主義理論の主要な焦点は?」
スクリーン上に選択肢が表示される。『個人間の象徴的相互作用を分析する』『社会秩序を維持する制度がどのように機能するか学ぶ』『社会階級間の権力不平等を検証する』。
問題が僕を凍らせた。……これ、何を言ってるんだ?
スミスさんは躊躇していないようだった。素早くボタンを押し、答える。
「個人間の象徴的相互作用を分析することです」
オズワルド先生が黙り込んだ。スミスさんが間違えたのかもしれない。そうなれば、これが決着かもしれない……。
「申し訳ないが……不正解だ」
心が少し浮き上がった。
オズワルド先生が僕の方を向いた。だがまだ、スミスさんが間違えたという事実を処理しきれていなかった。
「アレンくん。どうする?答えるか、次に進むか?」
わからない。この問題に答える方法がわからない。唯一の選択は……。
「あ、あの……次の問題に進みたいです」
「……了解した」
心が少し沈んだ。今、不利な立場にある。オズワルド先生にもそれは明白だった。
深く息を吸った。先生が次の問題を提示する。
「最後の問題だ……。コンピュータが使用中のデータを一時的に保存するために使用されるメモリの種類は?」
スクリーン上に選択肢が表示された。『ROM』『RAM』『ハードディスク』。
脳が曇りはじめた。周りの全てが暗くなっていくように感じた。心の中に一つだけ思い浮かぶことがある。この機会を逃してはいけない……ということ。
ボタンを叩いた。選択肢を読み、確信がないまま答えた。
「……RAMです」
オズワルド先生が沈黙した。永遠に感じる一瞬。最後に、ほんの少しの笑みを浮かべながら言った。
「正解だ。ウェバーアレン、第二段階へ進む」
信じられなかった。本能と、ほんの少しの幸運だけで……進めてしまった。座席に戻りながら安堵を感じたが、同時に知っていた。第二段階からは、運に頼ることはできないということを。
ちょうど座ったその時、ルーレットが回った。
「次の参加者は……三年生Aクラス、杉野ケン。そして生徒会の会計。対戦相手は三年生Bクラスのパオラ・ウェスト」
驚いた。生徒会長や副会長ではなく、なぜ会計が参加しているのか?杉野ケンさんは確かに印象的だった。落ち着いていて、自信に満ちている。彼の対戦相手も三年生で相応の力を見せたが、杉野ケンさんは問題なく進んだ。
「ウェンディ・オシャドウズ。一年Eクラス。対戦相手は二年Aクラスの男子」
ウェンディさんのことに少し驚いた。デジタルバトルイベントではあんなに早く敗退したのに、今は目立っている。技術と素早さで勝ち進んだ。
その次。
「高遠完士。一年Cクラス」
あの傲慢な少年をまた見かけるとは……。デジタルフィールドで最初に僕を挑戦してきたあの男子だ。自分の傲慢さは単なる見た目ではなく、彼は正確さと速度で全ての問題に答え、二年Eクラスの対戦相手に勝機を与えなかった。
その次は演劇部の副部長が二年Bクラスを代表して参加。対戦相手は三年Cクラスの男子。見たところ、三年の人間の方が優位に見えたが、クロエさんはより技術的で、第二段階へと進んだ。
最後。
演劇部の仲間であるカリさん。一年Dクラス。対戦相手は三年Dクラスの女子。静かにカリさんの競技を見守った。激しい戦いだったが、カリさんが勝利を掴み取った。
避けられない。プレッシャーが増していくのを感じた。より良く準備しなければならない。もしこれからも進みたいなら……。
ここからの第二段階はさらに難しくなるだろう。
教室の空気は張り詰めていた。学園長が、挑戦的な笑みを浮かべながら発表した。
鈴木美咲、三年生Eクラス。レミー・アボット、一年生Aクラス。ルビー・スチュアート、一年生Bクラス。杉野ケン、三年生Aクラス。ウェンディ・オシャドウズ、一年生Eクラス。高遠完士、一年生Cクラス。カリ・アイゼンヴァルト、一年生Dクラス。クロエ・ハートフォード、二年生Bクラス。そして最後に……僕だ。
一年生全員が勝ち進んだ。それは……確かに驚くべきことだ。それについて、僕は何も言うことができない。
周りの二年生と三年生のざわめきが広がった。信じられない。疑わしげな視線が交わされている。
第二段階が始まろうとしていた。大きなスクリーンに、この次の選手対表が表示された。
『鈴木美咲 vs レミー・アボット』
『ルビー・スチュアート vs アレン・ウェバー』
『杉野ケン vs ウェンディ・オシャドウズ』
『高遠完士 vs クロエ・ハートフォード vs カリ・アイゼンヴァルト』
深く息を吸い込んだ。この二次選別での対戦相手を見て……。そして、三人での対戦が一つあることに驚いた。それは奇妙なように思えたが、もしかしたらイベントの構成上、そうなったのかもしれない。
一年生全員が……本当にすごい。
ただし、注意は瞬く間に自分自身のバトルへと集中した――ルビーさんか。あの人ってそんなに頭いいのだろうか?第二段階のルールでなら何か勝ち目があるのかな?
最初の対戦が始まった。鈴木さん対レミーさん。
二人が教室の中央へ向かう中、二年生と三年生の視線は捕食者が獲物を見つめるように二人に釘付けだった。側には審判を務めるアレックス先生がいた。質問は二年生と三年生の生徒たちが行う。アレックス先生が誰かを選ぶ。座席の小さなスポットライトが誰かが質問したいと思った時に点灯して、アレックス先生がその中から一人を指名する。
……見た。
二年生と三年生の大人数を見るのは怖かった。公開側のスペースは照明がほとんどなく、ただ暗がりにシルエットが揺れるだけ。たとえ緑色のスポットライトが点灯しても、彼らの姿は決して明確にはならなかった。――質問を投げかける声はするが、それが誰なのか、完全な顔や姿は一切見えない。
各生徒は一問だけ質問できる。質問は検証可能なものならば、どのテーマでもいい。無効な質問なら破棄される。正解を三問先に得た者が勝利だ。誰かが失敗しても、誰かが三問正解するまでラウンドは続く。
このルールの圧力は明らかだった。特に、たった一つのミスで結果が決まるかもしれないってのは……。
アレックス先生が一つのスポットライトを指した。立ち上がった生徒が言う。
「アカデミーの食堂、メニューには何皿あるんですか?」
アレックス先生は何も言わなかった。つまり、それは許可された質問ってことか。だけど……。
なぜこんな質問?勉強に関係ないし、何でこんなのが承認されたんだ?質問の条件ってなんなのか、理解できていないのかもしれない。
鈴木さんが自信満々に答える。
「二十皿です!」
アレックス先生が判定するだろうと思ってた。だけど違った。質問を出した生徒が言う。
「ハズレです」
え……?
まさか、質問をしてるのは連中だけじゃなくて、答えも連中が確認してるのか?
レミーさんが素早く手を上げた。主導権を奪うように、同じような調子で質問は続いた。そして、予想通り――レミーさんが三問正解で勝利した。ノーミスだ。最終段階へ進むのに問題はなかっただろう。
胸が、ぐっと締め付けられた。
なぜなら、今、俺の番だから。
心臓の音が大きくなる。教室の中央へ向かう足取りは、多少、重かった。ルビーさんが近づいてくる。落ち着いている。それが、自分の不安とのコントラストを強調する。
……大丈夫だろうか。
深呼吸をした。落ち着け。
位置についた時、ちょっとの間、ルビーさんの方を見た。
なぜ、頭の中で彼女のことをルビーさんって呼んでるんだ?ああ、そっか。最初にそう知ったからか。女子の名前で呼ぶのは……別にパニックになったりしない。だから何で、クラスの女子たちのことについても同じようにしないんだろう?
……いや。今はそのことを考える時じゃない。
ルビーさんは視線をくれなかった。だから、頭を下げたまま、自分の番が来るまで待つことにした。
心の中は、どうやって彼女に勝つか、そのことと、女子の名前についてのモヤモヤした思考の間で揺れていた。
次回――
殻は、外から壊されるとは限らない。
逃げた心は、
追われることで初めて立ち止まる。
敗北の先で待つのは、
孤独か、それとも――手を伸ばす誰かか。
感情が交差する夜。
沈黙の中で、関係は形を変え始める。
「心の奥」へと踏み込んでいく。




